第九話『国花』
施設長室に着くと室内から聞こえていた音よりも激しい音と怒鳴り声が聞こえてきた。
「んー、これで聞いた時より暴れてるかも、ノイズキャンセリング機能でも備わっているのかな?」
「のいずきゃんせりんぐ?とは何ですか?」
「あー、大きい音とか周りの人の話し声とかを遮断してくれる機能の事。この場合は物を投げる音とかが消されてて人の話し声もあんまり良く聞こえなかったんだよね」
「ルゥさんの魔道具にはそんな機能も付いているのですね」
ルゥの魔道具は正直前世のガジェットの類よりも質が良い物が多い。
私がさっきから使ってるイヤホンなんかはこの世界で初のイヤホンの割にめちゃめちゃ音質良いんだよね。
まぁ、音楽は聞けないから主な使い道は施設長室などの盗聴を目的に使ってる。
幸太郎さん達をルゥに押し付けてから数日経った頃に文鳥が届けてくれた手紙にイヤホン1セットと盗聴器5つ入って送られてきた。
手紙には『お前以外の面倒を見るのはもう2度とごめんだ。お前が前に言っていた盗聴器成る物を作った、これでなんとかしろ』と書かれていた。
盗聴器の個数的に色んな所に仕掛けて置けって事だろうから遠慮なく仕掛けさせてもらった。
しかし、こいつ昔ポロっと言った事を覚えてたのか…しかも言ったイヤホンと盗聴器の情報なんて遠く離れた音を聞くことが出来るとか、耳穴に入れられて声が聞ける小さい機械があったら良いのにって溢しただけなのに……なんなのこいつ本当にバケモノなのだけど……
もう怖いよ……
しかもこのイヤホン、長い髪で隠れるのを良い事に常に着用してたんだけど全く不快感がないんだよね。
あと、録音機能とかも着いてて本当に至れり尽せりなんだよね…
マジでどうやって作ってんだろう…?
………今度、骨伝導イヤホンとか教えてみようかな……いや、怖いからあと数年は教えないでおこ。
なんなら自分で発明して作っちゃう気がして怖い。
考えたところでルゥはバケモノだから思考を停止しよう。
ルゥの事よりも今は目の前の施設長室の中がどうなってるのか見る事に集中しなきゃ。
サイモンさんと目を合わせて合図したらゆっくりと扉を開けて隙間から2人で顔を覗かせた。
部屋の中を覗くといつも施設長にくっ付いて護衛をしている男性4人が顔がボコボコになった状態で床に転がっていた。
う、わ〜……痛そう、あれ顔元に戻るのかな……
「…サイモンさん、この人達に保護されて私達大丈夫か不安になってきたんだけど…」
「まぁ、敵には一切の容赦がないという組織は逆に仲間になった時に過保護な程に守るという傾向がありますから…対話してみない事にはなんとも言えませんね」
「…だよねー」
想像していた以上の惨状が広がっていて逃げようって思考が頭の9割締めてた。
サイモンさんがいなかったらすぐ逃げてたよ。
ボコボコにされた護衛達は一旦見ない様にして、護衛達の側で無様に腰を抜かして男達に囲まれている施設長を観察しよう。
無様過ぎる格好の施設長は……うん、辛うじて漏らしてはいないな。おっさんのお漏らしとか目も当てられないからね。
施設長から目を逸らして侵入者であろう男達に目を向ける。
人数は5人、風貌は日本の極道の様な出立で全員真っ黒のスーツを着ていた。
日本と違うのは髪色が全員カラフルな事?かな。
でもこの異世界ではあるあるで、私と雛菊の髪も生まれつきミルクティー色だったし、子供達の中にも赤とか青とか黄色とかいる。
もちろん染髪している人もいるけど、生まれ持った色のまま生きて行く人の方が多いんだって、貴族とかは染髪禁止してる家もあるんだとか。
代々受け継がれている色を変えるなんて裏切り行為と言われることもあるらしい。
跡取りも家の色を受け継いでいないと継がせないか、次男以降に色を受け継いでいる子供がいたらその子に継がせるんだって。
そんな古臭い決まりなんて面倒なだけなのに良く守ろうと思うよね、吐き気がするわ。
「ほお、これはまた珍しい」
「珍しい?サイモンさんあの人達のこと知ってるの?」
「はい、湊崎組の人間ですね」
「みなとざきぐみ?なんか本当にヤクザみたい」
「流石、柊はよく知っていますね。みたいではなくヤクザなのですよ」
え、?異世界なのにヤクザいるの?
似た存在とかじゃなくて本当にヤクザという名前で存在しているってこと?
「柊、胸元のエンブレムが見えますか?」
「……んーー、ぁっ本当だバッチ付けてるね」
「あれはヤクザとしての意味合いもありますが国王陛下直轄の部下という意味でもあるんです」
「は?」
国王直轄の部下!?日本では反社会的組織だったヤクザが……?
どうなってるんだ……?
この世界に生まれ落ちて3番目くらいの衝撃の事実かもしれない。
「ここからでは見えませんが、湊崎組のエンブレムにだけこの国の国花がデザインされているんです」
「国花?」
「はい、紫苑という花がこの国の国花になります。それがデザインされていれば本物の湊崎組という証なのです」
「………紫苑の花」
「柊?何か引っかかることでもありましたか?」
「ううん、何もないよ!」




