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第二話:丸いおでこ、ひかるあの子(後編)

     *


 と、言うことで。


 これはもちろん、架空の時間の、架空の空間の、架空の町のお話だけれど、架空の2010年代後半、パウラちゃんたちの住む、とあるアジアの小国――アジアの東のはじっこの、ちょっと離れた島国の、ちょっとちいさな、ちょっと変わった小国――で、“ジュー・ジュラックス・ジュラン”なる政治団体が復活したことがありました。


 彼らは、その略称を『JJJ団』と言って、おもに首都圏を中心に活動する秘密結社、単一民族至上主義団体だったワケだけれども――って、この辺はもちろんフィクションだし、要は、アメリカの“クー・クラックス・クラン”とか、あの辺のクソったれ団体を、猪熊先生が戯画化したものだと想って頂ければよいのですが……って、え? “クー・クラックス・クラン”を知らない?


 中学の世界史で出て来るじゃないですか…………、おぼえてない?


 あー、じゃあ……、でも、このへんは話すと長くなりますし……、そうですね、また後でググッてみてください。


     *


 と、言うことで。


 彼らJJJ団が復活した理由については、いろんな分野の、いろんな先生たちが、ナンダカンダと、ワカンダ・フォーエバー的に、あんまり説得力のない、自説を主張しては、ネットやテレビやラジオなんかを、アーダコーダと、愛のコリーダだと、賑わしていたみたいなのだけれども、


 そんなさー、ヒマをもて余したさー、あったまのわっるいオッサンたちのさー、やることなすことにさー、ちゃーんとした理由なんてさー、あるワケないじゃんね。だって、あったま、わっるいんだもん。


「ほんと、はなし通じなかったもんね、あの人たち」とアーサー。「おかげでペトロ伯父さんのお店も大変なことになっちゃってたし――」


 あ、ペトロ伯父さんってのは、アーサーのお友だちのフリオが一緒に暮らしている……って、ごめん、アーサー、それだと話が飛んじゃうんで、伯父さんたちのはなしはまたあとでね。


「あ、ごめん。でも、ペトロ伯父さんのサンドイッチのはなしもちゃんと入れてよね」


 はいはい、わかってるわよ、わたしもちょっと食べたくなったし――またあとで食べに行きましょ。


「やった、今日はぼく「7番」がいいな」


 はいはい。


 ってことで――あ、わたしのおすすめは「3番」です――が、それはさておき。


     *


 くわしい経緯や理由は、結局よく分からないのだけれども、取り急ぎここで重要なのは、その架空の2010年代、架空の東関東の、架空のとあるエリアでは、けっこうな数の架空のひと達が、けっこう非道で、且つ、あったまのわっるい単一民族至上主義団体『ジュー・ジュラックス・ジュラン (以下、JJJ)』の虜になってしまっていた、という点にあります。


 それにまたこれは、アーサーくんたちが暮らしているような、こんな、都心からそこそこ離れたエリアでも、ヤツらはなんだか、なんだか変なかんじに増殖していて、外国人や同性愛者、シングルマザーやマジメな労働者など等といった、立場の弱いひとたちに向け、あからさまな差別や攻撃をはじめていた、ってことでもあるのですね。


 で、しかもまた、ヤツらの考えるその理由ってのが、またまたアホくさくて――


「やつら※※人と、**的同性愛者どもは、この国の乗っ取りを企てているにちがいない」


 とか、


「あんな**臭いやつらが街をうろついているだけで吐き気をもよおす。即刻排除すべきだ」


 とか、


「やつらの集会場の地下には、大量の大量破壊兵器が隠されており、やつらは集会ののち、その兵器の前で乱交にふけっているのだ。うらや――いや、汚らわしい」


 みたいな?


 すこし考えれば、そんなことを考える自分のあたまの方が、狂ってたり腐ってたりするって分かるだろう誇大妄想を抱いては、そんな感じの流言飛語を、語り合っては飛ばし合って、その無根拠な憎悪なり憎悪する対象なりを増やしていたようなんだけれど……、うん? なに? どうかした? アーサー。


「“ランコー”ってなに?」


 あー……、えー……、そのーー……、おおきくなったら教えて…………あげられないなあ。


     *


 と、言うことで。


「どう? だれが誰だか分かる? アーサー?」


 と、ここで時間はとつぜん切り替わり、ここって言うか今は、問題の“JJJ対ブルース・ブラザーズ事件”が起きた年の四月。場所は変わらず例の樫の木の枝のうえ、いまアーサーくんに質問をしたのは、もちろん姉のパウラちゃんです。で、


「うーん? やっぱ分かんないね」と、アーサーくん。例のオペラグラスをのぞきながら、「だってみんな、おんなじ格好してるんだもん」


 彼らはいま、この木のうえから、広場に集まる白ずくめの集団のようすをうかがっているところなんですが、


「なかの人が誰かなんて特定出来ないよ」


 と、アーサーくんも言うとおり、彼らJJJの恐ろしさは、それはたとえば、ネットによくいる攻撃的なひとたちと同じで、教義や思考の理不尽さや狭隘さもさることながら、


「誰が誰やらよく分からない」


 的状態に――恐らく組織内の人間すらも把握し切れていない状態に――彼らがなっていたことにあるワケです。なので、


「この町のひとは、この町のひとのハズだし」


「誰だか分かれば、やりようもあるんだけど」


「みんなほんきで、やつらを嫌がってるしね」


 とまあ、パウラちゃんたちも言うとおり、この町の多くの善良なるひとたちは、彼らのことを疎ましく想っていたし、出来れば、差別や攻撃をなくしたいとは想っていたのだけれど、彼らの匿名性、特定困難性が、それを難しくしていたワケでもあります。


 彼らは、土日やおおきな休みになると必ず、各町の公園や広場や大通りに現れては、ヘイトまみれのパレードを行っていて、それこそそのさまは、クー・クラックス・クランを想わせるようなものでもありました。


 まっ白な布をあたまからかぶり、その背中には、どこかの帝国を想い出させるような真紅の模様が施されている。顔には奇妙な丸型のマスクが着けられ、その外見からは誰がだれだか本当に分からない。そうしてさらに、


「声から分からないかなあ?」


「ボイスチェンジャー使ってるのよね、あのひと達」


 と、ふたたびのパウラちゃんたちが言うとおり、彼らは皆がみな、加工がほどこされた奇妙な音声で、


「うつくしい国家が、」どうとか、


「虐げられた我々は、」こうとか、


 ほんらい訴えるべき相手には背を向けたまま、自分たちの怒りや妬みや苦しみなんかを、憎まなければならないと想い込まされている、よわく叩ける人たちに向け、撒き散らしていくワケでもあります。


 で、まあ、こういうネガティブで非人道的な情動というのは、たいへん伝染しやすく、このあたりの、とくに、いろんな意味で、自身も虐げられて来た男のひとたちの、


「どうにかして、世界を敵味方に分けたい」


 という欲望を刺激していくことにもなるようなのですが――、


     *


「それでは、私もくり返させて頂きますが、」


 と、かかってきた電話に応えているのは、さっきもちょっと名前の出た、《ペトロのサンドイッチ》のペトロ伯父さん。


「私どもの店では、お客様の人種や指向や宗教などによって、その方への対応を変えることなどあり得ません」


 場面はすこし移動して、ここは、その 《ペトロのサンドイッチ》店内。カウンター横の固定電話で伯父さんが受けたのは、なんと、この日七回目となる、《JJJ団》からの脅迫電話でありました。


『それでは貴方は、我々の教義に御反対のお立場だと云う訳ですな?』


 と、例のボイスチェンジャー声でJJJ。この質問も本日九回目だそうで、これに対して、


「私がどうこう以前の問題です!」


 と、声を荒げた伯父さんが、


「この国の憲法ならびに、この町の条例でも、思想や信条、宗教・学問はもちろん、肌の色や性的指向などを理由としたあらゆる差別は、それを禁じられています」


 こう説明するのも、本日十一回だったりするワケなのです。ですので、


『差別ではない、区別だ!』


「入店を拒否することの、どこが区別だ!」


『よろしいですかな? そもそもこの国の歴史をふり返るに、****や同性愛というものは、その存在自体が許されて来なかっ――』


「そんなもん、ここ最近作られた歴史だろうが!」


 ガチャンッ!!


 と、まあ、固定電話がこわれそうな勢いで通話を切る伯父さんだけれど、こんな日が週に三日はあったらしく、いい加減営業妨害で訴えたいところなんですけど、相手の素性も分からなければ、警察も動きが鈍く、その上そこに――、


     *


「そんなの、根も葉もないうわさです!」


 と、こう叫ぶのは、ペトロ伯父さんのすてきな奥さま、マリサさんであります。


「なんで私が浮気なんか!」


 と、またまた場面は移動して、こちらは、マリサさん達の甥っ子、こちらもさっき名前の出た、フリオくんの通う小学校の一室であります。


 そう。


 ペトロ伯父さんとマリサ伯母さんのあいだにお子さまはいなかったんですが、彼らはフリオくんの親代わりでもあったので、このマリサ伯母さんも、この学校のPTAに参加してたりするワケなんですが、


「しかしですね、マリサさん――」


 と、彼女にこう話すのは、そのPTAで会長を務めていた……、って、このひと、名前なんだったっけ? アーサー。


     *


「え? そんな、急にふられても」と、木の上のアーサー。「先生のマンガに載ってないの?」


 あー、わたし、コミックス押し入れいれっぱなしでさあ、パウラちゃん分かる?


「え? いや、私も、“メガネのおばさん”ぐらいの認識ですけど――」


 そうなの? じゃー、まー、“PTA会長”か“メガネおばさん”でいっちゃうね。


「というか、私たちのコミックス、押し入れいれっぱなしなんですか?」


 だってわたしの書斎、自分の本の置き場もないくらいなんだよ?


「はあ――」


     *


 と、言うことで。


 なんか話がそれちゃったけど、要は、この『黒執事』のグレルみたいなメガネのおばさんが、マリサさんと他のPTAのお父さんの間を勘ぐってるみたいなんですね。


「しかしですね、マリサさん。あなたとヨンさんが仲睦まじく作業をされているようすは、ほかの会員の方たちにも見られていて――」


「私たちに作業をふったの、会長じゃないですか」


「あれは、こちらも配慮が足りませんでした。が、それでも、少々仲が良すぎるのではと――」


 と、まあ、マリサさんもお年とは言え、けっこうな美人さんなので、変な風に見えちゃうひとには、変な風に見えちゃうのかも知れませんが、


     *


「でも、伯父さんのこと大好きだよね、マリサ伯母さん」と、これはアーサーくん。「見てるこっちが、恥ずかしくなるときあるもん」


 そうそう。だから、そんなどーでもいいような男との浮気をうたがわれてもさ、


     *


「ですから! それは皆さんが勝手な想像を」


 と、マリサ伯母さんが声を荒げたくなるのも当然なんだけど、


「まあ、そうカッカなさらないで」


 と、ひき続き、ひとの気持ちを逆なでするメガネおばさん。


「確かにヨンさんも奥さまを亡くされて久しいですし、お子さまがいらっしゃるとは言え、魅力的な方であることに変わりはありませんし――」


 なんか、この人の方こそ、そのお父さんに気がありそうじゃんね。


「ですから、マリサさんが彼に心ひかれたとしても、何もおかしくは――」


「え? は? 私が? ヨンさんを?」


「あら、ちがうのですか?」


「冗談じゃありませんよ、あんなパイライフみたいな男 (笑)」


「な?! パイライフですって!!」


「パイライフでわるけりゃ、アンケラソとか?」


「まあ! よくも! よくもヨンさんのことをそんな感じに!!」


 ほらやっぱ、この会長こそ好きなんじゃん、そのヨンさんのこと。


     *


「というか、ヨンのおじさん、PTAのおばさん達に大人気だったらしいですよ」


 え? そうなの? パウラちゃん。 あー、でもだったら、それで余計にマリサさんへの風当たりが強くなってたのかなあ……うん? こんどはなに? アーサー?


「“パイライフ”ってなに?」


 あのお父さんの顔みたいな顔のことよ。


「ふーー…………ん?」


     *


 と、まあ、そんなこんなで。


 この時期マリサさんは、変なうわさを流されるは、PTA内で孤立しちゃうはで、踏んだり蹴ったりだったワケですけれど、これも、そのJJJの奴らが、伯父さんが彼らの要求を呑まなかった報復としてやったことだったのよね、アーサー。


「そうそう。それでフリオも困っちゃって」


「私たちといっしょに、先生のところまで相談に行くことになった」


 で、例の作戦を考え付いた。


「うん。ちょうど先生がエルのネームを考えてるところでさ、ね? パウラ」


 あー、それで、エルくんたちも合流したんだ。


「そうそう。カザモリさんに無理言ってこっちまで来てもらって――」


 なるほどー、ってちょい待ち。これ、エルくんと飾森さんのはなしもしておいた方がいい感じかな?


「え? しないつもりだったんですか?」


 え? あっ、あー、いや、ごめん、パウラちゃん。わたし、これ、想い出すままに書いて来ただけで、あんまそこまで考えてなかった。


「はあ、」


 お茶を濁すつもりで書き始めただけだし、伯父さんたちのことも、サラッと書き流すつもりでいたのが、なぜかこんなにシッカリと――、


「でも、エルくんたちを紹介しておかないと、いきなりおどりがはじまったり、犬がしゃべったりして、読者の方も『?』って感じなんじゃないですか?」


 あっ……、あー、ねー……、そりゃ、まあ、たしかにおっしゃる通りではありますが…………なに? どうかした? アーサー?


「あ、ごめん。っていうか、さっき言ってた、「後編がどーのこーの」って、けっきょくどうなったのかな? って想って」


 へ?


「あ、そう言えば。けっこうもう、書かれてますよね?」


 え? あ、ああ、そうそう、そうだった。


「ひょっとして――」


 ごめん。まったく気にせず書いちゃってた。


「はあ、」


 えーっと? ひぃ、ふぅ、みぃ……、うわ、まーた、すでにけっこうオーバーしてるなあ、これ。


「なんか、前回も似たようなことを――」


 ごめんごめん。考えてみたら、前編で七千字ほど使っちゃってんだから、足りるワケないわ、コレ。


「はあ……」


 あー、そしたらー…………うん。ここでいったん、打ち止めにしよう、今週。


「は?」


 で、次週、飾森さんとエルくんのことも紹介しつつ、“JJJ対ブルース・ブラザーズ事件”の最後まで書くってのでどうかな?


「いや、まあ、私たちに決定権はないので、その辺はお任せしますけど――」


 ごめんねー、なーんか今回、うっまくまとまんなくってさあ――、


「いや、ですから、前回も――」


 ま、でもほら、この事件は、ドカンと派手に見せた方が楽しいし……って、なに? アーサー。なにか言いたそうだけど。


「え? あ、いや、やっぱ下手くそなのかなって想って。カシヤマさん、小説書くの」



(続く)

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