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第十三話:ささやかだけれど、誰かのなにかの、役に立つもの。(後編:その1)

 さて。


 前編の最後、《練馬のシルバーバック》こと猪熊武志さんが、《練馬のハンプティ・ダンプティ》こと鳥取恵一さんを吹き飛ばしていた、ちょうどその頃――って言っても、過去における丁度その頃って意味だけど――ちょうどその頃わたしは、三つ目の非常口扉の前に立って、例のT型ドライバーを、


 ビビビビビッ


 とやっているところだった。


 大雑把に言って完全に怪しい人だが、非常口座席に座る小学生男子――彼はとても興味深そうにこの光るT型ドライバーを見ていたが――その彼以外、他の乗客は皆さん、気付かないのか気付けないのか、気付いていて見て見ぬふりをしてくれているのか、特に誰かが何かを訊ねてくることもなかった。


「どう? ミスター?」左耳にはめ込んだ無線機で貨物室にいる彼に訊いた。「変な感じはしなかったけど?」


 応答はすぐにあった。


「オーケー、そこも大丈夫そうだ」そうして、「異常があった場合は、すぐに大きな警報音が鳴るようにしておいたから、すぐにそれだって分かるよ」とミスター。「それが聞こえたら、持ち手の赤いボタンを押してくれ」


 ドライバーのソニックパルスが、スライドの不具合部分を自動的に直してくれるから、とかなんとか、わたしにはよく分からなかったが、


「きっと、充填ガス装置の一部が不作動を起こしただけだろう」


 と、いうことらしかった。


「了解」と、わたしは応えた。依然興味深そうな顔の男の子に手を振ってから、「じゃあ、次の扉に行くわね」そう言って、衝立をはさんだ隣りの非常口扉の方へと移動する。


 この機体の非常口扉は、全部で八つ。


 その中で不具合を起こしたのは、国交省の記録では、二つ。


 フライト時間は1時間と45分。


 羽田到着までにはまだまだ余裕がありそうだから、結構簡単に事は済ませそうだった。


 ビビビビビ、ビビッ


 と、隣りの扉もスキャンする。


「うん、ここも大丈夫そうね」とわたし。ミスターからの返事はなかったが、「そしたら、このまま反対側のチェックに入ります」


 そう言ってきびすを返し、機体をはさんだ反対側へと移動することにした。


 ミスターからの返事は、なかったけれど。


     *


「私が? 先生の代わりに?」


 と、丁度その頃――って言うか、未来における丁度その頃って意味だけど――森永久美子さんは、そう訊き返していた。


 彼女はいま、レイン伯爵を肩に抱き、作業部屋へと戻って来たところで、そこに置かれた固定電話で、


「佐倉くん――って分かるかな?」


 と、まだ外にいるアメリアさんから、ある頼みごとをされたところだった。


「その彼女が、試してみて欲しいって言っているんだ」


 と言うのも、アメリアさんたちは現在、茂木さんの部屋を出、猪熊先生のマンションに戻ろうとしているところなのだが、その道の途中で突然、


「あのー」


 と、まるで突然、なにかに気付いたかのように八千代ちゃんが、


「他の、誰かマンガの上手なひとに、消えた人たちを描いて貰うってのは、ダメなんですか?」


 と、言い出したからなのだが――ごめん、八千代ちゃん、どういうこと?


     *


「だって、猪熊先生の想像力? マンガを描く力? みたいなのが、皆さんを、こちらの世界に生み出したんですよね?」


 うん? ま、まあ、そうなんだろうね、たぶん。


「でしたら、先生と同じくらい? とはいかないまでも、皆さんのことを知っている誰か、皆さんのことを愛している誰かが、その人たちを描けば、消えた人たちを、こっちの世界? って言うんですか? に、呼び戻すことも、出来るんじゃありません?」


 うん……? いや、でもそれは、先生の特殊能力あってのことで――、


「うーん? でもわたし、絵とかはからっきしダメなんで分かりませんけど、あーいう絵を描いたり、お話を作ったりするのも、そーいう特殊能力のひとつなんじゃありません?」


 え……? あー、うん……?


「それにほら、どこかの誰かも言ってたじゃないですか、大昔に。「愛こそがすべて」って」


 はあ……?


「だから、愛さえあれば、なんとかなるような気がするんですけど、なんとかなりませんかね?」


 うーん……? なぜだろう? 理屈としてはまったく通っていないのに、なんだか、なぜだか、なんとかなりそうな気がして来た。


「ですよね?!」


 あー、じゃあ……、まあ、試してもらう分にはいいとして……、ってか、スゴイわね、八千代ちゃん。よくそんな、マンガみたいな展開想い付けたわね。


「ええ、エマちゃんにもよく言われます。「ヤッチってほんとマンガみたいよね」って」


 はあ、


「あ、あとほら、エマちゃん達もよくやってるって言ってますし」


 ……は?


「詳しくは知りませんけど、そういうものなんですよね? 二次創作って」


     *


 と、まあ、彼女のお友だち (腐女子連中)のソレは、またちょっとアレの違うソレだとは想うけれど――、


「それで、事情を知っているメンバーの中で、絵が描けるのは森永くんだけだし、」


 と、こちらは、場面もどってのアメリアさん。電話越しの彼女に、すこしほほ笑んでから、


「それにさっきの、さっき私たちに初めて会った時の、君の、あのはしゃぎっぷり。あの君の様子なら、リクや私のエレクトラ、それに双子のパウラちゃんも、取り戻してくれそうな、そんな気がしたんだ」


     *


 キイッ。


 と、なにかのきしむ、なにかのちいさな、音がした。


 寝室には、あいまいな常夜灯だけが、ポツン。とひとつ、点いていた。


 猪熊先生は、先ほど皆で部屋を出た時と同じかたちで――右手を下にし、壁を向いたままのかたちで、ベッドの上に眠っていた。


 彼女の上には、最初ここに運んだときに、アメリアさんが選んでくれた淡いブルーのアフガンが掛けられていて、そのちいさな口は、一文字に結ばれてはいたが、固く結ばれているわけではなかった。


 が、ただ、その代わり、毛布の上に出された彼女の左手――それは彼女の利き腕だったが――は、親指を中にし、固く握りしめられている格好だった。


 そう。それはまるで、丸められた背中と合わせて見るとき、言葉なき抗議を示す、幼児の抵抗運動のような、そんなもののように、タケシさんには想われた。


 また、そうしてそれは、そこに眠る九才の女の子のような彼女は、とても美しく、愛しいもののように、彼に想わせる――想わせてしまう――そんな、光景でもあった。


 ふざけるなッ!


 ガツンッ!!


 と、大きな、ナニカとナニカがぶつかり合う――いや、彼の岩のような拳が、彼のダイヤモンドのような頭部を、力の限りにぶっ叩く――音が響いた。


 この奇妙で不気味な音に、ドア向こうの恵一さんは、おどろき中をのぞこうかとも想ったが、先ほど、タケシさんを止めようとした時に受けた衝撃――しかしそれは、あまりに妹を想う兄のそれであったが――を想い出し、またふたたび、その場に、音を立てないように、すわり込むことにした。


 そうして、それからタケシさんは、数度大きく首を横にふると、その両の手で、その両の目を、その甘ったれたノスタルジーを追い払い、追い出すかのように、その傲慢な視神経を圧迫し、呼吸を整え、先ほど、自らの手で、彼女の枕もとへと運んだ、ちいさな椅子の上に、静かに腰を下ろすことにした。


 寝ている彼女の、頭と肩とに、向かいあった。


 彼は、固く握りしめられた彼女の左手――くり返しになるが、それは、彼女の利き腕だった――を見て、ふたたび、今度は静かに、


「ふざけるなよ」


 そう想った。


 が、しかし、それでも、彼は彼女の兄でもあった。


「ヤワラ」


 と、やさしく、彼女の肩を押さえた。


「起きるんだ、ヤワラ」


 お前が描いたおとぎ話、引き出しにしまい込んだ夢物語、未完成のそのネームは、見せてもらった。そう、彼は続けた。


「起きろ、ヤワラ」


 こんどは少し、強めの言葉で。


「こんな所で、ふてくされて、寝ている暇なんか、俺たちにはねえぞ、この野郎」


 一瞬、鼻をすすった。


「いいか、ヤワラ」


 彼は続けた。


「お前は、お前の人生の何処かで、マンガ家に、すぐれたマンガ家になりたいって欲望を持った。 いいか? ヤワラ。それは、もう、一生捨てられないんだ。なにが、どうあろうと、一生、捨てられないんだ」


 息をひとつ、ゆっくりと、吐いた。


「俺はなにも、いい加減なことを言ってんじゃねえぞ、ヤワラ。 いいか? ヤワラ。 いま、こうしている間にも、俺たちの人生の残り時間ってヤツは、どんどんどんどん少なくなっていく。 くしゃみをする時間も、過去をふり返る時間もねえくらいにな、少なくなっているんだ。 起きろ、ヤワラ。 すぐれたマンガ家になりたいってんなら、お前に出来ること、お前にやれることは、たったひとつ、たったひとつだけ、マンガを描く。それだけだろ? 起きろ、ヤワラ。 これ以上、明白なことがあるか? これ以上、やっていけないことがあるか? 起きろ、ヤワラ。 もう、二度とは言わねえぞ、この野郎。 マンガを、描くんだ、ヤワラ」


     *


 ぶーッ、ぶーッ、ぶーッ、ぶーッ。


 と、大きな警報音がして、皆が一斉にわたしの方を見た。


「やばッ」


 そうわたしは想い、急いで、問題のT型ドライバーを後ろ手に隠した。――たしか、この後、持ち手の赤いボタンを押すのよね?


 通路の向こう側から、メイクばっちりキレイ系のスチュワーデスさんが、いぶかし気な顔でこちらに近付いて来る。――ったく、なんでこんな大きな音にする必要あるのよ、あの宇宙人。


 チチッ、チチッ、チッチチチー、チチッ。


 と、手の中のT型ドライバーが小刻みに震え出し、なにかの音波を発し始めたようだった。――これが例の、脱出スライドを修理してくれる音波ってことよね? 


 スチュワーデスさんが、歩く速度を上げ、更にこちらに近付いて来る。


 やっぱりわたしを疑っているようだが――、ここで、


 チチッ、チチッ、チッチキチー…………、チーンッ


 と、手元のドライバーが、修理完了のような音を出した。


 そこでわたしは、急いできびすを返すと、素知らぬ顔でスチュワーデスさんから離れて行った。


 あと調べるべきは、機首一番奥の二枚の非常用扉だけだ。


 何気に座席に目をやると、疲れているのか夕方だからか、乗客の皆さんの大半が、目を閉じ、眠っているようだった。


「ミスター? 聞こえる?」


 彼らを起こさないようわたしは、小さな声で、耳元の無線機に話しかけた。


 が、先ほどと同じく、ミスターからの返事はない。すこし変だなとは想いつつ、


「ひとつめの扉が見付かって、言われた通りに修理したわよ」


 と、わたしは続け、今度はふっと、窓の外へと目をやった。


 とおく広がる雲海に、きれいな夕陽が反射して、一瞬目を奪われそうになっ…………あれ?


 なにか、変なものが、目の端に映った。


「ミスター? 聞こえる?」


 もういちど、無線機に話しかけた。今度はすこし、大きな声で。


『や……た』


 返事があった。大きな風の音と一緒に。


『修……士が来……。僕……いま、翼……上に……か……ている』


「ミスター?!」


 大きな声が出た。


『や……だ。修道……士だ』


 間違いなかった。


 時速900kmの空の上、広がり始めた星の下、白い翼の上にいるのは、まぎれもなく、わたしの 《ときを見た少年》、ミスターだった。


「なにやってんのよ! ミスター!!」


     *


「分からない!」


 と、窓の外でミスターは叫んだ。必死に、細い手足で、飛行機の翼につかまりながら。


「多分! しっぺ返しだ!」


「しっぺ返し?!」わたしは訊き返した。


「突然!」彼は続けた。風に吹き飛ばされそうになりながら、「修道士が現われて! 僕を! 機外に放り出したんだ!!」


「そんなことってあるの?!」


「はっきりとはしないが、アイツらの基準で、僕がまちがった方向に時間を変えようとすると、こうやってなにかしらの妨害を――」


 と、ここで突然、


 ドォウッ!!!


 と、大きな振動と爆発音が、宙に響いた。


「……ウソだろ?」と、ミスターはつぶやき、


「ウソでしょ?!」と、わたしは叫んだ。「これも、“しっぺ返し”ってこと?!」


 問題の、問題の事故を起こしたそのエンジンが、本来の予定よりも一時間ほど早く、火を噴き出し始めていた。


     *


「ニャゴん?(訳:どうだね、お嬢さん?)」


 と、丁度その頃――って言うか、5~6時間後のその未来のその頃って意味だけど――猪熊スタジオの作業部屋では、レイン伯爵が森永久美子さんに、こう訊いていた。


「にゃホン?(訳:なにか、手応えのようなものはあるかね?)」


 彼はいま、彼女の席のとなりに座り、彼女が必死で原稿用紙に向かうすがたを、なにも出来ずに見つめているところなのだが、


「いや、そんな、」と、森永さんは応える。伯爵のネコ語にも慣れて来た感じで、「こんなの初めてで、手応えもなにも……」


 いま彼女は、アメリアさんの指示というかお願いを受けて、消えてしまったパウラちゃんや飾森さん、それにエルくんや悪魔のミアさん達の絵を、それこそ彼らを、なんとか想い出そうとしながら、必死のパッチで描いているわけなのだが、


「逆に、分かるもんなんですかね? 皆さんが戻って来たとして、私に?」


 と、やはり無茶なお願いだったのか、なにやらいま一つ、確信が持てないでいる様子でもあった。


「ホント先生、どうやってやってたんですかね、こんなの」


「ナゴ、フニャーゴ。(訳:それは、それこそ先生にしか分からんよ)」


「なんか、こう、とっかかりと言うか、もう少し、実感めいたものでもあれば、別なのかも知れませんけど――」


「ナニャ?(訳:実感?)」


「あー、ほら、たとえば。いまこうして、伯爵とお話しているような? たしかに、ミアさんにしろパウラちゃんにしろ、マンガの中では何度もお会いしていますけど、実際にお会いしたことはないワケですからね、私」


「ナゴにゃヤ? なニャン?(訳:今回が初めてなのかね? 我々の仲間に会うのは?)」


「そりゃまあ普通、マンガの中のひとに会うなんてことは――あっ」


 と、ここで彼女は突然、ハッとなると、頭を上げ、左を向き、作業部屋の、カーテンが引かれた窓を見詰めた。


「ゴロ?(訳:どうかされたかね?)」


 いつか見た、大きな黄色い目玉を、彼女は想い出していた。


     *


 さて。


 例えば、近年のエンジントラブルによる飛行機事故と言えば、2015年のブリティッシュ・エアウェイズや、2016年のアメリカン航空、それに同年の大韓航空機のエンジン火災を想い出される方も多いと想うが、これらはいずれも、離陸滑走中に起きた火災であり、そのどれもが直ちに離陸を取り止めたりしたため、負傷者が出るようなことはあっても、死者が出るほどの大型インシデントになることはなかった。


 また今回の――元々の時間軸における――鹿児島空港17:00発で起こった、この重大インシデントも、火災が起こるのは、羽田空港到着後であり、そこで出た死者の数は、それももちろん痛ましいことに変わりはないが、それでもそれは、わずか二名で済んでいた。


 が、しかし、いま――なにが歴史を、修道士を怒らせたのかは不明だが――、ミスターとわたしが目撃しているのは、高度約10,000メートル、時速約900kmで東へ向かう道中での、エンジン火災である。


 その景色を見た瞬間、たとえば過去のいくつかの映像――それこそ2000年7月のエールフランスの墜落事故のような映像――が、わたしの脳裏を過ぎったとしても、それは、おかしくないどころか、当然のことと理解して頂いた方が自然であろう。


     *


「ミスター!」


 次の瞬間、わたしは叫んでいた。気持ちよさそうに眠るおばあさんの上を、大声で、壁に手を付け、飛行機の窓に額をくっ付けながら、


「それ! どうにか出来るのよね?!」


 たぶん、無理なんだろうなあ――とか想いながら。


「あんまり! 大声で叫ばないでくれ!」


 翼の上で、彼は叫び返した。つっぱった両足と、いまにもちぎれそうな左手で、そこにしがみ付いたまま、


「無線機で! 声は! 聞こえてるよ!!!」パニクる頭を、フル回転させながら、「いま! なにか! 作戦を考える!!!」


「あのう、お嬢さん?」


 と突然、わたしの下で、おばあさんが訊いた。


「あの方、あんなところで、いったいなにをされてるの?」


 目を覚まし、それでもまるで、夢でも見ているかのように。


「なにか……、なにかを、必死で探されているようですけれど……」


 たしかに。


 翼にしがみ付いたままの格好で彼は、腰のポーチに残った右手をグイッと入れ、それをまさぐり続けていた。


「えーっと? あれでもないし、これでもないし……、ちくしょう! なんでこの中、こんなにゴチャゴチャしてるんだよ」


 と、日ごろの自分をうらみつつ、


「いっつも、肝心なときに、肝心なものが出て来ないんだから」


 と、大量の秘密道具を空へとまき散らかして行く。


「って言うかミスター」わたしは訊いた。「あなた、自分が何を探してるのか、分かってるんでしょうね?」


 おばあさん以外の乗客も、徐々にざわめき始めている。――あなたいま、けっこう注目の的よ?


「もちろん、分かってるさ」


 と引きつづき、あんまり分かってなさそうな感じでミスター。


「いっつも、こんな感じだしね。タイムアップぎりぎりで決めるスリーポイントシュートの方が、ヒーローぽくってかっこいいだ…………あっ! ……ちがった。これは『惑星破壊爆弾』だった」


「はあ……」


 と、頭を抱えるわたし。すると、


「あのう、お嬢さん?」


 とふたたび、わたしの下で、おばあさんが訊いた。今度はさっきより、すこしはっきりした顔で。


「あちらの、あなたの旦那さまね」


 え? いや、あのエイリアンとわたしはそういう仲じゃありませんけど?


「あら、そうなの? すみませんね、私てっきり」


 そりゃまあ、子供の頃から知ってる人ですし、馬も合うっちゃ合うんですけど、そーゆー対象かと言われれば、全然ですね。


「あら、それは残念ねえ、お似合いのように見えるのに」


 あー、まあ、そう言われれば悪い気はしませんけど、ああ見えて彼、すっごい年上ですし、生まれも育ちも、マジで異世界ですし。それになにより、わたしの方が、男の人、まったくダメなんですよね。


「え? あら、それはゴメンなさい。なんだか立ち入ったことを聞いてしまったようで」


 え? いや、まあ、その辺は別に構わないですけど、それよりいまは、世界って言うか、この飛行機を救うのが先決ですし。


「あ、そうそう、そうよね。それでね、それでお聞きしたかったんですけどね」


 はい?


「あの、あなたのお友だち? の後ろ、もう一人、なんだか外国のお坊さんみたいな方、立ってらっしゃいません? ほら、あの、翼のうえ」


「……は?」


 わたしは驚き、改めて窓の外を見た。


「まさか…………あれなの?」


 たしかに。


 暗くなり始めた空の下、いくつかの星が灯り始めたその下を、朱色の外套に青いケープを巻いた奇妙な男性――らしきナニカ――が、風にあおられる様子もなく、静かに、ゆっくりと、まるで何かの影法師のように、ミスターの方へと近付いて行くのが見えた。


「ミスター!」わたしは叫んでいた。「うしろ! 修道士が!」


 しかし、この声に反応するかのように、そのナニカは、まばたきする間もない一瞬で、彼の下へと到達すると、片腕ひとつで彼を持ち上げ、そのまま、


《※※※※》


 と、なんだか知らない、よく分からない、外国のことばで彼に話し掛けてから、そうして、そのまま、彼を、星空の向こう側へと、


 ひゅうッ


 と、ほうり投げた。



(続く)

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