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第十三話:ささやかだけれど、誰かのなにかの、役に立つもの。(前編:その1)

 さて。


 以前 (第七‐八話)にもお見せしたとおり、我らが 《ときを見た少年》ことミスターが使用する秘密道具の中には、


「版権的に大丈夫なの? これ?」


 と小首を傾げたくなる道具が少なくない。


 と言うか、少なくないどころか、それら秘密道具をしまっている、「見た目よりもやたらと中が広い」ウェストポーチからして、「秘密のポッケ」そのものの見た目をしているし、なんなら名前もほぼほぼそのまま、《四次元ウェストポーチ》だったりする。


 が、もちろん、これら秘密道具の名前や形状や性能について、その元ネタについて、当のミスターがどれほど知っていて、どんな風に想っているのかは、皆目見当も付かないのだけれど――いや、


「ってってれー、“タイムトラベルベルト”ーー」


 と、毎回、例の青ダヌキのものまね――今回は野沢○子さんバージョンですね――をしているのだから、絶対確信犯なのだろうけれど、それでも、


「このベルトのバックル部分には、小型の時空間移動装置が取り付けられていて、これらのスイッチを押すだけで、過去や未来へ自由に行き来することが出来るんだよ、ヤスコくん」


 と、これまたいよいよ、見た目も機能もギリッギリを攻めて来た秘密道具を、臆面もなく出して来たので、これ以上わたしからなにかツッコミを入れるようなことはしないでおきたいと想うが…………、って、あれ? ちょっと待ってよ、ミスター。


「なんだい? ヤスコくん」


「その“タイムベルト”なんだけど――」


「あっ」


「え?」


「“タイムベルト”じゃない、“タイムトラベルベルト”だよ、気を付けてくれたまえ」


「……はあ」


「まったく。言葉はもうちょっとセンシティブに扱ってもらわないとね、ヤスコくん」


「はあ?」


「で? この“タイムトラベルベルト”がどうかしたかい?」


「その……“タイムトラベルベルト”って、時間は移動出来るけど、空間は移動出来ないってヤツじゃなかった?」


「あー、はいはい」


「映画版の第一作でもそこがネックになってたしさ、鹿児島に行くんでしょ? 空間移動はどうするのよ」


「そこは大丈夫だよ、ヤスコちゃん。パクリ元の欠点はちゃんと改善して、空間移動も出来るようにしておいたから」


 あ、いま、パクリだって認めたな、この宇宙人。


「うん。じゃあ、そろそろ行くから、僕につかまって、ヤスコちゃん」


「……つかまる?」


「キチンとつかまっとかないと、亜空間で振り落とされるからね」


「一本しかないの?! それ!」


「もともとは二本あったんだけど、一本はずっと前に壊れちゃってね。故郷の惑星に置きっぱなしなんだよ」


「はあ……」


「フォースフィールド内に入っていれば大丈夫だからさ、ほらほら、恥ずかしがってないで、はやくつかまって」


「はあ……」――別に、恥ずかしがってるワケじゃないんだけど。


 ギュッ。


「これでいい? ミスター?」


「うん? もっときちんとつかまってよ。亜空間で振り落とされでもしたら大変なんだからさ」


「え? でも、結構、しっかりつかまってるつもりなんだけど……」


 ギュウ。


「これならどう? ミスター」


「いや、だから、もうちょっとしっかりつかまってもらわないと。いまもまったく感触が…………あっ!」


「なに?」


「ご、ごめん。まさかヤスコちゃんが、ここまでのペチャ――」


 パッッコ――――――ン。(空っぽの頭を叩く音)


「ほんっと、あなたって、デリカシーってヤツがないわね! ミスター!!」


「ご、ごめん、ヤスコちゃん。ほんと、ほんと、ホントーに、悪気はなかったんだよ、ほんと、ほんとゴメン、ヤスコちゃん」


 ったく、この宇宙人。こんど女に生まれ変わることがあったら、わたし以上のペチャパイになるがいいわ。(注1)


     *


「あの……、レイン伯爵?」


「なんだね? ミセス・リンディ」


「あれは……、そのー、あのふたりで大丈夫なのでしょうか?」


「しかし、いまのこの状況では、我々もいつ消えるか分かりませんし、あのおふたりに頼るほかありますまい」


「まあ……、たしかに。それはそうなんですが……」


     *


 ギュッ。


「ほら、これならどう? ちゃんとつかまってるわよ、ミスター」


「ごめん、ごめん、ヤスコちゃん。大丈夫です、大丈夫です。オール・オッケーです」


「よし。なら行きましょ、ミスター」


「了解。――それでは! 伯爵! ミセス・リンディ!」


「お気を付けて、ミスター殿」


「石橋さんの預言の件は、また私から連絡します」


「それでは! ふたたび未来で! ――ポチッとな」


 ポワン。


 キュキュ。


 ヒュン。


     *


 と、言った感じで。


 なんとかやっと、時空間移動に移ったわたしとミスターなワケでありましたが、


 今回のミスターの作戦――は、結局いつもと同じ行き当たりばったりになるだろうから、それはさて置いて――目的と目標は、概略、つぎのようなものだそうです。


「問題の茂木さん。先ずは、彼の命を救うのが、第一の目標だ――僕が今回飛ばされて来たのも、多分それだろうしね」


「例の“かなしい時間に立ち会うひと”を救うってやつね」


「たぶん、取り敢えずは」


「彼を救って、先生も救う?」


「そうして、世界も救う」


「世界?」


「そう、世界。どっちかと言うと、僕らが目指すべき目的はこっちだな」


「どういうこと?」


「さっき、時空間の波動と波長と色彩を計測しただろ?」


「あの、ビビビビビッてやつね」


「そう。あの結果分かったことは、君たちの世界が現在、とてもゆるやかにだが、崩壊していってるってことなんだ」


「……私たちの世界?」


「もちろん、他のみんなの世界も崩壊して行ってるけどね」


「なんで、私たちの世界まで?」


「ふたごのお姉さんや、鳥取先生の悪魔は、すでに消えたんだろ?」


「飾森さんなんかは、わたしたちの目の前で消えてったわね」


「さっきも言ったとおり、“物語が実在するということは、その物語の登場人物たちも同様に実在する”――だったら、その逆は?」


「逆?」


「物語の登場人物たちが消えるということは、その物語も消え去ってしまうってことだろ?」


「でも、それは……」


「きみたち人類は、物語が現実に与える、与え続けている影響を、軽く見過ぎているよ。――例えばさっきの、三白眼の子」


「森永さん?」


「物語世界の変化が、君たちの現実にまだ追い付いていないから、彼女もまだ、彼らのことを覚えてはいる。彼らの世界で起きた物語たちとともにね」


「……うん?」


「でも今回の――たぶん、猪熊先生が引き起こした・引き起こそうとしている――彼らの消滅、引いては物語の消滅は、それらの記憶や歴史を、彼女の中から、消え去ることになるかも知れないだろ?」


「あ、」


「そう。もしそうなった場合、それでも彼女は、いまの仕事を続けるだろうか?」


「あ? え、でも、それは……」


「そうしてこれは、なにも物語を語る人たちだけの問題じゃない。それを享受する人たち、直接的・間接的に、その物語に触れた人たち、影響され、正義を成した人、悪を成した人、医者や科学者を目指した人もいれば、彼らが発明したり作り上げた医術や技術を通して、助けられた人々もいる。いや、そんな大それたことじゃなくてもいい。ちょっとしたおとぎ話や笑い話、そんなお話たちが、”small, good things”日々の善意のようなものを、すこしでも世界を善くするようなものを、この世界にもたらしているとしたら? そうして、もし、それら“善きこと”が、ある日突然、すべてなくなってしまったとしたら?」


「……“すべて”は、言い過ぎじゃない?」


「先生の力が、どこまで、どの深さにまで影響するのかは分からない。彼女が創り出した世界までのことなのか、それとも、この崩壊・消滅が、他の物語世界にもなにかしらの影響を及ぼすのか。どれほどの 《虚無》が、それら物語世界のどこまで、どの深さまで、侵入して行くのか、それらを崩壊・消滅させる可能性があるのか。同業者の悲しい自殺が、ある人の筆を折り、彼女に物語を捨てさせることだってあるだろ? いま、崩壊を止められるのなら、止めておかなければいけない」


 それから彼は、息をのむと、わたしの顔の横、数センチのところで、ちいさな咳ばらいをひとつした。そうして、


「すまない」


  そう謝ってから、こう続けた。


「更に困ったことは、時間も空間も、不可逆的であると同時に変成可能的でもあり、そうして時間は、一方向にだけ向かって進んでいるワケではない」


 わたしは応えた。


「未来は変えられるってこと?」


 宙ぶらりんの両脚から、靴が落っこちそうになるのを、なんとか止めながら。


「“過去から未来に向って飴の様に延びた時間”あんなものは幻想だよ」


 ミスターは言った。彼は彼で、わたしを抱いてる右腕が、プルプルプルと震えている。


「過去……が変われば、未来……も変わり、未……来が変われば、ハアハア……、過……去も……、変わるんだよ」


 彼は続けた。


「なるほど……」


 わたしは応えた。


「今回の、崩壊が……、わ……たし達の……、世界の歴史すら……、崩壊させるかも……、ってことね」


 ってか、だめ、もう、ミスター、わたしの腕の方が限界かも。


「そ……の……」


 ミスターは続けた。なんとかわたしの身体を、引き上げようとしながら、


「可……能性……は……、」


 が、彼は彼で腕力に自信のないひょろひょろタイプなので、


「捨……てられ、……な……い……――なあ、もうこれ、いちど下まで落ちた方が早くないか?」


 と、わたしを落とす気まんまんで言うのであった。が、


「いやよ! なんとか引き上げてよ!!」


 と、最後の力をふり絞って彼に抱き付くわたしと、


「だってさあ、僕のちからじゃ無理だよ、これ」


 と、いかにもエイリアン的な冷めた瞳でこちらを見るミスター。だけど、


「そもそも! こんな所に着陸したの! アナタでしょ!!」


     *


 と、言うことで。


 ここは、時間と空間を行ったり来たりした後の、鹿児島県は鹿児島空港。


 時刻は、夕方4時を少し回ったくらいで、わたしとミスターは、そこの国内線ターミナル――からはちょっと離れた、ナニカの塔のてっぺんにいた。


 って言うか、かろうじてぶら下がっていた。


 と言うのも、どうやら、このお間抜けエイリアンがタイムトラベルベルトの座標設定を間違いやがったらしく、


 ブヒュンッ


 と到着したのが、そのナニカの塔の外側、そのボール型の頂点付近で、


「え、え、えっ? どこ? ここ? どこ?」


 と、あせったわたし (高所恐怖症)が、なんかそのまま、その20~30mはあるであろう塔のてっぺんから、足を滑らせたからでもあった。


「あ、ほら、ヤスコちゃん」


 と、その座標設定を間違いやがった丸顔赤毛エイリアンは言った。


「桜島が、キレイな煙を上げてるよ」


 うるせえ! さっさと助けろ! バカ野郎!


     *


「しかし、これでは混沌とし過ぎてるな」


 と、ミセス・アメリア・リンディは言った。「もう少し、こう、ハッキリしたものかとばかり想っていたんだが――」


「ハッキリしないのは、いつものことなんですが」


 と、石橋伊礼さんは返した。「特に今回のものは、いくつもの人や光景が重なり、折り重なっているような感じで――」


 と、言うことで。


 こちらは、時間と空間が切り替わった、夜の石神井公園駅前――からすこし離れた? あるいは入った? ところにある、町のちいさな喫茶店、青い扉の『喫茶シグナレス』


 ここには、前話ラストで出されたミスターの指示に従い、ミセス・アメリア・リンディとアーサーくんが、行政書士の石橋さんに、例の『預言』の内容を聴きに来たところでありました。が、


「石橋さんの目? 頭? で確実に観測出来たのは、泣いている先生と、落ちて行くリクの姿だけ?」


「はい。あとは皆さん、リンディさんもはじめ、行ったり来たりというか、昔のすがたで出て来られたり、見たこともない格好をされていたり、消えたり現われたりといった感じで――」


 と、そもそもの石橋さんからして、今回の『預言』をしっかりと観測出来ていないようすで、


「しかしこれでは、ミスターさんにどう伝えればよいのかも、よく分からないな――」


 とアメリアさんも言うとおり、今回の問題に対する糸口的なモノもあまり見付からない状況でありました。――そう言えば、八千代ちゃんは?


「すみません、お待たせしました」


 と、ここで彼女。どうやらバイトあがりの所をつかまってしまったようで、


「日誌書いてたら、なんだか遅れちゃって」


 と、男物のパーカーに短パンという私服スタイルで、彼らの席まで来る。それから、


「あと、これ、アーサーくんに。お店のおごりだって」


 と、ちいさなチョコレートアイスを――ホントはきっと、彼女のおごりなのだろうけれど――彼の前に出した。


「あ、ありがとう」


「うん。お姉さんが心配なのは分かるけどさ、きっとすべてうまく行くから、それでも食べて元気出してよ」


 そう言って彼にほほ笑む彼女だが、彼女のこの言葉に、のこりの三人はすこし不思議な感じを受けた。

と言うのも、彼女にはまだ、今回の件は話していなかったからなのだが――、


「それで?」と、続けて八千代ちゃん。「私はいったい何を?」


「あ、ああ」と、不思議な感じを引きづりつつのアメリアさん。「実は私も、ミスターさんの指示に従っているだけで、はっきりとしたことは分かってないんだが――」


「ミスターさん? あの丸いお顔の?」


「あ、ああ」


「あの人が、私と石橋さんに“一緒に”話を聞くように言った?」


「うん? ……あ、ああ、そう。そうだったな」


「でも、そのとき先生は、泣いていなかったんですよね?」


「え?」アメリアさんは応えた。またすこし、奇妙な感じを受けつつ。「あ? ……うん。確かに。言われてみればそうだったが……、なぜそのことを君は――」


「だったら、」


 と、八千代ちゃんは続ける。彼女の質問には答えず、彼女たちの動揺にも気付かず、自分でも何を言っているのか、見ているのかも分からないまま。


「石橋さんの見ている風景、確定してしまった未来は、まだ来ていない。落ちて行く男のひとも、いまは消えているけれど、まだ、落ちてはいない。完全に、消えてはいない」



(続く)

(注1)

 ちなみに。

 私の別の作品 (『時空の涯の物語』や『夢物語の痕跡と、おとぎ話の物語』など)をご覧の方はご存知かと想いますが、この後ミスターは、次の次の次の転生で、ふたたび女性の身体に生まれ変わることになります。

 なりますが、この時のヤスコ先生の想い・呪いといったようなものが、どこぞの神なり悪魔なりに届いた――かどうかはまで分かりませんが、それでも彼 (その時は彼女)は、「美人は美人だけれど、ヤスコ先生以上に、まったく、ぜんぜん、胸部のふくらみのない女性」に生まれ変わることになるのでありました。――へん、ざまあみなさいっていうのよ。

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