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第十一話:バビロン再訪(前編)

 さて。


 この日も朝から、パウラとアーサーのふたごは絶好調だった。


 例の事件からこっち、仲良くなった犬たちのお散歩代行は大好評だったし、そんな彼らを広場に集めてケンカ……もとい、じゃれつかせては、見物人からお菓子やジュースを分けてもらう事業も大成功だった。


 散歩が終われば、フリオ特製のスケートボード (その辺の板にコロコロを付けただけのもの)に乗って公園を行ったり来たり、スピード感が足りないなって想えば路上に飛び出し、バスやトラックに引っぱってもらったりもした。


 お腹が空いたら、ペテロ伯父さんのお店に忍び込み、大好きなサンドイッチを盗み食――もとい、だまって分けてもらい、このまえ見付けた水風船をビルの屋上から落としたりもした。


 そうしてそれから、学校帰りのフリオと合流、赤信号を誰がいちばんはやく渡れるかを競い合っては、


「プールサイドをはしるなー!」


 という監視員の言葉は無視して全力ダッシュ、


「飛び込みも禁止だー!」


 っていう叫び声だって馬耳東風で、そのままみんなで、


 ドッボーン!!!


 と、開場したばかりの市民プールへ飛び込んだりもした。


「つっめたーい!」とパウラちゃんは笑い、


「おれ、もう25mおよげるぜ」とフリオは言ったが、


「うっそだあ」とアーサーは信じなかった。「おまえ、去年泳げなかったじゃん」


「伯父さんに教えてもらったんだよ!」


「じゃあ競争するか?!」


「さきにあっちに着いたほうが勝ちな!」


「いいぞ! パウラは?」


「わたしはいいわよ、アンタらだけでやりなさいよ」


「じゃあ、スタートやってくれよ」とフリオが言い、


「いいわよー、位置についてー」と両手をあげるパウラちゃん。「よーい!」


「まわりのひとのー!」とさけぶ監視員はもちろん無視して、「迷惑にならないように!」


「ドンッ!!」と言っては両手をふり下ろす。


 バカな男子ふたりが、へったくそなクロールとバタフライでえっちらおっちら、プールの反対目指して泳いでいく。彼らのあまりにも無様な――失礼、ぎこちない泳ぎにパウラちゃん、


 あはははは!


 と笑うと、


「ずーっと、この瞬間が続いてくれればいいのに」


 と、そんなことを想った。


     *


 すると、そんな彼らとはほど遠くない石神井公園テニスコートでは、悪魔のミアさんが、今日も今日とて、エッロエロで悪魔的なそのボディに、エッロエロで悪魔的なフェロモンを満載にして、エッロエロでメッロメロな感じに、周囲の観客を魅了したりしていた。


 が、まあ、そうは言っても、もちろん。


 なんだかんだでここは公共の場ではございますし、本日のお相手も、いつもどおりの、いつもまじめな恵一さんでございますので、いわゆる普通のえり付きゲームシャツに、その辺で売ってる地味なスコートを履いてるだけではございました。が、それでも、


 パコンッ


 とボールを打ち返せば、


 ぶるるるるんっ


 と、悪魔的おっぱいは揺れに揺れ、


 バンッ


 という恵一さんのスマッシュには、


 トタタタタッ


 と、余裕で追いつき、そのたびに、


 うぉおぉお!


 と、ちらりとのぞくショートパンツが、周囲の野郎どもの妄想を、たくましくもしておりました。


 ですので、もちろん。


「きゃっ!」


 と彼女、ときおり、ワザと転んでみせては、


「だ、だいじょうぶですか、ミアさん!」


 とか、


「おいこら、ケイイチッ! そんなきっついスマッシュを、ミアさん相手に打つやつがあるか!」


 とか、


「我々ミアさん親衛隊はー! 鳥取恵一医師のー! ミアさんに対するー! テニスを通じた暴力に対しー! 断固たる遺憾の意をー! 表するものでー! あーる!!」


 みたいな?


 同情・応援・シュプレヒコールを、いい年こいた野郎どもから引きずりだしては、


「ま、まあ、皆さん、私なら大丈夫ですから」


 と、悪魔のくせに天使みたいな声とほほ笑みで、


「でも……、恵一さんには……、もう少し手加減して欲しいかも……」


 と、彼を悪役にすることも忘れないワケであります。なので、そのため、


「ああ、ミアさん、そんな健気に……」


 とか、


「おい、こら、ケイイチッ! 月の照ってる夜ばかりじゃねえぞ!!」


 とか、


「我々ミアさんファンクラブはー! 鳥取恵一医師にー! いつの日かー! 天の裁きの下らんことをー! 切に願うものでー! あーる!!」


 みたいな?


 そんな恫喝・恐喝・脅し文句をも、引き出したりするのでありました。


 でありましたが、そうは言っても、恵一さんも恵一さんで、


「ちょっと男ども! 恵一さんに向かってなによ! その言いぐさは!」


 とか、


「あんたらこそ、夜はそのくっさ (*自主規制)でもい (*自主規制)って (*自主規制)して、家に閉じこもってればいいのよ!」


 とか、


「恵一さーん、あんな男どもの言うことなんか無視しちゃっていいですよー」


 とか、周囲の女性が声を合わせて、


「恵一さーん! ふぁいっとーー!!!」


 みたいな?


 例の天使のオーラをもらってからこっち、ちょっとした暴力装置的ファンクラブを形成するまでに至っておりまして、しかも彼ってほら、お医者さまじゃないですか? だからこのファンクラブってのがね、


「いざとなったら言って下さいねー、薬剤部から※※※と※※※※調達してくるんでー」


 とか?


「って言うかー、あいつらー、病院に来たらー、注射や点滴にちょいっと※※※※※で細工してやりますんでー」


 とか?


「ヤツら、あたしら看護師がどれだけ※※で※※※で※※※※な存在か分かってねえんでヤンスよ」


 みたいな?


 とーっても優秀で、とーってもステキな白衣の天使的お姉さま方を中心に構成されたファンクラブなのでもありました。――って、大丈夫かな? このネタ。


「けど、まあ、それはさておいて」


 とここで、ラケットを握り直しながらのミアさん、


「もっと本気で打ち込んでもいいわよお」


 と、くびれたウェストも悩ましく、


「ケ・イ・イ・チ・くんッ♡」


 と、彼と彼らと彼女たちを挑発します。


 するともちろん、恵一さん、


「は?」


 と、すこしいらだちながら、それでも、


「言ってくれるな、この悪魔」


 とすこし笑うと、


「だったら」


 と、持ってたボールを高く上げ、


「コイツでどうだ!!」


 とばかりに、そのハンプティダンプティな全体重を全乗せしたサーブを打って来ます。


 するともちろん、悪魔のミアさん。この容赦のないボールに、なんだかとっても嬉しくなって、


 あはははは!


 と笑うと、それをむかえうちながら、


「ずーっと、この瞬間が続いてくれればいいのに」


 と、そんなことを想うのでありました。


     *


 すると、これまたこちらは、そんな彼女たちからほど遠くない、石神井公園駅前――からすこし離れた? はいった? ところにある、町のちいさな喫茶店、青い扉の『喫茶シグナレス』。


 こちらの店内では、この店の厨房係である女子高生・木花エマちゃん (長身、黒髪、男子によく間違われます)が、その親友でウェイトレスの我らがヒロイン、佐倉八千代ちゃん (長身、天然、エマちゃんの彼女によく間違われます)に、ちいさく声をかけておりました。「ねえねえ、ヤッチ」


「なに? エマちゃん」と八千代ちゃん。彼女の方にからだを傾けながら、「そんなひそひそ声で」


 するとエマちゃん、銀のトレイで顔を隠すと、


「あそこのふたりさあ」と、窓際にすわる男性ふたりを目で指しながら、「やっぱりちょっと、あやしくない?」


「あやしい?」と、これに応えて八千代ちゃん。どうやらいまいちピンと来なかったのか、「なにが?」と、彼女に訊き返します。


 するとエマちゃん、


「ほらあ、いっつもふたりで来るしさあ」と続け、


「うん。なんか落ち着くんだって」と八千代ちゃんも続けます。「ここのお店のあの席が」


「石橋さんもそうだけどさ、相手の方もお洒落で清潔感あるし」とエマちゃん。


「ねー、お年の割にはスリムだしね。うちのお父さんも見習えばいいのに」と八千代ちゃん。


「あ、ほら、いまもケーキをひと口分けてあげた」とエマちゃん。切れ長男前的まなこをギラッと光らせますが、


「うん?」と八千代ちゃん。ひき続き、ピンとこない感じで、「……だからなに?」


 するとエマちゃん、ジッとしばらく彼女を見てから、


「あー、もー、わっかんないかなあ?」


 と、もう、なんか、こう、ね? 投げたボールの戻って来なさ加減にヤキモキするのでありました。


     *


 と、言うことで。


 大の親友は親友なんだけど、どうもこの辺、なんだか話のかみ合わない、こちらのおふたりでありますが、それもそのはず、こちらのエマちゃん、女子高生100人のうち99人は絶対にかかると言われている (作者調べ)かの難病、いわゆる『腐女子病』を患っておりまして、


 道行く殿方たちを見てはため息を吐き、


 休憩時間にじゃれ合う男子たちを見ては右左を考え、


 深夜、寝室の床と天井が永遠に離ればなれであることにふと気が付くと、


『こんなに想い合ってるのに……、一生……、結ばれないのね』


 と、もののあわれに涙を流す――という、女の子ならば一度はとおる (作者調べ)道をとおっている真っ最中なのでありまして、


 なのでそのため、幸か不幸か、そんな感染症にはまったく罹患していない大親友、佐倉八千代ちゃんから、


「ねえねえ、いまなんでため息ついたの?」


 とか?


「ところでさ、このノートの「×」ってどーゆー意味?」


 とか?


「床と天井が離ればなれでかなしい? ごめん、もっかい説明してくれる?」


 みたいな?


 いや、分かるわよ、分からないひとには本当に分からないんだなってことは、このお姉さんにも分かるわよ。


 でもね、そんなね、汚れもないままにね、道を探していた少年のようなね、純真無垢な瞳でね、改めて訊かれるとね、なんかね、こうね、こっちがね、こっち側にいるわたしたちの邪知暴虐なこころがね、まずいのかな? ってね、汚れつちまつた悲しみにね、いたいたしくも飾られたね、行き場のない押し寄せる人波にね、本当の幸せを教えてよ…………みたいな感じにね、なっちゃうワケじゃない?


 なっちゃうのよ! これが! 分かる? ほんとにさー、大人になるってのはさー、今日も風さえ吹きすぎるんだけどさーーーって、話がそれ過ぎた。


     *


 えーっと?


 つまり、わたしがいったい、何を言いたかったのか? と言うと、


 大の親友は親友なんだけれども、その辺の、かーなーりッ、ディープな部分でのソウルは、なっかなかメイトしてくれない彼女と八千代ちゃんでありまして、なのでエマちゃんも、


「どうすれば、この天然赤毛を沼に引きずり込ませられるのかしらん?」


 みたいな事を日夜画策していたりもするのですが、


 そんな彼女の気持ちを知ってか知らずか、ここで八千代ちゃん、とつぜん、いつもの感応能力が、発動したのかされたのか、


「あ、でもねー、エマちゃん」と、彼女の右耳にそっと顔を近づけると、「きっと結婚するわよ、あのふたり」


     *


 と、言うことで。


 こちらはまたまた、そんな彼女たちからほど遠くない――って言うか、もう、すぐ、目の前、そこんところのテーブル席なんですが、


 その窓際のテーブル席では、『こまった時には気軽に相談、あなたの街の法律家』練馬区在住・石橋伊礼さんと、その恋人で設計士の又井重雄さんが、優雅な午後のひと時を、美味しいケーキを味わいながら、なかよくいっしょに、過ごしているところでありました。


 が、ここでとつぜん石橋さん、そこに差し込んだ陽のひかりのせいでもありましょうか、それとも、どこぞの神が気まぐれでも起こされたせいでもありましょうか、それとも、このお店のウェイトレスが、いつもの能力――いつも彼女が、無邪気に、無自覚に、発動させてしまうあの超能力、


「みんな、しあわせになれるといいのにね」


 と想い、感じ、その想いを周囲に拡散させてしまう例の魔法・超能力を、発動したせいでもありましょうか、手にしたフォークを、ふっとお皿に戻すと、


「あ、」


 と、目の前の男性の、ちいさな鼻の辺りを、見るともなしに眺めながら、


「あのさ、重雄」


 と、彼の、ちょっと湿った、髪の毛のにおいを想い出しながら、


「僕たち、結構ながいよね?」


 そう言って続けるのでありました。


 いまのマンションは、ひとりで住むにはすこし広いし、三年前に渋谷区が始めた例の制度も、いずれここにも導入されるだろうし、そうすれば、互いにひとりでいるよりは、ふたり一緒に過ごした方が、税制の面とかでもいろいろ有利になるだろうし、それに、それに……、


 と、ここまで言って石橋さんは、どんな言葉も、どんなストーリーも、いまの自分の気持ちを、正確には表してくれないであろうことを不意に悟ると、ただただひと言、


「やっぱり僕は、君のことが……」


 そうつぶやくと、それ以上は何も言えず、それ以上は何も想い出せず、ただただそのまま、まるで、星を眺めていた少年のように、目の前の男性の顔を、じっと見詰めることになるのでした。


 と、するとここで、そんな彼らにヤキモキしたこのお話の作者――あ、いや、ちがった。


 そんな彼らの本当の気持ちを感じ取ったこのお店のウェイトレスが、いつものとおりに無自覚に、いつもの例の、魔法あるいは超能力を発動、今度は彼の、パートナーの背中を押すと、


「分かってるよ、伊礼」


 そう、彼に言わせるのでありました。


「僕も、きみが好きだ」


 そう、ほほ笑みながら。


「君が想っているよりも、ずっとね」


     *


「キャーッ!!!」


 とここで、声に出さずにエマちゃんは叫び、


「ねっ?! 言ったとおりでしょ!」


 と、カウンターの裏にかくれながら八千代ちゃんも叫んだ。聞かれないように、聞こえなかったふりをしながら、


「ぜったい! こうなると想ったんだ!」


 それからふたりは、手をにぎり合い、わらい合い、踊りたくなるのを我慢しながら、


 あはははは!


 と、その場でぴょんぴょん飛びはねながら、それから、


「ずーっと、この瞬間が続いてくれればいいのに」


 と、そんなことを想うのでありました。


     *


 と、言うことで。


 そんな彼や彼女たちからほど遠くない――と言うか、そのお店の前の通りでは、三徹明けの猪熊スタジオから、とぼとぼとした足取りで家路をたどる森永久美子さんの姿がありました。が、


「あれ?」


 と、ここで彼女はひと声つぶやくと、


「こんなところに、喫茶店なんかありましたっけ?」


 と、そんな風なことを想ったりもしたのですが、いかんせん初めての三徹明けなうえ、


「もうちょっと、仮眠取ってから帰ったら?」


 という諸先輩方のありがたいご忠告もちゃんと聞けなかったほどの、頭だけはさえてバグって的確な判断が出来ないレベルのアシスタント・ハイ状態なこともあって、しかも、


「ためしに一杯コーヒーでも……」


 と、手をかけたドアの向こうを見ると、そこにはまるで、マンガから飛び出て来たような、まっ赤な髪の、カッコかわいい系女の子が、メイドみたいな格好でピョンピョコ跳ねてたもんだから、


「え……? あー、……あれ? 私……、やっぱ……、バグってる……?」


 と、開きかけてた扉を閉めて、


「やっぱ、はやめに帰って寝ちゃいましょう」


 と、おとなしく家路を急ぐことになるのでありました。


 なのでそのため、彼女と彼女の出会いについては、また別の機会に話すことになるとは想いますが――、


     *


「ドキッ」


 と、それからしばらく経ったその日の夕方。


 そんな森永久美子さんが、夢のない泥のような眠りに入っている頃、石神井公園駅前すぐ、某ビルショッピングモール地下一階食料品売り場では、すでに仮眠から目覚めた我らがカトリーヌ・ド・猪熊先生が、元気ハツラツ、そのちいさな胸に、大きな衝撃を受けておりました。


「え? うそ? うそでしょ?」


 と彼女はつぶやき、そんな彼女の視線の先には、色とりどりの納豆パックの前をとおり過ぎていく、なつかしいあの横顔がありました。


「他人のそら似? うん、そうね、きっとそうだわ」


 と彼女は想い、そのままそこを離れようともしましたが、それでも、こころとからだはちがうもの、そんな彼女の履き古された運動靴は、ついついそちらへ、人ごみへとまぎれて行くその男性のうしろ姿の方へと、引き寄せられて行くのでありました。


「ああ、やっぱり」


 髪にはちらほら白いものが見えてはいましたが、それでも、あの、あの麦味噌と豆味噌の間で悩んでいるあの姿は、


「やっぱり……、彼だわ」


 声をかけようかしら?


 それとも、やめておこうかしら?


 必死でえらんだ大根の、みどりの葉っぱが揺れてます。


 どきどきどきどき、どきどきどき。


 高鳴る鼓動。


 はあはあはあはあ、はあはあはあ。


 早まる呼吸。


「ああ、こっちをふり向いて」


 いや、やっぱりふり向かないで。


「こんな (専業マンガ家なんかに)落ちぶれた姿、あの人だけには、見せたくないわ」


 三徹明けで肌は荒れ、無理やり塗ったお化粧からは、目の下クマが、はっきり見える。


 ああ、でも――、


「ああ、でも、やっぱりステキ」


 おさないころの恋がよみがえり、そうして、


 チクリ。


 と、なぜだかちょっと、むねの辺りも痛みます。――が、これはまた、いつものように、スクリーントーンの切れ端が、服にはいり込んでもしたのでしょう。


「あのー、お客さま?」


 と、ここで、明らかな挙動不審を起こしかけている先生に、試食販売員さんが声をかけます。――なによ? このいそがしい時に。


「よろしかったら、こちら、ご試食いかがですか?」と、試食販売員。


 あら、なに? おこわ? 美味しそうね。


「国産もち米100%、洗米不要で水いらず、具入りスープのおセットで、入れて炊くだけ、新商品のご紹介です」


 うん? あー、これ、お出汁もしっかり効いてて、いいお味付けね。


「2合セットでお茶碗約4杯分。いま食べられている五目おこわの他にも、中華おこわ、黒豆おこわ、山菜きのこおこわとラインナップも充実しておりまして――」


 あー、うん、たしかに。まとめて買って夜食で出せば、みんなよろこぶかもね。すると、


「すみません、僕にもひとつ貰えますか?」


 とここで、聞き覚えのある声が試食販売員に声をかけます。


「あ、はい、お好きなのをどうぞー」


「うーん? そしたら、そこの、タケノコのをもらおうかな」


 そうそう、コウさん、昔からタケノコには目がなかったわよね。


「あ、これは美味しいなあ、いくつか買っていこうかなあ」


 そうね、とり牛蒡と梅しらすと……山菜きのこおこわを頂こうかしら。


「僕は、このタケノコおこわと、そっちの五目おこわを、ひとつずつ」


「あ、はーい。ありがとうございまーす」と、試食販売員さん。「お会計は、レジの方でお願いしまーす」


 いやあ、いい買い物をしたわ。コマちゃんたちの受けもよければ、また買いに来ましょう。…………って、あれ?


「…………って、あれ?」


 まえをあるく男性が、こちらの方をふり返り、瞳と瞳が重なった。


「ひょっとして、ヤワラちゃ……猪熊さん?」


 一瞬、時間が止まった……そんな気がした。



(続く)

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>大の親友は親友なんだけど、どうもこの辺、なんだか話のかみ合わない、こちらのおふたりでありますが、それもそのはず、こちらのエマちゃん、女子高生100人のうち99人は絶対にかかると言われている (作者調…
2025/09/19 13:38 退会済み
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