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第五話:肉体と悪魔(後編)

     *


 さて。


 猪熊先生が茂木紘一さんとはじめて出会ったのは、駅からすこし入ったところにある、ちいさな商店街の、ちいさな文房具店だった。


 このとき先生は、まだマンガを描き始めてはいなかったけれど、絵は好きだし得意だったから、いろいろイヤなこと――たとえば野球の男子とか――があると、学習帳の片すみや、もらったチラシの裏側、たまったお小遣いで買ったスケッチブックなんかに、ほんとに自分の好きなもの――きれいなひとやお話や、とってもステキな風景なんかをかいては、ひとり、いろんなところへ、あそびに出かけていたらしい。


「いや、もう、ほんと、他人さまに見せられるものじゃないんだけどね」


 と先生は言って、絶対に見せてくれない、そんな少女時代の想い出だけど、


「だけどそれでも、たまに見かえすと、なんか、こう、もうちょっとがんばろうかなって想えるのよね」


 と、先生はほほ笑む。すると、


「ねえ君、落としたよ」


 と、小学生時代の、はじめて会ったときの茂木さんが、先生に話しかけて来る。


「君も、絵を描くの?」


 このとき、この文房具店にいたのは、いつも寝ているおじいさんを除けば、彼と彼女だけ。


「僕も、絵を描くんだよ」


 と、スケッチブックをひろいあげながら、茂木さんは言う。


「ぜんぜん、うまくならないけどね」


 そんな彼の、やさしい声と笑顔に、この年になってもまだ、


 トッ……クゥン。


 と、昔の少女マンガなみに胸ときめかせてしまう先生。


「よかったら、見せてもらってもいい?」


 そう言う彼のことばに、彼女は顔をあかく染め、


「すごい! これホントに君が描いたの?!」


 とつづける彼のことばには、彼女の足も、地面をはなれ浮かぼうとする。だから、


「ねえねえ、よかったらお友だちになってよ」


 そう言ってさし出された彼の右手も、


 ギュウッ


 って両手で握っちゃうし、


「ぼく、茂木紘一、コウって呼んでよ」


 って言葉には、何てかえしていいか分からないから、


「※※※※!」


 と、ついつい、例のバカな男子が使ってた、バカなあだ名を言ってしまう。


「え?」


 と、彼が訊き返し、


「ち、ちが、ちが、ちが、」


 と、いそいで彼女は言いかえる。


「い、や、やわら、ヤワラ、です。ヤワラ・イノクマ、です」


 って先生、なんで外国人読みなんですか?


「ヤワラ……、イノクマちゃん?」


 ほら、茂木さんも変な顔になって――、


「ヤワラちゃんって呼んでいい?!」


 ない、ですね、ふつうに受け入れてる。


「うん! うん! うん!」


 と、先生はよろこび、


「ヤワラです! イノクマ・ヤワラ! ヤワラちゃん! ってよんでください!」


 くすくすくすっ


 と、先生はわらった。


 そうして、


「わが家はほら、」


 と、いつの間にやらわたしも先生も、またいつものマンションへと、戻っている。


「わが家はほら、お父さんもお兄ちゃんもお母さんも、ガサツを絵に描いたようなひとたちだったでしょ?」


 そう言ってふたたび、夜空を見上げる先生。


「お兄ちゃんのまわりの男の子たちも似たりよったりだったし、ちょっとビックリしたのよね」


 ゆっくり背筋を伸ばすと、


 コキッ


 って、ちいさな肩の、鳴る音が聞こえた。


「男の子から、ちゃん付けで呼ばれるなんて、想ってもいないじゃない? そうして、」


 そうしてふたりはお友だちになり、先生の顔は、まだあかいようだった。そのため、


     *


「事情は大体わかったけどさ」


 と、前編ラストをくり返すかたちで、ミアさんは言った。


「アンタやっぱ、こっちの方が合ってんじゃない?」


 彼女はいま、黒のサングラスを外し、ヘビのようにひかる黄色い眼で、目の前の天使をにらんでいる…………のだが、くそっ! どうやらわたしはまたひとり、こちらの時間と空間に移動させられてしまったらしい。


 なに? むかし話が恥ずかしかったとか、ひとりでじっくり想い出にひたりたいとか、そんな感じですか? 先生?


「どうする? いまならウチのボスも、大目に見てくれるかもよ?」


 そうミアさんは続け、なんか先生からのリアクション皆無なんですけど、これ、このまま続けろって意味ですかね?


「そーゆーのも好きそうだもんね、アイツ」


 と、こんなわたしのことなど気付かずにミアさん。


 まあ、このまま続けろって意味なんでしょうけど…………えーっと? ここって結局どこだっけ……?


「ねえ、」とミアさんは言い、「なにか言いなさいよ、スリエル」


 あー、はいはい、ここはあれだ、もう何度目か分からない時間と空間を行ったり来たりした後の、芹沢さんの自宅マンション……で合ってるわよね?


「あんた、ここで、このマンションで、いったいどれくらい時間をつぶしたのよ」


 うん、合ってた。


「何百? 何千?」とミアさん。


 どうやら目の前の天使は、地獄から逃げ出したあと、みずから時間のループに巻き込まれてしまったのだろう、声も表情もないまま、そこに立ち尽くしている。


 数年? 数十年?


 そんな彼女のすがたを見つめながら、ミアさんは想った。


 もちろん、たかだか数十年ほどの時間経過で、天使であるスリエルの外貌が変化することはない。


 が、しかしそれでも、そのオーラやエネルギーの波動といったようなものは、くり返しされる時間のなかで、確実にゆがみ、すり減っていく。


「あんたさ、」


 ミアさんが言いかけて、


「う、うぅ……」


 奥の部屋から、芹沢さんのうめき声が聞こえた。すると、


 ぱっ


 と、これを合図に天使は、部屋をひかりで埋め尽くし、悪魔の目をくらませようとした。したのだが、


「やめな! スリエル!」


 ミアさんは叫び、


「ケイイチ!」


 と、床にすわり込んだままの恵一さんに立つよううながした。


「お友だちのところへ!」


 すると、この言葉にスリエルは、ひかりを止めると、奥へと向かう恵一さんに襲い掛かろうとした。が、しかしそれは、


「あきらめな、スリエル」


 そう言って立ちふさがるミアさんに止められることになる。


「何百? 何千?」もういちど、声に出して訊いた。「あきらめるんだよ、スリエル」


「芹沢! おい! 芹沢!」


 奥の部屋から、恵一さんの叫ぶ声が聞こえた。


「救急車だ! おい! 悪魔! 救急車を呼んでくれ!」


     *


 さて。


 一万五千五百五十一回。


 これが、天使スリエルが、芹沢さんを助けようと繰り返した時間跳躍の回数らしい。


 芹沢さんの突然死の原因は、遺伝性不整脈のうちの先天性……先天性…………なんでしたっけ? ミアさん。


「そんなの私に訊かれても分かんないわよ、訊くなら恵一に訊いて」


 と、こちらは現在の――イケメンボディじゃないエロエロボディの方の――ミアさん。


「ねー、ちょっとー、」


 と、とつぜん、ここの家主の帰宅に気付いたのだろう、玄関のほうに向かって、


「かえったのー? ケイイチ―?」


 と、よく通るその声で、彼の名を呼んだ。すると、


「はいはいはいはい」


 と、そのハンプティ&ダンプティなボディからは想像も出来ない軽い足取りで、恵一さんがリビングにあらわれた。


「大声はだすなっていつも言ってるだろ、この悪魔」と彼。「ただでさえご近所さんから不審に……って、あれ? ヤスコちゃん?」


「おひさしぶりです、恵一さん」


「どしたの? めずらしい」無精髭が気になるのか、アゴのあたりをなでながら、「まさか、ミアにヘンなこと――」そう訊くが、


「ヘンなことってなによ」と、ミアさん。彼の背後にまわり込むと、「私とヤスコちゃんでなに想像してんのよ」


 そう言って、豊満なおっぱいで彼を誘惑しようとするが――ただの事務服が、なんでこんなにエロいんでしょうね、このひと?


「いいから離れろ、この悪魔」


 と、そんな彼女の巨乳にも色香にもエッチな太ももにも一度たりとも (なにを?)動かされない恵一さん。


「これから猪熊先生のところに――」そう続けたところでピンと来たのか、「なに? ヤスコちゃんも行くの?」


 なのでわたしは、


「ええ、はい」と言って応えた。「せっかくだし、見学させてもらおうと想って」


     *


 と、言うことで。


「ちょっとミアさん、あしはそんなに開かなくていいのよ」


 そう先生が言って、ここは、時間と空間を…………そんなに行ったり来たりはしていない、と言うか、恵一さんの車でブーンッとやって来た、猪熊先生の仕事場マンション。なんですが――、


「なに? どうかしたの?」と恵一さんが訊いて来て、「なんか複雑そうな顔してるけど」


「あ、いえ」そうわたしは応える。「自動車での移動って、楽なんだなーって想って」


「は?」


「ほら、最近わたし、先生への取材で時空間跳躍ばかりやってるじゃないですか、」


「はあ、」


「だから、ひさしぶりに地に足ついた感覚でこちらのマンションにおうかがいしたんですけど、跳躍酔いもなければ時間も時間どおり進んでいまして、」


「あー、」


「やっぱ、現実って現実なんだなー、と」と、わたしはわらい、


「まあ、目のまえに悪魔はいるけどね」と、苦笑いで彼も応えた。「しかも、すっぱだかで」


 と、言うことで。


 そんな彼も言うとおり、いまわたしたちは、先生の仕事場マンション、そのリビングを、イスやなんかを片付けて、即席のアトリエにしたところで、


「でも、こっちのほうがセクシーじゃない?」


 と、全身ヌードのミアさんが、エッロエロモードで決めるのを、


「いいのよ、ミアさんはそのままで十分セクシーだから」


 と、先生が押さえるのを見ているところでありました。


「そしたらね」と先生。ひかりの角度を確かめながら、「左ひじはもうちょい内側に。右ももは……もう少し引いてもらえる?」


「……こんな感じ?」


「そうそう。やっぱミアさんね、すっごくきれいだわ」


 と、ミアさん相手に指示を出す。


 すると――やっぱ、悪魔でもうれしいんでしょうね、


「聞いた? ヤスコちゃん?」と、浮かれた感じでこちらを見て、「どうよ、恵一、“すっごくきれい”だって」


「はいはいはい」と恵一さんは返す。「先生が言うんだ、そのとおりだろうよ」


 それから彼は、部屋のすみに置かれた丸イスに腰かけると、


「とにかく、モデルをしてるときは静かなんだ」そう言って、そこにあった週刊誌に手を伸ばした。「俺にとっちゃ、それがいちばん、ありがたいよ」


     *


 と、言うことで。


 第四話でもすこしご紹介した先生のクロッキー帳。


 じつは、あそこにあった絵の中には、今回みたいに、本物のミアさんをモデルにして描かれた絵もけっこうあったようなんですね。なんですが、


「でも、ほんとひさしぶりよね、ヤワラちゃん」


 とミアさんも言うとおり、マンガの連載が終わってからは、こういう機会もめっきり少なくなっていたんだけれど、


「アシスタントの子にせがまれちゃってね」


 と、例の駒江さんのリクエストを受け、特別にやることになったらしいんですね。


「彼女、ミアさんの大ファンなんですって」


「あら、うれしい」ミアさんがわらって、「呼んでくれたら、いつでも来るわよ」


「そうね、それはうれしいわね」そう言って先生もわらった。だけど続けて、


「でもねー、ミアさん描いてるとねー、」と、キャンバスにあたりを入れながらの先生、「自分の画力に泣きたくなるのよねー」


 今度はすこし、こまった感じでわらう。


「私じゃ、あなたのうつくしさを、表現し切れてないなあって」


 すると、


「そんなことないわよ」


 と、ミアさんは応える。ポーズを崩さないよう気を付けながら、


「ヤワラちゃんの絵、好きよ、私」


「そう言ってくれるとうれしいけどね」


「ホントよ。ね? ヤスコちゃん」


「ええ」とわたし。「わたしも先生の描くミアさん、大好きですよ」と、となりに座る恵一さんに声をかける。「ね? 恵一さん」


 かけるんだけど、この言葉に恵一さんは、


「あ、うん、」と、ミアさんのきれいな腰のラインにすこしだけ目をやってから、「まあ、そうだな」


 と、読んでた雑誌へ、またもどって行く。


「先生の描くこいつは、いいんじゃないかな」


 そんな彼の態度にわたしは、すこし小首をかしげると、からだをすこし彼によせ、小声で、


「ところで」と彼に訊いた。


「あのボディを前に、お (*検閲ガ入リマシタ)起たないって、ほんとうなんですか?」


     *


 と、言うことで。


「芹沢! おい! 芹沢!」


 ふたたび時間と空間は切り替わり、ここは、別の時間の、別の空間、別のマンションの奥の部屋からは、恵一さんの叫ぶ声が聞こえている。


「救急車だ! おい! 悪魔! 救急車を呼んでくれ!」


 先天性QT延長症候群――ちゃんと恵一さんに確認しました――これが、芹沢さんの急逝された理由だった。


 詳しいことは聞いてもよく分からなかったけど、要は、遺伝子の変異が原因で起こる不整脈の一種で、とくに心臓に異常のないひとや、ふだん元気に見えるひとでも、とつぜん心室が痙攣をはじめ、数十秒で失神、それが数十分も続くと死に至るケースもある、ということらしかった。


「でも、一万五千五百五十一回よ?」と、イケメンバージョンのミアさんは言うけれど、「これも、決まった運命よ」


「うるせえ、悪魔」と、恵一さん。「医者の前で、そんなこと言うんじゃねえ」胸骨圧迫と人工呼吸を続けながら、「運命なんかクソ喰らえだ」


 でも、それでもやっぱり、これはミアさんが正しかった――一万五千五百五十二回目。


「くそっ!」恵一さんが叫んだ。「救急車は! まだかよ!」


 天使スリエルが何故、ふたたび地獄に戻される、あるいは煉獄に囚われる危険を冒してまで、芹沢さんを救いたかったのかは、マンガでは描かれなかったし、それこそ聞いてもよく分からなかっただろうけれど、


「でも、それでもね」


 ミアさんのくびから肩のラインを描きながら、先生は言った。


「そこで終わらせるのは、ちょっと可哀そうだな、とも想ったのよ」


 ミアさんが、とぼけた顔で外を向いた。


 恵一さんは、雑誌を置いて目を閉じていた。


「もちろん、ふたりには悪いことをしたなって、想ってはいるけどね」と先生。「でも、いいコンビにはなったでしょ?」


 そう言って、意地悪そうに笑った。


     *


 と、言うことで。


 この時、先生あるいはミアさん&恵一さんコンビの問題は、「天使をどうするか?」にあった。


 幸いにして、というか、世の大半のひとと同じようにして、というか、芹沢さんの死後の行き先は天国ではなく地獄、ただし軽めの地獄、死後~最後の審判~復活までの期間だけ死者を受け置いてくれるような、そんなエリアの地獄だった。


「それでも地獄は地獄だから、つらく悲しいことばかりだけどね」とミアさん。「……ま、こっちも似たようなもんか」


 しかしそれでもスリエルは、彼と同じ地獄に行くことを願った。


「理由は……ま、これも結局言わなかったけど、天国ってつまらないしね」


 が、しかしそれには、彼女の持つ天使のビジュアルと、天使のオーラ、エネルギーが邪魔だった。


「でもほら、天使も悪魔も元は同じでしょ?」と、つづけてミアさん。「私も、あのカッコには飽きて来てたし」


 はだかのまま、先生が淹れてくれたコーヒーを飲み、彼女に寄りかかりながら、


「うん。やっぱこっちのからだもいいわね」描きかけの自分を満足そうに見つめる。「エロくて、きれいで、人間っぽい」


 なので彼女は、それまで使っていた赤毛イケメンビジュアルを天使にゆずると、芹沢さんのマンションにあった映画雑誌を参考に、いまのビジュアルを獲得することになったんだけど…………ほんとうらやましいっスね、そのボディ。


「ま、ヤスコちゃんみたいなボディも、マニアには受けるし、いいんじゃない?」


 いやいやいやいや、マニアに受ける前に自分に受けたいってはなしでして。


「そうなの? だったらその願い……、叶えてあげられないこともないかも」


 え、なんですか、それ?


「あ、こらこら、ヤスコちゃん」と、ここで先生。「ミアさんの誘惑に乗らないの」彼女にガウンをかけながら、「魂とられちゃうわよ」


 え? あ、そか、このひと悪魔だった。


「もう、邪魔しないでよ、ヤワラちゃん」


「それよりほら、お話の続きを、ヤスコちゃん」


 あ、そか、そうですよね…………えーっと?


 つまり、ビジュアルの入れ替えは出来たので――、


「のこるは、彼女のオーラ、天使のエネルギーをどうするかだった」と先生。


 だけどさすがに、


「だけどさすがに、それは私は受け取れないからさ」そうミアさんも言うとおり、「そんなことしてたら、ふたりとも消滅してたわ」


 天使と悪魔のエネルギーが重なり合えば、互いが互いを打ち消し合い、消滅させ合ってしまう。だからその代わりに、


「おかげでこちとら、聖人君子ですけどね」と言う恵一さんに譲り渡すことになった。「でもこれ、さすがに無理のある設定だったんじゃないですか? 先生」


 ま、たしかに、ちょっと強引な感じはしますけど、それでも、


「それでもね、恵一くん」と先生。「あのときあなた、存在そのものが消えるところだったのよ」


 そう。


 実はあのとき、恵一さんもけっこうヤバい状態にあった。


 というのも彼は、あのとき既に、自身の時間エネルギーを半分近く天使に取られていたうえ、その状態のまま時間跳躍まで行ってしまっていた関係で、あのまま放っておけば、数日あるいは数週間後には、その存在ごと、消えてしまっていてもおかしくない状態にあったのだと言う。


「でもおかげで、」と先生。そうしてまた、意地悪そうに笑う。「女性にはモテるようになったじゃない」


「聖人君子のままモテても、なんのアレもありませんよ」


 そう。


 そのあと彼は、譲り受けた天使オーラのせいなのか、多くの女性に、無条件で好意を持たれてしまうという特異体質になってしまう。


 しまうのだけれど、その反面、これも天使オーラのせいなのだろうか、性欲というものがまったく全然なくなってしまい、そのため、


「だから代わりに、私がずっとそばにいてあげてんじゃん」


 そう言ってすり寄るエッロエロ悪魔にも、


「おい、こら、あんまりすり寄るな」


 と、自身の (*検閲ガ入リマシタ)を動かされることもなければ、


「消滅し合ったらどうするんだ、この悪魔」


 と、仮にどちらかがどちらかの中に入ろうものなら、天使と悪魔のエネルギーが混ざり合い爆発あるいは中和し合って、魂ごと消滅してしまう――、という関係性になってしまったらしい。


「だいじょぶ、だいじょぶ、このくらいなら消滅しないから」


 らしいのだが――、でも、


「でも、先生」ちいさな声で、わたしは訊く。


「そしたらふたり、はなれて暮らした方がよくないですか?」


 くすくすくすっ


 と、先生が笑った。


「なに言ってんのよ、ヤスコちゃん」


 天使の……、いや、やっぱり、悪魔のような、ほほ笑みだった。


「こうした方が、面白いじゃない」



(続く)

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