表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VRMMOと他ゲーと現実  作者: AKI アヤカ
『カイラル:RS』と『トライリッター』とスポーツ大会(クラス選考)
5/38

4話


 VR部屋。


 初めてVR空間に行くと、白一色の部屋に出る。

 そこでここは何かを教えられ、どんどん改造していくのだ。


 俺のVR部屋は、季節ごとに違う設定だ。

 今は春だから、大きな桜の木の下にベンチがあるだけの部屋だ。

 暖かな日差しと、偶に吹く少し冷たい風が心地よい。

 空も毎日違う、時間が過ぎれば移り変わる。

 だが、地面、桜の木、空とベンチ、後は見渡す限りずっと何もない。地面が続くだけだ。


 VR部屋用の上下ゆったりとした服を着た俺はベンチに座った。

 左手の人差し指と中指だけを伸ばし軽く振り下ろす。


 すると、視界に白い画面が現れた。

 画面には持っているゲーム、アプリ、動画のサブスク、ネット検索サービス等のアイコンが表示されている。


 VRゲームのフォルダから、卒業するゲーム『ストレイファイター』を選択。

 ゲームの開始を選択すると、暗転する。

 視界が戻った時、空中に大きく『ストレイファイター』と書かれた空間にいた。

 場所と共に服装もゲーム用に変わっており、白いマスクに手術着と手袋という服装になっている。


 VR部屋と同じように左手を振ってメニュー画面を出し、ゲームの設定項目からプロフィールを選択。

 自己紹介文に『このゲーム卒業します』と打ち込んだ。


 クイックマッチを始めようとすると、通知音が鳴りゲーム内でメッセージが届く。

 メッセージの送り主は、このゲームで出会った友人だった。

 内容はルーム統合してもいいかという事だ。

 フレンドリストから友人を選び、招待を送る。5秒と経たずに目の前に友人があらわれた。


「卒業戦ってホントですか?」


 声を変更するMODで、くぐもっている高い声の友人。

 プレイヤーネーム『サッカリン』俺の格ゲー友達だ。

 見た目は、ガスマスクに毒々しいピンクと黒の水玉模様のスーツを着た、赤毛の女性だ。


「本当だけど」

「どうして、飽きました?」

「俺さ、カイラルの第2陣なんだ。そっちに集中したいからやめる」

「カイラル。それなら仕方ないですね」

「だろ?」

「私と1戦して、その後タッグマッチしてから、やめませんか?」

「そうするか」


 このゲームは長く続けている。

 大型VR機が出てきた当初からあり、友人はこのゲームで出来た。


 メニューを出して、カスタムマッチを選択。

 いつものルールで承認を要請する。1戦だけ、ダメージ増加、制限時間無制限。

 サッカリンの方にも画面が出たのだろう、少し待っていると視界の真ん中で、20秒のカウントダウンが始まった。

 数字が減っていく中、左右にプレイヤーネームが表示される。


 『焦擂るふぁむ系』VS.『サッカリン(寝技NG)』


 残り10秒になった時、視界の中央にあったプレイヤーネーム、残りの秒数が視界の上端に移動した。


 目の前には、体の正面で拳を構えたサッカリン。

 こちらは半身で左腕低く構えている。

 残り3秒になった時点からカウントダウンの音がひと際大きく聞こえ、空気が張りつめるような緊張感。


 サッカリンとの勝負は、毎回これだ。

 ピリピリと張りつめている。口内が渇くような感覚。


「フーっ」


 どうにか落ち着かせて、相手を見据える。

 ゼロ秒のカウントと共にプーッと気の抜けるような音が鳴り、サッカリンは一気に距離を詰めてきた。

 いつも蹴り技主体なのに、どうしたのか。


 極至近距離は俺の得意距離だ。

 左のジャブを逸らし、右肘で顔にエルボー。

 サッカリンも軽くしか打たず、いつでも次の攻撃を仕掛けられるように動いている。

 避け弾き、弾かれ避けられる。


 互いに1発も決まらないまま、攻守が激しく入れ替わる。

 そんな中、最初に1撃をもらったのは俺だった。

 急な連撃が来て、弾きを両手でしてしまい、そのまま腕を封じられて至近距離で頭に蹴りをもらった。

 視界端のHPが半分減ったのを確認しながら、封じられていた腕を使ってサッカリンの移動を封じ、顔に頭突きする。

 同じくらいHPが減り、振出しに戻った。


「女相手にやりすぎです」

「VRじゃ、女とか男とか攻撃力に関係ないから、問題ない」


 男も女も数値上の攻撃力に関係はない。

 VRでも現実でも、男より強い女なんて五万といる。

 ただ、VRで強い女は現実でも普通に強い。攻撃力は下がるが、動きはそのままだからな。


 サッカリンは強い。

 先に攻撃をもらったのは、流れ的によくない。

 今度はこちらが意表を突く番だ。


 近づいてローキック。いなされ、向かってくるジャブを身体で受ける。

 HPが1割減ったのを見ながら、軽くよろけてみせる。

 実際、重心が軽く浮き、攻撃を入れば体勢が崩れる状況だ。

 何度も闘ってきたサッカリンはこのチャンスを逃せない。


 何かあると分かっているが、見逃せないはずだ。

 案の定、大技を出してくる。

 顎に向かってくる右足。両脚を開いて落ちるように躱す。

 しかし、それが分かっていたのかサッカリンは体を回した。

 右足を戻しながら、左足が上がり地面から両脚が離れた。左の蹴りだ。


 右足が着地した途端、向かってくる左足の勢いが増し、繰り出されるのは後ろ横蹴り。

 体に当たれば1発で終わりだ。

 胸元に迫る足を地面に寝ながら避け、軸足の膝裏に拳を叩き込む。

 VRにおける痛覚は制限を受けており、とても鈍感だ。痛みでひるむことは、ほぼない。

 ただ衝撃は加わっている為、膝は曲がる。


 通常であれば、ここから寝技に持ち込むのだが、サッカリンは寝技NGのプレイヤーだ。

 寝技に入ると強制的に試合終了の後、ルーム統合が解除される。

 だから曲がった左膝を拳で地面に着けさせ、下がって来た後頭部に右足を見舞った。

 左膝と後頭部で半分あった体力はゼロになり、視界には『WIN』の文字。


「あーっ、負けた!」

「俺の勝ちで決着だな」

「私もカイラルしますから、絶対勝ち逃げさせません」

「第何陣で来るか知らないけどー、期待しないで待ってるよぉ」


 今回は勝てた為、気分良く煽ることが出来る。

 するとサッカリンは、下に向けていた顔をこちらに向けてきた。

 当選しなかったのだろう、顔は見えないが雰囲気で分かる。


「腹立つーッ‼」

「はいはい。タッグマッチしてからやめるんだろ?」

「そうです。時間無いから1戦だけですが」


 スマホで俺のプロフィールを見てきたのだろう。何をしているか分からないが抜けてきたようだ。

 再度メニューを呼びだし、クイックマッチからタッグを選択した。

 マッチングが開始して、カウントアップしていくのが見える。

 マッチングの平均時間は1分。


「あの……」

「なんだ? サッカリン」

 マッチング待機場所で隣にいるサッカリンは、ガスマスクを右手で押さえている。

 中学時代にこういうのがいた。

 右目が、とかなんとか言って必死に押さえていた。

 ソイツ曰く、かっこいいらしいが俺にはよく分からなかった。


「えっと……」


 何を言うのか楽しみに待っていると、パッパパーッと大きなラッパの音が響く。


「ちょ、なんですか⁉」

「マッチングした音」


 サッカリンが驚いた後、前方に対戦相手が現れた。


 1人は男。金髪サングラス、生身に防弾ベスト、カーゴパンツとタクティカルブーツだ。顔は日本系でないが、個人特定防止用の変装マスクを着けているのだろう。

 1人は女。恰好は最近見ることのないスケバン風でロングスカート。髪は金髪ロング、口元を革のマスクで隠している。


「なッ⁉ サッカリン?」

「ホンモノ⁉」


 2人の反応を見るに、どうやらサッカリンは有名人らしい。

 思わず隣を見るが、当たり前のように平然としている。

 視界の真ん中で20秒のカウントダウンが始まった。

 左右には互いのプレイヤーネームが表示される。


『汗擂るふぁむ系、サッカリン(寝技NG)』VS.『美ボ少尉、竹刀ナイ』


「お前、有名人」

「そうですね。ランクマッチもしてますし、結構上位ですから」


 知らぬ間にゲーム内とはいえ、有名人と出会ってフレンド登録しているとは、不思議なものだ。

 まあ、このゲームやめるけど。

 ゲーム内におけるフレンド登録の為、他のゲームでフレンドになるにはIDを教えあう必要がある。

 IDを教える気はないから、仕方ない。


「ないない任せた」

「女相手は苦手じゃないでしょう?」

「基本は苦手、顔を全面覆っているサッカリンは気にならない」

「VRらしい理由ですね」


 無駄話している間に音がひと際大きくなり、残り3秒だった。

 互いに構え、にらみ合う。

 隣を見るとサッカリンもこちらを見ていた。


「ふっ」

 思わず笑いが漏れた。

 タッグマッチは何度目か。何度もしていたが最後だと思うと、名残惜しさは感じる。

 ゼロ秒のカウントと共に高音が鳴り、必勝スタイルの開幕速攻を仕掛けた。


 マッチ終了後、視界には『WIN』の文字。

 正面にいた2人は消え、残ったのは隣のサッカリン。


「じゃ、カイラルで会えたら」

「他のゲームはしないのですか?」

「するとしてもVR初期のゲームはしないかな? 最近のゲームすると思う」

「分かりました。さよなら」


 手を振りながら、ルーム統合を解除した。

 他の格闘系ゲームでもサッカリンと遊んだことはある。

 けど、このゲームでよく誘われるから『ストレイファイター』をする頻度が多くなった。

 懐かしさと寂しさに少し浸って、ゲーム終了し、VR部屋のメニューからVR終了を押す。


 一瞬クラッとする感覚と共に、現実に戻ってきた。

 スマホからシールドのロックを解除して、開ける。



 目の前には白シャツでジーパン、度付き眼鏡のひげが濃いおじさん。

 心にあった柔らかな温かい気持ちが一瞬で冷え切った。

 余韻を楽しませてくれないのは、ゲームセンターという場所の問題だな。

 急いで出ると、おじさんが急いで入って行く。

 他の大型VR機は全部使用中で、ゲーム中に何かあったようだ。


 大型VR機の奥の机に座って、スマホを眺めるおじさん達。受動車の人達だろうか。

 時計を見ると13時20分。気になるが今日の予定をこなす為、帰った。


ありがとうございます。

読んで「面白そう」「続きが気になる」と思ってくれた方、ブクマと☆☆☆☆☆から評価を。

応援が作者のモチベーションとなります。

ご協力よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ