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VRMMOと他ゲーと現実  作者: AKI アヤカ
『カイラル:RS』と『トライリッター』とスポーツ大会(クラス選考)
27/38

26話


 水曜日、朝練を終えて教室に向かうと、他クラスのカマタニが待ち構えていた。

 入り口近くにいて、ニヤニヤしていることから、面倒を持ち込んでいるような気がしてならない。


「釜谷さん、おはようございます」

「おはよう。坂下さん、わったん」

「おはよ、朝からどうした?」

「フフフっ。まあ、席についてからだよ」


 俺よりも入り口から近い、委員長の席に集まるとカマタニはスマホを取り出した。

 スマホには、動画の再生ボタンが表示されている。


「面白いから、見てよ」

「リンク送ってくれ」

「一先ず見ましょう、鷹峯さん」


 ARメガネかけてるんだから、リンク送ってくれればその場で見られるのに。

 確かに手間をかけることにはなるが、言うほどの手間ではない。

 そもそも会いに来ることなく、メッセージで飛ばしてくれれば良かっただろ。

 そう言うこともなく、俺も普通にカマタニのスマホを見た。


 動画には昨日の剣武会、1回戦が映っていた。

 大手の動画投稿サイトで再生回数が3万と少し。2分くらいの切り抜き動画だった。


「2人とも、三騎士内で名前が広がったな」

「ほーん」


 テキトーに返事をしながら、ARメガネを使って同じページを開く。

 投稿者は知らない人で三騎士系の動画を挙げていた。

 コメント欄を見ていくと、俺と委員長への批判コメントは少なかった。


「ボロボロに言われてるな。カマタニ」

「そうですね。酷い言われようです」


 コメントには〈初心者を連れてきて自己顕示欲を満たした〉〈高レベル相手に戦闘させ、自分は一撃で倒すという愉悦を感じている〉とか言われている。

 言わんとすることは理解できる。そういう奴じゃないことも理解できる。


「わったん。矢を弾いたのに対してチート疑われてたぞ」

「えっ? 俺、VRのチートなんて詳しくないぞ」


 スマホから顔を上げて、カマタニにの方を向く。

 VRのチートで俺が知っているのは、感覚制限、物質透過くらいだ。

 触覚、嗅覚、聴覚をなくして行動できるのが感覚制限。攻撃に対して発動し、攻撃が体をすり抜ける物質透過。

 今回の場合、俺は何のチートを疑われているのだろう?


「あれだよ。思考加速ソフト使ってるとか、なかったか?」

「ありました。そのコメントにジャンク・デ・オモレーという人がコメントしてから、疑いは晴れているようですね」


 AIがコメントを見つけてARメガネに映し出す。

 オモレーのコメントは〈練習すればできる、誰でも〉と書かれており、そのコメントに対して多数の人がオモレーの名前を連呼していた。


「オモレーはおれと同じ最古参のプレイヤーで、名誉ポイントランキングのトップだ」

「へー」


 名誉ポイントランキングのトップといわれても、ポイントを稼ぐ方法は戦闘以外にもあるだろう。

 俺がしたみたいに話を聞くことでも稼げるんだから、トップだからVRが上手いわけじゃないはずだ。


「俺、カマタニとオンラインゲームするのやめる」

「私もそうした方がいいでしょうか?」

「ま、そう言われても仕方がないな」

「冗談ですよ」

「俺は本気だぞ」


 2人のやれやれ顔を見て、冗談だと思われていることを理解した。

 言い返そうと思ったがチャイムが鳴り、諦める。

 俺は席に戻り、6時限目までの課題に取り組み始めた。


 3時限目が終わり、帰る準備をして食堂に向かっていると背後から声を掛けられる。


「今日も昼から帰るんですか?」

「当たり前。メンテの所為でカイラルできなかったからな」

「そういう話でしたね」


 食堂で今日の昼食を受け取り、いつもの席に着くと、1つ空けた隣の席にカマタニが座った。


「お二人さん」

「自己顕示欲のカマタニ」

「自己顕示欲さん」


 いつの間にか対面にいた委員長が、いい返事をしてくれた。

 委員長が言うのは意外なようで、カマタニはポカンと口を開けている。


「坂下さんも、そういうこと言うんだ?」

「一緒くたにしないで下さい、と言いましたから」

「あー! ごめん」


 ペアで呼ばれていたときか。

 俺のダメージは蓄積されるばかりだ。


「練習どうなの? 嫌味の連携は取れてたけど」

「釜谷さんも問題ですからね」

「まだまだ、かもな」

「2人は、昨日の名誉ポイントで何か交換するのか?」

「分からん。そもそもが連携練習用だからな」


 こいつ、また一緒にゲームしようとしてないか。

 俺はしっかり拒否したはずだ。

 本気で嫌かというと、そういうわけではないが。


「私が先行プレイできるようになれば、しなくなると思います」

「それまではすると?」

「たぶんな。俺はもうしたくないんだけど」


 うんざりしながら、委員長を見るとこちらを見ていた。

 俺の視線から、言葉以上の何かを感じたようだ。


「鷹峯さん。同じ状況であれば協力してくれると言いましたよね。随分と面倒くさそうですが」

「あれだよ、あれ。レベル上げが面倒なんだ。カマタニ、レベルは名誉ポイントでサクッと上がらないのか?」


 委員長の追及から逃れようとテキトーなことを言うと、三騎士の事だっためカマタニが喰いついて来た。


「そういうのはない。基本的には武具とか回復薬とか、かな。レベルを上げたいなら合戦すればいいよ」


 そこから、俺の昼食は終わっても、合戦の説明が終わらなかった。

 合戦にはオンライン、オフラインがあって、経験値が稼げるのはオンラインの方らしい。


 勝ち陣営の方にいれば1.5倍で、陣営の貢献度に応じた経験値とお金、名誉ポイント、アイテムが得られるらしい。

 死んだ場合は生き返ることなく、霊体という状態で合戦を見ることができ、霊体になるまでの経験値が得られるそうだ。


「俺は帰るぞ。それで委員長、今日は合戦か?」

「釜谷さんが話しているのは、レベル上げに必要なことです。私たちは連携練習が必要ですから、オフライン合戦で十分でしょう」


 カマタニへの物言いは基本的に俺よりも優しいのに、必要ない時はバッサリ切り捨てるところが委員長らしい。

 それに剣武会の時は了承したのに、合戦を了承していないのは、剣武会はそこまでよくなかったのだろう。

 当のカマタニは苦笑いしながら、スマホをいじっていた。

 

 13時には運動をして、14時30分には風呂から出てきた。

 出てきてすぐにカイラルをするつもりだったのだが、どうやら連日、人とゲームしていたせいで疲れているようだ。


 『犬と一緒』を起動して、ポメラニアンを選択するとフワフワのクリーム色の毛をした犬が出現する。

 ポメラニアンを撫でながら横になっていると、寝ていたようで頭をつつかれて起きた。

 寝ていると30分後に『撫でるを要求』というコマンドで、起こすように設定してある。


 偽物とはいえ、その行動に撫でまわしてしまうのは質感や動きが、本物としか思えないからだろう。

 俺のメンタル回復手段であるアプリを満喫した後、カイラルを起動する。


 今日は第2の町に続く森のボスを討伐だ。

 ゲームを起動すると、緊急メンテナンスのお詫びに武器強化用の素材が送られていた。

 俺は新しい武器を買うことしか考えていなかったが、そもそもこのゲームは気に入った武器を強化し続けられるという話だったな。


 ボス討伐前に運が良い。

 ログインすると急いで鍛冶屋に向かった。


「爺さん。刀の強化してくれないか?」

「無理だ」


 人のいない店内でワクワクしながら聞くと、すげなく断られた。

 当たり前だと言わんばかりの顔だから、理由はあるようだ。


「どうして?」

「俺にそこまでの腕がないからだ」

「この町にはできる人がいないのか?」

「いや、1人だけいる」

「へー。どこにいるんだ?」

「店の裏をまっすぐ行くと金属製の扉の家がある。そこだ」

「じゃ、行ってくる」


 鍛冶屋を出て、金属製の扉を探して歩くこと2分。

 木製の扉を金属で補強しているのかと思っていたが、全部金属の扉が1つだけあった。

 ノッカーを3度叩くと、ドアが少しだけ開かれドワーフと思われる男が顔を覗かせた。

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