0話
『だあぁぁぁ!』
画面の中にいる男が、周囲のNPCにつられて叫ぶ。
近くにいた3人の仲間は、迷惑そうに耳を抑えていた。
『叫んでないで、行きますよ』
派手な色の服を着た仲間にそう言われ、2人で走り出す。残った2人は別で走り始めた。
カメラが派手な色の服を着た女を追って、敵との衝突を映し出す。
「そっちの動きは?」
「さっきよりも全然いい」
私は従妹を、妹は叫んだ男を見ていた。
少し前フレンドになったから、個人を追っているカメラで戦闘の様子が見られる。
確かに動きは良い。
叫んだ男が体勢を崩す攻撃、それを見逃がさず従妹が追い打ちを掛けて倒しきる。
2人の攻勢は、周辺一帯の敵を釘付けにしていた。
しかし、敵が2人から離れて出方を窺いだす。
『必殺技、忘れていませんか?』
『そういう場所だったな』
画面端に見える男がそう言うと、敵の集団に向かって走り出す。
そこからは必殺技を織り交ぜて攻撃、殲滅速度が上がっていた。
楽しくなって見ていると、ラッパの音が聞こえた。残り5分の合図だ。
画面の上端には残存兵力が書かれており、従妹のチームは負けている。
従妹の片手剣が弾き飛ばされ、攻撃を防御するが勢いよく飛ばされた。
飛んだ近くに叫んだ男もいて、互いの傍には誰かの武器。
『その武器、渡して下さい』
『刀、取って』
互いが互いの欲する武器を持っているなか、とどめを刺しに来る敵。
2人は慣れない武器を使って、撃退する。
従妹は刀の軽さに戸惑っているようだった。
男が刀を、従妹が戦斧を手に入れた。2人はそのまま敵陣営の中心に向かう。
互いに生き残りの少ない戦場で、2人の向かう先、NPCが赤いオーラを纏っていた。
指揮官NPC、最も強いNPCで倒せば得られる経験値も多い。
2人の前には、最初に分かれた2人の仲間が指揮官NPCと戦闘中だ。
『跳べ!』
距離が近づいて来た所で、従妹の前方を走っていた男がしゃがんだ。
従妹は躊躇せず、男の体を台にしてNPCの頭上まで跳ぶ。
振り下ろしの攻撃が防がれるが、2人の仲間がその隙に攻撃したのが、画面端で見える。
着地して、従妹も背後から攻撃。
従妹は動いていないが、首に一筋の線が走った。
NPCの体は何度も、正面から攻撃を受けているようだ。
動かなくなった指揮官NPCから離れて、戦闘中の所に向かおうとするとラッパが鳴る。
近くには刀を持った男が従妹と同じように、戦闘中の所に向かおうとしていた。
「いやー、おもしろかった! 2人とも動けるじゃん」
「ちょっとちょっと、お姉ちゃん!」
「なに?」
「これ!」
妹が時間も惜しいとばかりに、スマホの画面を見せてきた。
叫んでいた男が指揮官NPCに攻撃するところだ。
従妹を追うカメラでは見えなかったシーン。
「へー。やるじゃん」
「いや、そうだけど。これって⁉」
「そうかも。ちょっと調べる」
〇
長かった。やっと手に入れた。
1年間抽選に応募し続け、外す事35回。
生産台数増えましたよ、と言わんばかりの複数店舗当選。
家から最も近い店舗で、小型VR機『TM DVR』を買った。
この小型VR機を買ったことにより、ゲームセンターで毎回のように払っていたお金がいらない。
VR機が設置されているネットカフェ、ゲームセンターに行かなくてよくなった。
それで、ゲーム時間と受験勉強する時間が増えるわけだ。
帰宅すると玄関の天井から、ロボットアームが2本伸びてくる。
『上着を』
「へい」
渡すとハンガーに通して、ブラッシングを始めた。
『先ほど第2陣当選のメールが来ていました』
「よっしゃ。今から初期設定してくるから運動の準備しといて」
『分かりました』
高校入学前に小型VR機を購入できて、VR初のMMO第2陣の抽選にも通った。
これから俺は最高のVRゲームライフを楽しむことになるだろう。
そう考えていたのだが、高校へ入学して予定していた最高のVRゲームライフは軌道変更を余儀なくされた。
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