~後編~溺愛~溺れる愛~②~
ここは、星花グループ本社ビル近くの警察署のエントランス。
あたし達四人はそれぞれ個別に一時間ほどの取り調べを受けたが、軽く調書を取られただけで、証拠不十分、処分保留のまま、釈放されていた。
「……康太…里緖ちゃん…マサ兄ぃ……三人にお願いがあるの?父の残したこの星花グループ本社…もう一度再起動させたいの……三人の力…貸してくれない?」
あたしがそう言ったのは、四谷東署を出て、とりあえず身を寄せさせてもらった。正樹さんが独りで暮らす2DKのアパートだった。
「……お嬢さん…それは今はまだ無理だ……星花グループを再興するにはもう少し…時間が必要だ……今…地固めを進めているとこです……」
あたしの問いかけに、沈黙の流れるアパートの一室。彼、歌川正樹はその沈黙を破るように、思案の末に重い口を開くのだった。
そして、それから五年後。あの一件以来あたしは、正樹さんの部屋で同棲生活を始めていた。
その頃にはもう、五年前のあの一件に感心を示す人間はほとんど居なくなり、復興が危ぶまれていた星花グループも、正樹さんが二代目会長に、あたしはその会長夫人兼星花グループ二代目総裁になり、あの時尽力してくれた康太と里緖もこの本社に呼び寄せ、今では、康太は正樹さんのそして里緖は、あたしの私設秘書として、毎日バリバリ仕事をこなしてくれていた。
「正樹さん❤世間知らずでわがままでどうしようもないあたしだけど…これからも末永くよろしくねぇ❤❤❤❤❤」
今までの顧客の信用回復にと、日夜を問わず、星花グループの二代目会長としてしゃかりき業務をこなしてくれた、正樹さんと康太、里緖夫妻。
今日はその労をねぎらうと同時に、康太、里緖夫妻の入社歓迎会兼親睦会として、夜からの業務を全て休みにして、かつて、康太、里緖夫妻が暮らしていた西新宿にあるレストランバーにて宴会を催した時あたしは、二代目会長になった正樹さんの生涯の伴侶として、公私共に彼を支え、愛を育む意味もこめ、そう言って彼に抱きつくのだった。
「……二代目…いや…愛子…そう言う情事は私達の愛の巣に帰ってからにしないか?康太達も見てる前だぞ……」
あたしなんかより遥かに酒が呑める彼が、たったこの数時間の飲酒で酔っているとは到底思えなかったけど、そう、俯き加減に言う彼の顔がほんのり赤みを帯びていた。
それからさらに三年後、たった四人だけで再建にこぎつけた星花グループ本社だったけど、今や日本国内全ての地域に支社を抱える大企業に発展していて、本社、各支社ともに、順調に業績を伸ばし始めていた。
そして、あたしと正樹さんも、あたしが二六歳、正樹さん四六歳の時に長らく続けていた恋人関係にピリオドを打ち、入籍、結婚の運びとなり、真希、亜梨沙という二人の子宝にも恵まれて、順風満帆。幸せいっぱいの日々を過ごしている。
五月二六日
星花愛子、二八歳。
星花愛様。歌川詩季様。ご出演感謝申し上げますm(__)m
枝垂れ桜のお蘭