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~中編~溺愛~溺れる愛~ ①~

「弘二ぃてめぇ自分で何しでかしたか解ってんのかぁ?星花グループぁ先代会長の日向洋一さんからの付き合いのある優良企業グループだぁそれをてめぇは…脱税なんてつまらねぇでっち上げしやがっておめぇがやったことってなぁ先代や俺だけじねぇ代々続くこの任侠一家でもある新宿國龍会自体への反逆だってことだぁそれによぉてめぇは五代目狙ってるみてぇだがよ…おめぇに國龍の五代目はやらねぇよ……國龍会ぁ俺の代で解散する……それからぁこの星花グループぁ唯一生き残った会長兼総裁の娘さんに返す!おめぇは今宵限りで赤字破門だぁ!!」


 彼、第四代新宿國龍会会長平岩康介は、対面のソファに座る自分よりもかなり年少者でもある里中弘二に、会の解散と彼の破門を宣言した。


「……破門ですか?じゃあききますがねオヤジぃこの國龍会…ここまでの組織にしたの誰だと思ってるんです?今どき流行りもしねぇ任侠道ひっさげてぇ何ができるんですか?今の時代…斬った人の人数と懲役行った年数だけじゃあ組は仕切れねぇんですぜ……まあ…あんたが國龍会解散するってんならこっちにしてみりゃ好都合だぁ!おまけに赤字破門の手土産までくれてよぉ!!」


 彼はそう言うと事もあろうか、今はまだ自身の会長でもある、平岩康介さんに銃口を向けるのだった。


「……弾いてみろやぁ!弘二ぃ!シャブ打たなきゃチャカも握れねぇ…ヘタレ極道のくせによぉ!!」


 彼、平岩康介さんはそう言って里中弘二を煽ると、自身も最近は抜く機会は減ったものの刃の手入れだけは怠らない、銀色に輝く彼の日本刀の刃が灯りを消した会長室の窓から差し込む月の光に照らされて怪しく光るのだった。


 プシュプシュプシュプシュプシュと長い間合いの後、室内に消音器を付けた拳銃の発砲音が五発乾いた音を立てるのだった。


 しかし彼の発砲した拳銃は、康介さんには擦りもせず、彼の拳銃を持った手は両腕とも、肘の関節部分から一刀両断に斬り落とされており、勝敗は康介さんの圧勝のはずだったけど、康介さんはここで一つ誤算をしていた。


 それは、彼の両腕は元々義手でしかも、彼の右腕は義手の下に小太刀が仕込まれており、トドメの一手に出た康介さんは彼の右腕に仕込まれた小太刀によって身体の中心を刺し抜かれており、吐血して倒れたのは康介さんの方だった。


「……腕ってぇよりゃあ勘が完全に鈍っちまってるなぁあんたの方だったみてぇだなぁオヤジぃ!」

 彼はそう言うと下卑た笑みを浮かべて、身体の中心を刺され虫の息状態になっていた康介さんに逆にトドメの一撃を食らわせようとした時だった。


 それは正に、紙一重だった。彼の振り降ろそうとした小太刀の刃は、間一髪にその修羅場に踏み込んだあたし達三人の内の一人、一ノ瀬里緖の投げたスローイングナイフによって真っ二つに折れその切っ先が瀕死状態の康介さんに届く事はなかった。

「……康太の言ってたとおり…やっぱりでっち上げだったんだ……父さんと母さんの自殺……」


 あたしは静かにそう言うと、瀕死状態の康介さんの身体に自分の身体に巻かれていたサラシを解き、彼の傷口をきつく縛り止血処理を施し、何とかぎりぎりのところで事切れかけていた彼の命の火を繫ぎ止め、目いっぱい殺気を込めて、ここに来るときに、康太から渡された白鞘の小太刀を抜き、奴を睨み付け、康太と里緖の見守る中、刃の切っ先を奴の首筋に押し当てた。


「愛子お嬢さん!そこまでだ!貴女のご両親は…先代総帥夫妻は復讐など望んでない!刃を退くんだ!君等も同じだ!刃を退け!」


 そう言って、この修羅場に参入してきたのは、歌川正樹という男で、生前、あたしの両親の私設秘書兼あたしの世話役だった、細身ながらストイックに鍛え上げられた筋肉の鎧を纏った青年だった。


「マサ兄ぃ!そこをどいてよ!やっとみ付けた父さんと母さんの仇!あたし達家族の事誰よりもわかってくれてるマサ兄ぃならわかるでしょ?」


 あたし達三人、彼の言い分は充分理解しているつもりだった。


 けれどこの時のあたし達は、完全な修羅と化していたため、彼の制止をおとなしく受け入れる事など出来なかった。


「おぅ!てめぇ等ぁ!こっちが黙って見てりゃあよぉゴチャゴチャ好き勝手喚きやがってぇ!」


 この里中弘二という男、覚醒剤のやりすぎで頭の中枢神経までやられていたのだろう。


 この場に居る誰もが、救いようのないバカだと実感した時だった。


「……里中弘二…てめぇって奴ぁ本当救いようのねぇバカだぜ!お嬢さん!跡のこたぁ全て俺が責任をもちます!この腐れ外道ぉブチ殺してやりましょうやぁ!」


 彼、歌川正樹はあたしの父親に仕えていたあたしとは親子程も年の差がある男性だが、未だ独身の彼は同年代の既婚男性からするとかなり若く見え、あたしと一緒に居ても少し年の離れた兄妹にしか見えなかったし、元々優しい性格の彼だったから、怒りの感情を見せる事も皆無に等しかった。


 しかしそんな彼が、ここまで怒りの感情を露わにするのだから、この里中弘二という男は本当に救いようの無いバカだったのだろう。


「まてぇい!そんなバカのためにおめぇさんがたぁ若い衆が人生棒に振るような真似ぁおよしなせぇよぉ……そのバカのこたぁこのくたばり損ないの老いぼれに任しときなぁおめぇさんがたのわりぃようにゃあしねぇからよぉ……」


 彼、平岩康介さんはそう言うと、あたしの手早い止血処理と幾分高齢ではあったものの意外に鍛え上げられた彼の体力が相まって、彼は抜き身の日本刀を片手下段に構えて立っていた。


「死に損ないの老いぼれジジイがぁ!とっととくたばりやがれぇ!!」


 彼、里中弘二はそう言うと薬物依存者独特の血走った目で康介さんを捉えると、折れた右腕に仕込んだ小太刀で彼に襲いかかるのだったが、結果は相討ちだった。


里中弘二と康介さん。双方が血の海にその身を投げ出した時、部屋の外に待機していた警視庁の捜査官達が一斉に踏み込んで来て、あたし達四人は事件の第一発見者兼重要参考人として、星花グループ本社ビル近くの警察署へと任意同行を求められた。

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― 新着の感想 ―
[一言]  義手と仕込み刀!!  任侠ものでも、アリなんですね。  息をのむ、バトルシーンでした!
[良い点]  文章が洗練されていて読みやすかったです。ヾ(●´ω`●) [一言]  このお話もバッドエンドになっちゃうんでしょうかね。  苦労した星花愛子がマサ兄と幸福になったら嬉しいのになあ。(*´…
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