7.いざ入学式へ
王都での謁見が終わる直前に王子であるビクターが
俺に話しかけてきた
(ビクター王子は明るめの茶髪にダークブラウンの瞳を持つ正統派イケメンだ、王はいかにも武人と言った雰囲気を持つイカつい顔立ちで茶髪に青い瞳、王妃は金髪とダークブラウンの瞳を持つおっとりとした雰囲気の美女、王女は髪と瞳は王と同じだが顔立ちは王妃によく似ていた)
「父上の事は申し訳ないが、私自身ラインハルトくんの事を聞き興味があった、入学したら是非仲良くして欲しい」
ビクターの横でトーマス王がニヤニヤしながら頷いている
俺は何と返せば良いか考え
『此方こそよろしくお願いします、王子・・』
と要請を若干引きずりながらも無難な返答をした
「学友になるのだ、ビクターと読んで欲しい」
『わかりましたビクター王子』
「ビクターでいいよ、その代わり私もラインハルトと呼ばせてもらう」
俺が流石に呼び捨てはまずいでしょ、などと思っていると
「ビクターの事、よろしくお願いしますね、そしてわたくしの事もアローネと呼んでね」
と王女が話しかけてきた
『流石に呼び捨ては難しいのでアローネ様、ビクター様と呼ばせて頂きたく思います』
「少し硬い気もするが、おいおい慣れていってくれ」
とビクター、アローネとの会話が終わると俺達家族は逃げる様に王宮の応接室から下がっていった(因みに王妃の名前はアリアーネと言う)
入学までの期間は両親に稽古を付けてもらいながら、実戦も積んだもちろん魔獣相手では無く魔物しか出ないエリア限定だったが
マリーナには基本的な属性魔法や初歩の空間魔法を中心に習う
マティアスには接近戦も習ったが俺は長剣より短剣の方があう様で、週に一回は黒狼のディアーナに短剣術を習っていた
ロックドラゴンの一件以降、黒狼のメンバー達は助けられたお礼を兼ねてマティアスを通じ何かと気にかけてくれ、俺やまだ洗礼式が済んでいない弟アーデルハルトに稽古を付けてくれる、魔術士のクライムだけはマリーナの魔法稽古に生徒として参加していたが
(学校への入学直前に俺はスペースこそ余り無いがアイテムボックスを覚える事が出来た)やはり俺も大概チートな存在らしい
俺は家族や顔見知りと簡単な挨拶を済ませリブムントを出立し前回とは違ってゆっくりと進みながら王都へ向かう
王都への旅に黒狼のメンバー達が護衛としてマティアスの依頼を受け同行し、大きな問題も無いまま10日程で王都へとたどり着いた
何故黒狼が護衛についたのかと言うと、国王が俺のブルグムント校への入学と共に家族で王都へ出て来ては?とマティアスに進め、そのまま国王の配下になれと言う要請をして来たからだ
マティアスはリブムントでの生活に満足していて貴族達の集まる王都で生活する事など考えられない、ラインハルトの入学式には出たいが王都へ行くとなし崩し的に王都に留まらざる得ないと言う様な事にならない為に家族は王都へ向かわず黒狼に護衛を頼む事になった
『ゲーリッツ達はこの後、直ぐに帰るの?』俺が聞くとゲーリッツが
「サブマスから王都への護衛が済んだら、コッチのギルドで依頼をこなして来いって言われているから1ヶ月ぐらいは王都にいるつもりだ」
「サブマスがリブムントと王都の冒険者達にどんな差があるのか知る事も良い経験になるだろうって」
「サブマスはラインハルトが心配」
ディアーナとアリアがそれぞれ話す
どうやらマティアスが俺を心配して暫く王都に残って俺の相談相手になって欲しいとお願いされている様だった
マティアスは普段から必要の無い会話をする事は無かったが、俺が家を出て王都での生活を心配してくれているのは十分伝わった
王都のブルグムント校の前まで付いて来てくれた黒狼達と別れ俺は学校の入り口に立つ警備員に入学証明書を見せると
「ようこそ、ブルグムント校へ」
「入学式は明後日だが寮は使える、右の大きな建物の裏に男子寮があるので行ってみなさい」と教えてくれた
教えてもらった場所に行くと木造三階建ての大きな建物があり入り口らしい所へ入ると受け付けらしいカウンターの奥に老夫婦が座っている
俺が入ってくると旦那さんが
「入学者かい?」と声をかけて来たので
『明後日より入学予定のラインハルト・ミューラーです』
と返答しながら入学証明書を提示する
「ああ、君がラインハルトくんか」と言うと奥さんが
「貴方の部屋は3階の301よ」と言いながら鍵を渡してくれた
そして「今日から食事も出せます、18時から21時までに1階の食堂に来てね、時間に遅れると食べ損ねるわよ」
「後、風呂も21時までだから」と教えてくれた
俺は荷物を持って部屋に向かう、3階まで上がり部屋番号を確認すると部屋は1番奥まった場所にあった
扉の鍵を開け部屋に入ろうと扉を開けると、廊下の反対側の部屋から声がかかる
「やあ、ラインハルト今着いたのかい?」
声の主はビクター王子だった
『え?ビクター様?』俺は何で王子がココにいるの?と思っていると
「ラインハルトにはビクターと呼んで欲しいのだが」と返ってきた
『ビクター様は寮に入っているのですか?王宮から通えるのでは?』
と疑問を口にすると
「王族の者は学校に入学する時、必ず寮に入るのが習わしとなっている、親元を離れ学友達と過ごす事で自立する事を学ぶ為だと言われている」
「やはりラインハルトその部屋だったか」
『どう言う事でしょう?』
「其処の部屋は基本的には使われる事が無い、王族でも使用する事は出来ない、特別な部屋なのだ」
「実際、私の部屋は302でココは王族の者が入る事が多い」
『特別・・ですか』
「そうだ、ラインハルトは我が父、国王が選んだ特別な存在だと言う事だ」
「銀髪を持って生まれ、入学前にBランクの魔獣を相手に戦える存在など、この国を見渡しても他に探す事が出来ない特別な存在だ」
と俺を持ち上げる様な事を言ってくるが
俺は心の底から〈やめて欲しい〉と思う
『他の部屋に移る事は出来ますかね?』と俺が言うと
「学園の者では判断出来まい、強いて上げれば国王に聞くしか無いが」と笑いながら言っている
『無茶振りだぁ』思わず心の声が漏れると
「良いではないか、この歳で国王自ら将来を期待する程認められるなど10年に1人もいないのだ、栄誉だと思い励むがいいよ」と言いながら堪えきれず爆笑する
しばらく笑い続けた後、急に真面目な顔になり
「ラインハルト、前回会った時にも思った事だが、きっと君が思っているより銀髪で特殊な魔法能力を持つ者の存在は重いのだ」
「場合によっては国家間の争いの火種にもなるほどにね」
とビクター王子は続ける
俺は急に真面目な口調で不穏な事を話す王子に面食らって、黙り込む
「まあ、今すぐどうこう成る訳じゃ無いけど、ラインハルトは自身の価値をよく考えておく事を薦めるよ」
「じゃあね」
とビクター王子は自室に戻る
俺もとりあえず部屋に入って荷物を置くと、しばらくベッドに腰掛け自分や家族の事を考えるが答えは出る事無く時間だけが経過する
気がつくと昼過ぎに寮へ入ったはずが夕方になっていた
『考え過ぎても答えは出ないし、腹も減った、食事でもするか』
こうして寮での生活が始まり俺はブルグムント学園で学ぶ事になる
入学式当日
俺を含めた新入生は中央校舎の奥にある、大講堂に集まり入学式が始まるのを待つ、俺は最前列の中央に案内され椅子に座る
新入生の数は大凡500名程か、この人数が入っても大講堂にはまだ余裕がある、見渡していると幾人かは顔見知りの様で話をしているのが目に入る
そしてその中で何人かが此方に目線を向け話している
俺の隣にはやはりと言うかビクター王子が落ち着いた雰囲気で座っている、彼等は王子を見て話しているのかと思っていたがビクター王子が
「ラインハルト、やはり君は噂の的らしいね、さっきから此方を伺っているのは皆、貴族の子供達だ」と笑顔で俺に話す
『俺を見てたんですか?、王子では無く?』
俺は特に気にもせず王子に返すと王子は
「彼等は実家で今年特別室に入る生徒が出た事を聞いていたのだろう」
「そしてその生徒が銀髪である事、更に元貴族の一族の出である事は情報に聡い貴族達なら知っているだろう」
「彼等は父親である実家の当主から、その生徒がどの様な人物であるか調べる程度の事は言われているはずだ」と笑顔を崩さず言い切った
俺は考えてもしょうがないと割り切って
『貴族の子供って大変なんですね』と他人事の様に呟く
王子は「まあな」と笑う
ふと思うが、王子はココにいる貴族達の誰よりも重い責任を背負っている、その事をどの様に考えているのかが気になって、俺はそれを王子に聞くか迷ったが実際に聞く事は無く入学式が始まるのを大人しく待つ
何より俺が聞いたところで何が出来る訳でも無い、そして周りから俺を伺う視線が王子と話していると彼等には楽しそうに見えるのか嫉みを込めた視線が届くからね
実際に式が始まると前世と対して変わり映えのしない内容で学園長と紹介された老人まで後一歩という感じの人が長々と話すのを俺達はあくびを堪えながら聴いている(多分この瞬間だけは皆んなの気持ちが一致していたはずだ)
学園長のありがたい様で何の為にもならない話がようやく終わり、式自体終盤に差し掛かった時に何と国王が自ら壇上に上がって新入生に祝辞を述べた、周りの教師陣も驚いており毎年恒例と言う事では無いっぽい
その国王による祝辞が終わりぎわに
「今年は久々に特別室に入る生徒が出た、彼は11歳にしてBランクの魔獣を倒す程の力と勇気を持っている、この学園で学ぶ上で皆の良い手本となってくれる事と思う、そして皆がその良き手本を少しでも自身に取り込みこの王国の助けとなってくれる事を期待している」
新入生だけでは無く、保護者や教師達もその国王の発言に驚き、また一部の者は盛大に苦虫を噛み潰したかの様な顔をする
そんな中で俺だけは〈いい加減にしてくれ〉と俯く
まぁ隣ではとある高貴な王子様が吹き出して笑っているのだが
そして入学式は終わる、俺に対するヘイトだけが貯まるイベントでしか無かったが
読んで頂き本当に有難う御座います