51.王国と内乱 #6
王国軍がマグナッド領の奥深くへと進んでいくと、それに呼応する様に貴族側の各地に散っていた部隊も領都へと網を締めに掛かっていた
元の拠点を襲われ逃げ出したマグナッド侯爵も近くにあった拠点から王国軍を包囲しに出陣する
8部隊で約8000の兵による包囲殲滅戦が貴族側の狙いだ、此方はそれと承知であえて敵領深くまで侵攻した
クランのメンバー達は拠点を落とすと転移魔法陣を使い一足先に決戦の地へと移動して、俺が作っておいた地下部屋にかくれている
俺、マリーナ、レオンはその頃まで何をしていたかと言うと、決戦場近くの丘に新たな砦を作っていたのだ、ただし普通にそんな所で砦など作っていたら当たり前だが相手にバレてしまう
なので今回は丘の中にマリーナの空間魔法で部屋や通路を作って丘そのものを砦とする形をとった
すでに作り始めて1週間以上経っている、外観は変えずに中だけを砦にしている為バレる事も無く作業は進んでいる
粗方作り終わるとそこにクランのメンバー達を移動させ、細かい部分の仕上げをする
こうして準備は整った、後は軍が到着するのを待つばかりだった
そして王国軍が予定の場所まで後半日と言ったところで貴族側も一気に包囲網を絞めに掛かっていた
貴族側から見ると王国軍はその包囲網から逃れる為にその場へと追い詰められた様に見えていた事だろう
予定地に着いた時には既に貴族軍8000に包囲される形となっていた
対する王国軍は6500程である
一見すると完全に不味い体勢だ、包囲は完成している、距離は300メートル程まで詰められていた
だがそこで貴族軍は有り得ない光景を目にする事になる
王国軍がどんどん数を減らしているのだ
まだ戦いは始まっていないのにだ
答えは簡単、王国軍は俺達が事前に作っていた隠し部屋から魔法陣で転移しているのであった
最後の兵が転移する際には上の屋根部分に仕掛けた爆薬へと繋がる導火線に火をつけて転移した、転移後には爆薬に火がついて魔法陣ごと辺りを吹き飛ばした
王国軍6500は1キロ程離れた場所に作った隠し部屋から姿を現した、既に包囲網からは逃れている
そこで体勢を整えると包囲網の一角に攻撃する為に移動を始める
包囲していたはずの王国軍が消えた後、大きな爆破が起こり瓦礫が貴族軍達まで降り注いできた
損害自体は大した事は無いが敵が何処に消えたのかが分からずに見失ってしまったのだ
魔法陣を使って転移したのは想像出来たが、一体何処へ転移したのかが分からない、貴族側の指揮官は直ちに周囲へ探索の兵を走らせ、探索魔法が使える者には周囲の探索を命じる
丘を使った砦にはクランメンバー達と王国軍1500が入っていた、ビクターも此方へと来ている
この1500の兵はここに来る途中に作っていた隠し拠点から転移した者達だ、この作戦が決まってすぐに作っていた拠点の内2つは敵側拠点のすぐ側に作り、残り2つは侵攻ルート上に作っていたのだ
その2つに少しづつ隊列から抜けた兵達が此方へと転移したのだった、万が一にも貴族側が攻撃を早めた時の為にビクターだけでも被害を避ける為の策である
だから当初8000いたはずの王国軍が決戦場に着いた時に6500になっていたのだ、そして爆破の音を合図に俺は丘の砦に壁を作り始めていた
20分程で小さな丘の周囲には壁が出来ていた
一方、包囲網の一角を狙った王国軍6500は相手側に発見されるも、相手側の体勢はまだ整っていない所を強襲した、騎士団長自身が指揮する部隊が突撃して相手側をすり潰す様に削っていく
1000程の敵に6500からなる部隊の突撃だ防ぐには無理がある攻撃された貴族部隊は瞬時に壊滅して散り散りに逃げ出した
残りの貴族軍は各個撃破されない為にもすぐに纏まろうとするが俺のマルチチャットの様な便利な能力は無い、その為どうしても情報伝達にはある程度の時間がかかるのだ
貴族側は少し軍の位置を下げて再集結するまでに、更に一つの部隊が壊滅に追い込まれていた
俺と騎士団長はマルチチャットで情報をリアルタイムでやり取りしている
俺はビクターにこの砦からの出撃を進言した
『ビクター殿下、既に貴族側は追い込まれています俺達クランと1500の軍を出撃させて頂きたい』
「わかった、私も出る」
『お待ちを!殿下が出撃して万が一の事があってはいけません、殿下はこの砦に残り我等の戦いを見ていて下さい、それに部下の活躍の場を取る事は感心できませんしね』
笑うビクターが了承すると俺達は砦を出る
砦には200名の近衛兵達がビクターを守る為に残っている
俺達は騎士団長の部隊とは反対側へと迂回しながら移動する、貴族側は騎士団長の部隊に集中して此方への警戒は全くと言っていい程無かった
[騎士団長視点]
全くとんでもない若者が現れたな、ビクター殿下の側近達も頭は切れるがここまで出来るヤツは居ないだろう
ラインハルト・ミューラー伯爵か、バハールの連中は彼の事を銀髪の宰相と言う者達がいると聞いたが、本当にそうなる未来が見えて来たな
別働隊1500をどう指揮するのかお手並み拝見と行こうか
俺に取っても将来の上司になるかも知れんのだ、頭だけで無く実行力がある所を見せてもらいたいものだ、さて此方は此方でお膳立てしてもらった以上出来る事はやらねばな
騎士団長が兵士達へ檄を飛ばす
「これより賊軍へと向かう!、向こうは数だけの烏合の衆だ!恐るな!ただひたすらに賊将マグナッドの首のみを目指して進め!」
「「「「「ウォー!!」」」」」
*
迂回して貴族達の背後を取った俺達は見つからない様に林の中に隠れている
『これからこの内乱を終わらせる為の最後の戦いに入る、皆気を抜かずに、ただ相手を倒す事のみ考えよ』
声を抑えながら1500の兵達に伝達する
みんなは無言で頷くだけだが目には覚悟がやどっていた
そうしていると、騎士団長の部隊が貴族軍6000程の前へと近づいていた
俺達が仕掛けるタイミングは騎士団長の部隊と貴族軍がぶつかった後だ、俺は早る気持ちを抑え込んでその時を待つ
騎士団長が先頭に出て来て右手の剣を掲げている、何かを言うとその右手の剣を貴族軍へと振り下ろした
内乱の終結を告げる最後の戦いが始まったのだ、騎士団を中心とした各部隊長がそれぞれを率いて突撃する
貴族側は防衛体勢を取るが防衛設備が全く無い中で王国騎士団の突撃を防ぐ能力は無かった
すぐに貴族側の前線部隊はいくつもの穴をあけられ押し込まれて行く、そして俺達も動き出す時が来たのだった
『貴族軍は前面からの攻撃に気を取られている、今こそ俺達が仕掛けるタイミングだ、突撃!!』
俺の言葉と共に1500の兵達が走り出した
「俺達冒険者の力を見せるぞ!、王国兵ばかりがこの国を守って来た訳じゃ無い!行くぞ!!」
既に冒険者達のリーダーとしてリアムがクランメンバーを煽るとそのまま駆け出していた、メンバー達もリアムを追いかける様に走っている、リアムのすぐ後を走るのはアーデルハルトだ
アーデルハルトは今までビクターの護衛として付いていた為にこの作戦では出番が無かった鬱憤を晴らす様に駆けていた
俺もマリーナ、バーネットと共に最後尾を走る
前方のみに集中していた貴族軍はいきなり後方に現れた俺達の部隊に驚いている、咄嗟には動く事が出来ずに俺達への対応は完全に後手を踏んでいた
そこにマリーナの時空魔法の斬撃とバーネットの爆裂魔法が貴族軍を襲った、奴等の本陣近くを魔法攻撃によって薙ぎ払われ、吹き飛ばされると貴族側は混乱状態に落ちていった
俺達が後方の撹乱に成功すると騎士団長は歩兵と魔術士達に新たな指示をだした、歩兵と魔術士の混成部隊を2つ作りそれぞれ1500の兵で貴族側の左右に展開させて、今度はこちら側が包囲殲滅戦を仕掛けたのだ
貴族側はこの動きに対処出来る状態では無い、前後を挟撃され既に一杯一杯の状況なのだ
10分後には包囲は完成した、ここからは完全なワンサイドゲームになる
だが敢えて俺は味方を鼓舞して回る
『ここが山場だ、絶対に気を抜くな!、敵を殲滅しろ!』
『ここでマグナッド侯爵達を逃せば、また領都で何をするか分からんぞ!、絶対にヤツ等をこの地で打ち取れ!』
騎士団長も同様の檄を王国兵達に飛ばす
俺は10メートル程の塔の上から貴族達本人を探して狙い撃つ
そして、いた!
マグナッド侯爵が本陣から逃げる為に動き出した所を俺が見つける事が出来た
俺は落ち着いてライフルの照準を合わせるとスコープ越しにマグナッド侯爵と目があった
ヤツは俺に気づいたのか、何かを言っている様子だった
俺はその事にとらわれずに引き金を引くとマグナッド侯爵の眉間に弾丸が撃ち込まれた
即死だった
マグナッド侯爵の隣にはソーンダーク伯爵もいた
ヤツは生かして捕らえたい、その上でヤツが犯した罪を民衆の面前で裁く事こそがヤツには相応しいのだ
俺はソーンダークの両足を狙撃して行動の自由を奪った
その後マルチチャットでリアム達にソーンダークの捕縛を指示するとリアムとアーデルハルトがソーンダークの身柄を確保した
貴族側の総大将であるマグナッド侯爵が死ぬと、貴族側の兵達はあっという間に瓦解して行く、個々の判断で逃げ出す兵達を止めれるだけの能力ある指揮官はいなかった
降伏する兵士達も現れ、その後すぐにこの戦いは終結したのだった
数人の貴族やその子弟が生きたまま捕らえられソーンダークと共に王都へと護送される
降伏した兵士達約2000名は武装を解除させ王国軍3000がマグナッド領都へと護送する
戦場での後始末がある程度終わるとビクターが現れてその場で今後の動きを決める、マグナッド領都へ進みマグナッド侯爵の家族とソーンダーク伯爵の家族の捕縛は絶対に必要な事であった
騎士団長とその配下の騎士を中心に3000程の軍勢で領都へと急行する今回はビクターも来ている、もちろん俺達も同行した
領都に着くとすぐにマグナッド侯爵の死を伝えて、城門を開ける様に伝えるが素直に聞き入れられる事は無かった為にマリーナの斬撃で城門を切り裂き突入する
マグナッド家とソーンダーク家の家族を捕らえるのに時間は掛からなかった、逃げ出す寸前に先行していたウロボロスによって捕らえられている
領都に残っていた兵士達はすぐに降伏してこの内乱は終わる事となった
3日程、旧マグナッド領での最低限の仕置きを済ませた後、ビクターと俺達は王都へと帰還した
学園時代から考えでいた問題がようやく片付いた
俺は今後の事を考えていた
冒険者として行動するのか、それともビクターの右腕として王宮に入るのかを・・
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