5.未知との遭遇
キラーアント戦後の夜、俺は1人で自分なりの戦い方を考えていた
Eランクの魔物でもバレットを弾く装甲を持つモノがいる、とは言え単純な攻撃手段に関しては考えがある、多分大丈夫であると思うが実戦で試してからだな
『力技でのゴリ押しだな』考えた内容を思い1人苦笑する
翌週、今回はマリーナだけでなくマティアスも参加して森に入る
『まずはキラーアントを見つけたい』
「昨日まで試していた事の結果が出るわね」
『自信はあるよ』と返すと両親は笑っている
森に入って20分程で何かが探索魔法に引っかかる
『右斜め前80メートル程に何かいる、数は多分1』
「はい、よく出来ました」とマリーナがかぶせ気味に言う
「今回もラインハルト1人でやってみなさい」
「1人で大丈夫か?」
マティアスは困惑気味にマリーナへ聞くが
『大丈夫』と俺が即答
探知した方向へなるべく音を立てない様に進むと
すぐに相手を見つける事が出来た
相手はデカい熊だった、マッドベアーだろう
互いの距離は30メートル、マッドベアーは此方に気がついたのか首を曲げ頭を此方に向けた
その瞬間、俺はあの構えをとり、練習していたバレットを撃った
発射された弾丸はマッドベアーの眉間を貫通して、更に後ろにあった木を薙ぎ倒した
マッドベアーの頭はとても直視できる状態では無かった
「酷い状態だな」
「そうね、顔の大半が吹き飛んでいるわ」
と2人が苦笑いで話す
頭の上半に大きな穴が空いたマッドベアーを見て、俺も正直やり過ぎたと思うが・・
「これ、私のアイテムボックスに入れなきゃ駄目よね?」
「俺達じゃ持ち帰れないから・・」
『うん・・お願い』
今まで俺の特訓で倒してきた魔物は空間魔法士であるマリーナがアイテムボックスで持ち帰り、ギルドで売却していた
「さっきのバレットはいつもより大きかったし威力も高かったわね」
『うん、弾丸の大きさと威力を倍にしてみたんだ』
「スキルの説明であったMPを多く消費して大きさ、威力を上げるってヤツね」
『そうだね、ただこれ1発撃つのにMPを20つかうから、今の俺だと10発撃つとMPがほぼ空になるけどね』
『大きさか威力のどちらかだけだと5倍で撃てるけど、一度実戦で試してみたかったんだよね』
「使い処を間違えなければ非常に有効ね」
「マリーナのスキル、魔法能力もアレだがラインハルトも大概だな」
「私の11歳の頃はまだ祖母から魔法の基礎を学んでいた時期よ」
マリーナはこの世界でも現在唯一の空間魔法の専門家だ、空間魔法を使う事が出来る人は他にもいるが、マリーナの様に空間魔法を極める事は出来ない、まぁアイテムボックスが使えるだけでとんでもない能力なんだけどね
因みに現在王国にアイテムボックスが使える術士はマリーナの他に9名しかいない、その内8名は王国軍に所属し残り1名は王国最大の商会を率いる会長さんらしい
ただアイテムボックスを使えるが誰にも教えていない人は何名かいるだろうとの事、場合によっては貴族や大商人から身柄を狙われる事がある程に珍しく貴重な能力なのだ
俺も欲しい能力の筆頭だ
安定の脱線から戻ろう
マリーナにマッドベアーを収納してもらい、俺達はもう少し森の奥へ向かう
途中でハウンドウルフ5匹とアーミーワプス8匹と交戦するも通常のバレットで殲滅出来た、もちろんマリーナに収納してもらう
「マッドベアー程酷い状態じゃ無いからいいけどね」とはマリーナの発言
適度に休憩をしながら、しばらく進み森から山岳地帯に近づいた時、マリーナが俺とマティアスに声をかける、探索に多数の反応があるらしい
俺には探知出来ない範囲で
「私達からみて10時の方向、約1キロ、多分冒険者が5人と魔獣が4体」
1キロ?魔獣?俺は一瞬マリーナの言葉を理解出来なかった
「落ち着け、ラインハルト」マティアスが俺に声をかける
「貴方、どうする?」
「冒険者は?」
「魔獣から逃げているみたい、このままだと危ないかも」
「なら、助けるしかないな」
「ラインハルトはどうする気?」
「此処に残すより、連れて行った方が守れる」
マリーナのどうする気は俺に対して聞いた訳では無く、マティアスへの確認だった
「それしか無いわね」
マリーナが返すとマティアスは当たり前の様に先頭に立ち走り始めた
咄嗟に俺も走り始めるがマリーナは
「ラインハルトは私の後ろに付きなさい」
と俺に言う
3人で走りながら時折マティアスへマリーナが方向を指示して、しばらく走るとマティアスが止まった
そして前を向いたまま右手を横に伸ばして俺に止まれと示してきた
マリーナも俺もマティアスの少し後ろに付き、前方を見るがまだ少し距離がある様で冒険者もモンスターも視界には入って無い
マリーナが「ラインハルト、慎重に探索魔法を使ってみなさい」
と言うので俺はいつもより慎重に魔力を操作しながら探索魔法を放つ
そうすると約2時の方向に複数の反応があった
『逃げる方向へと先回りした?』
マリーナは何も言わずに微笑む
そしてマティアスが
「ラインハルト、MPはまだ余裕があるのか?」と聞くので
すぐにステータスボードを確認しながら
『残り140』と答える
「よし、冒険者が通り過ぎたら俺が魔獣を惹きつける、脚が止まったら2人で攻撃してくれ、側面から叩くぞ」
「『了解!』」
マティアスは姿勢を低くしながら背中の大盾を左手に持ち直し剣を抜く
マリーナが
「ラインハルト、魔獣は魔物とは能力や防御の硬さが段違いよ、初めは相手を落ち着いて確認しなさい」
「後、一応言っておくけど魔獣のうち1匹はドラゴンの亜種よ下手な攻撃は効かないからね」
マリーナの探索能力に驚きながらも、俺は黙って頷く
キラーアントの時と同じ過ちはしないと思いながら
息を殺す様にしながらバレットをどの状態まで強化して何処を狙うか考えているとマティアスが呟く様に
「来るぞ」と言う
俺の視界にも逃げて来る冒険者が見えた、人数はマリーナが言った通り5人、装備もボロボロになっている、中でも狩人らしき女の人は頭と肩のあたりから血が流れている、その人を他の4人が庇う様に魔獣から逃げている
「アイツらか」ギルドのサブマスターでもあるマティアスの知り合いのようだ、って此処らで活動してるなら知ってて当たり前か
冒険者のパーティーが目の前を通り過ぎる直前にマティアスが低く姿勢のまま飛び出す
そして冒険者と魔獣の間に入って盾を構えると魔獣の気を引く
魔獣は突然飛び出して来たマティアスをみてマティアスの10メートル程前で脚を止める
それと同時にマリーナが
「魔獣はCランク、リザードエイプが3匹、Bランクのロックドラゴンが1匹」
「どちらも表面は硬い革と岩に覆われてるから目や口、腕や脚の関節を狙いなさい、それとリザードエイプは鳴き声で威嚇して来るから気をつけて」
と魔獣の種類、特徴を教えてくれる
リザードエイプは体長70センチ程でトカゲの様な革に覆われた猿?で猿なのに木に登らず地面を四つ脚で走っていた、見た目が気持ち悪い
ロックドラゴンは全長2メートル程の頭の一部と背中が岩に覆われたデカいトカゲの姿をしている
ロックドラゴン自体はそれ程速さは無い、リザードエイプはロックドラゴンにあわせて地面を走っているのかもしれない
マティアスが魔獣の気を引くと3匹のリザードエイプが威嚇を放った
「ギャーッ、ギャッギャッ」
その瞬間に俺は気を失いそうな程の恐怖を感じていた
そんな俺に気がついたマリーナは
「アンチフィールド」を発動
俺は恐怖心が消えていくのを感じた
そして「やはりラインハルトにはまだ魔獣の相手は早いわね」と呟く様に言う
俺が落ち着いてくると、リザードエイプの1匹が鋭い爪を振り上げマティアスに向け飛びかかる
マティアスは盾を構えてその攻撃をいなすと残りの2匹が弾ける様に左右の木に飛び、その木の幹を蹴ってマティアスに左右から飛びかかる
しかし此方から見て手前にあたるリザードエイプにマリーナが斬撃の様な魔法を飛ばすとリザードエイプの首に直撃し頭が飛んだ
もう1匹はマティアスが盾を構えたままシールドバッシュで弾き飛ばす、そのまま弾き飛ばしたリザードエイプに駆け寄り剣を腹に突き立てた
2人の圧倒的な戦い方に見惚れていると
「ラインハルトもう1匹にバレットを撃ちなさい」
とマリーナが声をかけて来た
俺は我に帰り残りのリザードエイプに向け構える
バレットの威力のみを上げマティアスに対して威嚇の為に大きく開いた口を狙って撃つと、見事にリザードエイプの口に弾丸が飛び込んだ
リザードエイプの口に飛び込んだ弾丸は後頭部に抜けリザードエイプはそのまま倒れた
『ヤッタか?』
フラグを立てたが回収は出来なかった、リザードエイプはピクリともしない
「残りはロックドラゴンね」
「アイツは相当硬いからラインハルトは無闇に撃ち込むなよ」
とは言えBランクの魔獣との貴重な実戦経験を積めるチャンスだ、しかも2人の元高ランク冒険者がサポートしてくれると言う状態だ、やらない手は無い
マティアスは盾を構えたままロックドラゴンと俺の間に入っている、マリーナは俺のすぐ横で何か起きた時に備えてくれている
その直後ロックドラゴンが口を開き炎の玉を吐き出した
マリーナが魔法障壁をマティアスの前に展開
ロックドラゴンが放った炎の玉は障壁に当たって爆発する様に消えた
俺は威力を上げたバレットをロックドラゴンの目に向かって撃つとロックドラゴンは頭を下げる、バレットは頭の岩の部分に当たり防がれてしまった
『走る速度は遅いけど反射神経が鈍い訳じゃ無いのね』と呟くと
ロックドラゴンが仕掛けて来た、ヤツはマティアスに向かい走りながら
突然大きな尻尾で地面を叩く様にして飛び上がった
ロックドラゴンの身体は3メートル近く飛び上がりマティアスの頭上を超える、そしてそのまま俺に向け、大きな口を開けて噛みつこうとして来た
俺は一瞬ビビりながらも構えると威力を4倍にしたバレットをその大きく開けた口に叩き込む
威力4倍は初めて撃ったが身体から魔力がごっそり抜ける感じがしたがロックドラゴンの口から背中にかけて貫通し魔力の弾丸は背後の木の幹を3本貫通して消えた
バレットが貫通したものの、飛び上がり俺に向かっていたロックドラゴンはそのまま俺の方へ飛んでいる
俺は動く事を忘れた様に飛んで来るロックドラゴンを見つめていた
アレ?俺ヤバイ?と思っていると
ドォゴァンと言う音と共にマティアスが盾でロックドラゴンを弾いた
いつのまにか俺の前に現れたのはマティアスのスキル
マルチカバーの能力らしい・・助かったよ
こんな締まらない形ではあったが俺は初の魔獣戦を経験する事が出来た
まぁ完全にマティアスとマリーナ頼みの姫プだったが・・
そして形だけとは言え、11歳の俺がBランクのロックドラゴンにトドメを刺した事があの事態に巻き込まれるきっかけとなる
読んで頂き本当に有難う御座います
マリーナは本物のチーターですw