38.講和と出会い
バハールの援軍は約2万にも及ぶ軍勢であった
それを率いるのが実質的な軍のトップであり元帥でもあるダラバント・マフードと言う人物だ
今までの指揮官であった大将は解任され首都へ送還されたらしい
ビクターや軍幹部からの情報ではダラバント元帥は、現在48歳でバハール共和国の名門の家に生まれ育つ、15歳から軍に所属して戦果を上げ続けた生粋の軍人である、35歳で元帥となってからは近隣諸国との争いに勝ち続け〈軍神〉の異名を持つと言う事だ
その軍神は前線の残った兵士達を一旦後方で休ませて、自分が率いてきた兵士達を一ヶ所に集中配置した
その場所が壁の無い河川部であった
厄介な相手らしい
俺達はビクターからの報告と指示で河川部へと配置転換され、川沿いに作った拠点を要塞化して、更に河川の反対側にも同様の施設を作る
そして施設の前方には穴を掘り川の水を流し入れ、相手側から簡単に攻められない工夫もこらした
更に河川両側の壁際に塔を作りそこに俺達が入る事となった
相手の大軍が来るまでの期間にブルグムント軍の諜報部隊によって、敵の目標が河川部であると情報があった為、用意していた施設だった
この川幅は約30メートル、水深は深い所で4メートル程であり、流れも早い為、歩いて川を渡る事は出来ない
河川両側の拠点後方には俺が作った橋もある為、此方は両岸を行き来出来るが、バハール軍は船が無い限り行き来は出来ない
さて、相手側はどの様に攻めるのだろうか
元々守っていた壁や塔には50名の部隊を20ヶ所配置して別働隊の奇襲に備えてある
[ダラバント視点]
これはどう言った事なのだ?
聞いていた話ではブルグムント軍の作った壁は河川部の辺りには拠点が一つあるだけで、手薄だったはず
しかし来てみると両岸の壁際には塔があり、要塞と呼べるだけの施設が河川の両岸にある、更にその後方には強固な橋もかかっている
これだけの防御施設がある状態ではここを抜く事が出来たとしてもブルグムント王国内への侵攻は難しいだろう
しかし頭領からは何としてもブルグムント王国内へと侵攻しろとの命令が出されている
さて?どうした物か・・
*
相手側が布陣してから3日間が過ぎているが、攻め寄せる気配は無い
何か策を巡らせているのだろうか?
後方にいるビクターからも日に何度か連絡が来るが、特に動きは見えなかった
ビクターはビクターで兵士達に周辺の巡回を指示しているが、そちらも特に問題は無いと言う事だった
動きがあったのは1週間を過ぎた時だ
敵の元帥自身が使者として前線に出てきたのだった
俺はすぐにビクターへマルチチャットで連絡する
「私はバハール共和国の元帥、ダラバント・マフードと言う、そちらの指揮官であるビクター殿下と会談したい」
俺が用件をビクターに伝えると翌日の昼に会談する事と、会談は要塞化した拠点で行われる事、それぞれ同行者は5名、武器の携帯は可、この様な内容で決定した
翌日昼過ぎにダラバント等5名が拠点へと来ると、ブルグムント軍の幹部が案内をする
因みに此方の参加者はビクター、軍幹部2人、俺、マリーナだ
「お初にお目に掛かる、私はバハール共和国軍の元帥、ダラバント・マフードと申します」
「うむ、私はブルグムント王国の第一王子である、ビクター・ブルグムントだ、マフード元帥の噂は聞いている、バハールの近隣諸国との幾多の戦場で〈軍神〉の異名を轟かせた者とこうして敵として相対する事になるとは思ってもいなかったがな」
「某の異名など仲間達が勝手に言っているだけで御座います、それにしても見事な要塞ですな、国境の壁も驚きましたが、短期間での拠点整備はそれ以上の驚きでした」
「ほう、其方から見ても中々のモノの様だな、ラインハルトよくやってくれた」
俺に振るなよ!心の中で叫ぶ
『はっ!、有り難き幸せ』
「おう!その若者が前回の使者を驚かせた御仁か、一瞬で壁を作ったり消したり出来ると聞いている、ラインハルト殿か覚えておこう」
「ああ、これはラインハルト・ミューラーと言う、私の右腕で将来の宰相筆頭候補だ」
俺やマリーナ、軍幹部2人も驚いていると
「なるほど、ここに来るまでに何名かラインハルト殿と同じコートを着た者を見かけましたが、殿下直属の部隊でしたか、しかも将来の宰相候補とは、我軍の大将達では勝てぬ訳で御座います」
「其方なら勝てるか?」
「この要塞を抜くだけなら可能かと思いますが、ブルグムント王国内への進軍は出来ぬ程の犠牲者を出す事になるでしょうな」
「そうか、では其方はどの様な話しをする為にここへ来たのだ?」
「バハール共和国とブルグムント王国で講和を纏める為に参りました」
「なるほど、では聞くがこの戦争を起こしたバハール共和国は我が国にどの様な条件で持って講和を結ぼうと言うのだ」
「そうですな、まずはこの争いを起こした事に対する賠償金として白金貨250枚、そして今後10年の不戦協定、更に別で白金貨250枚で転移魔法陣の現物と通信魔導具の現物をそれぞれ1組ずつ貸し出して頂きたい、支払いは10年の分割払いとして頂ければ有難い」
「その内容では無理だな、賠償金と不戦協定はそれで良い、しかし貸し出しとは言え私の判断では現物を渡す事は出来ない」
「トーマス国王の御判断があれば可能でしょうか?、それともそちらのマリーナ殿の判断も必要ですかな?」
「そうだな、国王とマリーナ殿が良いと言えば私に否は無い、だが国王が是とするとは思えないがな、もし是とするのなら既にその金額での販売をマリーナ殿へと持ちかけているだろうからな」
「まあそうでしょうな、では魔法陣と魔導具は一旦諦めましょう、その上で賠償金と不戦協定を決定致したい」
「良かろう、すぐ手続きをする事も可能だが、そちらは頭領殿に確認する時間が必要か?」
「そうですな、この会談自体が某の独断、確認の時間を頂きたい」
「わかった、とりあえずは一月の間、不戦協定と言う事で良いか?」
「それでよろしくお願いします」
あっさりと決まったな、多分ダラバント殿は魔法陣や魔導具は初めから無理だと思っていただろう、それを取り下げる事で交渉をスムーズに進める為の策だったのだろう
結果的に此方の死傷者が少なかった事もバハールに取ってはプラスになった、どうしたって被害が大きかったら賠償金の額だって変わって来るだろうしな
そして一月後、両国は正式にこの協定書にサインした
そしてバハール共和国では俺の事を〈銀髪の宰相〉と呼ぶ様になったとか・・やめて欲しい
それとは別にバハール共和国内では、頭領の是非を問う為の議会が招集され、ほぼ全会一致で罷免が決まった、後任の人事は現在も議会によって話し合われているとの事だ
その筆頭候補がこの協定を纏めたダラバントだと言う、彼ならブルグムントとしても変な事にはならないだろう
そして俺達はそれぞれの活動拠点へと戻る事となる、すでに冬を迎える季節になろうとしていた
「また、ラインハルト君と別れる事になるね、たまにはベルグラットへも遊びに来てよ」
『まだ、やらなきゃいけない事が多いからな』
「遊びに来るなら王宮へ来る方が先だな、国王も会いたがっているからね」
『断る』
「まあね、ラインハルトならそう言うと思ったけど、後日王宮から呼び出しがあると思うよ」
『おいおい!それを何とかしてくれるのが友人ってもんだろ』
「ん〜それは無理かな?」
頼りにならない友人だ
リブムントに帰り半月程すると本当に王宮から手紙が届く、年始の祝賀会への参加を求める内容だが、俺に拒否権は無いらしい
本当に頼りにならないな・・
リブムントでは俺や黒狼をはじめ20人程のCランク以上の冒険者が義勇兵として参戦していた事もあって未消化の依頼がたまっていた
マティアスからも王都へ向かう前にある程度消化してから行くようにと頼まれる
王都へは魔法陣ですぐ行けるからね
俺はリブムントへ戻った翌日から精力的に魔獣狩りを行ったり、依頼の鉱物や貴重な薬草を採取して回る
年末になった
王宮からは服装はクランのコートで構わないと告げられていたので、それ以外の服装をガーラムに連絡して見立てもらっていた
ベルグラットに服を取りに行くと、ガーラムや服飾の職人達が待ち構えていた
そこで俺は2日にわたってファッションショーの様な状態である、服を着てはガーラム達に見せ、ああでも無いこうでも無いと繰り返し続けられた、狩りに行くより辛い
2日目には雷神の槌のメンバーも加わり、本当に俺は何をしに来たのだが分からなくなる
「ん〜ラインハルトちゃんは背も高いし顔立ちも良いから、何を着せるか迷うわね〜」
『もう、何でもいいから』
「あら?、ダメよ〜そんなの、せっかく容姿が良いんだから、服装にもちゃんと気を使わないと!」
「その髪型も気になるわね?」
ガーラムは人を呼びに走った
20分程後に1人の女性を連れて現れる
「この子はマチルダちゃん、可愛い子でしょ?、この子は一流のヘアメイクアーティストなのよ、ラインハルトちゃんの髪型をこの子にまかせようと思って呼んできたわ」
ヘアメイクアーティストなんてこの世界にもいるんだね
普段の俺は基本的に冒険者としての仕事ばかりで髪を切るのも面倒だから、髪は伸ばしっぱなしであった、その髪を後で縛って纏めるだけだ
マチルダと紹介された女性は歳は俺より少し上かな?、長い金髪を編み込んで纏めている、服装はシンプルだけどオシャレな感じは分かる、スタイルも良く前世ならアイドルだって出来たであろう、まぁ俺がアイドルに興味が無かったからアイドルの顔なんて知らないけどね
「はじめましてマチルダです、ラインハルトさんの話はガーラムさんから色々と聞いていたので、喜んで来ちゃいました!、今日は王宮の祝賀会へ参加する為の服装選びと聞いています、是非髪型は私に任せて下さい」
「それと去年はこのベルグラットを守って頂きありがとうございました!」
と頭を下げた
『頭を上げて下さい、ベルグラットを守ったのは俺だけじゃ無いので、髪型はマチルダさんにお任せします、ただ当日に自分で再現出来る自信は無いのですが」
俺は笑いながら言うと
「なら!当日も私がセットしますよ!ラインハルトさんは転移魔法陣を使えるのですよね?、なら当日の朝に此方へ来て頂ければ、私がセットします」
何か成人式の女性みたいなスケジュールになって来たなと思っていたが、結局任せる事にした
服装を決めた後も服飾の職人さん達は細部の手直しなどをしてくれていたが
こうして王宮での祝賀会の用意は終わった
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