37.争いと使者
バハール共和国との戦争が始まり2日が過ぎた
ビクターからの連絡によると紛争地帯の全てでブルグムント王国側の有利な展開になっているとの事だ
今のところは河川部からの侵入は無し、壁を越えた敵部隊も無い
被害は王国側は数十名の怪我人と5名の死亡者
共和国側はすでに千五百名以上の死傷者を出していると予測されている
共和国側の兵士の15%を失っているはずなのだが、撤退はしていないのだ、確か前世の戦争に置いて兵の15%の損失などだしたらほぼ負けであったはず
なのにバハール共和国が引かない事に違和感を感じる、単に前世とこの世界との常識の違いなのか、判断に悩むところだ
「ラインハルト、バハールのヤツ等が来たぞ」
『分かったすぐ行くよ、フェリックス』
初日の戦闘が終わり、昨日は攻めてこなかったが、部隊編成でもしてたのか?
向かって来る部隊の前面には荷車に土を乗せた物を押している兵士達がいた、動く防壁と言ったところか
ただ此方の塔は20メートル以上の高さがある、その上にいる俺からは後続部隊が丸見えだ、壁際のみんなからでも見えているだろう
俺達は容赦なく、荷車の後ろの部隊へと攻撃を加える、敵も警戒してなのか明らかに指揮官の格好をした人物はいなかったが指揮官自体がいない訳では無いだろう
スナイパーをトリプルバーストに切り替えて、爆裂弾で狙える者から削っていく
マリーナも斬撃を飛ばして後方部を纏めて切り飛ばす、バーネットはフレアボムで吹き飛ばす
稀に飛んで来る、矢と魔法はリナが障壁を張って防いでくれている、フェリックスは遠距離攻撃をして来る人物を氷の矢や槍で沈黙させている
マイノリティーの前衛達は力任せに拳大の石を投げつけて被害を与えている、もはや彼等にとって盾は飾りの意味しかない
マイノリティー以外の前衛達はロープを使って投石をしている、しばらくすると敵の前衛達は足を止めざるを得ない形となった
足を止められたヤツ等はその場で荷車を転倒させて、辺りに土を捨てて小さな土壁とした
何度か繰り返す事が出来ればそれなりの防御壁として使えるだろうが、それを作らせてやる程、俺達は優しく無いのだ
俺は荷車の車輪を撃って破壊して行く
破壊された荷車はその場に置き去りにして兵士達は後退するのだった
こんな事が本当に成功すると思っていたのだろうか?
思っていたのだとしたら、俺達は相当舐められているか、相手の指揮官が相当無能かのどちらかだろう、まぁ後者で間違いなさそうではあるが・・
相手側はこの50キロに渡る壁を越えない限り、まともに戦う事すら出来ないのだ、破壊するには相当なレベルの魔術士が必要であり、本当に超える気があるなら戦線を無駄に広げるのは悪手であり
どこかに集中投入して破壊か、壁を乗り越える為の梯子などを使って一点突破をするしかないだろう
10日程の間、ヤツ等は愚直なまでに前進して来て、その度に撃退される事を繰り返してきた
その翌日、バハール側から使者が送られて来た
使者達は俺達の所へ来たせいで、俺がまず話しを聞く事になってしまった、別の所へ行けとも言えないので壁越しに話をする
『何の用があって来たのか?』
「もちろん話し合いの為に決まっているであろう!」
『俺はこの場の指揮官ではあるが、話し合いをする程の決定権は無い』
「では、話し合いが出来る人物を読んで来い、それに使者としてわざわざ来てやっているのにも関わらず、そちら側へと案内しないその態度はどう言う訳だ」
『この壁には出入り口は無い、なのでこちら側に招く事は出来ないだけだ、話し合いが出来る者をこの場に呼ぶので、2日後にまた来ればいいだろう』
『そもそも、お前達が勝手に戦争を仕掛けて来て、偉そうな態度をするな、分かったら2日後に来い!』
と言うと、俺は奥へと戻っていく
使者は何か怒鳴っていたが無視した
2日後、ビクターが俺達の所へ来た
『えっ?、ビクター自身が来たのか?、流石に危ないって事は無いが、代理で良かったんじゃ無いか?』
「私が直接話した方が早いからな」
使者達がやって来ると、俺は1メートル程の壁を消して使者達を通してやる
使者達はいきなり壁の一部が消えた事に驚いていたが
『さっさと通れ!』と俺が言うと
ブツブツ文句を言いながら通っていた、使者達が通ると、また俺が壁を作る
消えた時より驚いていた
俺はこの時の為に、前日急ぎで謁見の場を作った
三十畳程の広い部屋で上座にはビクターが椅子に座っている、その横にマリーナとバーネット、逆側には軍の幹部達が立っている
そして使者達は一段低くなった場所に立たせている
形としては、正に謁見だ
俺や仲間達が使者達のいる場所の壁際に立っている
「さて、私はビクター・ブルグムント、この国の第一王子でこの軍の司令官だ、使者の方々は何用があって来たのだ?」
俺がふざけて言う
『直答を許す、直ちに殿下の問いに答えよ!』
周りの仲間達は笑いを堪える事に必死だったが、ビクターは苦笑いをしている
使者の代表が怒りを堪えながら答える
「この度の争いはひとえに、ブルグムント王国が魔法の知識を不当に独占したのが始まりであり、今からでもそれを近隣諸国間で共有すると言うので有れば我々も兵を引いても構わん、殿下は如何お考えになる」
「は?、貴様は馬鹿なのか?、魔法の研究はここにいるマリーナ・ミューラー殿の自費で行っている事だ、いくら王族といえどその成果を一方的に搾取する事など出来る訳無かろう、それでもマリーナ殿達は王宮へとその貴重な情報を流し、それを近隣諸国へと伝える事にも承諾してくれているのだ!、その情報を貴様等のバハール共和国にも渡してあるはずだ、後はそちらで勝手に研究すれば良い事だろう、違うか?」
馬鹿呼ばわりされた代表は更に怒りで顔を歪めるが、そこでギリギリ踏み留まる
「その情報自体が足りていないのだ、魔法陣の現物か、より詳しい資料を提出して貰いたい」
「先程も言ったが、この研究は我々王族は関わっていない、研究に対して金も出していない、寄って貴様の提案は受け入れられない」
「更に戦火が広まっても構わないとのお考えか?」
「現状、我方の被害は軽微、一方そちらはすでに数千の死傷者をだしている中で、良く私にその様な事が言える物だ、宣戦布告の返答にも書いたが力で是正をすると言うのなら、やって見るが良い、我等も受けてたとう」
『使者殿のお帰りだ!、皆、使者殿達が帰るまで攻撃は控えよ!』
俺は更に悪ノリして言う
『使者殿、此度の殿下への謁見ご苦労!、しかし攻めて来る以上、次は戦場にて是非を付けましょう』
周りの何人かが堪えきれず吹き出す
あ〜やり過ぎたか
使者達は怒りを露わにしたまま帰路を急ぐ、ブルグムントはバハールに屈する積もりは全く無かった
ここ10年以上、まともに戦争をしたことが無い事を軽く見過ぎていたと、ここに来て思い知らされた形だ
[使者の視点]
今は一刻も早く戻る事だけを考え馬車で移動する、共和国の統領にこの話をしなければならないのだから
途中で軍の指揮官であるパベラム大将から会談の内容を問われたが「戦争は継続、話し合いは不調に終わった」と、だけ伝えて首都へと急いだ
10日後
バハール共和国の首都〈バベーラ〉に着くなり頭領であるザウール・マキナルとの面会となった
「なるほど、ブルグムントは戦うと言うのか、ならば歴戦のバハール軍の力を馬鹿な決断をした者共に教えてやらねばなるまい」
「お待ち下さい、ブルグムント国境には約50キロもの壁が出来ていて、私達が見たところすでにかなりの被害を出している模様、このままではバハールが負ける事になるやもしれません」
「何を言っているのだ、前線の大将達からはブルグムント王国内に雪崩れ込むのは時間の問題だと、聞いているぞ」
「その報告の裏は取りましたでしょうか?」
「パベラムからの報告だ、その様な事をするはずあるまい」
「ならば確認を取って頂ければわかりますが、我バハール軍はまだブルグムントの領内にも入れていません、それどころか数千の死傷者を出している模様」
「何!お主はパベラム達が嘘の報告をしていると言うのか?、もし確認してお主の発言が我軍を貶める嘘だとわかった時には容赦はせぬぞ」
「かまいませぬ、私の発言がもしも嘘であった場合にはこの首を頭領へ差し出しましょう」
「その言葉取り消す事はできぬからな」
頭領はそう言うと人を呼んで前線から送られた報告通りか確認する様に伝えた
そして15日後にもたらされた情報は
「前線は全面的に負け戦の模様、夥しい被害が出て、最早挽回も難しいと考えます」
予想より更に悪い物だった
頭領は、このまま負け戦ではブルグムントからの責任追求で莫大な慰謝料を請求されるか、もしくはバハール領の割譲を迫られると判断して、更なる兵士達を前線に送る事を決断するのであった
*
話し合いが破断してからは、またバハール軍が攻め寄せたが難なく撃退する
10日もすると約半数のバハール兵が死傷すると言った有様だった
ここまで単調な攻撃を続けて兵士達がついて来る事は凄いと思うが、自分の命をそんな指揮官に預ける事は絶対に遠慮したい
こんな事をいつまで続けるのか聞いてみたいよ
すでに敵兵はまとまった行動をとる事さえ出来なくなっている、部隊を指揮する下級指揮官が不足している為でもあるだろう
俺が相当な数減らしたからな
敵襲は始めは毎日あったが、今は3日か4日に一度のペースになっている
その一月半後、更なる兵士達がバハールから送り出されたと言う情報が届いた
まだ続けるのか、俺は呆れると共に送られて来る敵兵を哀れに思っていた
争いはもう少し続く
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