15.応用と戦法
とある2月の末
ガーゼス先生が「あ〜言い忘れていたが3月10日からてんかいち・・・学園の武術大会がある、このSクラスは全員が学年予選を免除され、学年本戦からの参加になる頑張れよ」
クラスがザワつく、「そんな大切な事言い忘れるなよ」など聞こえてくるが
俺は〈あの人今、てんかいちって言ったよな!まさかガーゼスも・・〉と1人違う事を気にしていた
まぁ、ただのいい加減なダメ教師なだけ、だろうけどね
しかも俺以外のSクラスの生徒は、細かい日程は知らないが武術大会がある事は普通に知っていて、この学園を目指す人や王都に住む人なら誰でも知っているイベントらしい
ほら、俺はこの学園に来たかった訳じゃないからね・・
放課後、魔導練習場にSクラス全員が集まり武芸が得意な者達が苦手な者達に教えながら自主練をしている
予定通り新しい学期から参加している為に城壁メンバー達とは差がある、今は基本的に城壁メンバーは指導役に回っている
後、武芸の教師であるモルダー先生と他のクラスを教えているクララ先生が参加してくれ、指導してくれている
一応言っておくがクララ先生は足が悪く、立ち上がる事が出来ない少女では無い、身長180センチ近いマッチョなドワーフの女性である、2年程前に組んでいたパーティーが解散してしまい、それを機に冒険者を辞め教師になった、武器は2メートル以上ある斧槍で暴れまくっていたらしい一部知り合いには〈血塗れクララ〉と恐れられていた
因みに俺の短刀二刀流の師匠はモルダー先生だ、モルダー先生は騎士団では珍しい片手剣の二刀流の使い手で騎馬を足だけで操り双剣で敵を倒しまくっていて、戦場で出会うと味方の被害が甚大になる事から近隣諸国では〈双剣の悪魔〉と忌み嫌われていた
共にビクターから聞いた話しだ
そんな2人が俺達の自主練を見ながら話している
「モルダーの生徒は良いねやる気があるヤツばかりでウチのところなんざ、武芸系の適正持ちでも授業以外で鍛錬する様なヤツはいないからね」
見た目は30過ぎぐらいのクララ先生が50過ぎのモルダー先生にタメ口って事はクララ先生も見た目通りの年齢では無いのだろう、エルフやドワーフが長命なのは聞いていたが、流石ファンタジーな世界だ
俺は自分達の練習に戻り、他のクラスメイトにアドバイスをする
「別に最初から全員にやる気があった訳じゃ無いさ」
「アレだね、銀髪の宰相」
「ああ、聞いていたか、彼が殿下を諌めた話しを」
「噂になっていたからね、王子が激怒した件は」
「彼はあのバーネット先生の考え方すら変えてみせた、将来が楽しみでしかたない」
そこに
「なんだい、アタシの陰口かい、アンタも趣味が悪くなったモンだね」
と、バーネットが近づいて来た
「いや、陰口では無いさ、ただ彼の事を褒めていただけだ」モルダーが苦笑いで言う
「ハンッ、アイツみたいなのが偶に来るからアタシはこの仕事が辞められなくて、50年もヤッているのさ」
「アレは本当に良いね、魔法系の適正とは思えない程にアレの二刀流は様になっている、ウチも一度ヤッてみたいね」
俺は不意に悪寒を感じ、周りを見るが特に何もなかった
そんなこんなで日々自主練に励む中でみんなは着実に成長する
武術大会、学年本戦の1週間前になりビクターが俺に相談があると呼ばれた
「ラインハルト、私は知っての通り攻撃の手数が圧倒的に足りない、魔法も出来るが制御能力は上がっても威力が全く伸びてこない、武芸もだ、身体能力は上がって更に自分でバフをかける事も出来るが、そこまでしてもクラスで下から数えた方が早い」
「ラインハルトなら、何か私に合った戦い方を考案出来ないかと思ったのだが、何かないかな」
『ビクターはそもそも自分自身で戦うスタイルじゃないからな〜、下手にスタイルを変えても上手く行くとは思えない』
「それは解っているのだが・・」
『解っているのなら今まで通り、支援と防御魔法の熟練度を上げて・・・』
ん?出来るのか?
その後俺はビクターに武術大会のルールを確認して俺の考えをビクターに話した、コレが本当に実行出来るのかを確認する為にもう1人の人物を呼んで3人で秘密の特訓をする事になった
武術大会、学年本戦当日を迎えた
学年本戦の参加者は32名、前日行われたくじ引きで対戦相手は決まっている
大会はトーナメント戦で会場は50メートル四方の範囲が決まっていて白いラインが引かれている、その範囲から出ると反則負けとなる、気絶や武器を手放して両手を上げ降参するポーズをとる、後は審判が試合を止める事で勝敗を決める
俺の初戦は予選から勝ち上がったAクラスの生徒だ
ビクターは初戦にクラスメイトのコンラーと言う槍使いを引いていた、アレを試すには絶好の相手だ
他の4人もパーティーメンバー以外の相手を引いた
ビクターが第一試合で俺は最後の試合だ
ビクター対コンラー戦
流石に王子とは言え周りはビクター不利と予想する中でビクターは一撃で試合を決めた、作戦が見事にはまった
ビクターの一撃とは魔法障壁を相手に向かって飛ばして相手を場外まで弾き飛ばしたのだ
この試合を見ていた生徒は勿論、あのバーネット先生でさえも口を開けたまま、この結果を呆然と見つめていた
魔法障壁は普通、障壁を指定した場所に固定して相手からの攻撃を防ぐ物だ
障壁の硬さは基礎魔力やそれに込めるMPと熟練度によって変わる
ビクターはまず自身の魔力にバフをかけ基礎魔力を底上げして、その上で障壁を可能な限り硬くして固定しないで出す、そこに風魔法の初歩であるウインドハンマーをぶつけて障壁自体を飛ばしたのだ
コンラーは初見のこの飛んで来る障壁に対処する事が出来ずに弾き飛ばされてしまった
初めて実戦で使うにあたってスピード重視で常に動き回るタイプや魔法系で魔法障壁が出せる相手は避けたかった
そう言う意味でコンラーは絶好の相手だったのだ、コンラーに取っては不幸な事だったのだが
ビクター戦の後、エミリー、ミハエル、フェリックスは危なげ無く初戦を勝ち上がった
そしてもう1人の特訓参加者、リナの出番だ、リナの相手は予選勝ち上がりのAクラスの魔術士だった
相手は風魔法をメインに火魔法も使う、リナは試合が始まるとすぐに自身の目の前に魔法障壁を5枚重ねて出した、そしてその魔法障壁を自分自身で押して相手に向かって特攻した
相手はすぐ風魔法を放ったが障壁が1枚消滅しただけで消える
リナは構わず特攻すると相手は軽くパニックになり何もせずリナとリナが押す障壁によって場外まで押し出された、この戦いはビクターの時とは違う衝撃と笑いを振りまいた、笑撃だった
バーネット先生も笑いながら
「魔法障壁をこんなふうに使うなんて初めて見たよ、ヤッパリ若さってのは可能性と同義ダネ、アイツらはアタシの中の常識をぶっ壊してくれるよ」
と、先生が絶賛する、爆笑しながら
そして俺も危なげ無く勝ち、パーティーメンバーは全員初戦を突破した
会場の片隅で5人の俺達とは色の違う制服を着た人達が
「あんな物は、この学園の生徒の戦い方では無い!!」と怒りを露わにしている
一方俺達は控室にて
「ラインハルトのおかげだよ」
「本当に!ラインハルト君のおかげで私も勝ち上がれたの、自分でも信じられないわ」
とビクターとリナが俺を持ち上げて言う
『アイデアを出したのは俺だが2人の努力が無ければこの結果は無かったよ、正直本当に出来るとは思わなかったけどね』
「ラインハルトは本当にとんでもない事を考えるな、まさか魔法障壁自体を使って攻撃して来るなんて誰も考え無いだろ」
「そうよね、このルール限定の戦法ではあるけど、初見でやられた方はたまったモノでは無いよね」
そう、これは場外負けがあるこの大会だからこその戦法だ、ただ応用は出来る
例えば味方が相手に不意に攻撃されそうな時に障壁を飛ばして相手にぶつけて相手との距離を離す事も場面によっては可能だ
場合によっては仲間に障壁をぶつける事で相手の攻撃を無理矢理回避させる事も考えられる
何気にコレが有効な場面は考えられるな、パーティーとしての戦い方にも幅が広がるな
などとみんなでワイワイやっていると
「アンタらはどこまで常識破りナンだい?」
とバーネット先生が現れた
「あんな魔法の使い方はアタシは教えてないのに、そのウチにアタシがアンタらに魔法の使い方を習わなきゃいけなくなりそうダネ〜」と上機嫌だ
「だけどね、調子に乗りすぎるんじゃ無いよ、アレ自体奇襲技みたいなモンさ、ネタさえ解れば対処の仕方だっていくらでも考えられる、って言っては見たけどアンタらは基礎もシッカリしてるからね」
「まあ、大丈夫だろ、またアタシに面白いモンを見せておくれよ」と言って帰っていく
「初めは恐い先生だと思ってましたが、本当はバーネット先生って優しいんですね〜」
戦い後は少しテンションが高かったリナが普段の落ち着いた様子で言うと、みんな笑いながら頷く
こうして俺達は無事?ベスト16に残った
次のラウンドではリナ対俺の試合が組まれている、此処からは仲間も含めた相手との勝負だ
ここまで読んで頂き本当に有難う御座います
ガーゼスは転生者ではありません、念のため




