第1話 スライムってこんなに強かったっけ!?
人は産まれ落ちた時点で何かしらの才能を持っているものだと僕は思う。運動神経が良かったり、容姿が良かったりとかね。
僕、日比野 真にも才能がある。人に自慢出来るような才能ではない。
超絶不幸体質。
小学生の時近所の子供が投げたボールがたまたま僕に当たり、よろけた先に1台の自動車が急ブレーキを掛けながら突っ込んで来た。四箇所骨折した。
登校では毎朝カラスの糞が落ちてくる。
犬の糞なんていくつ踏んで靴をダメにしたかなんて中学生で考えるのをやめた。
友達はいない。と言うより出来ない。遊びに誘っても必ず相手方に急用ができて毎度ドタキャン。いつしか誰とも関わらなくなった。
でも本当は関わりたい。
そんな時に思い出したんだ。
ゲームの世界なのに現実のように体を動かせ、NPCも最新のAIにより現実に劣らない会話が可能。そして、何よりも全てのプレイヤーが同じサーバーにいる。ゲームの世界でなら友達が出来るかも!なんて期待してる。
「いくら不幸体質でもゲームまでは響かないだろう。」そう思っていた。
僕は手にしたフルダイブ型VRゲーム『infinite stories』を装着し、起動した。今日から夏休み。何の気兼ねもなくゲームに集中できるんだ。
友達出来たらいいな。
【ようこそ】
【ここではゲーム中での貴方の名前、職業、外見を決める事が出来ます】
「おぉー!すげぇ!実は僕ゲームやるの初めてなんだよ!すげぇ!」
【そうですか さぁ選んでください】
本当に会話が出来るんだな…。
「んーと、まずは名前だな!そうだな、真から取って…。まぁ『シン』でいいか。」
【名前をシンで決定しました】
「次は職業か…。って、えええ!3つしかないの?!戦士、魔法使い、武闘家か…。戦士は物理、魔法を両立して使えて、魔法使いは魔法特化だな。武闘家は物理特化だな!んーーーー…まぁ戦士かな。戦士…決定っと!」
【職業 戦士で決定しました】
「次は外見か…。まんまって訳にゃーいかんからな。顔はほぼ一緒でいいとして、髪型は変えよう!そうだな…ちょっと伸ばして、髪色を変更で…ピンクにしよ!」
【外見の設定を終了しますか?】
「おう!決定!」
【以上にて初期設定を終わります。初期スポーン地点は『サルヴァナ』です。転送を開始します。】
ゲームの世界ならきっと…。
シュゥゥゥゥゥン
…
…
…
ビビビ シュゥゥゥゥゥン
【転送が終了しました infinite storiesの世界をお楽しみください】
「うぉぉ!すげぇ!ほぼ現実じゃねぇか!」
期待と興奮で胸がいっぱいだ!中学校に進級する『普通』の中学生はこんな気持ちなんだな!
「まずは…。お!あれは街かな?」
転送位置は街から1km程離れた場所。恐らく街に着くまでにモンスターが出てきてチュートリアル…って感じだろうな。まぁまずはあそこだ!
ガサガサ
「ん?お!スライムだぁ!…でもなんか某有名RPGよりキモイな…。とりあえず戦闘だ!」
チュートリアルは無いようだな。とりあえず武器を装備して切ってみよう。
「おらぁ!」
ガキン
「へ??鉄でも切ったのかよ!」
どうやら攻撃失敗らしい。このゲームでは攻撃は確定で当たるものでは無いらしい。時には失敗するようだ。
「まずい、攻撃がくる!」
スライムが力を貯めながらこちらに向かって突進をしてきた。
「避けなきゃ!…や、やば!つまづいた!くっ!だけどスライムなら1発は確定で耐えられるでしょ!?」
ゴスッ
「…ガハッ…痛恨の一撃…って…」
ステータス欄に『Dead』の文字。俺は死んだ。スライムに殺された。痛恨の一撃で。
幸いこのゲームではデスペナルティは無いようだ。最後にスポーン地点としたベッドもしくは初期スポーン地点に10秒後転送されるようなのだ。
シュゥゥゥゥゥン
「くっ!スライム如きに負けてたまるか!勝つまでやめねぇぞ!」
しかし見誤っていた。
ゲームに不幸体質は関係ないのだと。でも違った。
初期スポーン地点前のスライムとの戦闘回数2567回。死亡回数2567回。与ダメ0。被ダメ5134。
「…なんでだ?一体なんの冗談だ?」
プレイヤースキル云々の話では無いはずだ。スライムが確定で痛恨の一撃を打ってくるのだ。
「あーそうか!こいつスライムの形をした魔王か!だから強いのかー!」
このスライムと戦っている間に他の新規冒険者達は既に最初の街に到着している始末。俺自身悲観的になるよりも先に、おつむがイカれてしまった。めげずに戦い続けた。認めたくなかった。ゲームなら不幸体質は関係ないと思っていた。
でも、今思えばこの出来事によって後の自分が形作られていった。
死亡回数10000回。与ダメ0。被ダメ20000。
【超級 不屈の獲得条件を満たしました】
【上級 弱者の獲得条件を満たしました】
【伝説級 反逆者の獲得条件を満たしました】