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異世界心霊奇譚 追放・ざまぁ・今さらもう遅い

作者: 多比良栄一

 使えない仲間をパーティーから『追放』する——

 この世界ではよくある話です。

 ライリスというリーダーも、役立たずになったデザストという男を追放しました。

 そう、ただ追放しただけです。

 ところが、これが予想外の事件に発展し、ついには魔法庁まで乗りだす事態となったのです。これがよく言われる『ざまぁ』、『今さらもう遅い』っていうことなんでしょうか。

 ですが、『追放』したていどの見返りが、こんなことになるとは、彼もきっと想像してなかったと思いますよ—— 


   第7話 追放・ざまぁ・今さらもう遅い

 ドオォォォンと物々しい音が響いて、石の扉が閉じた。


 ロマンツェ・カルビッチはその音に耳をすませた。


 この扉が閉じられる音を聞くのは、はじめてのことだった。

 おそらくここが閉じられたのは、過去500年で数度あったかどうかのはずだ。


 それほどの大事がおきたということにほかならない。

 ロマンツェはわずかに身震いした—— 


 だが、彼はそんな気持ちは微塵もみせず、顎をくいっとあげてそのまま、一番奥の部屋にむかった。通路の両側には3メルトごとに10人の衛兵が配置している。彼らはこの魔法庁でも屈指の剛力かつ術者の精鋭ばかりだ。


 奥の部屋の扉もぶ厚い扉だった。ダイヤン=モンドよりも硬いと言われるローンズデライト鉱で作られ、その厚さはゆう1メルト近くあった。


 部屋は天井が20メルト、ちょっとした競技会がひらけそうな広さだった。

 その真ん中にぽつんと、長机と椅子が二脚用意されていた。 

 一方の椅子には、後ろ手に枷をつけられた男が座っていた。


 ロマンツェが部屋のなかにはいると、すぐに扉が外から閉められた。

 ズズズズズといういやな音がして、ドーンという空気を震わせるような轟音とともに閉まった。こんなにひろい空間にいるのに、ロマンツェはまるで石棺のなかにでも閉じこめられたような気分にとらわれた。


 ロマンツェは男と反対側の椅子に座ると、目の前の男に名乗った。

「わたしは、魔法庁、警備局長ロマンツェ・パーシバルである」


 男はゆっくりと顔をあげてロマンツェを見た。


「勇者ライリス・ハーランでまちがいないな」

「はい」

「勇者ライリ……いや、ライリス…… おまえには、ハメン王国とルードロン公国を滅ぼした嫌疑がかけられている」

「えぇ、そう……らしいですね」

 目の前の容疑者が弱々しい声でそう答えた。

 げっそりと痩せこけた頬、目は落ちくぼみ、顔に無数の皴が刻まれている。見てくれだけならば、自分とそう変わらない年齢にみえる。

 だが調書に記された実年齢から考えると、倍ほども歳をくってみえる。


 すくなくとも2つの国を滅ぼした男には見えない——


「カルビッチ局長……」

 ライリスがおずおずと発言してきた。あきらかに落ち着かない様子で、このひろい部屋のいたるところをきょろきょろと見回している。

「魔導士は……魔導士はここにいるのですか?」

 ロマンツェはライリスのおびえている様子に驚いた。

 彼にかけられた嫌疑と目の前の男が、どうやっても結びつかない。


「心配するな。魔導士はちゃんと配置している」

 そう言って指をパチンとならした。


 四人の魔導士がふっと姿をあらわした。

 長机を取り囲むように四箇所——

 もし暴れだしたり、詠唱呪文を唱えたりした場合、すぐに抑え込めるほどの近い距離に彼らは陣取っていた。


「この四人はこの魔法庁の魔導士長官だ。とくべつに来ていただいた」

「ああ……存じています。四天王ですね。それはありがたい」


「ありがたい?。ライリス、おまえはここ100年で最重大な事件の犯人とされているのだぞ。おまえの力がどれほどか、わからぬゆえ、この魔法庁の地下牢、最下層の9階に封印して取り調べをすることになったのだ」


「それくらいしてもらわないと困るんですよ」


「なにが困るというのだ。魔法庁局長のわたしみずからが、一罪人のために取り調べをおこなうなど、前代未聞だというのに」

「それでも足りないんですよ。ほんとうにここは安全なんですよね?」


「安全? ああ、安全だとも。おまえがどんなすごいスキルがあろうと、どんな魔法を使えようとも、ここからでることはできん。元々、ここは魔王を封じ込めるために作られた牢だからな」


「上の階はどうなんです?。魔導士はいるのですか?」


「あたりまえだ。この地下9階までの各階には大賢者級の魔導士を配置している。そのうえ全員で強烈な魔方陣で結界をはっている」

 ロマンツェは天井や壁のほうを指し示した。

「たとえ魔法を使おうとしても、ここは『魔岩石』の岩盤をくりぬいて作った施設だからな。どんな魔法を使っても破壊はできない。逃げようとしても逃げようがないのが、この牢獄なのだ」


 ライリスがおおきく息をはきだした。

 こころなしか蒼ざめていた顔に、いくぶん血の気が戻ってきたように見える。


「あぁ……よかった……」


「よかった? おまえの嫌疑が晴れなければ、おまえはここから一生出られないというのにか!」

 ロマンツェはつい声を荒げた。



「デザストを追放したんです」

 ライリスがとうとつに言い放った。

「は?」

「3年前、わたしはパーティーの厄介者だった、デザストという男を追放したんです」


 

 ライリスは3年前の話を語りはじめた——

  

 ライリスのパーティーに所属していた、デザストは物見(スパイ)のスキルをもつ男だった。だが生来の大飯食らいがやめられず、動作が鈍重になり、まともに任務を果たせなくなった。しばらくは雑用係として使っていたが、ある日、仲間と話しあって追放したということだった。


「いつか復讐してやるからな!」 

 追放を言い渡したとき、デザストはさんざんな悪口雑言を喚き散らしたあげく。そう捨てぜりふを吐いて去っていった。彼はたいしたスキルや戦闘能力もないのに、魔法を勉強したり、剣術を鍛えたりもせず、ただ自分は『最強』だとうそぶくなど、プライドだけは高い男だった。


 だがこのデザストは追放後しばらくして、その(おご)った態度が原因で、ある魔導士に呪いの魔法をかけられてしまったという。

 その魔法によってデザストに、狂乱のスキルが与えられることになる。


 大喰らいスキル『グリード』——


 なんでも喰らって、自分のものにするというスキルだった。

 デザストは戦士の技術や、魔導士のスキル、賢者の魔法を喰らい、すべてを自分のものにしていきはじめた。

 その強さは異次元レベルにまで達しているという噂があったが、その戦いの対象が魔物や怪物ではなく、ほかの冒険者にむけられていると聞き及んで、ライリスたちは危機感を覚えた。

 このままでは冒険者たちが根絶やしになるだけでなく、いずれ自分たちにも、災厄がふりかかりかねない。そうライリスたちは判断した。


 デザストを葬らなければならない——


 ライリスたちが下した決断は、じつに重たいものだった。彼らは自分たちの冒険の旅を中断して、デザストを殺すために罠をしかけた。


「罠をしかけた? どんな罠を?」

 ロマンツェは尋ねた。


「魚人族が棲む湖へ誘いこんだんですよ」

「魚人族! あれは一人に数十匹……いや数十人で襲いかかって、鋭い歯で食いちぎると聞いているぞ。海のゴブリン、いや、水のなかだからゴブリンごときの手強さではないだろう」

「ええ…… 確実に葬れると思っていました……」


「ですが、彼の持つ『グリード』というスキルは、亜種の生物とはじつに食い合わせがわるかったんです」

「どういう意味かね?」


「水のなかに落ちたデザストは、われわれの目論見どおり、ものすごい数の魚人族に襲われ、からだをついばまれていきました。あらゆる部位がみるみる、骨だけになっていくのをみて、われわれはデザストが絶命すると確信しました。ですが……」

 ライリスは首を横にふった。

「デザストはそんな状態になりながらも、逆に魚人を喰らいはじめたんです。喰らいながら、魚人族のからだの特徴を、自分のからだに取り入れた……」

「取り入れた?」


「水のなかからあがってきたデザストは、すっかり別の生物に変わっていました。からだこそでっぷりとした、怠惰(たいだ)なデザストのからだでしたが、首から上は魚の顔になっていたんです」 


 どろんと白濁したおおきな目——

 顎がつきだし、ギザギザとした小さな歯が並ぶ。

 そんな不気味な頭が、人間の肩幅そのままのおおきさでぬっと突きだしている。その首の根元付近にはエラがあり、呼吸のたびに開いたり閉じたりしていた。エラが膨らむたびに、内側の鮮血のようにぬらぬらと赤い襞が見え隠れする。


 ロマンツェはぶるっと身震いした。

 想像するだけでおぞましい——

 

「さらに力を増したデザストを、わたしたちは火山に呼び込みました。ドラゴンに喰わせようとしたのです」

「ドラゴンだと!」

「ええ、もっとも凶暴なレッド・ドラゴンです……」


「魚の化物はドラゴンのいい餌でした。ドラゴンの口から吐き出す火炎を浴びて、デザストは黒焦げにされたあげくドラゴンに喰われました」

「それならひと安心……」


「10日後、ヤツはドラゴンの腹を食い破って、そとにでてきたんです」



「ヤツはさらに別の生物へと変貌していました。魚人族とドラゴンの掛け合わせの……」


 見開いたままの魚人のガラスのような目——

 だが、口元は前に突きだし、大きく鋭い牙をそなえたドラゴンになっていた。先鋭的な顔つきのドラゴンに、うろんとしたおおきな目は、じつにアンバランスで、見るものに不安しか与えないような、不気味さがきわだったものだった。

 頭部には魚の背びれとも、ドラゴンの羽根ともつかない鶏冠(とさか)があり、威嚇するようにそれを逆立てていた。

 背中からはつきだした羽根は翼竜のものというより、猛毒をもつ派手な紋様の魚の、おおきなヒレを思わせた。


「そ、それはほんとうにデザストなのかね……」

「ええ。残念ながら…… あいつの足首にはライリス・パーティーの仲間の証、三本剣の紋章のタトゥーがありましたから……」

「そ、そうか……」

 ロマンツェは自分でも驚くほど、落胆した声で言った。


「それでそのあと、どうしたのかね……」

「はい。危険すぎると思いましたが、巨大蜘蛛、タランチュの巣へおびき寄せました」

「タランチュの巣へ? 大賢者でもあいつには手をやくと聞いたが?」


「ええ。わたしたちも追い詰められてましたからね」

 そう言ってライリスは、天を仰いだ。そして上を見あげたまま言った。

「この作戦のために、戦士アランが命を投げだしました。デザストを追放する決断をくだした、自分たちのけじめだと言ってね」

「仲間を……うしなったのか……」


「ええ…… でもアランの捨て身の作戦はうまくいきました。デザストはアランともども、タランチュの巣にかかって身動きできなくなりました。あとは糸にまかれて(まゆ)になってしまえば、それで終わりのはずでした……」


「だけど半年後、タランチュがその(まゆ)に卵を産み付けたんです」


 ロマンツェはどうなったのか想像したくなかった。ここまでの話を聞いていれば、どういう顛末になるか、予想がついたからだ。


「繭を食い破ってでてきたデザストは、八本脚で歩き回っていました。しかもからだからは、四つの頭が生えていたんです」

 

 気味の悪いまだらの毛におおわれた蜘蛛のからだから、正面・後方・右・左と四方向から頭が生えていた。どちらが正面かはわからない。だがどこから近づいても、どの頭かとかならず目があった。

 からだからは鋭い鍵爪をもつ、太く節くれだった八本の脚がつきだし、嫌悪感をもよおすカサカサとした音をたてて、自在に動きまわっていた。

 そしてなによりこの蜘蛛は、ドラゴンの羽根で飛ぶことができた。



 ライリスは話を続けた。


「わたしはアランをうしなって判断能力をうしなっていたんでしょうね。南ラークンにあるオーガ族に始末させる選択をとりました」

「南ラークンのオーガの里だとぉ! あそこは魔物ですら、避けて通ると言われるほどの蛮族の集まりだぞ!」

「でもデザスト相手には通用するはずないでしょう。はじめからわかってたんですよ。でも、あのときはそれにすがるしかなかった……」


「南ラークンのオーガでも歯がたたなかったのか?」

「あたりまえでしょう。まったくこの選択はまちがいでした」


「なにがまちがえていたんだね?」

「なにもかもですよ。あそこに手をだしてはいけなかったんです…… 弓使いのオルフェンが切り刻まれ、わたしも大怪我を負い、ほうほうのていで逃げ出しました」


「デザストは! デザストはどうなった?」

 ロマンツェは声を荒げて、先を急がせた。

 いつの間にか役職をわすれ、ライリスの話に引き込まれているとわかっていたが、ロマンツェは興味を抑えきれなかった。


「戦士の戦闘能力に、魔導士のスキル、大賢者の魔力を持っている上に、魚人とドラゴンと巨大蜘蛛タランチュの力まであるんですよ。いくら蛮勇でも、オーガごときが、彼の相手になるはずなかったんです」


「オーガは燃やされたり、溶かされたり、潰されたりして……喰われました」


 四つあるうちのひとつの頭がオーガに変化していた。どろっと溶けたオーガの頭——

 その醜いオーガの顔が、真ん中からパカッと裂けた。

 頭が両側にべろんと垂れて、顔の断面がむきだしになる。

 だが、半分に割れた顔の断面には、顔の両側を橋渡しするような筋ばったものがあった。まるで人間の肋骨を思わせる節くれだった筋繊維だ。

 よく見ると両側の切り口の表面から、菌糸のような粘液が糸をひいている。

 人食い植物の葉っぱが、誘引液を滴らせながら誘っているようにしか見えない。

 デザストの二つ目の頭は、顔が半分にわれたまま、ケタケタと笑った。



「海へ……」

 ライリスはぼそっと呟いた。

「大海に沈められないかと考えました……」

「もしかして……クラーケンか?」

「さすが魔法庁局長ですね。わたしとおなじ考えだ」

「ああ、あのイカのバケモノは、倒すための有効な魔法もなければ、魔力に守られた表皮は剣や矢でも貫くのがむずかしい。一度あの触手に絡まれて、水底へ引きずりこまれたら、逃れる術はない——」

「ふつうはそうです。ですがデザストはすでに魚人を取り込んでいた。海底を引きずり回されながらも、機会をうかがって、とうとうクラーケンを喰った……」


 まだ変化していなかった残りふたつの頭のひとつが、変貌をとげていた。

 それはクラーケンの脚が顔中に貼り付いたような顔だった。

 顔中が吸盤のついた触手におおわれ、ぐにゅぐにゅと(うごめ)いている。目や耳などは退化してなくなり、わずかに白濁した窪みがその名残として見てとれるだけだ。顔を這い回る触手の真ん中には、縦に大きく開いた口。顎から額までが裂けるように、ゆっくりと開いていくと、いびつに生えた歯が見えてくる。

 彼は咽喉の奥にまで何列にも並ぶ、鋭く尖った歯をむきだしにして威嚇してきた。




「大賢者モースが申し出たのです」

 ライリスが両手で目をおおいながら言った。くちびるがふるえて、いまにも泣きだしそうに見える。

「追放に賛成した自分がけじめをつける、と……」


「大賢者モースが? この世界でも十指にはいる術の使い手だぞ。おまえのパーティーにいたのか?」

「はい。わたしの才を気に入っていただき、過分にもパーティーに加わっていただきました」

「モースがいながら、なぜここまでデザストをとめられなかったのだ?」

「モースの魔法をヤツが喰らったからです。どの魔法を使っても、同等の魔法で跳ね返されたんです」

「あのモースの秘中の魔法まで、複製したというのか」

「自分と戦っているようなもので、どうやっても攻略ができなかったのです」


「彼は…… モースは砂漠を選びました」

「サ、サンドワームだな」

 ライリスは弱々しく首を縦にふった。

「わたしはモースに激しく抗議しました。だが、聞き入れてもらえなかった」


「土の神と崇められているサンドワームの力を借りるのだから、自分の命を捧げなければならないと……」


 体長100メルトはある大きなイモムシのような怪物サンドワーム。口のまわりには針のような歯が無数に並んでいて、この大地に足を踏み入れる者を、だれかれ構わず飲み込み、かみ砕く。 

 モースは魔法の力で自分とデザストを結束したまま、そのままサンドワームの口に飛び込んだ。ふたりはその鋭い歯でからだを貫かれ、引き裂かれ、ぐちゃぐちゃに潰された。


 それでもデザストは死ななかった——


 四つの頭のうち、変化していない最後の頭が変貌した。

 それは若かりし頃のデザストの顔だった。

 出会った頃を思いださせる、すっと引き締まったデザストの顔——


 次の瞬間、ぶしゅっとなにかがはじける音がして、その顔のまんなかにおおきな穴があいた。その穴から、ぬるりとしたイモムシのような生物が顔をのぞかせる。その顔の部分には針のような歯が無数に並んでいた。

 まるでサンドワームの幼生のような生物だった。

 顔の裂け目のなかを、うねうねとワームが(うごめ)いているのがみえる。と、そのワームのからだをつきやぶって、別のワームの頭がつきだした。そしてその個体をつきやぶってさらに別のワームがでてくる。

 ワームが別のワームのからだを食い破ってでてくるたび、ぶしゅ、ぶしゅっと不快な音がして体液がしたたる。

 

「タクラモン砂漠での、モースの命懸けの賭けも実りませんでした」

「タクラモン…… ハメン王国とルードロン公国に隣接する砂漠ではないか!」

「ええ、わたしはそのふたつの国に逃げ込みました。ですが、パーティーの最後の生き残りであるわたしを、デザストは許さなかったのです」 

「そ、そんなバカな…… で、では、あの二国が全滅したのは、デザストのせいだと?」

「最大限の努力ははらいましたが……」


「嘘をつくでない」

 ライリスの背後で声がした。

 いつのまにか姿を隠して静観していたはずの魔導士たちが姿を現わしていた。

「大賢者モースがそのようなことで死ぬわけがなかろう」

「そうじゃ。罪を逃れたくて、適当な話をでっちあげているのだろう」

「そもそも『グリード』なるスキルなど聞いたことがないわ!」


 四人の大魔導士長官が口々に、ライリスを非難しはじめた。

「大魔導士長官たちよ。わたくしが取り調べをしているのです!」

 ロマンツェが声を荒げた。

「脇から口をださないでいただきたい。あなたたちの仕事は、この地下牢の結界を……」


 そのとき、かすかに地面が揺れた。

 

 なに?


 ロマンツェはこめかみに指をあてると、遠く離れた場所にことばを伝える魔法『念波』を使って、『念波士』を呼びだした。

『念波士! いったなにがあった?』

『局長、も、申し訳ありません。なにものかがこの魔法庁内に侵入したとの報告がはいっています』

『なにものかが侵入した?。いったいなにがだ?』

『未確認なのですが、魚人の顔をした——————』


 切れた。

 いや、ちがう。断ち切られた——


『地下二階ぃぃぃ、地下一階の念波士はどうなった!』

『わ、わかりません』

『突然切れたぞ。念波が一瞬で切れるなんて、聞いたことがない』

『ええ、ええ。その通りです、局長。念波士は死んでも、念波を送り続ける術をもっています。一瞬で頭を吹っ飛ばされたりしない限り、念波が途切れるなんてないはずなんです。でも……彼の生体反応は消えたままなんです』


『そちらはどうなってる? 地下二階の状況はどうだ?』

『わかりません。ですが……』

 意識のむこうで、ドーンというなにかが崩れる音がした。

『あ、あ、おおきな、く、く、蜘蛛が現わ————』


 念波士の意識が瞬時になくなった。

「蜘蛛だとぉ……」


「あぁ、それならデザストですよ」

「デザストだとぉ?」

 ロマンツェの声は裏返っていた。


「でも、ここなら大丈夫なんでしょ。各階に大賢者を配しているし……」


 そのとき、横にいた大魔導士長官のひとりが叫んだ。

『なんじゃとぉ、地下二階が水責めを受けて全滅じゃとぉ!!』



 時間経過とともに、各階からの悲痛な叫びが報告されてきた。

 糸でまかれてからだの自由を奪われて、生きたまま喰われている地下三階の兵士——

 ドラゴンの吹きかける炎で焼き尽くされる地下四階の僧侶——

 触手についた吸盤で精気を吸い取られて、ミイラ化していく魔導士——

 無数のワームの鋭い牙に襲われ、身体中に穴が開けられていく賢者——


「そ、そんな……」

 ロマンツェは声をうしなった。


「ちょっと待ってください、局長! ここは安全なんじゃなかったんですか!」

 ライリスが怒りを露にして立ちあがった。

「あなたは安全だと言ったじゃないですか!」


「ここまで……ここまで到達するはずが……そんなことできるわけがない……」

 ロマンツェはなかばうわ言のようにつぶやいた。


「でもどの階でもデザストを止められてないじゃないですか!!」

「精鋭なんだ…… ここにいるのは精鋭ばかりなんだ。これ以上揃えられないほどの……」


「そうですか……」

 ライリスはため息をついて、椅子にふかく腰をおろした。

「魔法庁の精鋭でもだめでしたか……」


「だめじゃない。駄目なんかじゃないっっっ!」

「でも、もう地下六階まで来ている」


 ドーンという大きな破壊音がして、地下の広間が大きく揺れた。天井から剥落した石の欠片がふってくる。


 ロマンツェの足はがくがくと震えていた。あたりをみまわすと、大魔導士長官たちはその場に膝をついて、必死になにか詠唱していた。

 だがその姿はただの命乞いにしか見えなかった。


 どこかでひとの悲鳴が聞こえたような気がした。

 声が届く距離にまで到達したのかもしれない。


 つまり魔導士や賢者の、魔術もスキルも魔方陣も詠唱魔法も——


 まったく役にたっていないということだ。


「ラ、ライリス、われわれはどうすればいい?」

 ロマンツェはおもわずまぬけな質問をした。


 ライリスは力なく首を横にふった。

「局長、もう間に合わないですよ。わたしはあきらめました。この魔法庁でも防げないのなら、この世界にわたしの居場所はない」


 ものすごい振動が真横から近づいてくるのがわかる。

 ついに最下層、地下9階に到達したのだ。


「でも……局長、どうなんでしょう……」

 ライリスは達観したような口調で訊いた。


「ヤツはザマァみろ、と思ってるんでしょうかね?」




「いまさらもう……遅い……ですよね」


【※大切なお願い】




少しでも


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さて、お楽しみいただけましたでしょうか?


え、まだまだこんな奇妙な話が聞きたい?


ではこの話はどうでしょう?




■ゴブリンの首塚


 若い女を生け贄にして、災厄をさけようとする風習は、悲しいことに、この世界ではいたるところに存在します。

 ゴブリンの首塚と呼ばれる場所も、かつてそのような風習のための、祭壇のひとつとして使われていました。村の安寧(あんねい)は、うら若き女性たちの犠牲のもとに保たれることができました。ですが、ゴブリンに囚われた女性たちは、どうなったと思いますか?

 ゴブリンに殺される? 食べられる?

 いいえ——

 想像するのもおぞましいほどの、悪夢のような目にあわされるのです。


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