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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

夏のホラー2021『かくれんぼ』

WIN-WIN

作者: 小畠由起子

※幼年童話風のホラーですので、そこまで怖くないと思います。怖いお話が苦手な方も(たぶん)お楽しみいただけると思います(*^_^*)

「あれ、もしかしてお客さんかなぁ?」


 バッケがふわふわと浮かびながらいいました。


「でも、お客さんなんて来るかなぁ? ぼくたちがいるのにさ」


 ドロロンが首をかしげます。


「でも、お客さんだったらうれしいなぁ」


 ユーラがニコニコ顔で玄関のほうを見ます。

 ここはさびれた旅館です。というよりも、バッケ、ドロロン、ユーラの三体がいるから、さびれてしまったといったほうが正しいでしょうか。もともとはそこそこお客さんが来る、活気のある旅館だったのです。


「あれれ、お客さんじゃないみたいだね」


 バッケががっかりしたように玄関を指さしました。ドロロンが玄関を開けて、入ってきた男の人を見て、「あっ」と声をあげます。


「まずいよ、あの人、神主さんだよ!」

「神主さんって……だあれ?」


 ユーラがにっこりしてからドロロンに聞きます。でも、ドロロンはあわてた様子でユーラの手をつかんだのです。


「話はあとだ、二人とも早くかくれるよ!」

「でもさ、ぼくたちは普通の人には見えないんだ。まぁ、おどかすときに、見えるようにすることはできるけど、とにかく見えないんだし、放っておいてもいいんじゃないの?」


 のんきそうにいうバッケに、ドロロンはむぅっとくちびるをとがらせました。


「とにかくダメだよ! 神主さんは、ぼくたちのことだって見えるんだよ! それにね、ぼくたちをこの世から消しちゃうことだってできるんだから!」

「消しちゃう?」


 思わず二体が同時に聞き返します。ドロロンは(おばけなのに)真っ青な顔になってうなずきました。


「そうだよ、神主さんは、ぼくたちみたいなおばけを消しちゃうのが仕事なんだ! だから今すぐ隠れよう! そうしないとぼくたち」

「おーい、待ってくれ、君たち、なんにもしないから降りてきてくれないか?」


 突然声をかけられて、ドロロンたちはみんな固まってしまいました。そのまま一目散に逃げようとするのを、神主さんはあわてて引き止めます。


「あぁ、待ってくれ! 違う違う、わたしは君たちを消そうとなんてしていないんだ! お願いだから、話だけでも聞いてくれないか?」


 三体の中で一番飛ぶのが遅いユーラが、ちらりとふりむきました。バッケとドロロンがユーラの手をつかもうと戻ってきましたが、ユーラは二体に首をふりました。


「ねぇ、でもさ、お話くらいは聞いてあげてもいいでしょ? あのおじさん、なんだかかわいそうだわ」

「なにいってるんだよ! ぜったいあいつ、ぼくたちをだまして油断させて、それでお祓いしようって思ってるんだ! その手は絶対食わないぞ! ……って、あっ、ユーラ!」


 二体が止めるのも聞かずに、ユーラはふわふわと神主さんの近くに飛んでいきました。好奇心旺盛な目で見つめるユーラに、神主さんはにっこり笑います。


「ありがとう、お嬢ちゃん。……君たちは、いったいいつ頃くらいからこの旅館に住み着いているんだね?」

「えっ、うーん……わかんないけど、けっこう前からだよ」


 神主さんはなるほどとうなずきました。


「それじゃあ、ここを出ていったりはしたくないよね?」

「も……もちろんじゃないか! やっぱりお前、ぼくたちを追い出しに来たんだな! 帰れ!」


 ドロロンがどなりつけますが、神主さんは気にした様子もなく、軽く首を横にふりました。


「とんでもない。わたしはね、君たちに面白い遊びを教えにきたんだよ」

「……面白い、遊び?」


 ぽかんとする三体に、神主さんは笑って続けました。


「そうさ。君たち、『かくれんぼ』って遊びは知っているかな?」

「……かくれんぼ?」


 三体は顔を見合わせました。


「そう、かくれんぼだよ。でも、その様子じゃ知らないみたいだね。いいかい、かくれんぼっていうのは……」


 神主さんは、かくれんぼの遊びかたを手短にまとめて三体に教えてあげました。最初は警戒していたバッケとドロロンも、だんだんと目をきらきらさせて神主さんの話に耳をかたむけます。


「……じゃあ、鬼に見つからないようにかくれればいいんだね」

「そういうことさ。そして、鬼はわたしがやろう。……でも、わたしはいつやってくるかわからないから、みんなしっかり隠れていないと、すぐに見つかっちゃうからね」

「ぼくたちは隠れるのが大の得意技なんだ! そんな簡単には見つからないよ!」


 ぷくっとふくれるドロロンに、神主さんはふふっとほほえみました。


「なるほど、それじゃあなかなか手ごわそうだね。……あっ、でも、鬼はわたしだけじゃなくて、この旅館の女将さんたちもだから、気をつけておくれよ」

「えっ、そんなぁ、ずるいよ!」


 バッケがむぅっと神主さんをにらみつけます。ですが、神主さんはなにくわぬ顔で首を横にふったのです。


「だってわたしは、そんな頻繁にくるわけじゃないんだ。年に一、二回しか来ないのに、わたしだけが鬼だったら、君たちも退屈するだろう? だから女将さんたちに話して、君たちがどこかにいないか見張ってくれるようにお願いしたんだ」

「そんなぁ……」


 肩を落とすドロロンに、神主さんは元気づけるように声をかけます。


「そうがっかりしないで。君たちは女将さんやお客さんを驚かすのと同じくらい、隠れるのが上手いだろう? それなら大丈夫さ。うまく隠れられるよ」

「……そうかなぁ?」

「なんだい、自信がないのかい?」


 神主さんに聞かれて、ドロロンはムッとした顔で首を横にふります。


「そ、そんなことないよ! よーし、それじゃあ絶対見つからないようにしてやるからな!」


 気合を入れるドロロンに、バッケとユーラも楽しそうにうなずきます。神主さんはホッとしたように笑って、それから思い出したようにつけくわえました。


「あ、そうだ、かくれんぼも面白いけど、ずーっとかくれんぼばっかりじゃ君たちも退屈するだろう? だから、そうだねぇ……。一番暑い季節になったら、君たちもほかの遊びをしたらいいよ。そのときだけは、女将さんたちの前にすがたを現してもいいからさ。驚かしたりし放題だよ」


 この神主さんの言葉には、三体とも大喜びです。やったぁと天井までふわりと浮かびあがります。


「それじゃあ決まりだね。がんばってすがたを隠してね……って、もういなくなってるのか」


 いつの間にか、三体ともすがたを消していたのです。霊感がある神主さんでも、そのすがたを見つけることはできませんでした。神主さんは満足そうに笑って、それから玄関を出て旅館をあとにするのでした。


 ――ふふふ、うまくいったな。これであの子たちはかくれんぼに夢中になるだろうし、しかも年に一度はすがたを現すんだ。そこで客たちをおどかしまくれば、またわたしも呼ばれるだろう。けっこうな謝礼金をもらえるし、こんなおいしい仕事を、祓ってなくすなんて罰当たりなことはしちゃいかん。わたしもふところが肥えるし、あの子たちも楽しめるし、旅館も夏にだけしか幽霊たちが出なくなるんだ。まさにこれがWIN-WINってやつだな――


 ほくそ笑みながら、神主さんはもらった謝礼金で、どんなおいしいごちそうを食べようか、さっそく考えているのでした。

お読みくださいましてありがとうございます(^^♪

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― 新着の感想 ―
[良い点] 俗っぽいながらも機知に富んだ神主さんの、清濁併せ呑んだ解決策が痛快ですね。 オバケ達は安住の地を見つけられ、旅館も夏以外は霊障が起きなくなるのですから、確かに丸く収まっていますね。 また、…
[良い点] かなり捻ったかくれんぼで、ちょっと感心しました。 たしかにWIN-WINなところもいい。 驚かすだけで、それ以上をしないから成り立つ話ですよね。 [気になる点] これなら悪霊化もしなさそ…
[一言] 神主さんの腹黒さにびっくりなお話ですね(笑)最初いい人だと思っていました。いつかそれがおばけたちにバレて呪われないようにしたいものですね~。 読ませていただきありがとうございました。
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