WIN-WIN
※幼年童話風のホラーですので、そこまで怖くないと思います。怖いお話が苦手な方も(たぶん)お楽しみいただけると思います(*^_^*)
「あれ、もしかしてお客さんかなぁ?」
バッケがふわふわと浮かびながらいいました。
「でも、お客さんなんて来るかなぁ? ぼくたちがいるのにさ」
ドロロンが首をかしげます。
「でも、お客さんだったらうれしいなぁ」
ユーラがニコニコ顔で玄関のほうを見ます。
ここはさびれた旅館です。というよりも、バッケ、ドロロン、ユーラの三体がいるから、さびれてしまったといったほうが正しいでしょうか。もともとはそこそこお客さんが来る、活気のある旅館だったのです。
「あれれ、お客さんじゃないみたいだね」
バッケががっかりしたように玄関を指さしました。ドロロンが玄関を開けて、入ってきた男の人を見て、「あっ」と声をあげます。
「まずいよ、あの人、神主さんだよ!」
「神主さんって……だあれ?」
ユーラがにっこりしてからドロロンに聞きます。でも、ドロロンはあわてた様子でユーラの手をつかんだのです。
「話はあとだ、二人とも早くかくれるよ!」
「でもさ、ぼくたちは普通の人には見えないんだ。まぁ、おどかすときに、見えるようにすることはできるけど、とにかく見えないんだし、放っておいてもいいんじゃないの?」
のんきそうにいうバッケに、ドロロンはむぅっとくちびるをとがらせました。
「とにかくダメだよ! 神主さんは、ぼくたちのことだって見えるんだよ! それにね、ぼくたちをこの世から消しちゃうことだってできるんだから!」
「消しちゃう?」
思わず二体が同時に聞き返します。ドロロンは(おばけなのに)真っ青な顔になってうなずきました。
「そうだよ、神主さんは、ぼくたちみたいなおばけを消しちゃうのが仕事なんだ! だから今すぐ隠れよう! そうしないとぼくたち」
「おーい、待ってくれ、君たち、なんにもしないから降りてきてくれないか?」
突然声をかけられて、ドロロンたちはみんな固まってしまいました。そのまま一目散に逃げようとするのを、神主さんはあわてて引き止めます。
「あぁ、待ってくれ! 違う違う、わたしは君たちを消そうとなんてしていないんだ! お願いだから、話だけでも聞いてくれないか?」
三体の中で一番飛ぶのが遅いユーラが、ちらりとふりむきました。バッケとドロロンがユーラの手をつかもうと戻ってきましたが、ユーラは二体に首をふりました。
「ねぇ、でもさ、お話くらいは聞いてあげてもいいでしょ? あのおじさん、なんだかかわいそうだわ」
「なにいってるんだよ! ぜったいあいつ、ぼくたちをだまして油断させて、それでお祓いしようって思ってるんだ! その手は絶対食わないぞ! ……って、あっ、ユーラ!」
二体が止めるのも聞かずに、ユーラはふわふわと神主さんの近くに飛んでいきました。好奇心旺盛な目で見つめるユーラに、神主さんはにっこり笑います。
「ありがとう、お嬢ちゃん。……君たちは、いったいいつ頃くらいからこの旅館に住み着いているんだね?」
「えっ、うーん……わかんないけど、けっこう前からだよ」
神主さんはなるほどとうなずきました。
「それじゃあ、ここを出ていったりはしたくないよね?」
「も……もちろんじゃないか! やっぱりお前、ぼくたちを追い出しに来たんだな! 帰れ!」
ドロロンがどなりつけますが、神主さんは気にした様子もなく、軽く首を横にふりました。
「とんでもない。わたしはね、君たちに面白い遊びを教えにきたんだよ」
「……面白い、遊び?」
ぽかんとする三体に、神主さんは笑って続けました。
「そうさ。君たち、『かくれんぼ』って遊びは知っているかな?」
「……かくれんぼ?」
三体は顔を見合わせました。
「そう、かくれんぼだよ。でも、その様子じゃ知らないみたいだね。いいかい、かくれんぼっていうのは……」
神主さんは、かくれんぼの遊びかたを手短にまとめて三体に教えてあげました。最初は警戒していたバッケとドロロンも、だんだんと目をきらきらさせて神主さんの話に耳をかたむけます。
「……じゃあ、鬼に見つからないようにかくれればいいんだね」
「そういうことさ。そして、鬼はわたしがやろう。……でも、わたしはいつやってくるかわからないから、みんなしっかり隠れていないと、すぐに見つかっちゃうからね」
「ぼくたちは隠れるのが大の得意技なんだ! そんな簡単には見つからないよ!」
ぷくっとふくれるドロロンに、神主さんはふふっとほほえみました。
「なるほど、それじゃあなかなか手ごわそうだね。……あっ、でも、鬼はわたしだけじゃなくて、この旅館の女将さんたちもだから、気をつけておくれよ」
「えっ、そんなぁ、ずるいよ!」
バッケがむぅっと神主さんをにらみつけます。ですが、神主さんはなにくわぬ顔で首を横にふったのです。
「だってわたしは、そんな頻繁にくるわけじゃないんだ。年に一、二回しか来ないのに、わたしだけが鬼だったら、君たちも退屈するだろう? だから女将さんたちに話して、君たちがどこかにいないか見張ってくれるようにお願いしたんだ」
「そんなぁ……」
肩を落とすドロロンに、神主さんは元気づけるように声をかけます。
「そうがっかりしないで。君たちは女将さんやお客さんを驚かすのと同じくらい、隠れるのが上手いだろう? それなら大丈夫さ。うまく隠れられるよ」
「……そうかなぁ?」
「なんだい、自信がないのかい?」
神主さんに聞かれて、ドロロンはムッとした顔で首を横にふります。
「そ、そんなことないよ! よーし、それじゃあ絶対見つからないようにしてやるからな!」
気合を入れるドロロンに、バッケとユーラも楽しそうにうなずきます。神主さんはホッとしたように笑って、それから思い出したようにつけくわえました。
「あ、そうだ、かくれんぼも面白いけど、ずーっとかくれんぼばっかりじゃ君たちも退屈するだろう? だから、そうだねぇ……。一番暑い季節になったら、君たちもほかの遊びをしたらいいよ。そのときだけは、女将さんたちの前にすがたを現してもいいからさ。驚かしたりし放題だよ」
この神主さんの言葉には、三体とも大喜びです。やったぁと天井までふわりと浮かびあがります。
「それじゃあ決まりだね。がんばってすがたを隠してね……って、もういなくなってるのか」
いつの間にか、三体ともすがたを消していたのです。霊感がある神主さんでも、そのすがたを見つけることはできませんでした。神主さんは満足そうに笑って、それから玄関を出て旅館をあとにするのでした。
――ふふふ、うまくいったな。これであの子たちはかくれんぼに夢中になるだろうし、しかも年に一度はすがたを現すんだ。そこで客たちをおどかしまくれば、またわたしも呼ばれるだろう。けっこうな謝礼金をもらえるし、こんなおいしい仕事を、祓ってなくすなんて罰当たりなことはしちゃいかん。わたしもふところが肥えるし、あの子たちも楽しめるし、旅館も夏にだけしか幽霊たちが出なくなるんだ。まさにこれがWIN-WINってやつだな――
ほくそ笑みながら、神主さんはもらった謝礼金で、どんなおいしいごちそうを食べようか、さっそく考えているのでした。
お読みくださいましてありがとうございます(^^♪
ご意見、ご感想などお待ちしております。