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外。喜多埜邸のすぐ近く。

「スーザン……ごめんなさい。私の母が……」

しょげる女の頭を男は優しく撫でた。喜多埜鈴嗚奈とスーザンは、盆と布巾を持って入ってきたメイドに居間を追い出されたところであった。

「いいさ。頷いてもらえるまで何度だって頭を下げるよ」

「そんな……こんなミジンコアリンコプランクトンみたいな私の為に……」

鈴嗚奈は瞳を潤ませながらスーザンを見上げる。スーザンはその瞳に優しい微笑みを返した。

「当たり前じゃないか。君がミジンコアリンコプランクトンなのは」

鈴嗚奈は「そこかよ」と内心でツッコミを入れながら、しかしそれを表情には出さなかった。このロマンチックな雰囲気を壊したくなかったのだ。

「でも、母様は絶対に許して下さらないわ」

「クソ、どうすればいいんだ……」

表情を険しくするスーザン。鈴嗚奈は意を決すると口を開いた。彼女は今悲劇のヒロインになりきっていた。

「か、駆け落ちしましょう!」

鈴嗚奈の放った言葉に、スーザンは当然驚く。彼は思わず一歩後ずさった。

「か、駆け落ち!?本気なのか鈴嗚奈!」

鈴嗚奈はスーザンが引いた一歩を詰める。

「本気よ。もう駆け落ちするしかないわ」

「もっとよく考えてからの方が……」

言葉尻を濁すスーザンに、鈴嗚奈はヒステリック気味に叫んだ。

「何よ!スーザンは私と結婚したくないの!?私がミジンコだから?アリンコだから?プランクトンだから?モンキーだから!?」

「そんなことは……」

スーザンは「あるけど」という続きを辛うじて飲み込む。

鈴嗚奈はスッとスーザンから離れると、彼に背を向けた。まるでミュージカルのヒロインのような動きだった。

「それに、私達にはもう駆け落ちするしかないのよ。私は三人兄弟なのだけれど、二人の弟は犯罪に手を染めて今は少年院の中……。この家の跡取りは私しかいない。母様は絶対に金持ちじゃないと結婚させてくれないわ!」

「くれないわ!」と同時にパッと振り返る鈴嗚奈。月の光を浴びて綺麗に翻る髪とスカート。鈴嗚奈は完璧な演出だと自画自賛した。

「僕が金持ちじゃないから…すまない、鈴嗚奈」

「本当に。あなたが金持ちだったら結婚もできるし、KITANOカンパニーも救えるのに!」

美しいと自負している自分の姿に目もくれず、自らの髪の先をいじくっているスーザンに、鈴嗚奈は少々キレ気味に言った。スーザンは男にしては長いその髪の先から慌てて視線を上げ、申し訳なさそうな顔を取り繕った。彼は枝毛を探していたのだ。

「そ、そうだね。できるなら会社も継ぎたいしね」

「でも私達にはもう駆け落ちしか残されてない!」

「か、会社は……?継ぎたいでしょ?」

断固として「駆け落ち」を譲らない鈴嗚奈に、スーザンは焦りを隠して言った。

しかし鈴嗚奈はサッとスーザンの手を握ると彼に熱い視線を向けた。

「私のスーザンを認めてくれなかったKITANOカンパニーなんてもう要らないわ。そうと決まれば早くこの街を出ましょう!」

「出て……どこへ行くんだい?」

鈴嗚奈的には決まったのかもしれないが、スーザン的には何も決まってなどいないのだ。今彼は枝毛よりも大企業を継げるか継げないかが気になっている。

「どこでもいいわ。お金はたくさんあるんだから。どこへでも行けるわよ。さぁ、リムジンを……それじゃ足がつくわね。駅へ向かうわよ!スーザン、車を出して!」

「……はい」

スーザンは弱々しく返事をした。彼が鈴嗚奈に逆らえたことなどただの一度もないのだ。




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