6.日常と始まりの会話。
START'▽'
そして、あっという間に前日。
────朝。
少しどきどきしながら座った私の椅子が、早速蹴られた。
「……渡城ぃ」
「悪い悪い。足が勝手に動いた」
「嘘つけっ。てか挨拶ぐらい口でしろ!」
「酸素の無駄」
「こっちの酸素が無駄だわ」
やっぱり、残念なことにクラスメートで、しかも厳正なるくじ引きの結果、通路を挟んで隣の席になった渡城だった。
「てかお前、なんでカレーのやつご飯係にしたんだよ」
「皆に野菜係止められてね、加賀野っちに進められたのがご飯係だったの」
「あー、それならいいわ。お前野菜係になったら警察呼ばなきゃだもんな」
「なんで警察!?」
「手が滑って誰かを刺したらどうするんだよ。お前ならやりかねない」
「……反論できない」
確かに、想像できる気が……いや、ご飯係になったんだから大丈夫だ。うん。
それはそうと、なぜか渡城も違う班だけどご飯係になったという。しかも、なぜか涼井も違うクラスだけど
ご飯係になったという。偶然。
「あ、そういえば渡城。火の妖精やる?」
「あー、考えてる。一応、誰もやらないんだったらやろっかなー」
「ふーん」
火の妖精、というのは、キャンプファイヤーで火を灯すクラス代表の事だ。そして、男子限定。
そういえば、今回のキャンプファイヤーは、火が灯っているのが大きなロウソク立てのロウソクのみ。それを、火の妖精が1本ずつ取り、男女2列ずつ並んだクラスの先頭に、火を移す。そして、先頭はすぐ後ろのロウソクに、すぐ後ろの人はそのまた後ろの人に、と火を移していく。
もはや火移しなので、期待してないのが本音。
「俺、キャンプファイヤーより、その前の工場見学発表のほうが楽しみだなー。この間見た、去年のやつも面白かったし」
「それな!流れ作っているのも楽しいしねー。でも、豆腐工場なんて楽しいのかな?」
「分かんね。期待はあんましてないけど」
確かに、豆腐だもんね。他は、ジュースとか人気の乳製品とか、案外楽しそうなのばっかりだし。
だからやっぱり!
「1番楽しみなのはカレーだなー」
「それは分かる。お前すげぇ食いそうだもんな」
「はぁ?そんな食べませんから!」
「どうだか。てか、ここで冷やかしてくる加賀野はどこ行ったんだ?」
「小野ちゃんと好きなバンドの話してるよ。あ、渡城も好きなんだっけ?」
小野ちゃん、というのはクラスメート。今は加賀野っちの前の席で、よく好きなバンドの話をしている。
「バカか。思春期男子が女子二人と話してたら誤解されるだろ」
「いや。思春期男子が女子と1体1で話してる方が誤解されるでしょ」
「お前は論外」
「はぁ?」
「ほら先生来たから黙れー」
「渡城が黙れ」
こうして、騒がしく前日の朝を終えた。
───放課後。
すっかり暗くなり、もう5分で下校15分前のチャイムがなるところ。
「2人とも、そろそろ戻ってくるかな」
と、いとーちゃん。今回の顧問杯は外で書いてる人も多く、加賀野っちといのちゃんも外に出ていた。
「じゃあ、片付けしますかーっ」
「おう」
カバンに荷物を詰め、私は窓を閉め……るついでに、窓の向こうをぐい、と見る。
と、その瞬間に、いつもの見る3番目の奥の方から矢が放たれた。
……っえ!?え、だ、だだだ誰!?あ、弓どうなってる!?
慌てて的の方を見ると、弓は中心から少しずれたところに刺さっていた。
……奥の方を見た。そこに居たのは少し悔しそうなポーカーフェイスの真田先輩だった。
あー……見れたの嬉しいけど惜しかったなぁ……
「……明日明後日も頑張ってください、真田先輩」
チャイムがなり、皆が水道に手を洗いに来るまで、私は窓の外を見ていた。
──夜。
少しため息をつき、私──公智理はミッションを終えたteseにコメントを送った。
公智理『すみません!明日は絶対に来れません!明後日はたぶん来れると思うのでお願いします!』
そして、公智理の仕草を落ち込んだものにした。
自分のキャラクターのしくざや表情をいつでも変えられることも、キャラクオの特色だ。とても便利。
と、1番早く吹き出しがついたのは、dawn殿だった。
dawn『すんません!俺も明日来れないっす!』
「えっ、dawn殿も来れないの!?」
teseで皆勤賞取れるほど出席率が高いあのdawn殿が………あ。なんでそんなことが分かるかと言うと、公開設定にすればお互いのログイン歴が見れるから。
にしても、本当に珍しいなぁ。
門『2人とも、了解した。』
シュガーレス龍『明後日から待ってマスー』
公智理『はい!』
dawn『おねしゃす』
《公智理 が退出しました》
「……よし」
スマホを母に預け、風呂場へ向かった。
さーて、明日はいよいよ当日!名残惜しいこともいっぱいあるけど、また出来るし会える!明日から楽しむぞー!!!!
おーっと小さくガッツポーズをした。
─当日。朝。
「…………」
「枚川ぁ」
「…………はっ、な、何?」
「めっちゃぼーっとしてるけど平気?」
「……平気じゃない」
「何があったの?」
今回の舞台は、隣県の青少年センター。その隣。広いグラウンドの木陰に私たちはいる。
今まで、近所の演習場から来た自衛隊の皆さんから、集団行動を教わっていた。何人かのグループで右向け右みたいなことを30分くらいやってたんだけど……
「疲れた……」
「私も疲れたー。って、珍しいね。枚川が疲れてテンション下がるの。いつもネジっていう概念ごと外れてるのに」
「ひど」
でも、否定できない。てか、テンションが低いのは疲れたのもあるんだけど……
水筒を1口飲む。
加賀野っちも、同じく口をつけた。
「ふぅ……まあいいじゃん。次、工場見学だし」
「工場、豆腐じゃん」
「これで楽しかったら恥ずかしいねwww」
「い、一応前言撤回……でも見学発表会は楽しそうだよね」
「そうだね。あ、もうみんな移動し始めてるよ」
「本当だ。あーバス乗るのいやだー」
「あ、もしかして、それでテンション低かったの?」
「うっ……いや、よ、酔いやすいから、だよ?別に隣がどうとかじゃないよ?」
「ふーーーん……ま、いいや。行こー」
立ち上がって、私たちは移動し始めた。
バス………大丈夫かな……
CONTINUE˙-˙