3.少女と戦士たちのミッション。
はじまりはじまり
───ふいに、暗くなった。
今日は、満月煌めく晴天の夜。この、屋根を失くした廃れた教会の中にも、静かに月光が差し込んでいたはずだった。
……来た。
反射的に走り出す。深く強い音を響かせて降り立ち、何かの気配近づいてくる。
あいつが来た。
脳裏に、猫耳みたいな可愛くない角を生やした大きな怪物が写る。
今回のターゲットだ。
『ぐるぁぁぁぁあああああ!!!!』
ひぇぇ叫んだ。とてつもなく空腹らしい。でも、私って美味しくないと思うな。職業的に。
──てか、まず食われないし。私、絶対息が切れないからね。頑張れば無限に走ることが出来る。
速度は遅いがスタミナは無限。
これは、私の特別な能力のひとつ。まだまだいっぱいあるよ。例えば………
ガチっ
……おっと。
体が動かなくなった。《スキル》を使われたらしい。
大きな、きもっち悪い空気が、後ろから流れてきた。
動けない。
───私は、唯一動くことの出来る瞼を閉じる。
もう、運命に任せるしかない。
残酷な空気に、私は身を委ねていった………
ドアアアアアアアアアアアアアアアッ
───突如、轟いた爆音。体が自由になり、私はふわりと浮かぶ。
「………なんてね」
『ぐるぁ??』
爆音のした方向を探す怪物。その隙に、私は怪物から遠ざかっていく。
『!!ぐるぁぁぁぁあああああ!!!!』
もう気づいた。腹を立て、怪物はものすごい速さで私に手を伸ばした。
ダダダダダダダダっ
鋭い音々が、それを阻んだ。
怪物は、潰れるような鈍い声を出し、倒れ込んだ。
『ぐるぅぅぅぅ……あぐぅぅぅ……』
急所に当たったらしい。
苦しそうに呻き、動けなさそうだった。
なんだぁ安心。
そう思ったのも束の間。
私はまた動けなくなった。
……あいつ、《スキル》使って時間稼ぎしているのか。ゆっくり立っても私が食べれるように。
愕然とする私の目の前で、どこか嬉しそうに怪物が立つ。そして、今度こそ逃がすまいと、私をゆっくり掴んでいき
ジャギンっっっ
……………………………………
『ぐあ』
ふしゅっ
怪物の声と、炭酸水を開けた時のような、気の抜けた音。
「………ぁ」
怪物は消えていた。
私は、今度こそ自由になり、
真っ直ぐ落ちていた。
「………ひぎゃああああああああああああああああああああ」
ばむっ
ひゅいっ
ずざざざざざざっ
ぎゅっ
…………………気がつく。
「……生きてる」
「ことり殿。」
「ひ………ひろ殿ありがとうございます死んだと思いましたああ」
「心配するな。何があっても拙者が受け止めるから。」
「はい!あ、もう下ろして大丈夫ですよ。重いですし」
「重くも軽くもないが。でももう平気なら下ろす。」
と、さりげなく酷いことを言ったひろ殿は、お姫様抱っこっぽく抱えていた私を下ろしてくれた。
と、男性二人が駆け寄ってきた。
「ひーろ殿!またクォーツ捕まえ忘れたでしょー」
「あ、すまない、あかつき殿とりゅう殿。まだ『作戦』は終わっていなかったな。」
「そうデスよ。いやあ、捕まえるの大変デシタよ。あ、ことり殿ご無事で何より」
「ありがとうございます。ところで……この子が、クォーツ?」
クォーツ、とは、先ほどの怪物の根元。これが何らかの影響で『悪現化』し、《スキル》を持って怪物などの、この世界で言う『ジャッカード』というものになる。
───さて、今回のクォーツは、猫だった。
「かわいい白猫ですね!」
「あんなのが、こんな月光みたいな猫になるのか。」
「目とか金色で綺麗っすよねー」
「引っ掻かれマシタけどね」
「「なぜ。」」
確かに、頬のところに線のようなものがいくつか描かれていた。
「りゅー殿と、この子あやす時に口論になりまして。ちなみに、俺も引っ掻かれました」
「また喧嘩していたのか。」
「さーせん。まあそのおかげで懐きましたし。結果的には良かったですよ。とりあえず、あとは棟梁さん、お願いしまーっす」
「……ああ。」
私たちが黙ると、クォーツが地面に降り立った。
棟梁、と呼ばれたひろ殿がしゃがみ、手を差し伸べると、素直に近づいてきてそれに額を当てた。
───もう一度、ふしゅっと炭酸水を開けた音。
その音と共に、クォーツは消えてしまった。
その場所には、小さな白い玉が、月光に照らされ輝いていた。
その白い玉は、クエストクリアの証。
それを、決して英語を話さない彼は、表情を変えずに言った。
「───追求、完了。作戦成功。」
次話は来年投稿。
皆様、良いお年を!