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フェニックス

「お疲れ様です、猪狩さん!」

 ん、ああ、秋津さん。お疲れさん。

「例の新人さんをお連れしました!」

 ん、今週はうちの番だっけか。はいはい了解。

「歓迎会の時に一度お会いしてるとは思うけど、一応紹介するね。こちら、エントランスエリアでフェニックスを主に担当していらっしゃる猪狩さん」

 どーも、猪狩です。これから一週間よろしくね。

 うん、そう。僕の担当はフェニックス。麒麟と立て続けにビッグネームばかりでビビったかい? まあここエントランスエリアは、いわば園の顔だからね。インパクトは大事ってことで、有名どころを揃えてんだ。

 で、フェニックスだ。

「フェニックスは麒麟ほどじゃないにせよ、手のかからない大人しい子たちが多いですから緊張しなくて大丈夫ですよ!」

 ま、いくつか注意点があるから、気を付けてね。

 ん、じゃ、とりあえず展示スペース行こうか。

「頑張ってねー!」


 君、秋津さんと打ち解けたみたいね。

 ん、そんなん見りゃ分かるよ。僕らが何年あの子のこと指導してきたと思ってんの。

 あの子、幻獣に夢中で子供の頃は友達少なかったんよね。明るいんだけど、会話も苦手で敬語がなかなか剥がれなくってな。ま、周りにいるのが僕らみたいなおっさんばっかりってのもあったんだろうけど。

 ま、いいや。

 色々と君には期待してるっつーことで。

 とにかく、フェニックスだ。

 不死鳥、火の鳥、霊薬の涙、エトセトラ、エトセトラ。

 色々伝説には事欠かないが、近年の研究から色々と謎が紐解かれた幻獣の一種でもあるな。

 まず一番有名なのは「死んでも炎の中から復活する」ってやつだな。だから、不死鳥。

 個人的にはロマンある伝説だから嫌いじゃないが、現実的には間違いだ。幻獣つってもこの世に存在する生き物に変わりはないから不死はあり得ない。

 ま、それでも普通の鳥類と比べたら長生きの方なんだろうけどな。

 野性下ではだいたい50年から60年。飼育下では約30年が今のところ世界記録だな。

 ん、そう。人工飼育の方が短命なんだ。野性個体は単独行動を好む傾向にあるところを多頭飼いしてるわけだし、そりゃ寿命も縮むわな。

 ま、悪いことばかりじゃない。

 野性下では成功率3割以下と言われる繁殖率も、飼育下じゃ今や6割越えだ。世界的に放鳥もされてるし、しばらくは安泰だろうな。

 っと、ここが展示スペースだ。

 うちで飼育してるフェニックスは全部で5羽だ。四方6メートル高さ8メートルの鳥類用ケージが二つ、そこに2羽3羽に分けて展示している。

 向かって右側がサクラとソーマだ。どっちも20歳越えの老夫婦。名前通り薄桃色なのがサクラ、濃い青色の方がソーマな。いつも上から2番目の足場に2羽並んで止まってるのが微笑ましいとちょいと前にSNSで話題になった。覚えてるかね?

 左側のケージがフレイとクリス。一番上の足場にいる黄色いのがフレイで、壁をせわしなく昇り降りしてるのオレンジ色がクリスな。あと、下の方で全力で餌むさぼってるのが2羽の雛でアイリ。アイリは来園者から募集して名前を決めた。

 さて、ここでちょいと復習タイムだ。

 黄色のフレイとオレンジのクリスから生まれたアイリだが、まだ完全に産毛から生え変わっていないが、すでに青系統の羽色になるだろうということは見てわかると思う。では、なぜ親と全く違う色の羽毛になっているのでしょーか。

 ……なんだ、クイズの出しようがないねえ。ま、ちゃんと勉強してきてるようで何よりだ。

 そう、正解は「食べる餌によって羽の色が変わるから」だ。それじゃあ、バックヤード行こうか。


 ここがバックヤードだ。麒麟みたいな大型幻獣と違ってフェニックスは常時ケージに出しっぱなしだから、ほとんど餌と掃除用具置き場になってるけどな。

 で、これがフェニックス用飼料。

 基本的な配合は養鶏用と変わらないが、プラスで特殊な物質を配合している。これを鶏が食ったら死ぬ。

 そう、色々な金属化合物だ。

 フェニックスは色々な金属を摂取する習性がある。マグネシウムや銅を始めとした金属を粉末にして飼料に混ぜてある。

 ではなぜフェニックスは金属を摂取するのか?

 答えは、摂取した金属を羽毛に集め、羽の色を目立たせるためだ。

 フェニックスは雌雄ともに情熱的でな、繁殖期に出会ったらお互い羽を広げて求愛ダンスをする。その時にお互い気に入ればカップル成立なわけだが、より派手な色の羽をしていると上手くいく傾向にある。野性下で繁殖率が低いのは、土中に含まれる僅かな金属を長い年月かけてかき集めて羽毛を発色させるから高齢出産となるケースが多いためだな。

 よくまあそんな生態で今日まで絶滅せずに生き延びたと感心するが、こいつら基本的に丈夫だからな。

 で、飼育下では発色がよくなるよう考えられた飼料を与えているから、野性のものより色が濃いんだが、どうも個体によって好き嫌いがあるらしい。アイリは銅が多めに配合されている飼料を好むらしくてな、その成分が羽に表れて青っぽい色になっているんだ。

 で、ここからがフェニックスの更に面白い生態だ。

 飼育下で豊富な金属成分を与えられて初めて判明したことなんだが、フェニックスはある程度羽毛に金属が溜まると一晩で換羽する。

 ま、簡単に言うとハゲる。

 正確にはある程度下に次の羽毛を羽衣に全部用意してから抜け落ちるから完全なハゲではないが、今の綺麗な姿からは想像できないくらい悲惨な姿になる。苦手な人はトラウマになるレベル。

 これには理由があってな、摂取した金属を羽毛に集める体構造を持つフェニックスでも、キャパシティってのがあるらしいんだ。キャパを超える金属が体内に蓄積され始めるとフェニックスにとっても有害だから、一気に羽を入れ替えて新しいまっさらな羽毛に金属をため始めるんだ。

 一生の間に2,3回しか換羽しない野性個体の観察だけでは分かりえなかった生態だな。

 で、ちょいと話は戻るが、どうして繁殖成功率が低いフェニックスが生き延びれたか、ちゃんと理由があるんだ。ああ、もちろん体が頑丈ってやつ以外でな。

 ま、簡単な話、天敵がいないんだ。

 フェニックスは羽毛だけでなく体内にもいくらか金属が蓄積されている。中には超有毒な金属を好んで食う個体もいるからな、そんなほぼ確実に「大当たり」するやつを食おうなんて物好きな生き物はいないんだな。

 が、当然例外もある。

 さっきも言った換羽のタイミングだ。

 金属製毒物の集合体である羽毛が抜け落ち、体内に残っている金属も次の羽に集められている。しかもハゲ同然で全く飛べない。

 これじゃあ「どうぞ食ってください」と言わんばかりの無防備状態だ。

 で、フェニックスの面白い対抗策が生まれたわけだ。

 フェニックスが好んで摂取する金属にはマグネシウムなど燃えやすい物も多く含まれている。もちろん、この飼料にもたんまり入っている。

 そしてフェニックスの嘴は尋常でなく硬い。もう火打鉄かってくらい硬い。

 ……お、その顔、だいたいトリックは掴めた感じだな?

 フェニックスは換羽の時、自分の巣の周りにぐるりと抜け落ちた羽を配置する。そして石に嘴を叩きつけて火花を起こし、羽を燃やすんだ! 器用なことに、一気に羽が燃え尽きないよう燃えにくい金属を換羽前に摂取して炎が長続きするよう調整もするらしい。

 で、一晩羽が燃えている間に羽衣も破って換羽を完了させて、翌朝にはもう飛べるようにするんだそうだ。

 つまり、これが「炎で身を焼いて復活する」という伝説の真相だな!

 昔の人は見るも無残な姿のフェニックスが炎の中から復活したように見えたんだな。確かに、こんな謎すぎる生態、クソ真面目に研究しないと分かんねーよな。

 ……お、何か言いたそうだな。

 当ててやろう。「それじゃあ奇妙な生態を持つだけの綺麗な鳥じゃん」ってか?

 ん、図星だな。

 ま、その通りなんだが、気を付けなきゃいけないことがあるだろう。

 あいつら、燃えやすい羽を全身に纏ってるくせに、やろうと思えば自力で火を起こせんだぞ。

 よーしよし、引き締まって何より。一応、換羽期にならないと火打ち行動はとらないから、ある日突然焼き鳥になったってことはないが、燃えやすい物をケージに持ち込まないこと。

 さっき見た時気付いたか知らんが、ケージの中には藁一本落ちてない。麒麟もスペースでもやったと思うが、ケージに入るときは靴裏に草がついてないか調べてから入るように。

 あと換羽の予兆には十分気を配ること。いつ換羽するかはフェニックスの気分次第だから、予兆が見られたら、よそのエリアからも助っ人かき集めて毎晩交代で不寝番立てるからそのつもりでいるように。


 ん、じゃ、ま。

 今日から1週間と言わず、ここに勤めてる間は何かとかかわることになるだろうから、よろしくな。

猪狩「フェニックスの羽を土産品として加工できないか会議したことあるが、アレ毒物だからな。無理だった。ガラスに埋め込んで盾みたいにすればいけるかもしれんが、コストがなあ」

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