新人研修報告1「幡谷 千枝」
「宮林くん。ごめんな。俺が行くべきだった」
「いやいや、大丈夫っスよ」
営業所が異変に気付いたのは、ほんの少し前でした。
浅野さんが何時までも戻って来ない。お客さんの家に連絡してもまだ到着していない。
「にしても浅野サン、どこをほっつき歩いてんだよ……」
拠点長は苛立ちと不安が混じったような、それでいて、苛立ちが勝っている表情を浮かべていました。
「さあ。どっかで道にでも迷ってんじゃないッスか。あの人カーナビ使いこなせないみたいだから」
宮林君はそう言うと、拠点に入って来たお客さんへ、スッと向かう。あ。出遅れてしまいました。
それはさて置き。
拠点長は浅野さんを「やる気が無く、仕事もロクに出来ないお荷物」と言って憚りませんが、私はそうは思わない。
浅野さんは真面目だけど不器用な人だと思います。私が真面目かどうかはさて置き、不器用な点は似ているのでよく分かります。
彼もそれを知ってか知らずか、私を気に掛けてフォローしてくれます。
そう言った意味では器用なんですけれども、それを対外的にアピールするのが果てしなく下手な人なんです。
例えば、こんなことがありました。
「幡谷くん。待った。あの人は俺が対応するから。座ってて」
「え。ああ。はい……」
浅野さんは、トロい私が珍しく、いの一番に出迎えに行こうとしたときにストップをかけました。
私のいる店舗は新規のお客様が少ない。担当営業のいるお客様がほとんどです。
なので、私のような新人が成績を上げるには新規のお客様がやって来るのをジッと待ち、拠点に車で入って来たら、素早く出迎えに行かないと商談の機会を逃します。
浅野さんの声掛けは横取りのようなものです。
私は恨めしそうに窓の外で、話し込んでいる新規のお客様と浅野さんを見ていました。
そして、何分か経って、浅野さんはその人を帰らせてしまいました。
横取りしたのならばせめて受注を取れ。と、私は内心毒づきます。
そして、拠点長も同じようなことを本人に対して言っていました。
しかし後々、そのお客様はセクハラと横領が原因で辞めた、元社員だと判明しました。
拠点長もその時はこの営業所に来てから日が浅く、その情報を知らなかったようです。
とにかく、浅野さんは気配りが不器用な人です。なので、良さが分かるまでは時間がかかるのでしょう。逆に良さが分かる人からは信頼を得られるのでは。と、思います。
真面目な浅野さんが何処かでサボっているとは考えにくい。
何かがあったのではないか。私はそう思わずにはいられないのです。
そして、その予感は、やはり最悪な形で当たってしまうことになります。