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業務報告3 「トミーの決断」

「で、結局、メルキリッシュさんは市長さんと言う訳か?」


「シチョウサン……とはなんだろうか?」


「あー……まあ、俺の国では町を治める人をそう言うんだ」


と言う、人気のある場所での会話だ。

どうやら案の定、私の方が非常識だったようである。


彼女に案内されてやって来たその一帯にはホンモノの煉瓦造りの家が立ち並んでいた。それ風のタイルのようなものでは断じてない。そして、なんと言うか、すれ違う人々の服装が画一的で地味だ。


雑な感想だが、昔のヨーロッパと言うとシックリくる気がする。


これは、本当にタイムスリップと言うものが起こったのだろうか。ーーガルウイング2シーターのスーパーカーではなく両スライドドア4人乗りの軽ワゴン車で。




「なるほど。町の為政者のことをシチョウサンと言うのか……それは勇士、貴族のようなものだろうか?」


「さっきからさ。その勇士ってのがよく分からないんだよ。メルキリッシュ領って言うくらいだからアンナ……が治めてるんだろうけどさ」


名前ところで少し言い淀んだのは「アンナの父親」と言うフレーズが出かけていたからだ。


今時女性の管理職なんて珍しくない。少なくともウチの営業部長は女性だ。こんな些細な決めつけでもセクハラと言われる時世だ。


それに実際にアンナ本人が治めている可能性だってある。間違っていても私が恥をかくだけならば、それで良い。


「ああ。失礼。勇士と言うのは魔物退治の専門資格者のことだ。勇士になると、ある程度領地がもらえるんだ」


「魔物退治? 何? 猟友会みたいなもん?」


「トミー、もしかして、魔物を知らんのか?」


「ごめん。全くサッパリ」


どうも私は、ものすごく世間知らずのようだった。



彼女の話を聴くと、要するに魔物とは、魔力なるものを使って人間に悪さをする怪物を指すようだ。


そんな危険な連中を駆除するのが勇士と言う連中の役目だそうだ。


なんだこれ。これはもしかするとタイムスリップですら無いかもしれない。


となると、これは本格的に営業所に戻るのは諦めた方が懸命な気さえしてきた。


まあ、別に戻ったところで戻る所はなさそうだ。それに、死んだ方がマシだとも思ってた位だ。杏奈には離婚調停のときに会うなと言われたし。


帰る方法を模索して、アンナに頼もうかと思ったが、路線を変更しようか。



「アンナ。さっき、困りごとがあれば……って言ったよな」


「ああ。言った。約束は守るぞ。出来る範囲だが」


「そしたらさ、実は帰る宛がなくてさ。ここで仕事を世話して欲しいんだ。逆にこっちが訊くことになるけど、何か困りごとはないか? それこそ、俺が出来る範囲だけどな」


「ふむ。仕事か……。いや、それは願ってもないことなのだが、恩人から更に世話になるって言うのも忍びない……どうしたものか……」


彼女は斜め下を向き、鈍色の指で細い顎をさする。


何かを考える仕草のようだが、これは考えるフリの可能性もある。私も値引き交渉のときにたまにやる。


やんわり断られている様子だ。ならば仕方ない。

帰る方法を考えてーー


「例えばだ」


彼女はポツリと言う。


「例えば、どんな仕事がやりたい?」


「ああ。そこまでは考えてなくてね。ただ、何となく、ついさっきまでは、営業マン……ええと、商人? だったわけだからモノ売る仕事がしたい。だが、仕事をくれるならば何でもいい」


「ううむ。商いか。そう。それが実は一番の問題なのだ」


「どー言うこった」


なんだろうか。やはり社交辞令だった臭いがする。


「いや、何。単純な話だ。売れそうなモノがあるかどうかだ。私の領地、いや、ここに限らず勇者領は産業に乏しい。金の稼ぎ方を心得ていないのだ」


「なるほどな。ならば、売れそうなモノを見つけつつ、何か仕事を探してみるわ。商いが天職とは思わないけど、何せ20年近くやってるからな」


商売が性に合っているならば、何としても帰るだろう。商売をやりたいと言ったのはあくまで、取っ掛かりが付けやすいというだけの話だ。


商売が難しいなら難しいで、これは転職の良い機会なのかもしれない。


「承知した。ならば、しばらくはわたしの補佐士と言う体で居れば格好はつくであろう。もちろん自立への協力も惜しまん」


肩書からしてアンナの助手のようなものだろうか。

肩書が付くのはありがたい。私は典型的な現代病のケがある。自分が何者かでないと落ち着かない。


尤も、こんな中学生位の子どもに世話になりっぱなしと言うのは大の大人としては格好つかないし、何だか恩を着せてるみたいで気分も良くない。憂さ晴らしを兼ねてポンコツで突っ込んだだけなのにな。


それはともかくとして、しばらくはお言葉に甘えて厄介になろうか。格好つけている場合ではない。



かくして、私は勇士アンナの仕事に付き添うこととなった。

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