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サトラセ士ケイタの言霊(旧作)  作者: 海地日向
第一章 デノーフ・バ・フィアー
6/31

第五話 レノとの交渉(1)

サブタイトルを修正しました。

※2017年10月30日

※2017年11月24日 再修正しました


 (良く考えろったってさ)


 スワンから得た情報とあわせて考えてみる。

 これは魔族が仕掛けた魔法だと言っていた。

 その想定が正しいとすると、何か裏があるのは間違いないだろう。


 魔族の目的は魂を融合させる、ということだ。

 この少年は、それ以外に裏があると暗に言っているのだ。


 転移対象はオレの住んでいた地域。

 だとすると、大規模転移に巻き込まれるのは主に日本人。

 戦闘経験は全く無いと言っても過言ではない。

 つまり、そのまま戦えば一方的な結果を迎えるのは自明だ。


 魂を融合させる事だけが目的であれば、そのまま戦わせれば良いはずだ。

 でも、オレが実施する立場だったら……どうだろ。

 他に何をさせたい?

 何が欲しい?


 (オレだったら……情報が欲しいな。そうだ、情報だ。

 結晶石を手に入れるために、融合者を追跡したい。

 スキルやステータスの情報があれば、追跡できるんじゃないか?)


 オレは自分の腕を軽くつねってみたが、やはり痛みを感じる。

 死は避けられたとしても、痛みは避けられない。

 それに、この世界に来た人達は、自分のステータスやスキルを知らない。

 オレもステータスやスキルにどんな情報が含まれているのか知らないからな。


 この空間で痛みを経験すれば、この環境に置かれた人達は与えられた情報にすがるだろう。

 ステータスとは、スキルとは何か、そしてスキルを使えば助かるのか、と。

 生き残るために自分のステータスとスキルを確認し、必死に準備をするに違いない。


 魔族は融合者を追跡するために情報を集めたいのか?

 だから、オープンステータス、オープンスキルを使わせたい?

 オレ達に対しては十分な誘導だと思うが、こっちの世界の住人は?


 おそらく、確認する者と確認しない者に分かれるだろう。


 (うーん。情報が足りない。決め手がないな。

 そういえば、こっちの世界の人達に対しては何の助言もなかったな。

 こっちの世界では常識なので当たり前っていうことか。

 当たり前……。そうか。

 常識だから助言しなくても、誰も違和感を感じない。

 こっちの世界の人達がステータスやスキルを確認してもしなくても、どちらでも良い。

 だとすると、既にそういう条件下にあると考えたほうが良い。

 例えば、こっちの世界の融合相手の情報は魔法発動時に既に抜き取られている、とか)


 こっち世界の人達が闘争で勝った場合は、既に追跡可能。

 オレがいた世界の人達が勝った場合に備え、追跡できるようにしておく。

 だが、それであればこっちの世界の人達を勝たせたほうが楽になる。

 既に追跡できる状態にあるのだから。


 追跡は目的の一つであるかもしれないけど、まだあるのだ。

 ステータスは追跡のためだとしてもスキルの情報を集める目的が。

 分からない。

 仮に真に求めているのはスキルの何かの情報だとしても、まずは追跡だろう。


 「ステータスやスキルの確認を行えば、魔法の発動者に情報が漏れる。

 目的は融合者追跡のための情報収集。

 転移してきた異界の住人達のステータスとスキルの情報収集だ」

 「ほぉ」

 

 すっと顔を上げて目を開き、小さな声で少年が反応を示した。

 魔族の最終目的は結晶石の回収だ。

 魔族からすればどちらが勝っても追跡が可能であれば、大差は無い。


 しかし、オレ達にとっては非常にまずい状況だ。

 戦いにおいて最も重要な物の一つは情報だからだ。

 ステータスやスキルが漏れるのは戦略上、大きな問題となる。


 残念ながら転移してきた人達は情報が抜かれているとは思わないだろう。

 それが死活問題であるにもかかわらずである。



 (さて、問題はそれが分かったからといって、オレに何ができるんだ。

 この少年がスキルを使えないからといっても絶対に勝てない)


 スキルや武器が使えなかったとしても、肉体や精神の強さ、積み上げた経験はゼロにはならない。

 その差は既に理解した。

 今の時点では決して埋まらない溝というものがある。


 オレは変わらなければならない。

 今までのオレと違うのは、オレが自分のスキルを持っているということだけ。

 だがオレ自身を含めて、誰もオレのスキルを知らない。



 (どうすればいい? どうすれば良かった?)



 オレは一生懸命に頭を働かせる。

 スワンから受け継いだスキルは認識しているが、自分のオリジナルは無い。

 その前も、その前の前も、この条件はずっと変わらなかった。

 そして、結果も変わらなかった。


 条件は変わらない。だから、結果は同じだったのかもしれない。

 それでも、きっと諦めずに『戦った』のだ。

 ……そうだ。戦ったのだ。

 こうして、オレなりに一つの結論に到達した。


 今までのオレが主導権を奪えなかったのは、この魂の闘争において、この少年に勝てなかったからだ。

 つまり、この少年に戦って勝とうとした。

 喧嘩もしたことがないオレが、勝てるはずがないのに、スワンから受け継いだスキルだけで勝とうとした。


 最終的にどういう結果になったのかは分からない。

 だが、多少の変化があったとしても、オレが優勢になることはなかっただろう。

 変化のないオレは新しい選択肢を生み出せなかった。


 きっと、この少年と戦ってはいけない。新しい選択肢、新しい道を作るため。

 最低でも、この少年にオレ自身のスキルを確認させるまでは。


 「僕の考えと一致している。なるほど。頭は悪くは無いみたいだね」

 「褒めてもらってもね。戦闘になれば、オレは貴方に絶対に勝てない」

 「本当に良く分かっているね。実力差を納得できる能力は大事だよ。

 それで、どうする? 潔く諦めるのかい? 

 玉砕覚悟でがんばってもらってもいいけど、何回も死ぬと心が壊れるよ?」


 その通りだ。このプレッシャーの中で精神的苦痛、肉体的苦痛を受けるのだ。

 さっきの声は生き返ると言ったが、それは永遠に苦痛が続くのと同義だ。


 「この空間は時間が止まっているわけではない。

 周囲の景色は結界に張りついた情報だ。

 動いていないように見えるだけで、時間は非常に緩やかだが流れ続けている。

 僕もやりたいことがあるし、いつまでも待てるわけではないよ」


 感覚に頼ることになるが、時間はまだ残っているはずだ。

 オレは戦わずに終わらせると覚悟を決め、一つ提案してみることにした。


 「貴方はオレより優位にあることは理解している。

 その上での相談だが、良ければ情報を交換しないか。

 オレから貴方に与えられる重要な情報がある」

 「……時間稼ぎ、というわけじゃないみたいだね。

 実力差は理解しているようだし。命乞いかな? でも、まあ、いいよ。

 頭のいい人は嫌いじゃないし、情報を得るのは大事なことだ。

 それに、君は僕が知らない情報を持っているみたいだしね」


 完全に少年の手のひらで踊らされている気がするが、スタート地点に立てた。

 オレはアイデアを説明するため、慎重に会話を進める。


 「さっきの声の主が何者かを知っているみたいだね?」

 「知らないね」

 「えっと、さっきはあいつらがやったって言ったけど。

 その人達に関連するんじゃないの?」

 「可能性の一つだよ。僕はあいつらしかできないだろうと想定しているだけさ」

 「オレはその人達が魔族ではないかと思っている」

 「想像で話をすると足元を掬われるよ。さっきも言ったけど、可能性の一つだ」


 ここで一歩を踏み出すと情報の出所を疑われる恐れがある。

 だけど、今までの会話から、この少年は情報を掴んでいる可能性が高い。

 オレが提供できる情報は少ない。

 自信がないように見せるのはマイナスだと考え、堂々と宣言するべきだ。


 「いや。間違いなく魔族だ」


 そう言った瞬間、心が折れそうになるほどの殺気が少年から漏れ出した。


 「ほぉ。どうやって手に入れたのか分からないけど、僕の想像と合ってるよ」


 オレが魔族と特定した瞬間、この少年から殺気が溢れ出した。

 それ程の憎悪を魔族に抱いている。

 合意を得るための突破口はこれしかない。


 「それで。なにやら考え込んでいたみたいだけど、どうするんだい?」

 「いや、すまない。癖なんだ」

 「いいけどさ、そろそろいい時間だよ。覚悟はできてる?」


 覚悟はできた。

 下手なことはしない。真摯に交渉させてもらう。


 「戦う覚悟はできていないけど、融合する前にオレの考えを聞いて欲しい。

 貴方の名前を教えてもらえないかな。オレの名前はケイタだ」

 「……レノだ。覚悟、できてないのかよ」


 レノはそういうと少しばかり嫌そうな顔をする。

 その気になればあっさりとやれるのだろうが、そういう手段に出る気はないみたいだ。

 きっとレノも同じなのだろう。

 可能な限り魂の融合の前にオレの情報を集めたいと思っている。


 「レノ、でいいかな?」

 「あぁ。いいよ。僕もケイタと呼ばせてもらうから」

 「では、レノ。この世界はステータスを上げることで強くなると聞いたけど」

 「誰から聞いたのかは知らないけど、その通りだよ」

 「決着がつけば空間から開放されるということは、

 それまでは開放されないということだよね。

 この環境下で、ステータスを上げることは可能だと思う?」


 レノはその言葉だけで気がついたようで、大きく目を開いた。


 「……ふむ。なるほど。なんとなく読めたよ。

 だけど、それを僕に言ってどうする?

 僕が乗ると思っているのかい?」


 レノは明らかにオレの話に食いついてきている。


 「思っているよ。レノはこの結界を発動した者、魔族を良く思っていない」

 「そうだ。思っていない。だから?」

 「オレはレノの望みを叶えられるかもしれない。そのために。

 魔族に対抗するために、オレの話を聞いてもらえないだろうか」


 レノは目をそらすことなく、オレの目をじっと見つめている。

 オレは心の中を探られているかのような感覚に陥り、居心地が悪かった。

 だが、この目をそらしてはいけない。

 そう思いレノの目をまっすぐに見つめ返した。



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