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サトラセ士ケイタの言霊(旧作)  作者: 海地日向
第一章 デノーフ・バ・フィアー
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第二十九話 ロックトロール戦(1)


 土で囲われた筒道に突然現れた石製のアーチの先にある空間はドーム状になっていた。手前から内部を窺うとかなり広い。

 アーチを潜り抜けドーム内に足を踏み入れると、纏わりつく空気が変わった。

 ドーム内の壁面や天井はアーチと同様に白色の石を素材としており、その硬質で頑丈な造りはこの場所での戦闘行為を前提としているように感じさせる。

 ドームの中心部に鎮座するは岩の塊。そして、その周囲には砕けた岩がごろごろと転がっており、岩に擬態している魔物はいなかった。

 魔物でないのであれば考慮すべきは砕けた岩の使用目的だ。間違いなく、遠距離攻撃として使用してくるだろう。


 中心部の岩の塊に透視を使いステータスを確認する。そこには“ロックトロール”と表示された。

 ステータスを見る限り今までの魔物と比較にならないほど高い値を持つ高レベルの魔物――ダンジョンボスで違いない。


 「この距離では、まだ動かないか……。あれって、間違いなく物理耐性の高い魔物だよな。

 今のオレのスキルセットだと相性悪いけど、どうすっかな。

 先制攻撃を仕掛けてみてもいいが、……倒すのには苦労しそうだ」


 オレが立っているところは入り口から半歩ほど進んだところ。光源はオレの左手の中にあり、薄っすらとドーム全体を照らしている。

 判定距離を探るため、ゆっくりと足摺りをして半歩程前に進むと突然大きな軋みを上げて岩のような塊が起き上がった。

 すかさず天井を指定して光源を作り出し、ドーム全体に光を行き渡らせるとトロールの全貌が明らかになる。


 妖精と言われるトロールであっても魔物化することがあるみたいだ。魔物化したことでトロールの体は爆発的に成長したのか、とても元妖精だとは思えない。身長はオレの倍ほどだが、腕や足、体の太さはその比ではない。

 その躯体は石のような白色の硬質化した皮膚で守られており、あらゆる物理攻撃をものともしなさそうに見える。そして、その皮膚の下で力強い存在感を示す固く引き締まった筋肉は重い一撃を放ち、砕けた岩を容易に投げつけてくることだろう。

 怪しく光る深紅の眼はこの部屋に入ってきた外敵を逃がさぬように、瞬くことなく睨みつけている。


 こいつの一撃は受けてはいけない。一撃も攻撃を受けることなく討伐しなければ、甚大な被害を受ける。当然、あの腕で投げられる岩の塊もだ。

 そうでなければ、ルーネを助けることができなくなる。

 オレのステータスであれば攻撃を避けることはできるだろうが、根本的な課題がある。それは、圧倒的な経験不足。如何にゲームの知識があり、ステータスが高いとしても、能力を使いこなせていない。

 だから、族長に恩を売ることだけが目的ではない。単身でボス戦に挑み、経験を積むことは必須だと思ったのだ。


 覚悟を決めたオレは、約三メートルはあろうかというロックトロールの様子を窺いつつ、距離を維持したまま入り口から離れる。



 (入り口を破壊されたら堪らないからな)



 物理系の魔物であり、魔法は使ってこないだろう。

 まずは、物理攻撃と投石の回避に全神経を注ぎ、タイミングを掴む。


 「まずは……様子を見る。影縛」


 トロールの足元の影から黒い紐がまるで蔦のように伸び、絡まっていく。

 あまりにも細い脆弱な黒い紐は動きを妨げている様には見えない。ただ、動こうとしていないように見える。



 (待ち伏せ? 徐々に……近寄ってみるか)



 ショートソードを右手にきつく握り、トロールの側面から走り寄っていくと、トロールあっさりと影縛の戒めを引き千切り、勢い良く右拳を突き出した。


 「おぉぉぉぉぉ!」

 「くっ!」


 トロールの攻撃には鋭さはないが、それなりの速さに重さが加わり、命を刈り取るには十分な威力を備えていた。

 オレは移動を停止すると共に後方に跳躍して距離を稼ぐ。そのまま横方向に走り続け背中を取ろうとするが、トロールはオレを正面に見据えるように動きを合わせ、走り寄ってきた。


 「これはどうだっ。風壁!」


 トロールが風の壁にぶつかるとやや移動速度が落ちたが、気にする様子もなくオレに向かってくる。トロールが地面を踏み締める度にドームは小刻みに揺れ、天井からぱらぱらと砂利が落ちてくる。

 移動速度は速くない。このまま距離を取って攻撃を避けつつ……、そう思っていた矢先だ。

 走りながら足の指先を地面にめり込ませ前方方向――オレがいる場所に向かって思いっきり足を蹴り上げ、地面ごと土や石の塊を吹き飛した。


 飛んでくる石の塊は人の頭くらいのサイズのものもあり“当たれば即死“という想像が頭をよぎる。

 そこからは必至だった。焦りを抱えたまま“ドームの広い方”に向かってジャンプ、前転、スライディングと鍛練で身に付けた回避技を駆使し全速力で走りぬける。

 距離が離れていたことも功を奏し何とか全てを避けきることができた。


 トロールの足元に視線を送ると地面には深く抉られた一本の太い線が描かれている。


 「はぁはぁ、あぶねーなっ! 言霊さん、レパートリーが少なすぎるぜ! 影沈!」


 足元にある自分の影が己が足を引き込む。トロールは足首まで影に飲み込まれ、大きな躯体をぐらつかせバランスを失ったように見えたが、それでも無理矢理に踏み込み前に進む。

 本の少しの間足止めすることは出来たが、スキル有効範囲外に足を抜き出し、あっさりと影から逃れる。

 トロールの動きはレノに比べれば非常に遅く、追いつかれることはないが、遠距離攻撃は曲者だ。


 物理攻撃でなければ。そう考えていたが、誤算だった。

 熟練度無星でもレジェンドスキルである“言霊“には、それなりに効果があると期待していたが、ボス戦においては認識を改める必要がありそうだ。

 現在の適性――言霊の属性とも相性が悪いのか、全く効果がないように見える。

 物理系の魔物であることを考えれば魔法が有効なのだろうが、生憎と魔法は覚えていない。

 最後の検証として、言霊の同時詠唱を試みる。


 「風弾影槍!」


 トロールの頭上からは風の弾、足元からは影の槍が攻撃を仕掛ける。それぞれ命中した音が聞こえてきたが、やはり大きなダメージを受けている様子は見られない。


 「できた。できたけど……。ダメージが入ってない」


 言霊を使い続けて、魔源力を枯渇する訳にはいかない。

 あれだけの巨体だ。攻撃の影響を受けやすいのは膝や足首等の関節部分。そこを狙い、トロールの側面に向かって最大速度で駆け寄ると、トロールはオレに向かって右腕を振り下ろした。

 攻撃を避けることは難しくない。だが、その一撃が地面に衝突した瞬間、地面は激しく爆ぜ、石の破片が周囲に爆散した。

 咄嗟に両手を顔の前に交差し防御する。想像していなかった訳ではないが、石の破片を避けることができず被弾してしまった。


 「っつ!」


 破片が当たった個所は打ち身になり、じんわりと血が滲みだしてきていた。

 ただ、これくらいの怪我であれば慣れたもので、行動を阻害することはない。だが、ルーネに見つかった時の反応を思うと気が滅入った。


 「この野郎! 破壊の拳!」


 そのままトロールの側面にて攻撃態勢に入り、左膝に対して破壊の拳を打ちつけると、ゴムのタイヤを鈍器で殴ったような鈍い音が響き、左膝を保護している硬質な皮膚が凹んだ。

 トロールは呻き声を発しながら負傷した左膝に手を当て、地面に膝をつく。

 ヒットアンドアウェイ。トロールが膝を着くと同時に距離を取って様子を窺う。


 「お? 効いているみたいだぞ。このまま押せるか?」


 次は右膝に攻撃を加えるつもりで一歩を踏み出したところで、トロールは身近にあった岩の塊を拾い、勢い良く投げつけてきた。

 岩は回転しながら一直線にオレの顔に向かってくる。咄嗟に後ろに上半身を反らして地面に倒れこみ、横に転がり再び距離を取る。

 ドスンと重い音をたててダンジョンの壁に岩の塊が減り込んでいた。


 トロールはゆっくりとその場で立ち上がると、次々と岩の塊を持ち上げ投げつけてくる。確実にオレが立っていたところに岩が減り込み、逃避の経路を追って岩の道筋が出来上がる。

 飛んでくる岩の速度自体は速いが、物がでかいので避けることは容易い。岩のオブジェを隠れ蓑にし、気づかれないようにトロールの背面に辿り着いた。


 「おらっ、一発くらっとけっ! 破壊の拳!」


 背面から右膝に破壊の拳による一撃を浴びせる。

 右膝の皮膚がぐにゃっと凹み、右膝を地面につこうとするが、その勢いのままで右腕を振るってきた。

 寸でのところでこの一撃をかわし、左側面に移動すると、左膝の皮膚の凹みは元に戻っていた。

 ここでオレは漸く気が付いた。トロールの攻撃力も脅威ではあるが、それよりも自然回復力が高いことが脅威なのだ。言霊でもダメージは与えていたのだ。だが、与えたダメージはすぐに回復されてしまっている。


 やはり物理攻撃の相性は悪い。このまま物理攻撃で討伐するつもりであるのなら、あの硬質な皮膚に守られた内部にある骨を外部から破壊できるくらいの一撃が必要。

 それはちょっとした油断。本の少しの間だったが、トロールの足元だけを見て考え込んでしまっていた。


 はっと気がつき左膝から視線を逸らしてトロールの顔を見上げると、下半身を動かさずに反転するように体を捻りオレの方に倒れこんできていた。

 オレには“両腕で殴りかかってきた”ように見えた。回避できる。そう思って、咄嗟に後ろに“跳躍してしまった”瞬間、トロールの手が握り拳ではなく、掌を上に向け手刀のように地面に滑り込ませたことに気がつく。


 トロールの手には、地面に埋まっていた薄い岩の端が握られていた。



 (まずいっ!)



 「ぼおぉあぁぁぁっ!」


 トロールは大きな咆哮を上げると、薄い板状の岩を地面ごと宙に放り上げる。跳躍中に受けた真下からの攻撃を避けることができず、オレは岩の板に弾かれ空中を舞っていた。


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