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サトラセ士ケイタの言霊(旧作)  作者: 海地日向
第一章 デノーフ・バ・フィアー
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第二十八話 初めてのダンジョン


 傾斜のある入り口を滑るように降り、ダンジョン内部に侵入する。

 内部は肌寒く、暗くて湿っぽい空気が体に纏わりつき、不気味な雰囲気が漂っている。

 地面と壁面のほとんどは土であり、所々で岩がむき出しで飛び出している。

 天井は四幹六封ショートソードを上段から振り下ろしても切っ先が触れないくらいの高さ、横幅は両手を広げても指先が触れないくらいの幅がある。


 環境としては戦闘行為に問題はない。

 だが、十分な光のない圧迫感のある空間での戦闘行為は始めてだ。

 奥部に進む前に念入りに装備をチェックし、初めて使う四幹六封を素振りし、感触を確かめておく。

 いつかはメイン武器に、と考えてはいるが、今は重要な場面で使い慣れているダガーと拳に頼るのがよさそうだ。


 奥部に対して耳を澄ませるがシーンと静まり返っており、生き物の気配は感じられない。

 索敵を使って反応を確認するとバラバラと点在する反応、一箇所に集まった複数の反応、そして一つだけの大きな反応があった。


 「索敵の熟練度が低いからな。これが限界なんだろう。

 もうちょっと使いやすければ良いんだけど。

 それに、マッピングのスキルがあるのなら手に入れたいな」


 今の熟練度では周辺に“敵となる存在がいる”ことしか分からない。

 使い勝手を改善するためには、地道に熟練度を上げるしか方法はない。

 旅を続けるのであれば、他のダンジョンを攻略する機会もあるだろう。

 そうすると、マッピングのスキルがあれば優位に探索を進めることが出来る。

 紙の地図でも良いが、新しいダンジョンに対応するのには時間も掛かるし、それが出来上がる前に制圧される可能性が高い。

 冒険者を生業にするつもりはないが、生き残るためには必要なスキルだ。


 しかし、今は理想のスキルを持っていないので、ダンジョン内部で自分の位置を把握することは出来ない。闇雲に進むのは危険だろう。

 セオリーに従い、右手で右壁面を触れながら、天井に光源を生成しつつ奥部に向かって進む。


 歩きながら光源生成を検証してみたところ、三十歩程度が限界距離、複数生成は不可能ということが分かった。

 そしてスキルの解除、新しい光源の生成、限界距離以上、これらの条件を満たすと光源は自然に消滅する。

 おそらく、魔力が尽きても消滅するものと想定される。


 時間にして五分ほど先に進んだところで索敵を使用すると、一定距離から先には反応がない事に気がついた。

 若いダンジョンというのが事実であれば、それほど深くはないのかもしれない。

 そうだとすると経験のないオレでも制圧できるような気がしてきた。


 周囲の雰囲気は奥に進んでも変化がなく、ともすれば自分がどっちから来たのか見失いそうだった。

 それから暫く進むとY字路に直面。

 道なりに右方向に進んでいくと少し先に外敵の気配を察知した。


 「かなり近づいたはずだけど、動かないな。

 待ち伏せて攻撃を仕掛けてくるタイプの魔物?」


 四幹六封ショートソードを右手に持ち、光源を左の掌の中に生成する。

 手を強く握ると周囲は漆黒の闇に包まれ、掌から少しだけ光が漏れている。

 手の開き具合で明るさの調整を図りながら、索敵で距離を探り、徐々に近づいていく。

 いよいよ外敵の姿が見えるくらいの距離に近づいたところで、光源の生成位置を確認した。手元に光がある状態での戦闘は不利なので、天井に光源を移動させるつもりであった。


 左手の光源を見つめ、目を光に慣れさせ眩しく感じなくなったところで、索敵で反応がある場所を再確認する。

 索敵反応がある場所の天井付近に目を凝らすが、暗くて何も見えない。

 物音を立てないように天井を指定し、光源を生成すると周囲がぱーっと明るくなる。

 目視確認する魔物であれば目暗ましになっているはず。

 さっと身構え天井付近を再度確認すると、天井の左上方向にきらきらと光るクモの巣と白い塊を発見した。


 「あれは、クモの巣だな。だとすると、白い塊は住処かね」


 反応は一つだったが、もしかすると小さな魔物が集まっていたのかもしれない。

 わらわらと白い塊からクモの子が出てくる光景を想像すると両腕が粟立った。

 だが、クモは姿を現さない。

 不審に感じ、もう一度索敵を使ってみるとクモの巣がある付近には反応はなく、“オレの立っているところ”に反応があった。


 「っ!」


 背中がぞくっとした瞬間に瞬動、考えるよりも足が動いた。

 その場から一気にクモの巣の下を駆け抜けると、後方で硬い物同士が衝突したような硬質な音が鳴り響く。

 身を反転し振り返ると、直前までオレが立っていた場所に大きなクモが鎮座していた。

 大きなクモは慌しくわきわきと足を動かしながら、きらきらと光を反射する複数の目をオレに向けている。


 「あっぶね。初めから住処にいなかったのか」


 ゲームの世界で言うところのバックアタック、経験不足が露見した瞬間だった。

 何とか攻撃はかわしたものの、油断していたことを反省する。

 共有された知識は馴染んできているが、やはり実際の行動で示すのは難しい。


 目の前にいる大きなクモはケイブロックスパイダー。洞窟の中で暮らすクモの魔物だ。

 全身は黒く染まっており牙だけが白く、腹は石で覆われている。

 先ほど鳴り響いた音の元は、この腹の石だろう。

 想定される攻撃スタイルは、腹の石を活用した頭上からの攻撃、死角からの糸と牙の連携。

 姿が確認できていれば脅威ではない。


 「よし。悪いけど、今回も検証させてもらおうかな。影槍!」


 言霊によりクモの腹の下から影槍を発現させたが、鈍い音を発して弾かれた。

 攻撃されたことに驚いたクモはかさかさと音を立てながら暗闇に向かって移動する。

 距離を取って暗闇に紛れるつもりのようである。


 「それはだめだよ。風壁!」


 クモの進行方向に見えない風の壁が作られる。

 オレの方を見ながら後ろに移動し続けるクモは、少し尖ったお尻が風壁に触れた際の衝撃に驚き、オレの方に向かって飛び跳ねた。

 その瞬間を見逃さず即効で距離を縮め四幹六封ショートソードで首を切りつけた。

 切れ味の悪さが手首に響くほど重かったが、振り切ったことで首を跳ね飛ばすことに成功する。

 頭と切り離された胴体は、暫くの間かさかさと動き続けていたが、やがて完全に停止した。


 「うわっ、もう寒い動き方するなよ! 鳥肌が立ったよ!」


 このまま放置すると“あいつ等”と同じになるのでそれは避けたい。

 気を取り直してダガーを抜き、素材の回収を始める。


 「よし、素材を回収しよ。えっと、クモの基本素材は糸と牙、レアが眼だったかな」


 糸の回収方法を思案し、お尻の方に回って見てみると糸がちょろっとはみ出ていた。

 試しに糸の端を持ってゆっくりと引っ張ってみると、途切れることなく出続けるではないか。

 もし、この場に仲間がいたなら、このシュールな絵面を晒すことになっただろう。

 この世界では当たり前のことみたいだけど、ちょっと恥ずかしい。


 一定量を回収すると出てこなくなったので、糸を毛糸の玉のように丸めてバッグに放り込む。

 その後、クモの頭から曲型の牙を二本剥ぎ取った。

 それでもクモの死骸は消滅していないところを見ると、眼も素材として回収できるということだろう。


 気は進まないが放置してはいけないとルーネから言われたこともあり、一番大きな目を剥ぎ取った。

 左手を添えてダガーを突き刺し、眼球を手に取ると硬質な感触が手に伝わる。その瞬間、体がぶるっと震えた。

 取り出された眼からは素材にならない部分が消滅し、レンズだけが手の平に残る。

 全ての素材が剥ぎ取られたクモの体はそのまま消滅し、土色の結晶石と腹を覆っていた石が地面に散らばっていた。


 「腹を覆っていた石は自然の素材だったってことか。

 そうすると、守られていない部位を的確に攻撃できるように命中精度を上げる必要もあるな」


 先ほど影槍で攻撃した際にこの石に弾かれた。

 今の言霊の熟練度では、自然の物や装備に対してはダメージが通らない可能性がある。

 守られていない部位を的確に狙えなければ、長期戦を覚悟する事になる。



●アイテム

 結晶石【ケイブロックスパイダー】

 毒付与【弱】、耐毒【弱】



 毒付与を手に入れたが影響度【弱】だと使い道に乏しい。

 取得制限が不明な状況では、対象外とせざるを得ない。

 欲張りなのかもしれないけど、せめて【中】レベルは欲しいところだ。

 結晶石をクルクルと掌の上で転がしながら、天井の光源を見上げた際にクモの巣と住処が消滅していないことに気がついた。



 (体から離れて一定期間を経過すると、自然と一体化したとみなされるのかな?)



 解析するには多くの情報と時間が必要であり、今は時間がない。

 クモの巣と住処はそのまま放置し、先を急ぐことにする。

 そのまま暫く道なりに進んでいると明らかに“一つだけの大きな反応”に近づいていた。


 「ちぇ。はずれだな」


 侍女の話からすると、ルーネは複数の人間に連れ攫われた。

 ダンジョンで待ち伏せをするのであれば、人数が多いほうが断然に有利である。

 つまり、多くの反応が集約している場所に奴らは屯っていると考えて良いだろう。


 それに、おそらくだが、オレと特定できているかどうかは分からないが、誰かがダンジョンに入ってきていることは、索敵によって認識しているだろう。


 「集まっている気配は動く様子はないな。

 こっちの道を進んでいることは認識しているけど、手を出すつもりはない、と。

 さて、このまま進むべきか、戻るべきか」


 ダンジョンを制圧するためにはボスを討伐する必要がある。

 十中八九、大きな反応はダンジョンのボスだろう。

 族長に恩を売っておくのは戦略的に“有り”だ。

 だが、一人で戦って勝てる相手かどうかを見極める必要がある。

 今のオレは緊急避難の方法を持ち得ていない。



 (冒険者は臆病で慎重であるべきだよな。

 でも、この高揚感はどうすればいいんだ。

 戦ってみたい。そう思っている自分がいるんだよ。

 これもレノの影響なのかな。うーん。

 よし、姿を見て勝てそうになければ、全速力で逃げ出そう)



 決心すれば後は行動するだけ。奥部に向けて慎重に進んでいく。

 大きな反応に到着するまでにケイブロックスパイダーと二度の戦闘があった。

 習性なのだろうが二匹とも一匹目と同じ戦略を仕掛けてくる。

 ターゲットがクモの巣を見ている間に、頭上から落ちることで不意打ちをする戦略だ。

 一度戦っていることもあり微塵の危うさもなく仕留めることに成功。

 ちゃっかりと素材一式を手に入れ、結晶石と一緒にバッグに放り込んでおいた。


 周囲の景色は単調で変化は見られなかったが通路の高さと幅は広がっていく。

 大きな反応があった場所が目視確認できるくらいの距離に近づくと、ドーム上の空間があり、その中央部に岩の塊を発見した。

 索敵を使用すると、あの岩の塊以外に反応はなかった。


 「岩の魔物みたいだけど、でかいな。ボスっぽいのは間違いないみたいだけど」


 先ほどの教訓を踏まえれば、言霊ではダメージを与えられないかもしれない。

 ダガーと四幹六封ショートソードでも歯が立たない可能性がある。

 そうすると、破壊の拳でどれだけのダメージが与えられるかが鍵になりそうだ。


 罠解除のスキルは持ち合わせていないが、念入りにドームの入り口をチェックするも罠らしき物は見当たらない。



 (この戦闘でこの世界の法則が少しでも分かれば良いんだけどな。

 岩の魔物であれば、素早さは低いと考えて良いはず。

 リスクはあるけど、オレが本気で走れば逃げ切ることはできると思う。

 同じ言葉で会話ができない以上、サトラレは無意味。

 であれば、言霊で撹乱し、破壊の拳を打ち付ける。これでやってみるか)



 クモとの三回の戦闘を経たが、残念ながらステータスに変化はなかった。

 全てのスキルが有効になっていることを確認し、ボス戦後のステータスアップを期待しつつ、ゆっくりとドームの中に足を踏み入れた。


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