第二十七話 走れケイタ、ルーネ救出へ
湖畔の先には頂を雪で覆った山。
湖の澄みきった水は逆さの山を鮮やかに写している。
久しく感じることがなかった空気が美味しいという感覚。
思わず形成された過程を考えさせられるような驚くべき高さ、急勾配、そして美しい三色のグラデーションを惜しげもなく表現している。
美しい景色を横目に湖畔沿いの道――長い時間をかけて踏みしめられた整備されていない小道をオレは走っていた。
ただ景色を眺めてぼーっと走り続けるのは時間の無駄だ。
そこで、この時間を使って生活魔法を上手く活用できないかと考えていた。
これから突入するのはダンジョン。
生活魔法には身体浄化と時間の確認以外に、光源の生成が可能であり、このスキルは必須だと思っている
このスキルがあれば松明等を準備する必要はない。
光源を維持する限り魔源力は消費し続けるが、それでもこのスキルを所持している意味は大きい。
●コモンスキル
生活魔法:熟練度★
身体浄化【強・装備強】、時刻把握、光源生成、消費魔源力減【弱】、パーティメンバーへの効果共有
「やっぱり熟練度がマックスになると使い勝手が違うのかな。
途中経過を確認できなかったのが残念だなー」
洞窟型のダンジョンや夜間等、暗闇においては光源を使い続けることがある。
それを考えると生活魔法に必要な魔源力は少ないけど、消費魔源力減【弱】は地味に効いてくるし、パーティメンバーへの効果共有も非常に有用だ。
オレがこのスキルを所持していることで、パーティメンバーは生活魔法の代わりに他のスキルを習得できる。
「制限事項に関する記載がないのがな。勘に頼る訳にはいかないし。
実際に検証して、体で覚えるしかないか」
生活魔法の詳細を確認しながら走り続けていると、何度か魔物のそばを通り過ぎる。
魔物もオレに気づくが、その頃には追いつけない距離にいた。
レノは狩人の称号を持ってはいるが、戦闘スタイルはスピードを活かす剣闘士タイプである。
オレが思うに、状態異常付加のある武器やスキルが使えるようになれば、有利に戦闘を進めることが可能で生存確率もより高くなる。
まさしく、影人族の資質に近い戦闘スタイルだ。
姿とステータスがセットになるのはデメリットもあるがメリットもある。
だが、敵の特性に合わせて戦闘スタイルを変更できるのだから、活用するべきだろう。
二人で鍛練しながら議論した結果、レノの戦闘スタイルに関しては双方合意。異論の余地無し。
移動速度、戦闘速度、緊急時の回避と逃避と全ての行動においてレノの素早さを活かすことが可能であり、時は金なりの素晴らしいマッチングだと言える。
次にオレの戦闘スタイルについて議論した。
一人が前衛ならもう一人は後衛。
まずはその議論から始めたが、マジシャンやヒーラーには魔法の習得が必須となる。
今時点で魔法は何も使えないし、低い魔力を成長させるのには時間がかかる。
では、前衛職はどうか。
スキルを活かして、高い攻撃力で敵をなぎ倒す。
確かに見た目は派手でかっこいい。
特化するには攻撃系のスキルを増やす必要がある。
性格的には遠くから攻撃するのが好みではあるのだが。
その後もいろいろと議論はしたが、当面はオールラウンダーを目標とすることになった。
悪く言えば器用貧乏なのだが、この世界の魔法やスキルを熟知していない状況で方針を決めてしまうのはもったいない。
実際にやってみるのは大変だと思うが、全ての能力を伸ばすことにした。
しかし、パーティメンバーとのステータスに乖離がある状況で、強敵と戦うのは危険だ。
一人でステータスを上げ続けられる方法を確立する必要がある。
周囲が薄暗くなってきた頃、湖の端が見えてきた。
「よし、使ってみるか。生活魔法」
頭の中で光源を意識しながら、左手のナックルに生活魔法を使用すると、ナックルの金具が明るく光った。
生活魔法で生成する光源は、効果範囲内であれば指定した場所に取り付けることが可能だ。
ナックルに光源を生成してみたが、ナックルの揺れにあわせて光源が激しく揺れるため、前方がかなり見辛い。
(おお。閃いた! 懐中電灯を活用すればいいんじゃないか?)
オレと一緒に転送されてきた荷物はレノのパーソナルバッグに保管してもらっている。
休憩も兼ねて立ち止まると、早速パーソナルバッグから懐中電灯を取り出した。
電池は何かに利用できるかもしれないので、パーソナルバッグの中に戻しておく。
索敵により周囲に敵対反応がない事を確認し、生活魔法を解除。再び懐中電灯の電球に対して生活魔法を使用してみた。
オレの手には予想以上に強力な光度を持つ懐中電灯が生まれていた。
「文明の進化を促進させてしまうかもしれないぞ。
いずれにせよ大規模転送で不可抗力的に文明が混ざるんだろうけど。
うーん。今はなるべく人前で使わないようにするか」
懐中電灯を左手で持ち、正面を照らすとかなり遠くまで見渡せる。
光を反射するくらいに磨かれた金具があれば、懐中電灯モドキを作ることができそうだ。
ダンジョンの内部ではもって歩くのは邪魔になるから、光源を天井に生成しながら進めば良いだろう。
「周囲に人はいないみたいだし。
ダンジョンに到着するまではこれを持って進もう」
懐中電灯は一直線に進行方向を照らしている。
レーザーのようなその光の線は遠くからでも良く見えるだろう。
むしろ目立ってしまって、魔物が寄ってこないか不安になった。
だが、結果として不安が的中することはなく、ダンジョンの入り口までは魔物と戦闘することもなく、辿り着くことができたのである。
辺りはすっかり暗くなっており、それこそレーザー光線のような光がなければ入り口を見逃していたかもしれない。
山と地面の間にぽっかりと開いた穴があった。
それはまるで大地が口を開いているように見えた。
その場で索敵を使用しても、ダンジョン内部の魔物の反応を察知することは出来なかった。
「内部に入らないと索敵の効果は発揮されないということかね」
ダンジョン内部の反応は確認できかなったが、背後に二つほどふらふらと動く反応を発見。
明らかにオレの方に向かってきていた。
背後から攻撃されると厄介なことになるので、内部に入る前に退治することにした。
(周囲には誰もいないし、言霊を使ってみるか。
検証してみないと効果も分かんないもんな)
懐中電灯をしまい、背の高い木の枝に光源を生成しておく。
反応を示した生き物が姿を表すまでの間に改めて言霊の説明を確認しておく。
●レジェンドスキル
言霊:
言葉に霊力を宿す力。地の力を得し者の適性に基づき、霊的力を具現化する。
また、言霊の威力は熟練度に依存する。
地:耐地
天:耐風、風弾、風壁、放電
冥:耐影、影槍、影矢、影縛
海:耐海、腐食
熟練した言霊の力は、 を得る。
(熟練度を上げれば言霊の数が増加し、追加情報の閲覧も可能になるってとこか。
レジェンドスキルの熟練度は上がり難いって言ってたからな。
諦めずに使い続けてみるか)
魔法もリストで確認できると言っていたが、同様に適性毎に使用できる言霊を確認することができた。
使用可能な言霊を確認できるだけありがたい。
情報の確認を終え身構えて待機していると、でかい二匹の蜂が飛んでくるのが見えた。
「ヒュージフォレストビー。魔物だな」
ステータスを確認すると低レベルの魔物であった。
そいつらはオレの姿を目視すると、急速に距離を狭め、オレの周囲を旋回するようにホバリングしている。
ここは山と森、そして周囲は暗い。属性には不自由していなかった。
「一つ一つ使ってみるか。くらえ、影矢!」
一匹の蜂を指して言霊で影矢を発現。
弓で矢を射たような速度で黒い矢が獲物目掛けて飛んでいくが、素早い動きで避けられた。
先制攻撃を仕掛けたことで、蜂も臨戦態勢に入る。
背後にいた蜂がオレに取り付こうと急降下してくるが、触れさせることもなく難なく攻撃を回避する。
蜂が横を通り過ぎるたびに、大きな羽音で風が巻き起こった。
その音が思ったよりも大きい。
大量に攻めてこられると耳が効かなくなるので、厄介な魔物に変貌する。
低レベルであっても油断はしてはいけないと改めて認識した。
「素早さに特化した魔物には直線的な攻撃は当たり難いか。よし」
攻撃を避けつつ、正面にいる蜂にフォーカスし言霊を使用する。
「これならどうだ? 風弾!」
蜂の頭上から地面に向けて、見えない風の塊をぶつける。
風弾が直撃した蜂は、規則正しく響かせていた羽音を狂わせ、鈍い音と共に地面に叩きつけられた。
「止めだ。影槍!」
地面に叩きつけられた蜂と地面の間から影槍を発現。
蜂は死角からの攻撃に成すすべもなく、躯体を貫かれて活動を停止した。
(まずまず。上々。連携して使用するのは効果的だな)
残った蜂は興奮したように動きを活発にし、攻撃を継続している。
想像していたより単調な攻撃を避けつつ、次の攻撃を思考する。
「これはどうだ。放電!」
指先を蜂に向け、言霊を使う。静電気が走ったような音を発し、蜂の体が上下にぶれた。
蜂は目をまわしているのか飛び方が無軌道になってはいたが、ステータスを確認すると生命力はそれほど減少していない。
「もっとすごいのを期待してたけど、無星ならこんなもんか」
続けて二回ほど放電を浴びせると、蜂は地面に向かって墜落した。
ステータスは失神になり、地面の上でぴくぴくと痙攣している。
失神のバッドステータスを付与する攻撃を手に入れ、オレの心は浮き足立った。
暫く見ていたが、失神状態から直ぐに回復することはなさそうだ。
近寄った際に暴れられても困るので、影槍にて止めを刺しておいた。
どんな魔物でも最低二つの素材アイテムを回収することができる。
蜂族の場合は羽と針。ノーマル素材が羽、レア素材が針である。
素材を傷つけないことを意識してスキルを使ったので、状態は良いはずだ。
素材回収結果も上々。
二対の羽と一つの針を最良の状態で回収し、小さな空色の結晶石を二つ回収する。
光源に照らして確認してみると、土色の結晶石とは別の印が浮かび上がっていた。
天の属性を示しているのだろう。
そう考えると、同属性の風弾は効果が低かったのかもしれない。今後は属性や相性も考慮する必要があるだろう。
●アイテム
結晶石【ヒュージフォレストビー】
耐痺【弱】、耐毒【弱】
低レベルの魔物だったので、期待はしていなかった。
いや、本当は少し期待していたけど。
コモンスキルに制限がないのであればいいが、やはり資金調達用にするしかなさそうだ。
パーソナルバッグの中に新たに入手した素材を収納し、ナックルの金具に光源を生成し、準備を整える。
やはり、暗闇での戦闘は厳しいと感じた。
頭上に光源が生成できれば良いが、なければ光源を持っているオレが的になる。
暗闇での戦い方を学び、暗視みたいなスキルがあれば、身につけておきたい。
「さて、突入する前にもう一度レノのステータスを確認しておくか。
今までの戦闘で成長しているかもしれないしな」
名前: レノ フロート
種族: 影人族
生命力(A): 210/210
魔源力(A): 472/602
力 (A): 234 (↑+15)
体力 (A): 211 (↑+10)
魔力 (A): 452
知力 (S): 339
精神 (A): 298
機敏 (S): 565 (↑+5、↓-5)
器用 (A): 514
運 (A): 288 (↑+25)
影人族の資質に基づく凹凸はあるが、レノのステータスはバランスが良い。
今は資質が共有されているので、更なる成長が期待できる。
ステータスは上がっていなかったが、低レベルの魔物相手だったので当たり前と割り切り、ダンジョン内部での戦闘に期待する。
(族長は若いダンジョンと言っていたな。ステータスが上がれば良いけど)
光に照らされるダンジョンの入り口は不気味に光り、オレが進入してくるのを待っているようだった。




