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サトラセ士ケイタの言霊(旧作)  作者: 海地日向
第一章 デノーフ・バ・フィアー
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第二十六話 伝承武器と誘拐された月の巫女

※2017年11月25日 修正しました


 「それで、この剣は戦闘時に使い続ける必要があるのでしょうか?」

 「詳細は透視で確認してみればよいのである」


 族長に指摘されてその事実を思い出す。

 この世界であったり前の作業が身についていないため、確認するのを忘れてしまう。


 こうして初めて武器の説明を確認することになった。

 説明を確認すると四幹六封と言う名称に変化しているようだ。十封から漢数字が減っているのはおそらく、四つの封印が解けたからだろう。


 「説明には、

 『十封改め四幹六封。一点九封、二線八封、三枝七封を経て今となる。

 手に持ち戦い続けよ。積まれた実績は封印を解く糧となる。

 八星二神に祈りを捧げよ。さすれば封印は解かれ新たな力顕現す。

 十の封印を解きし者、光り輝く姿を見ることかなうであろう』

 と書いてある」

 「なるほどである。封印が四つ解けているということで間違いないのである。

 この短剣は、影人族の中で最も価値の高い武器の一つであるが、癖が強く、使い勝手が悪いのが難点である」


 確かに変化する前の状態では使い勝手は最悪で、解放条件も曖昧である。

 そうだとしても、先ほどこの剣の柄を握ってみた感じでは感触は悪くない。

 事実、不思議と手に馴染むような感じがした。

 それに“常に”とはなっていないことから、仮に他の武器を使って攻撃したとしても、積み上げた実績がゼロになるということは無いのだろう。


 一つ気がかりなのは、この剣がレノ個人に紐付くのかどうかだ。

 ルーネと合流したら、確かめてみればいいか、そう考えていた時だった。


 「族長っ!」


 そろそろお暇して、ルーネの家に向かおうと思っていた矢先に、ドアを激しく開け放ち、一人の女性が族長の部屋に入ってきた。

 慌てた様子で衛兵が遅れた入ってきたところを見ると、どうやら衛兵を押しのけて強引に入ってきたようだ。


 「良い。良いのである。何事であるか?」


 女性を追い出そうとしている衛兵を止め、族長は女性に話を促す。


 「ルーネ様がトクネス様達に攫われました!」


 ……なんだって?

 攫われたという非現実的な言葉を聞き、心臓が早鐘を打つように脈打ち、汗が噴出す。

 ここは元いた世界ではないため、非現実的という言葉は相応しくないのかもしれないが、こういう事態が起こり得るという事を予想できていなかった。


 族長の顔を見ると、口をあんぐりと開けて固まっている。

 何が起こったのか理解できない、そういう表情で声も出ないようだ。



 (まったく。役に立つのか立たないのか。この親父は)



 「詳しく、教えてもらえるか?」


 族長に変わり、震えそうになる声を抑え付け、なるべく落ち着いた口調で女性に話しかける。

 良く見るとルーネの家で見かけた侍女という役割の女性だった。


 「ルーネ様が戻って来ていたのが見えたので、迎えに出たら、門の横からトクネス様が現れました。

 お二人で少しお話をしていたようですが、親衛隊の方々と共に何処かへ連れ去ったのです!」

 「二人で話していた? 言い争っていたのか?」

 「いえ、そんなことは……。

 ルーネ様はいつものように穏やかでしたし、トクネス様もいつもより、なんと言うか、落ち着いた様子でした」


 穏やかに会話し、落ち着いていた、と確かに言った。 

 単純に推察すると、目的はルーネを旅に行かせないためだと思える。

 しかし、トクネスとルーネは婚約者同士であるため、トクネスには直談判をする権利がある。

 普通なら、安全にその権利を行使して、族長に訴えるだろう。


 「余所者が、勝手なことをしようとしているってな」


 その方法を選択せずに誘拐、表に情報が漏れるようなリスクを取った理由は何だろうか。


 「早く、早くルーネ様をお助けください!」

 「落ち着いて。衛兵はどうした?」

 「ルーネ様がお戻りになる時は、いつも裏口から。ですので、衛兵はいませんでした」


 おいおい。

 裏口に衛兵がいなければ、意味が無いだろ。


 「裏口は隠蔽されていますので、知っている者は限られます」

 「それで、この状況が発生しているんだから、意味が無いことは分かるだろ。

 それで、ルーネは抵抗していなかったのか?」

 「ルーネ様は女性ですよ! 複数の男に囲まれれば抵抗するのは危険です!」


 オレから指摘を受けたことに腹を立てたのか、侍女は声を荒げて訴えてきた。

 状況から察すれば彼女は後衛職だから無抵抗でもおかしくはないが、侍女の話だと、争ったり、脅されていたという様子は無かったようだ。

 家の者に助けを呼ぶことも無く、一緒について行った、ということか。


 「分かった。それでは、なぜ攫われたと思ったんだ?」

 「そ、それは。トクネス様の親衛隊の方が、ルーネ様の口を布で閉じたからです」

 「なるほど、な。それは、魔法を使わせないためか」


 侍女は口を無言でうなずいた。

 いずれにせよ、連れて行かれたのは間違いないだろう。

 本当の目的は不明だが、オレを誘き寄せるために、敢えて目撃させたのかもしれない。

 帰り道を狙えば、誰にも見つからずに連れて行くことは可能だったはずだからな。

 想定した通りだとすると、ルーネがトクネスの事を明に拒絶している訳ではないし、トクネスから危害を加えられる可能性は低いと思っていいだろう。


 「族長。二つ聞きたい。本当の目的と潜伏場所だ」

 「ふむ。おそらく潜伏場所は、二ヶ月ほど前に発見された山の麓のダンジョンだと思うのである。

 トクネス達はそこの一角を根城にしていると聞いたことがあるのである」

 「……ダンジョンか」


 何の準備も整っていないのに、いきなりダンジョンは無理がある。


 「ダンジョンといっても若いダンジョンであるため低レベルの魔物しか出ない。

 できればダンジョンボスを討伐し制圧したいが、それができる力が無いのである」

 「制圧?」

 「制圧すれば、ダンジョンはいずれ消えるのである。

 放っておくと、魔物を生み出し続け、いずれは魔物がダンジョンの外にあふれ出てくるのである」

 「なぜそんなところを根城にしているんだ?」

 「ダンジョンを成熟させないため、だと思うのである」


 何気にトクネスは街のためにがんばっている、ということか。

 ますます、行動のトリガーが理解できない。


 「本当の目的は?」

 「分からないのである。ほ、本当である!」


 族長が分からないと言った瞬間に、僅かながら怒気を漏らしてしまった。

 それを察知したかのように族長は、必死に言い訳をしている。



 (これって、もしかして。オレにダンジョンを制圧させようとしているんじゃないのか?

 族長ではなく、トクネスが画策したのかもしれないけど。

 良く見ると族長も満更でもない表情でオレをちらちら見ているし。

 一族でぐるになってんじゃないだろうな。

 ルーネは緊急避難用の魔法であるシャドウウォークが使えるはずだ。

 それって、猿ぐつわなんて意味無いんじゃね?

 まあ、それでルーネを旅に連れて行けるのであれば安いもんだけど)



 「オレにダンジョンを制圧させるのが目的の一つだとして、ここからダンジョンまではどれくらいかかりますか?」

 「う、うむ。その想いが無いと言えば嘘になるが、本当に目的は分からないのである。

 ダンジョンはここから一時間程度はかかるのである。

 先ほどの闘技場から湖沿いに西へ西へ向かうと山の麓に到着する。

 そのまま山の周囲を歩き続けると、山と地面の間に大きな穴が開いているはずである。

 それがダンジョンの入り口である」



 (やっぱり、それも目的の一つかよ。

 まあ、いいや。直ぐにでも旅に出る必要があるから、時間はかけたくない)



 オレの実力を見せつけたこともあるだろうが、族長の反応を見る限り念入りな準備は必要はなさそうだ。

トクネス達が屯っている結果、魔物の数も減少している可能性が高い。


 「分かりました。今からダンジョンに向かうことにします。

 ただ、事と次第によって、最悪の結果も覚悟しておいてください」

 「っ! わ、分かったのであるが、できれば生かして捕まえて欲しいのである」

 「善処します」


 立ち上がり颯爽と屋外に飛び出すと、空は日に焼かれ美しい茜色に染まっていた。

 まるで絵画を切り取ったかのような光景。

 そこにはその美しさを遮る雑居ビルのような建物など存在しない。

 その景色に心を奪われて呆然と立ち尽くすが、時間が無いことを思い出し、すぐにダンジョンに向かって駆け出した。



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