第二十五話 影人族とこの世界
トクネス達を闘技場に置き去りにし、オレ達は族長の家に戻ってきた。
そして、オレ達の前には、困り顔の族長が目の前に座っている。
「族長。約束どおり、ルーネと旅に出るのを許して欲しい」
「もはや、止めることは出来ないのである」
族長の両隣には衛兵が立っているのだが、なぜだか楽しそうだ。
きらきらとした目でオレの事を見ている。
はっきり言って、居心地が悪い。
「ありがとうございます。それで、旅に出る準備を進めるつもりですが、少し話を聞かせてもらえますか」
「分かったのである」
転送されてきたのは午前中だと思うけど、既に日は落ち、辺りも暗くなってきている。
それに、真偽判定のスキルを持っている可能性がある族長とは、長くは話さないほうが良い。
情報は手に入れるが、可能な限り情報は漏らさない。
自分からオレの名前等の情報、そして転移した際の事を省略して説明した。
まるでそれしか覚えていないような印象を与え、かつ嘘はつかないように気をつける。
族長とルーネは興味津々に聞いていたが、なんとなく覚えていないという印象が伝わったのか、深堀りして確認してくることは無かった。
それから、族長に確認したかったことを聞きだした。
この世界『デノーフ・バ・フィアー』のことや影人族の位置づけ、そして呪いについてだ。
まず、影人族が住んでいるのは二つの大陸の間にある島である。
南に首都があったが、レノが言っていたように海に沈んでしまっている。
次に呪いであるが、予想通り感情も失われる対象に含まれているようだ。
ルーネはこの事実に気が付いていなかったが、族長は気づいていた。
そして、これも予想通りであったが、トクネスも気がついているらしい。
それゆえの行動だったのか?
それに対する族長の答えは『分からない』だった。
オレから確認したいことは概ね確認することが出来た。
最後に、夢で見た風景を族長に確認して、会合を切り上げようと考えていた。
「転移する前に夢を見ました。墓のようなところでしたが、近くにありますか?」
「夢? 墓のようなところであるか」
「はい。海が見える丘のような場所です」
「それは、おそらく牙の塚であるな。夢か、なんとも不思議な話である。
影人族の習わしに基づき、成人を迎えた者は牙の塚で武器を授かるのである」
「武器を授かる?」
「そうである。牙の塚には血族が使っていた武器が封印されている。
その血族のみが武器を授かることができ、レノは既に武器を授かっているのである。
なので、行ってみても良いが、ケイタには権利が無いので伝承は受けられないのである」
そう言って族長は奥の部屋に入り、何かを持って戻ってきた。
「これがレノが伝承を受けた武器。十封である」
奇妙な形をした短剣が木台の上に乗っていた。
漢字の十のような形の短剣だ。
非常に使い辛い形状をしている。
この形状の短剣を振り回すと、横の刃は自分の体に刺さる気がする。
「この短剣は十の封印がされているという伝承である。
レノはこの短剣を扱うことを放棄したのである。
それでもレノには才能がある。他の武器を使っても十分に強いのである」
「レノが放棄したのは、なぜですか」
後でレノに直接聞いてもいい話ではあったが、興味があったのでついつい聞いてしまった。
「封印を解く条件が厳しいためである。
この短剣の封印を解くには、全ての封印角に触れる必要があるのである」
「全ての封印角に触れる、ということですか」
「その通りである。各地の封印角のことである」
話の流れからすると、封印角は十個あるということだ。
レノも封印角と適性はリンクしていると言っていた。つまり、適性を得ることが封印を解くことにつながるということだろう。
「レノからは封印角に触れるのは、かなり難しいと聞いています。
そのような封印角がこの世界には十個もあるということでしょうか?」
「その通りである。それぞれの組織の思惑があり、困難と言わざるを得ないのである。
特に、我々は呪いに掛かっている姿をしているので、忌み嫌われているのである。
だが、私の記憶では封印角は十個も存在していない。まさにミステリーである」
なにがミステリーだ? と疑問に思ったが、ハードルが高いのは事実のようだ。
この話だけを聞くと、レノが諦めた気持ちは理解できる。
でも、これ位の制限であれば、ゲームだと良くある設定だ。
血塗られた盾だって装備し続ければ姿を変えるのだから。
「封印角には、本当に触れるだけで良いのでしょうか?」
「そうだが……、な、何を不気味に微笑んでいるのだ?
何か、物騒なことを考えているのであるか?」
オレは悪い顔でほくそ笑んでいたらしい。
その顔を見て、族長が少しうろたえた。
認められるというのは、おそらく適性を持つということだろう。
触れれば適性を得る。つまり解放条件を満たすと言うことだ。
触れるだけであれば、方法はあるかもしれない。
ま、それは追々考えるとして、オレは既に四つの適性を持っている。
この状態でその短剣を持つとどうなるのだろうか。
「族長。その短剣を持たせてもらっても良いでしょうか」
きらきらとした目でオレの事を見ていた衛兵が、瞬時に警戒の色を見せる。
だが、族長が下がれというと、兵は警戒しつつ元の位置に戻り、再び楽しげな表情でオレを見ている。
「分かっておるであろ。この者の実力であれば誰も止められないのである。
さあ、持ってみると良いのである」
オレは族長の手が届く距離まで歩いて寄っていき、片膝をついて頭を下げる。
そのオレの仕草を見た族長は、満足げな声で頭を上げよと言った。
頭を下げて首を差し出す。後頭部が見えている状態であれば、簡単に首を刎ねることができる。
オレは族長の部下ではないが、礼を尽くしたいとは思っていた。
だからこそ、頭を下げることで敵意が無いことを示したかった。
オレは顔を上げ、目の前に差し出された短剣の柄を握った。
その瞬間、短剣は強烈な光を放ち、ぱきぱきという音を響かせた。
そして、光が発散し消滅する、短剣は全く異なる姿に変わっていた。
ダガーからショートソードほどの長さになり、左右に伸びた横の刃は短く邪魔にならない。両刃のショートソードになっていた。
「これは……まあ、戦えなくはないか」
「……そうね」
「……いや、これは、偉大な成果だと思うのである。
レノは先端が尖っただけであったが。ケイタと言ったな。
お主はいったいどこで封印角に触れたのであるか?」
各々言葉は違うが、思いは同じようであった。
複数の適性を持っていることは族長に知られてしまったが、どのようにして手に入れたのかは分からない、と嘘にならないように回答しておいた。
(変化が目視で確認できるのであれば、やる気も出るってもんだな。
道のりが遠いのも事実だけど)
オレはこの剣をパートナーに戦い続きることに決めた。
レノが伝承を受け、オレがそれを使う。
なぜか、運命のようなものを感じたからだ。
「ルーネ。この剣に合う鞘のようなものは無いだろうか」
「……覚悟を決めたのね。いいわ。私が作ってあげる。
しばらく預かってもいいかしら」
オレはまったく問題ないのだが、族長はどうだろう。
そう思ってプット族長の顔色を窺うが、族長も問題ないようだった。
「ありがとう。助かる」
ルーネが柄を握った瞬間、淡い光に包まれ短剣は元の形状に戻った。
「もうっ! これじゃ採寸できないじゃない」
ルーネがぶつぶつと文句を言いながら、どこからかショートソード形態と同じようなサイズの木の板を持ってきた。
鞘を作るためにサイズを確認したいと言っていたので、もう一度手に取り形状を変化させる。
オレが触れた後であれば、手を放しても形状は維持しているようだ。
第三者が触れると別の形態に戻っていしまうので、ルーネは剣に触れないように器用に小刀で木の板に傷をつけて採寸している。
うまいこと採寸ができたことに満足し、ルーネは木の板を持って自分の家に戻って行った。




