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サトラセ士ケイタの言霊(旧作)  作者: 海地日向
第一章 デノーフ・バ・フィアー
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第二十三話 戦いの素人vsトクネス


 族長は集まった観客を見渡し、うんうんと頷くと、トクネスと一緒に石舞台の中心まで歩いてきた。


 「間もなく決闘を開始するのである。双方、準備はよいのであるか?」

 「準備? 必要ないだろ。相手はレノだぜ。あーあーあぁ、中身は別人だったか。

 転移事故に遭遇した別世界の素人さんなんだろ?」


 咄嗟に族長に視線を向けるが必死に否定している。

 気持ちは分かるが族長なんだからどんと構えていてほしい。

 そんなに一生懸命に否定されると余計に“真実だ”って言っているようなものではないか。

 その間もトクネスは気持ちよさそうに、取り巻き達は楽しそうに、ドーサは嫌味たっぷりに笑みを浮かべて笑っていた。


 まぁ、あの汗とあの表情を見る限り、族長から情報は漏れていない。

 だとすると、別の方法により情報を得たという可能性。

 この世界はスキルと魔法があるからな、盗聴するスキルがあってもおかしくは無い。


 だが、ルーネは

 『この先の部屋は結界が張られているわ。

 行動が制限されるので、スキルも魔法も使えないわよ』

 と言っていた。


 結界の外にいる限りスキルは使用できるし、制限もされない。

 それこそ族長の身内であれば、族長の家の構造は理解しているはずだ。

 ……だけど、この石舞台と観客席のように結界外からの攻撃は遮断されてしまう。


 「結界外から盗聴で来たのだとすると、結界を張っていても外部から攻撃可能ということになる」


 あそこは、族長の家、この一族の長の家だ。

 有事に備え、病気やけがを回復することも考えているだろう。

 そう考えると“家の中が全て結界の範囲に入っている”なんてことは無いのかも。

 現実となるとなかなか気が回らない。こういうリスクはもっと警戒するべきだと肝に銘じた。



 さて。それはそれとしてだ。

 トクネスは大声で“転移事故”と公言してしまった。

 トクネスの立場からすればオレの身の安全なんてどうでも良いことだ。

 当然、知りえた情報を黙っているという保障はない。


 「くそ。さっさと殺ってしまったほうが良かったか」

 「ちょ、ちょっと」


 そんなことを考えていると、不安げなルーネがオレの袖を引っ張ってきた。

 どうやら、感情が分かりやすく表情に表れていたみたいだ。


 「大丈夫だ」


 まず、冷静になろう。

 殺る、もしくは殺ってしまった場合、一族全員を相手にすることになる可能性が高い。

 さすがにそれは避けたい。


 トクネス関連のごたごたのせいで族長に詳細を聞けていないが、影人族は帝国の属領だ。

 そして帝国は魔族と繋がっているので、結果的に影人族は魔族と繋がっていることになる。

 だからこそ、レノは魔族を疑っている。

 魔族が影人族を陥れた諸悪の根源であると考えている。


 その状況を踏まえ、オレの情報が漏れた場合の問題と影響がどうか。

 楽観的に考えるのであれば、大規模転移後には大勢の中の一人でしかない。

 その内に特定されて魔族から狙われるという状況は同じで、それが少し早くなるだけ。

 仮にオレの姿で旅をしたとしても、ルーネと一緒であればオレだとばれてしまう。


 情報は守るべきだが、全てを秘匿にすることは不可能。

 この情報はいずれ漏れ広がる情報であり、今まさに漏れ広がり始めたと考えればいい。

 それに……影人族全員に口止めすることはできない。


 変えられることは変えてみるし、来るものは蹴散らしてやればいい。

 そうだ、オレはその力を身につけると決意したんだ。

 スワンとレノとも約束したしな。


 「うん、決めた。ルーネは必ず旅に連れて行く。誰であろうと微塵も邪魔することは許さない」

 「だから、ちょっと!」


 ん? また、ルーネが素っ頓狂な声を出して慌てている。

 ふとトクネスを見ると、顔は赤くおでこに血管が浮いていた。

 本当に好戦的なやつだな。こいつは大成する可能性もあるが、早死にする可能性も高い。

 そのことを身に染みるほど分からせてやろうじゃないか。


 「後者にならない方がいいだろ。影人族にとってもな」

 「貴様、いい度胸だな。何をぶつぶつ言っているのかは知らんが、さっさと上がって来い」


 ふぅ。この心地よい緊張感を感じるのは何時ぶりだろう。

 さすがにレノの姿のオレをトクネスが殺すことはしないだろうが、“誤って”の事故だけは注意しておこう。

 さて、行ってくるか。

 オレはルーネと軽く目で会話し、石舞台の中央に向かって歩を進めた。



--------------------------------------


 「ルールを説明するのである」

 「親父殿。ルールの説明なんて一言で良いんだよ。殺すな。これだけだろ?」

 「トクネス! こ、これは族長である私の大事な仕事。

 儀式は正しくこなす必要があるのである」


 トクネスを窘め、族長はルールの確認を続けるが、トクネスは終始面倒くさそうにしていた。

 ルールはルーネに事前に確認した情報と同じで、新たな発見は無かった。


 「双方、良いであるか?」

 「あぁ」

 「はい」


 族長が観衆に視線を送り、石舞台から降りるため舞台の端に向かって歩き始めた。

 その動きに合わせ、オレはトクネスに背中を見せないようにしつつ、ゆっくりと距離をとる。


 「一発……で終わらせてしまっては、さすがにかわいそうか」

 「くっ、貴様! いちいち腹が立つ野郎だっ!」


 短期は損気という言葉を知らないのだろう。

 冷静さというのはリーダーにとって大事な資質の一つではなかったか?

 これだけ直線的な性格だと、取り巻き連中もさぞ苦労していることだろう。


 あ、そうだ。サトラセを戦闘で活かせるか試したかったんだ。

 相手が冷静で無いのが好都合だし、試させてもらうことにしよう。


 「おっと。慢心してはいけない。どんな相手でも油断しないようにしないと」


 族長が舞台から降り、石の線の外部から舞台の方を振り返る。

 すると、その様子を窺っていた観衆から歓声が上がった。


 「それでは、トクネスとレノの決闘を始めるのである。

 双方ルールを遵守し、正々堂々と勝負するのである。

 結界士の二人が結界を張るので、存分に己が力を示すのである」


 族長の精一杯の主張だと思うが、トクネスの暴露を無視しオレの事をレノと言った。

 観衆も全く気にしていないようである。

 

 族長の命を受け結界士と呼ばれた二人が石舞台を挟むように立ち、結界の準備を始めた。

 ほどなくして結界が石の線上に完成したようだが、見た目には分からなかった。

 ま、観衆に被害が及ぶような魔法やスキルを使わなければ大丈夫だろう。




 「では、始めるのである!」

 「うらぁ!」


 決闘の合図がされた瞬間、剣を上段に振りかぶってトクネスがオレに迫ってくる。

 動作は大きく、表情や声には勢いがあるが素早くはない。

 レノの姿で戦う際の戦闘スタイルはヒットアンドアウェイ。

 オレには全く打ち合うつもりは無い。


 手加減をしているとは思えない力強い振り下ろしの一撃を右方向に移動することでかわす。

 当然、左右どちらかに避けることは予想していただろう。

 横薙ぎの一閃を放ってきた。

 だが、オレは既に十分な距離を取っているため、横薙ぎの一閃は空を切る。


 「切れの無い大味な攻撃だな。やはり、本命は短剣か?」

 「いっちいち、うるせぇ!」


 図星だったのか、トクネスの顔が怒りで赤黒く変色した。

 しかし、決闘だからやはりイベントということなのだろうか。

 オレには本気でやっているように感じられなかった。

 観客は一つ一つのやり取りに大げさに盛り上がっているようだが、オレの気持ちは全く盛り上がっていなかった。


 「シャドウボール!」


 唐突にトクネスが左手をオレに向け“魔法”を使った。

 魔法を使ったと察したのは、ルーネが使ったシャドウアローに似た気配を感じたからだ。

 オレは咄嗟に立っていた場所から移動すると、灰色の丸い塊が横を通り過ぎ結界に衝突。

 鈍い音を発して消滅した。


 ルーネのシャドウアローよりは遅いが、威力は今の魔法の方がありそうだな。

 相手の特長によって使い分けられるってことか。

 今の魔法は避けられるが、シャドウアローを使われるとかわすことに気を取られそうだ。


 「物理攻撃に魔法とスキル。それぞれを気にしないといけないのか。

 更に仲間がいれば、仲間の行動にも気を張る必要がある。

 熟練者との戦闘を想像すると……、考えただけで恐ろしくなるな」


 そして魔法を避けることは想定済みだったのか、魔法を避けたオレに向かってトクネスがダッシュし、一気に間合いを詰め、抜き身の剣を横に構え、再び横薙ぎの一閃を放とうとしている。

 さて、受けるか避けるか。トクネスは、オレが飛んで避けるか、しゃがんで避けることを期待しているのだろう。

 オレに剣で打ち合うつもりが無いことは察しているだろうからな。


 普通なら、ただ避けるだけだ。

 そう、普通ならな。



 「左に移動する」



 トクネスだけに聞こえる声でオレが避ける方向を断言した瞬間、トクネスは右を向いた。

 ……戦士としての勘は持っているみたいだな。

 オレが左に行くと予想し右を向いたトクネスを尻目に、オレは右方向に移動して距離を取ることに成功する。


 「あっ? なに?」


 トクネスは明らかに動揺していた。

 オレの言葉を聞いて真実だと判断したトクネスの脳は、右を向くように指令を出した。

 ただそれだけのことであり、正しい反応なのだから、動揺する必要はない。

 ま、トクネスには何が起こったのか分かっていないだろうけどな。


 さて、もう一回やってみるか。


 「てめー、何をやりやがったっ!」


 驚いたのは一瞬だけで、直ぐに気持ちを持ち直しオレを追ってきた。

 トクネスはオレが仕掛けた何かを見極めるつもりなのか、オレの体の中心を目掛けて鋭い突きを放ち、隙を見逃さないように怖い位に目を見開いている。

 違うな、トクネスは本気だ。この一撃は殺気をこめた“そのつもり”で放っており、力を抜いている訳ではない。


 「スキルを放つ」


 今度もトクネスだけに聞こえる位の声でオレの言葉を伝えてやった。

 その瞬間、トクネスは突き出していた剣を自分の体の正面に引き戻し、一気にオレから距離を取った。

 オレはその位置から動かず、トクネスの様子を窺っている。

 トクネスは呆気に取られたような表情で、オレの事を見つめている。


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