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サトラセ士ケイタの言霊(旧作)  作者: 海地日向
第一章 デノーフ・バ・フィアー
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第二十一話 いざ、湖畔の闘技場へ

 「いずれにしても、やり過ぎないように気をつける。

 念のため、トクネスと取り巻き連中の情報を教えてほしい」

 「はぁ……。分かったわ」


 闘技場における決闘のルールを確認すると非常にシンプルであることが分かった。

 スキル、魔法は使用可。相手が気絶するか、参った宣言すれば終了。

 殺傷効果の高いスキルや魔法の使用、外野からの手出しは禁止。

 身につけている装備はそのまま利用して良いし、当然、武器も含まれる。

 殺害は禁止ではあるが“手元が狂った”という可能性はありえる。


 トクネスは長剣を所持していたので、剣士系のスキルを使うみたいだが、隠蔽を所持しているため詳細は不明だ。

 ただ、ルーネは一度だけ、トクネスが剣の舞を使っているところを見たことがあるらしい。


 オレ自身が剣の舞を使って感じたことだけど、このスキルは素早さに依存する。

 そのため、軽く振り回せる短剣が適している。

 長剣を得物にすれば刃が長い分だけ有利ではあるが、確実に攻撃速度は落ちる。

 ヒットアンドアウェイを基本とするこのスキルには適さない。


 そう考えると、わざわざ長所を潰すようなことはしないだろう。

 短剣を隠し持っている可能性、長剣に適したスキルを所持している可能性、この二点は考慮しておくべきだ。


 ちなみに、トクネスと取り巻き連中は明確にロールを分けているらしい。

 トクネスだけが前衛であり、他の取り巻き連中は後衛として主に弓と魔法を使っている。

 したがって、トクネスが前衛スキルを使うというのは間違いないだろう。


 また、トクネスのステータスも詳細不明だ。

 前にレノとトクネスが決闘をしたみたいだけど、その際はトクネスが勝ったと言っていた。

 そのこともあって、今回の決闘でレノの体が怪我しないか心配しているみたいだ。

 ルーネは今のレノのステータスを知らないから、仕方のないことだろう。


 後は、そうだな。

 念のため、時間を作ってレノにも確認する事にしよう。



 「時間はどうやって確認すればいい?」

 「太陽の位置、もしくは生活魔法で確認するわ」

 「ん? 生活魔法で時間が分かるのか?」

 「ええ。そうよ……って。生活魔法の熟練度は上限に達したって言ってたわね?」

 「ああ。その通りだ」


 この世界では短い時間を測るのには砂時計を使う。

 時間を確認するには太陽の位置で把握するか、生活魔法を使うそうだ。 

 早速、生活魔法で時間をイメージすると、現在時刻が頭に浮かんだ。

 地球と同じく二十四時間表記で便利ではあったが、暦は分からなかった。

 


 次は装備だな。

 レノは一本の黒石のダガーしか所持していなかった。

 パーソナルバッグの中にあるのかもしれないが、人のカバンを漁るのは気が引けた。

 もしかして、レノの家に行けばあるのかな?

 そう思ってルーネに相談すると、なぜかルーネの家に行くことになった。


 「レノの家に行っても良いけど、何も無いわよ。

 しかも街の外れで闘技場からは遠い場所だから、今から寄っていると間に合わないわ」

 「そうか。拳につける装備が欲しいんだが、心当たりはないか?」


 破壊の拳は強力だ。

 スキル使用中は拳がスキルによって守られているが、それでも痺れが残るほどの威力がある。


 「拳闘用の武器ね。残念ながら、ここでは売っているのを見たことが無いわね。

 そもそも、拳闘士はリスクが高いから人気がないのよ。

 魔物の懐に入る必要があるんだもの」


 拳闘士はリスクはあるが、身軽に行動できるという利点はある。

 だが、オレもスキルを持っていなかったら、拳メインで戦うという選択はしない。

 レノの姿では素早さ特化の戦闘が可能なので、比較的容易に懐に入ることができるので、選択肢の一つとして装備を整えておいても良いと思っていた。


 実際に、短剣と拳の組み合わせは悪くない。

 共に最も短いレンジの近距離攻撃なので代替手段として活用できる。

 それに、レノの黒石のダガーはダガーにしては重量があるが丈夫だ。

 柄を握った時のしっくりくる感じから、十分に使い込んでいることが分かる。


 「それに、貴方はこの世界のお金を持ってないでしょ」


 あ、そうだ。

 レノは持ってるかもしれないが、勝手に使うわけにはいかない。

 二人で相談する事項に、お金の事が含まれていなかった。

 整理しておくべき事項が漏れている。

 後で、レノに確認しておかないと。


 記憶力【強】があるので、忘れてはいないのだけど、確認するべきことが自然に生み出されるわけではない。

 聞いたことや見たことは覚えているのだが、切欠は作り出す必要がある。


 「うん。その通りだ。何とか、お金をかけずに手に入れたいのだが?

 あっ。さっきの素材を売ればいいのか?」

 「それは旅の資金用に必要だから、今は売らずに取っておくべきよ。

 それに、何のために私の家に向かっていると思ってるのよ」


 そう言われて、オレはようやくルーネの家に向かっている理由を理解した。


 ルーネの家に着くと、オレに家の前で待機するように言って、家の中に入って行った。

 見た感じは非常に質素で周囲の家屋と同じ様相をしているが、家の前には二人の衛兵が立っている。

 月の巫女というのは、護衛が身を守ってくれる身分ということだ。



 暫くすると、ルーネが布の袋を持って出てきた。


 「これは、前にレノが使っていたものよ。

 レノは短剣を好んで使うけど、短剣を失った場合の対策も考えていたわ」


 袋から出てきたのは、獣の革で作ったグローブだった。

 拳の正面には金属製のプレートがあしらわれ、プレートと拳の間は厚めの革で補強されている。

 ぐっと押して確認してみると、最低限の保護機能はあると感じた。

 グローブは左手のみ。そして、甲側に大きな裂け目を縫った後があった。


 「さっきの戦いを見て気づいたけど、貴方も右利きね。

 レノも右利きで、右手にダガーを持って戦うスタイルなの。

 だから、左手にグローブを装備していたってわけ」


 レノからすれば、拳での戦いはあくまでオプションだからな。

 そうならないように行動するのがプロの狩人なんだろう。

 この体の持ち主はレノだから、その戦闘方法に慣れているかもしれない。

 無理にあわせる必要も無いのだろうけど、今は他の選択肢は無いし、これで十分だろう。


 「助かる。一応、レノにも報告しておくよ」


 なぜ、ルーネがレノのグローブを保管していたのか。

 聞いてもいいのか、聞かないほうがいいのか判断できなかったので、今は黙っておくことにした。



 時間を確認すると、約束の時間まで三十分を切っていた。

 ルーネの家から湖の畔まで歩いて二十分程度ということだから、十分間に合うだろう。

 オレはレノに相談したいことがあったので、街道を歩いている途中で『用を足す』と言って森に入った。

 もちろん、ルーネはついて来なかった。


 森に入り、周囲に外敵となる生き物がいないことを確認する。

 レノと会話している間は、オレは無防備になっているはずだ。

 ルーネと旅に出たら、まずどういう状態になっているのか第三者の目で観察してもらうつもりだ。

 生死に関わる問題なので、対策を考えなければならないからな。



 そして、オレの精神世界でレノに会い、状況を報告するが大したことないと一蹴された。

 前回負けた理由は、目立ちたくなかっただけのことらしい。

 ルーネがトクネスの婚約者であることは一族全員が知っている事実であり、決闘の理由もトクネスのやっかみであることは分かっていた。


 そういえば、レノが放つ強烈な殺気をトクネスから感じることは無かった。

 おそらくトクネスは殺気を放っていたのだろうけど、到底レノには及ばない。

 だからかもしれないが、レノがわざと負けたと言ったことに対して、本当だろうと納得することができた。


 更にお金とマジックバッグ、家に残してきた数少ないアイテムも使って良いと言ってくれた。

 マジックバッグはレノに紐付いていて、オレは利用することができない。

 魔法も受け継げなかったので、マジックバッグは魔法扱いなのかもしれない。

 とにかく、オレのマジックバッグを手に入れるまでは、レノの物を借りるしかないので、遠慮なく使用させてもらうことにした。


 「旅に出れば直ぐに稼げるさ。その後、返してもらえればいいよ」

 「ありがとう。忘れないように“記憶”しておく」


 グローブについてもノーコメントだった。

 本当はいろいろと確認したいことがあったが、決闘に向かっている途中だったので、今日の夜に報告しに来ることを約束し、現実世界に戻ってきた。



 「さて。いっちょやってみるか」


 街道に戻り、ルーネと合流すると『遅い!』と怒られてしまった。

 時間を確認すると残り十分しかない。

 急いだつもりだったが、時間をかけ過ぎたようだ。


 「すまない。その……」

 「もう! 言わなくていいから、急いで行くわよ!」


 ん? 何か勘違いをされているような気が?

 あっそうか。用を足すといったからか。

 言い訳するのも変な気がするので、軽くルーネに謝罪し、オレ達は駆け足で闘技場に向かって行った。


 湖の畔に到着すると、石で囲まれたオープンな建造物が見えてきた。これが闘技場だろう。

 闘技場の中に入ると、石の舞台と石の線があった。

 二重丸の内側の円が舞台、外側の円は石の線で描かれている。

 観客はこの外側の石の線から内側に入ることは許されていない。

 更に周囲を見渡すと、石の線から少し離れたところから囲いに向かって、石で作った椅子が階段状に設置されていた。



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