第十九話 族長との面会
2017年11月28日 修正しました。
「族長の家に着いたわよ」
「やっぱりここか。えらく特徴的な建物だね」
「失敗しないように先に伝えておくけど、許可されるまで発言しないで。
これは族長に面会する時の仕来たりだから、絶対に守ってよ。
それと、貴方にとって不本意なことを言うかもしれないけど、最初は私に任せて欲しいの」
「……分かった。確かに最初の入りはルーネに任せた方が良いかもしれない」
族長に対してどのように説明しようか考えていたが、同族のルーネから最初に説明してもらった方が交渉の入りはスムーズかもしれない。
オレが同意したことを確認すると、ルーネは族長のいる建物に向かって歩き始めたので、オレもそれに続いた。
念のため索敵を使用すると周囲の全ての反応を把握することはできるが、今の熟練度だと敵意だけを把握するのは難しい。
建物の中は想像していたよりも広く、興味がそそられる様々な雑貨が置いてあった。
ルーネについて更に先に進むと、正面に装飾されたドアがあり、その脇には二人の衛兵が立っている。
二人の衛兵とルーネは微笑みながら一言二言会話すると、一人の衛兵がドアを開け、部屋の中に消えて行った。
「レノ、ここまできて」
オレがルーネの隣まで移動すると、小さな声で語りかけてきた。
「落ち着いてね。私と一緒なら族長は会ってくれるはずだから」
族長をアポなしで訪れても面会してくれる身分。
ルーネは何者なんだろう。そんなことを考えていると、先ほど部屋の中に入った衛兵が戻ってきて、両開きのドアを開放した。
「ルーネ様、お待たせしました。プット族長がお会いになるそうです。
部屋に入る前に、こちらで武器を預からせてもらいます」
にこやかに話す衛兵。何がそんなに楽しいのだろう。
不思議な感覚を覚えつつ、オレはダガーを衛兵に渡した。
「この先の部屋は結界が張られていて、スキルも魔法も使えないわ。
当然、パーソナルバッグもよ」
ルーネが追加の注意事項として、非常に重要な情報をオレに伝達する。
スキルも魔法も使えないということは、“サトラセ”は使えないのだから、ガチで交渉することになる。
よく考えれば当たり前のことだった。
族長や王様等、自組織の親分が他者と面会する場所でスキルや魔法が利用できるのは危険である。抜け道はあるのだろうが、今は探りを入れるには時間が足りない。
新たな課題が浮き彫りになり、今後悩むことになりそうだが、まずはこの場を乗り切ることに集中する。
それに、足を踏まれるのは嫌(痛くは無いけど)なので、オレは無言で頷いた。
部屋の中に入るように促されたオレ達は、ルーネを先頭にゆっくりと部屋の中に進んで行った。
当たり前のようにオレ達を挟むように衛兵がついて歩いてきている。
部屋の正面にはイスに座った男――プット族長が堂々たる態度でオレ達を見ていた。
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部屋の真ん中でルーネが片膝を付き、頭を下げる。
オレはルーネより半歩ほど後ろで片膝を付き、ルーネの動作を真似して頭を下げた。
「ふむふむ。ご苦労である。ルーネよ頭を上げよ」
許可が出たルーネは頭を上げ、族長の次の言葉を待っている。
許可が出ていないオレは床を見たままだ。
「それで、急用があるとな。レノまで伴って一体何があったのであるか?」
「はい。プット族長だけに相談したいことがあるのです」
「私だけにであるか?」
「はい」
ルーネが族長だけに相談したいと言うと、『ふむ』と族長は一言発し、暫く沈黙が続いた。
オレは頭を下げたままなので族長の様子は分からない。
「分かったのである。お前達、下がるのである」
そう言うと族長の後ろから別の二人の衛兵が現れ、一緒に入ってきた二人の衛兵と共に部屋の外へ出て行った。
奥から出てきた二人の衛兵は、ドアの入り口にいた二人より明らかにやり手、そう感じさせるようなオーラを発していた。
「ここには私とお前達しかいないのである。さて、相談とは何であるか?」
族長は先ほどの二人の衛兵よりも更に強い威圧感を放っている。
見た目で圧されたり勘に頼るのは良くないのだろうが、族長は屈強な戦士に見えた。
「はい。事情があり、レノと旅に出ることにしたいのです」
「旅? であるか。理由は何であるか?」
「レノの体に別の者が入り込みました。私は呪いの類ではないかと考えています。
この呪いを解除し、二人を元の状態に戻したいのです」
「なんと! 別の者がレノの体に入ったと言うのか!」
なるほど。そういうことか。
オレはレノの体に入った憑き物ということで、その憑き物をレノの体から追い出すために旅に出たいとルーネは言っている。
(でも、それならルーネじゃなくて、別の人でもいいんじゃないか?)
「なるほどの。呪いというのが真実なのであれば、ルーネが適当ではあるな。
だが、本当であるのか?
レノの体にいる者よ、発言を許すのである。頭を上げて名を名乗るがよい」
オレは頭を上げ、再び族長と目を合わす。
だぼっとした服を着ているため分かり辛いが、歴戦の戦士であることを感じさせるようなオーラのような気迫のようなものを感じる。
「私の名はケイタと言います。森の中でルーネ様に助けてもらいました」
「ケイタ、とな」
族長の目に見つめられていると頭の中を見られているような、レノから透視を受けた時と同じ感覚があった。
間違いない。族長は何かのスキルを使って、オレから何かを読み取ろうとしている。
「なるほどの。目つきや話し方は完全に別人であるな。
まあ、レノとルーネが嘘をついてもメリットはないであろ。
だが、どうやってレノの体に入り込んだのであるか?」
チラッとルーネの方を見ると、ルーネは小さく頷いた。
この結界の中ではスキルは使えないと言っていたが、“族長だけはスキルを使える状態”にあり、かつ“何かのスキルを使用した”と考えて間違いないだろう。
サトラセも使えない。ここは慎重に嘘にならない言葉で語るべきだ。
「転移の際の事故です。レノからそう聞きました」
「転移? そして、事故とな?」
「はい」
転移というのは、本来そのままの姿と状況で世界を移動することだと理解している。
魂レベルで融合してしまうのは事故以外の何物でもない。
「ふむ。どうやってレノと話をしたのであるか」
「事故が発生した際には会話ができました。今はできません」
「なるほどの」
今は魂の融合後であり、闘争をしない限り会話はできない。
その後も族長から簡単な質問をされるが、オレは当たり障りのない回答を返す。
質問の回答を聞くたびに、族長はうんうんと頷いていた。
「状況は分かったが、旅に出るなんて簡単に許可できる話ではないのである」
真っ当な回答である。
ルーネはトクネスの婚約者であり、かつ、何か重要な役割を担っている可能性がある。
簡単に許可できることではないだろう。
「レノとの約束だ。最悪は無理やり引っ張っていくか」
「ちょっ! 何言ってるの!」
こちらを見ていないルーネが、小さな声で器用に突っ込んだ。
「そうであるな……、今の状況を踏まえればいずれは知られることであるか。
ケイタと言ったな。我々、影人族の事は、どこまで知っているのだ?」
知っているのはレノから共有された情報だけだ。
レノの推測や感情を含んだ情報以外は話してしまっても問題ないだろう。
「ここは影人族の街【ヤーム】。国の基盤や神殿、そして“冥”の封印角は海に沈んだと。
後は、影人族は呪いをかけられたハイエルフであり、灰色の肌は呪いの証と聞きました」
「ふむ。我々は国を維持することができず、衰退しつつある一族である。
長としては国を立て直したい。だが……、生き残りだけでそれを成すのは難しく、今は帝国の属領として何とか暮らしているのである」
帝国の属領。それは、他国を旅する際の弊害になる可能性があるのではないか。
「衰退しつつある原因はいくつかあるが、最も大きいのは呪いである。
呪いというものは体や魂を蝕み、進行し続ける。
それなのに、なぜ呪いの進行が停止しているのか。ケイタは知っておるかの?」
レノからも聞いていない初耳の情報だ。
「いえ」
「ふむ。知っている者は限られる。呪いで記憶は失われ、今のところ失われた記憶を取り戻すこともできないのであるからな。
影人族、いや、ハイエルフであった我々は、そもそも月の適性を持つ崇高な種族であった」
太古よりこの世界に存在したハイエルフ。
その種族が影人族となって暮らしていることを知っている人はどれくらいいるのだろうか。
「そして、影人族には“月の巫女”という存在がいる。月の巫女は呪いの進行を停滞させ、呪いの解除を試みているのである。
その月の巫女がルーネなのである」
そこで合点がいった。
族長が言った立場というのはトクネスの婚約者ということではなく、月の巫女という立場を指している。
つまり、ルーネがいなければ呪いは進行し、呪いの解除の機会を失うのだとすると、命の危険がある旅に出るのは許可できることではないのだろう。
「月の巫女としての役割があるため、ルーネ様が旅に出るのは難しい。
そういうことでしょうか?」
「いや。そんなことは無いのである」
(おいっ! どういうことなんだよ?)
予想と違う回答があっさりと返ってきたことに驚き、表情に出してしまった。
「ルーネは冥の適性も高く“シャドウウォーク”が使えるのである。
自信の影を作り出せる場所であれば、登録している場所に緊急避難ができるのである。
いざとなればレノを置いて自分の影に逃げ込めば良いのである」
シャドウウォーク。
族長の話から察するに、個人用の緊急避難用の高スキル、もしくは高レベルの魔法で、使用できる者が限られているのだろう。
「それに、呪いの制御は年に一度の儀式をこなせば問題ない。
しかも、ついこの間終わったところであるので、暫くは問題ないであろ。
呪いの解除に関しては、旅の中で新たな情報が得られるかもしれんしの」
「だとしたら何が問題になるのでしょうか?」
族長の話の件に嫌な気配を感じていると、激しく後方のドアが開いた。
ドアが開いた音に驚き思わずドアの方を振り返ると、三人の男達が衛兵を押しのけ部屋に入り込み、こちらを睨みながら歩み寄ってきていた。
「ここ最近、というか直近、嫌な予感が当たることが多いけど、今回も当たりそうな気がするなぁ」
彼らの表情とルーネや族長の様子から、オレは既に諦めた気持ちになっていた。




