第十五話 ルーネ、旅に誘われる
サブタイトルを修正しました。
※2017年10月30日
※2017年11月25日 再修正しました
「そういえば、今日は何月何日?」
「六月十二日よ。それがどうかしたの?」
本当に少しだけ過去に転移したようだ。
今のところ順調に進んでいる。
だけど、旅について来てほしいと依頼する以上、オレもルーネに歩み寄らないと、信用してくれない気がしていた。
ルーネがレノの大事な人というのであれば、オレも信用するべきだろう。
問題はどこまで話していいか、ということだ。
「そう、だね。これから説明する内容はレノの命にも関わることなんだ。
だから、口外しないことを約束して欲しい」
オレはサトラセをセットしたまま、真剣な顔でルーネに言った。
「……わかったわ」
「今までの話で気づいていると思うけど、オレ達はルーネが見た結界の中に閉じ込められていた。
その空間の中でオレとレノはお互いに長い間、鍛錬をしていたんだ」
「え? そ、それが、本当だとして、貴方は何が言いたいの?」
「レノのステータスは一週間前と比べると大幅に上がっているはず。
それはオレも一緒。この世界に来たばかりの転移者のステータスではないと断言できるよ。
そして、既にオレ達のステータスは鍛錬してもほとんど上がらなくなった」
「……」
ルーネは訝しげな表情でオレを見つめてくる。
オレが言っている話に嘘は無い。
サトラセの効果も発動し真意だと受け取っているはずだ。
「ルーネ、聞いて欲しい。オレはレノの願いの一端を聞いた。
確かにこのままステータスを上げ、無双の力を手に入れれば、いずれは叶えられるかもしれない。
だけど、今のオレにはその約束ができない。
それは成し遂げる力がないからではなく、それを成し遂げるのはレノでなければだめだと思っているからだよ。
レノの姿をしたオレではだめなんだ」
「……」
ルーネは黙ってオレの話を聞いてくれていた。
いつの間にかオレ達は歩みを止め、正面に向かい合って話をしている。
「ルーネ達はハイエルフだったが呪いを掛けられ、今は影人族と呼ばれている」
「……そうよ。ハイエルフだったことは、影人族の人も全員が覚えているわけではないわ。
それも呪いの影響でね」
「呪いを解く、それだけは必ずやり遂げると約束した。
今はその可能性すら分からないけど、方法は探し続けるよ」
ルーネは真剣で、そして悲しげな表情でオレの話を聞いている。
ルーネは“呪いを解く”以外のレノの望みを知っている。
「復讐のために帝国や魔族、そして関連する人族を根絶やしにするとレノは言った。
レノは、真実を知ればオレも理解すると吐き出すように言っていたよ。
だけど、復讐の遂行に関しては、オレは約束できなかった」
ルーネは『やっぱりね』と小さく呟き、悲しそうな顔をして俯いてしまった。
「レノが、貴方の思いを知っているのであれば良いわ。
私はレノに止まって欲しいと思っていたから。
だから、全てを知っても貴方がレノを止めてくれるのであれば、私はそれで良い」
顔を上げたルーネの目は力強かった。
それだけ、ルーネはレノのことを強く思っている。オレはそう感じた。
そろそろ頃合いだ。本題を切り出そう。
「この話をしたのはルーネにオレの事を信用して欲しいから。
レノはルーネを一緒に旅に連れて行ってくれとオレに言った。
事情は聞いていないけど、レノに頼まれたんだ。
だから、オレはルーネを旅に連れて行きたいと思ってる」
「そ、それは……」
明らかに動揺した顔でルーネが固まった。
オレはその様子に疑問を抱いたが、オレ達には時間が無い。
今日が六月十二日であれば、八月二日まで二カ月を切っている。
この期間に準備を、体制を整える必要があるのだ。
「オレ達には時間が無い。旅に出て、力をつける必要がある。
詳細は必ず説明する。だから、一緒に、旅に同行してほしい」
「……わ、分かったわ。でも、こ、これだけは言っておくわね。
私には婚約者がいるの。その人は、レノではないわ。
これから会いに行く“プット”族長の息子“トクネス”よ」
手をわたわたとしながら、慌てるルーネは早口で捲くし立てる。
「だけど、わ、わた、私が愛しているのは……、その、レノだけよ!
ケイタのお嫁さんにはなれないわっ!」
オレに向かってまっすぐに右手の人差し指を向け、ルーネが声高にそう主張した。
顔をりんごのように真っ赤にして、無い胸を反らしている。
そして、体はプルプルと震えていた。
「お、お嫁さん……」
オレは思わず口に出してリピートしてしまう。
結界の中で鍛錬を積んでいた期間は長かった。
家族を除けば、一緒に過ごした時間が最も長いのはレノだろう。
今でも魂の融合を果たし共生状態にあるので、ずっと一緒にいることになる。
レノとは多くを会話し、お互いに理解を深めた。
それもあって、レノは魅力的な人物だと理解した。
そして今は、ルーネも魅力的な人物だと理解した。
「く、くくく。ルーネも面白いね」
「ん? な、何よ? そんなことより、聞いてたのかしら?」
顔をトマトのように更に赤くしたルーネが、声を裏返しながらオレを問いただす。
確かに、男女のペアで旅をすれば、周りからもそう思われるだろう。
実際にそうなってしまうケースも多いのかもしれない。
オレは旅なんてしたことはない。
きっとこの世界の旅は想定するよりも過酷で、お互いを頼らないと生きていけない。
そして、宿をとっても二部屋確保できるとは限らない。
「懸念事項は良く分かりました。
ただ、さっきも言ったけど、オレはレノと共生しているんだよ。
そして、オレはレノと会話することもできる。
基本的に一日に一回、オレはレノと情報交換をするつもり。
そんな状況に置かれているオレがルーネに手を出すなんて有り得ない!」
オレはルーネに対して、びしっと明確にオレの意思を伝えた。
「う、う。そうはっきり言われると。
なんだか、魅力がないと言われているというか、なんというか。
ま、まあ、分かったわ。それで……。
あの、その、やっぱり、私はレノとは話せないのかしら?」
ルーネはそう言うとふいっと横を向き口を尖らせる。
これが本来のルーネ、レノと一緒にいるときのルーネなのだろう。
旅に同行することは同意してくれたけど、やはりレノと話がしたいようだ。
「約束する。レノが表に出てこれるような方法を必ず探し出すよ。
だから、待ってて。いつか、レノとルーネで会話ができるようにするから」
「そう……。期待して待っているわ」
背後が暗くなったように感じるくらい、ルーネはがっかりしていた。
これは、本当に頑張ってみつけないと、いつかルーネが参ってしまいそうだった。
「それで、一緒に旅に出ると言う話もあるのだけど、それ以前にトクネスに会うと厄介なことになるわ。
族長はトクネスの反応を見て判断することになって、交渉にかなり時間が掛かると思うの。
だから、族長だけに会って許可をもらい、さっさと旅に出るのがベストだと思うわ」
交渉はサトラセの出番。
サトラセが有効に効果を発揮すれば、何とかなるのではないか。
「さっき言っていた族長の息子だね」
「そうね。族長は非常に温和で情に厚い方よ。
トクネスは族長の息子と思えないくらい、いや、族長の息子だからかも。
不自然なくらいに自信家で高圧的に成長しているのよ」
そう言って俯いて目を閉じるルーネ。
この世界の住人としては、レノとルーネしか知らない。
だからかもしれないけど、目を閉じて憂う表情をするルーネを美しいと感じた。
そして、その表情を見てオレは気がついた。
美しいと感じたのは事実だけど、これはオレが鏡野に対して持っている感情に近い。
近くにいても、どこか遠い存在。
なんというか、オレの感覚的には恋愛感情の外側にいるのだろう。
「ん? そうすると真乃に対しては……」
「ちょっと、何をぶつぶつ言っているの。時間が無いんでしょ。
そろそろ街に向かって移動を再開するわよ」
思考を断ち切られたオレは気持ちを切り替え、ルーネとともに街に向かう。
街に着くにはこの森を抜ける必要があるそうで、魔物も出現するという話だ。
街道付近は低レベルだが、森の中に入るとまれに中レベルの魔物も出現するらしい。
スワンはオレに適性があるから大丈夫だと言っていた。
確かに、適性があるのかもしれない。
こんな状況に放り込まれたにも関わらず、オレの気持ちは非常に高ぶっていた。




