第十三話 魂の揺らぎへの干渉
サブタイトルを修正しました。
※2017年10月30日
※2017年11月25日 再修正しました
姿を自在に変更できるのかを試す前に、索敵【気配】で外敵がいないことを確認した。
そしてスワンが言っていた“魂の揺らぎ”を探ってみることにする。
「おっと、忘れてた。その前に試しておかないと。パーソナルバッグ」
左の手の平の上に光が集まり、魔法で造られた光るカードが浮かんだ。
バッグという名称ではあるが間違いなくカードだ。
パーソナルバッグはオープンステータスやオープンスキルと同じオリジン魔法だ。
魔法ではあるので、ほんの少しだけ魔源力を消費する。
カードの表面には何も表示されておらず、裏面には袋の絵が描かれていた。
「裏面、袋の絵が描かれてるんだな。中身は、やっぱり空っぽ。
レノの持ち物は共有されていないか」
これはオレの想定だが、オリジン魔法は個人に紐付いている。
スワンが言った“肉体に紐付く”というのは、”個人に紐付く”と同義だと考えていた。
オープンスキルも個人のスキルを見せているにすぎない。
魂の共有で共有された情報を、オレかレノが所持する“個人のスキル”として見せているだけ。
レノの姿に変わった時に、パーソナルバッグの中身を確認してみよう。
どういう風にアイテム管理しているのかも気にかかる。
「それじゃ、姿を変えられるか試してみるか!
きっと大丈夫。スキルや魔法は使えてるし。きっとできる!」
そう信じて、目を閉じスキルを利用するときのように集中する。
やり方は分からないが、魂の融合をした際に感じた、頭の中に沈んで行くような感覚。
その感覚を思い出しながら、頭の奥辺りを目標に深く、深く集中する。
すると頭の奥ではなく額の裏辺りにエネルギーの塊らしき物があるように感じてきた。
(これが、魂の揺らぎ?)
額の裏辺りに対して更に集中すると、そこにあるのは揺らぎというよりも“何かが漏れだそうとしている”感覚だった。
就寝時に目を閉じると見えるうねうねとした無光の蠢き。その先に罅割れがあり、そこからエネルギーが漏れ出そうとしているように感じた。
(これがレノ、スワン、ベロスの魂のエネルギーなのかな?)
オレは生活魔法を使用する時と同じように、その揺らぎに対して魔力を注ぎ込んだ。
その瞬間、耐えきれなくなったかのように揺らぎからエネルギーが溢れだし、一瞬にして意識を刈り取られた。
--------------------------------------
ぼやけた空間だ。だけど、なぜか安心する空間にオレはいた。
「やあ、久しぶり」
耳に聞こえる声は非常にクリアで、直ぐにレノということが分かった。
ぼやけた姿のレノが右手を上げて、無邪気に挨拶している。
さっきまで一緒だったのだから、久しぶりということはないだろう。
オレはそれをレノなりの冗談だと受け取った。
「はは。レノも冗談を言うんだね。良かったよ。無事に成功したみたいで」
「そうみたいだね。ケイタならここに来てくれると信じてたよ」
表情はぼやけていてはっきりとは見えないが、微笑んでいるように感じた。
「予想以上の成果だよ。まさかこんな形で直接会話ができるとは思っていなかった。
レノは、この空間にずっといたの?」
「いや、どうだろう。ケイタがここに来るまでは意識は無かったよ。
急に意識を“返却された”と感じたら、ここにいた」
魂の揺らぎの中にいる間は冬眠状態にあるのだろうか。
ここが本当に精神世界なのかどうかは不明だが、結果として会話できるなら、それで全て良しだ。
わずかな期待を込めて周囲を確認するが、スワンとベロスの姿はなかった。
彼らと会うことも姿を変えることもできないみたいだ。
(いずれは、会えればいいけど。忘れずに方法は探し続けよう)
「なるほどね。約束どおり一日に一回は状況の報告にくるよ。
寝てばっかりもつまらないだろーしね」
「そこまで厳密でなくてもいいけどね。
ケイタの話を聞いていれば退屈はしない。よろしくお願いするよ」
この空間で会話ができることは非常に意義のあることであった。
オレには融合と聞いてから考えていたことがある。
これで、オレの考えている未来に一歩近づくことが出来た。
魂を融合させるのは、極めて難度の高い魔法だと想定される。
だからこそ、それを利用して、再度魂の闘争を実施する者がいるとは想像していなかったのだろう。
魂の揺らぎへの魔力を注ぎ込んだことによる事象――これは明らかにこの魔法の欠陥、バグのだ。
「そろそろ、姿の変更に挑戦してみよっか」
「そうだね。ケイタは八割以上の割合を保つのを忘れないようにね」
「うん。分かってるよ」
魂の再融合を実施し、レノから少しだけ意識の割合を受け取る。
その際に、強くレノの姿を頭に思い描く。
割合が決まり、融合が完了すると、額の裏から意識が吐き出されるように、現実に引き戻された。
目を開けて姿を確認すると、オレ達の期待通りレノの姿になっていた。
理屈は分からないがどこかに肉体、服、装備は一緒にまとめられて、保管されているようだ。
「パーソナルバッグ」
そう唱えると、光るカードが現れる。
表面にはレノが収納していたアイテムが表示されていた。
やはり、レノの“パーソナルバッグ”はレノという個人に紐付いているようだ。
再び揺らぎに魔力を注ぎ込み、何回か姿を入れ替えてみたが、問題なく繰り返すことが出来た。
ただ、肉体を入れ替えることはできたが、レノを主にすることはできなかった。
理由はオレの魂の割合を半分以下に設定することができなかったためだ。
これについても解決方法があるかもしれないので、継続して方法を模索することとなった。
制限はあるが、今のオレ達にはこの空間で会話ができるだけでも十分な結果だ。
魂の融合を考えた首謀者である魔族がこういう事態を想定していなかったのであれば、とんだ間抜けだな、と二人で大いに笑い合った。
うまく二人の姿を活用すれば、一人でスパイが可能になる。
この世界でオレの姿を知っている者は限られる。注意すべきは全勝だけだ。
スワンの話だと全勝も姿を変えている可能性があるので、油断できない。
基本的にはレノの姿で行動するようにした方がいいだろう。
そのままレノの姿でステータスとスキルの確認を進める。
まずは、検証が簡単なスキルカードを確認したが、予想通り全く同じ情報だった。
事前に確認しておいた言霊とサトラセの説明の内容に関しても、差異はなかった。
スキルに関する情報は間違いなく共有されていると考えていいだろう。
「さて、次はレノのステータスの確認をするか」
そう考えて、ステータスカードを確認しようとした時だった。
レノからくちすっぱく言われている索敵【気配】を使用すると、敵意ではないがオレのいる場所に対して警戒している反応を感じ取った。
索敵の中では索敵【気配】が最も使いやすい。
索敵【嗅覚】は嗅覚が鋭くなりすぎて、常時使用するには少し辛い。
索敵【聴覚】は遠くの音まで拾えるので便利だが、人間の耳だと前方以外は拾い辛い。
索敵【気配】は文字通り気配を感じるのだが、全方位的に効果がある。
これが決め手だった。
「反応は真っ直ぐこっちに向かってきてるな。
相手も索敵を使っているってことだよね。
取りあえず約束通り、準備が整って落ち着くまではレノの姿を維持しよう」
オレが主となることはお互い合意したが、レノとは二つの約束をしていた。
一つは、原則として一日に一回、情報共有する時間を設けること。
これにより、レノは状況を把握できるし、オレもレノの知見や助言をもらえる。
もう一つは、準備が整うまでレノの姿で過ごすこと。
パーソナルバッグは共有できないし、オレには武器も防具もない。
それに、見た目にどれだけの差異があるか分からないが、この世界ではこの世界の住人の姿で暮らすのが望ましいし、スパイ活動の話もある。
少なくとも、大規模転移が始まるまでは、人がいるところではレノの姿を維持する。
それが二人の約束事だった。
「しまったな。ステータスを確認しておくべきだった」
今からステータスを確認している時間は無い。
経験を積めば余裕も出てくるのだろうが、下手したらこれが初戦になる。
まずは準備を整えるべき。そう考え、オレは心を落ち着かせるために集中する。
(どれだけ長い間、レノと一緒に鍛錬を積んだと思っているんだよ。
何回死んだと思っているんだ。最低限、勘所は身についたはずだ。
慎重に行動すべきだけど、必要以上に臆病になる必要はない)
レノは短剣使いである。
今現在所持している武器は黒石のダガーだけ。防具はただの服と言っていい位の紙装備。
レノの戦闘スタイルからすると“身軽な装備”が必須なのだろう。
そのことに意味があるのかという疑問を持っているのだが、心もとなかった。
ダガーが金属ではないことに驚いたが、切れ味は申し分ない。
オレは姿勢を低くし、いつでも腰の後ろの鞘からダガーを抜ける姿勢を維持する。
もしかすると、この近くに住んでいる人達。それであれば、レノの仲間であることも期待できる。
準備を整え、警戒したまま待っていると、目の前に杖を持った少女が現れた。
次の話で準ヒロインが登場します!




