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サトラセ士ケイタの言霊(旧作)  作者: 海地日向
第一章 デノーフ・バ・フィアー
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第九話 レノとの鍛練


 さて、ずっと会話を続けていても仕方がない。

 このまま、ずるずるっていう訳にもいかないからな。

 そろそろ覚悟を決めて、検証を始めるとしよう。


 オレのアイデアは、この空間でステータスを上げるということ。

 レノに確認すると、こっちの世界にも師事や修行という概念がある。

 つまり、鍛練によってステータスを上げることは可能だと想定できる。

 そもそもステータスが上がるのか。

 上がったとしてもこの空間の中でどこまで上がるのかは想像できないが、やってみる価値はある。


 「詳細を聞きたいことは一杯あるけど、休憩のタイミングにでも教えて欲しい。

 さて、そろそろ始めてみようか」


 そう言って、立ち上がったときだった。

 レノの顔が嫌にニヤッとしているのに気がついた。



 「お互いのスキルは分かったことだし、どうだろう。

 最初の数回はガチンコで戦ってみるかい?」


 レノがとんでもないことを言ってきた。

 その言葉にオレは驚き戸惑った。戦いの初心者相手になんてことを言うのだと。



 (くそ、何、何が目的だ!)



 「いや、見ての通り、オレは戦いの初心者だよ」

 「分かってるよ。でも、この空間では死ぬことはない。

 厳密に言うと、死ぬ前に蘇生される。

 手加減しながらでは、自分の限界を知ることはできないよ」



 (分かっているさ。

 そんなことは分かっているんだけど、怖いんだよ。

 戦ったことなんてないんだから。仕方がないだろ!)



 「何度か死のふちを見れば、怖くなくなるんじゃないかな?」



 (さっきは心が壊れると言っていたくせに……)



 矛盾した事を言ってはいるが、悔しい事に正論だ。

 確かに自分の限界を知ることは、こっちの世界で生きるために必要なことだ。

 現実の戦闘では死に直結するため“一撃でどれ位の生命力が削り取られるのか”なんて事をテストすることはできない。


 しかし、苦々しい。


 「分かった。でも、少しは、手加減して欲しい気もする」

 「何を言っているんだ。ケイタなら大丈夫だろ?」


 信頼してもらえて嬉しいが、レノは常に狩る側だ。

 まったくもって説得力がない。


 「先手、後手は順番に替わることで良い?」

 「そうだね。いろいろなパターンを経験したほうが良い」

 「最初は……オレが先手でいいかな?」

 「えらく消極的だね。かかってこい! 殺してみろ!

 それくらいの勢いがあってもいいんじゃないかい?」


 微笑みながらの挑発。

 本当なら腹が立つところだが、これが本当のレノの性格なのだろう。

 挑発しているのは、オレが戦いやすくするためのレノなりの配慮だと感じ取った。


 喧嘩なんてしたことはないし、人と戦ったこともない。

 覚悟は決めたものの、オレの体は小刻みに震え続けていた。

 そのまま逃げだしてしまいそうで、会話を続けているのもつらかった。

 だから、鍛練を始めることをオレから促したんだ。


 きっと、オレが震えていることにレノは気がついていたのだろう。


 「そういうことなら、応えないとな」



 (そうだ。やるしかないんだ。

 どうせやるなら、遠慮なく胸を借りさせてもらう。

 いずれ、後悔させてやるぞ)



 「先に言っておくよ。オレはコツコツ積み上げるタイプのしつこい人間だ」

 「いいねー。それで強くなれるのなら、願ったり叶ったりだよ」


 レノが言い終わる前に、オレはレノに向かって走り出す。

 戦闘なんて知らない人間のただのダッシュ。

 レノから見れば子供の遊びだったのかもしれないが、今のオレにはこれが精一杯だ。


 ある程度の距離に近づいたところで「自然の助力!」を発動、……しなかった。


 「えっ! なんで!」


 スキルが不発するという衝撃。

 使ったこともないスキルの名前を勢い良く言った。

 若干恥ずかしさを感じているところにオレの行動に反応してカウンター――右フックをレノが放つ。

 その一撃を左頬で受け、オレの首は横に直角に曲がってしまった。


 「ごぁっ!」

 「あぁーっ! すまないケイタ!」


 凄まじい痛みと共に、一瞬意識が刈り取られてしまった。



 (だめだ、寝るな。寝る? な?

 い、いや、絶対にただで転んではいけない。

 何かを得ないと、痛い目にあったことが無意味になってしまう!)



 「今、オレ、の、ス、ステータスを、み」

 「分かった。分かったからしゃべるな! まったく、なんて脆弱なんだ。

 僕が力加減を誤ったからだけど、ここまで弱いとは」


 レノはオレのステータスを確認し、生命力がゼロになっていると教えてくれた。

 生命力は低いとは聞いてはいたが、まさか一撃だとは思わなかった。

 ステータスの差による影響が大きすぎる。


 オレの目にはレノは軽く殴ったように見えた。

 そのシンプルな拳での攻撃に、どれ位の補正が掛かっているのだろうか。

 これにスキルが加わることで、きっとその差はもっと大きく開くはずだ。

 レノのステータスに追いつくことが最初の目標だとすると、それすら遠い道のりに感じた。



 しばらくすると首の辺りが光り始め、ぐにーっと元の位置に戻る。

 レノには継続してステータスを確認してもらっていた。


 「頼む。上がってくれ……」


 これで生命力の上限が上昇しなければ、振り出しに戻ってしまうかもしれない。

 今までとは全く同じ条件ではないし、レノもオレの事を少しは認めてくれている。

 それでも、オレは精神的なバックボーン――強くなれるという保証が欲しかった。



 (ステータスは、生命力は上がるはずだ。上がってくれ!)



 オレは心の底から、ステータスが上がってくれることを祈る。

 握りしめた手のひらは、じっとりと汗ばんでいた。

 その様子に気がついていたのかいないのか、ステータスを確認していたレノは笑みを浮かべ、口を開いた。


 「良かったね。ケイタの想定通りだ。生命力の絶対量が少量だけど増えたよ」

 「はぁ。そっか。良かったよ。まったく生きた心地がしないわ」

 「ははは。ケイタは冗談も言うんだな」


 レノの反応を待っていた時間は一瞬だだったのだろうが、妙に長く感じた。

 そして、その妙に長い時間、オレはずっとプレッシャーを感じ続けていた。



 (……本当に、冗談じゃないよ)



 ステータスが上昇するかどうかを確認するには、生命力が一番簡単だ。

 通常は死んでしまうので、致死量のダメージを受けるのは避ける。

 だからこそ、この空間では一番確実で簡単に検証できる。

 それがオレ達の考えだった。


 ただ、もっと優しい攻撃でダメージ量を確認してからにすればよかったと、猛省した。

 これが続くようであれば、精神衛生上、非常にストレスフルで、いずれ心が折れることは違いなかった。



 (くそ。絶対に、追いついてやるからな)



 オレは心の奥で固く誓っていた。



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