再会
俺が正式に組織の一員となり、これからの『同僚』に挨拶したのは年が明けてからである。
俺は、”飛天”との戦闘や研究には関わらない。
あくまで、必要物資の調達や情報の管理に携わるだけであって、“飛天”との接触危険性がある場所での任務はない。
それでも万が一という事はあるから、家族にも事情を話し、それでも全てを受け入れて覚悟を持って貰う。
そして、自分もまた表舞台には一生出ない事を約束して貰う。
だから、組織関係者は必然的に結婚難か、出来ても晩婚になる。
俺も結婚したのは30過ぎだが、組織内では早い方である。
結婚相手は、身内が少ないかいても疎遠な人間で、尚且つ上記したような『覚悟』を必要とするからだ。
自らの部署の人間と挨拶を終えると、上層部からの連絡があった。
「戦闘部門に、君も知っているであろう人物がいる。会ってみないか」
***
戦闘部門は、敵意ある”飛天”と直接戦闘する最も過酷な部門である。
一体でも人類を遥かに超える身体能力を持つ”飛天”を相手にするのだ、死亡率は高い。
だからこそ給与も最も高く、行き場の無くなった傭兵や、何としてでも金が欲しい者、生まれた時からの一切のしがらみを捨てたい者達の内、身体能力の高い者がここに来る。
「君も知っているであろう人物」と言うからには、元々はサッカー関係者だろう。
どんな事情かは知らないが、ボールを蹴っていた者が、火器を持つ事になるとは。
件の人物が待機しているという部屋に誘導され、ドアを開けた。
それは、俺が確かに覚えていた顔であった。
向こうも、俺の顔を見て、驚愕を隠せなかったらしい。
そいつは、ややあって組織流の挨拶をした後に、改めて名乗った。
「―――戦闘部門の見附涼次です。こちらでは、はじめまして」
「管理部門の上田善治です。改めてよろしくお願い致します」
「二人とも、どうして相手がこんな場所にいるのかよく解っていないだろう。お互いに話をする時間を与えよう」
そう言って、上司は部屋を出た。
「…えーと。俺の方から話した方がいいか?」
見附は、「ああ。俺も、今まで組織の誰にも話したことがない話をするからな」と返事をした。
組織の人間は、お互いの過去を詮索したりはしないし、また積極的に語る事も無い。
例え今までの人生でどんなに脚光を浴びていたとしても、ここにいる者は一生表舞台に戻る事のない者達だからだ。
組織内にもサッカーが好きな人間はいるから、サッカー選手の見附涼次の事を知っていた者もいるだろう。
ましてや、見附はブラジルに勝った男だ。
そういった者に対してさえ黙して語らなかった事情を、今、俺に話そうとしているらしい。
でも、今は俺が先に語るべきだ。
俺の先祖が、”飛天”であろう山伏と話をした経験のある流人を世話した話。
時は流れ、横浜で貿易商をしていた先祖が”飛天”と組織の対立に巻き込まれ、組織の一員となった話。
末代まで関わることを条件に、組織からの見返りを利用して上田家が関東有数の大地主となった話。
その上田家に生まれた俺は、幼い頃から”飛天”について聞かされており、家族以外の誰にも言わぬよう教育されていた話。
なのにうっかりサッカーに魅せられてしまい、組織を説き伏せるのに苦労した話。
『最初に入ったチームを首になったらサッカー界から即刻退場』という条件付きでJリーガーになる事を許された話。
そして―――見附涼次が相手なら話さなければいけないであろう―――三村敦宏がベルデへの移籍直前に”飛天”と接触した件について、その検証を求められた話。
見附は「アツが”飛天”とやり合ったのは聞いていた。が、映像の検証をしたのがお前とは思っていなかった」と返した。
「こう考えてみると、生まれた時から”飛天”の事について聞かされるのも難儀な家系だな。
いくら金持ちとはいえ、他人に言えない世界の真実を一生抱えて生きていくのは辛かったろうに。
どんなにサッカー選手として成功を収めても、ピラッツから戦力外通告受けたらはい、それまで。サッカー界とはおさらばだったって訳か。お前が口数の少ない男だった理由がなんとなくわかったよ」
「俺の事はもういいだろ。これからはサッカーとは関係ない人生だしさ――――お前の番だぞ」
「何処から話せばいい?」
「お前が話したいところからでいい」
「分かった」
この組織は、語り手さんの様な『生まれながらの人員』だけではなく、色々事情のある人たちが集まります。




