縁は続くよ何処までも
先祖の居た藩は倒幕に与し、俺の先祖もその御利益を受けた。
あってないようなものだった武士の誇りはうっちゃって、実業世界へ身を投じ、横浜で貿易を行っていた所―――――――とある清国人が、大量に生糸を買い付けた。
其れを売って、大量に武器を購入するらしい。
その男は、清朝打倒勢力に身を投じていたらしいから、最初は、反清活動の為の武器だと思った。
しかし、それは人に使う目的ではないとも語った。
『ご存知の通り、我が祖国は欧米列強によって蹂躙されている』
『昔、我が国の皇帝が建てた西洋式庭園も燃やされ、そこに密かに保管されていた地球上のある生物に関する資料も殆ど焼けてしまった』
『その生物は、放っておけば人類全ての血を喰らい尽くしかねない危険な生物だ』
『人間が“それ”を屠るには、なるべく質の高い、新しい武器を手にしなくてはならない』
その清国人が武器を手にしたところで―――反清組織内部の抗争が勃発した。
のではなくて、そいつが武器を大量購入したところで反清組織のトップがそいつの真の目的に気付き、消しにかかったというのが真相らしい。
そのトップこそが件の『危険な生物』―――通称“飛天”だったというわけさ。
人に化けて、人の血を喰らう生物だと、そいつは先祖に種明かしして―――――――武器を国外の同志に送って、死んだ。
で、先祖は代々語り継がれていた『流人と山伏』の山伏を思い出したそうだ。
山伏も、人間から“飛天”になっちゃったんじゃないかってな。
その後も何食わぬ顔で貿易を続けていたけど、今度は、清国人と西洋人が連れ立ってやってきた。
「数か月前に、こういう清国人がこういう物を買い付けに来なかったかね」
勿論件の死んだ清国人の事だった。
二人はそいつの真の所属先で、海外に逃れた『”飛天”対抗組織』の人間だった。
西洋式庭園は実はその組織の本拠地でもあり、アロー戦争で焼失した為に清朝政府からは組織も消滅したものとみなされていたが、生き残っていた僅かな人物が資料を持ち出し、清朝を見限って西洋列強の力を借りて生物に対抗しているという。
「いまや西洋世界もこの『生物』の存在に気付いたが、同時に奴らは全世界に潜んでいる――― 一人でも多く、協力者を望んでいるのだが」
勿論ご先祖様は最初は丁寧にお断りしたさ。
「私はそのような化け物に、対抗する力など持っていませぬ」とな。
でも、彼等は食い下がった、というか脅して来た。
「最早貴方は部外者ではない。あの者が貴方に口を滑らしてしまった以上は、貴方には我等に協力していただくか、『黙して』いただくかの選択肢しか残されていないのだ」
結局、我が先祖は『協力者』となった。
といっても戦闘訓練などはせず、物資提供が主な任務で、『貿易』どころではない大きな見返りが与えられた。
その金で当時はまだまだ荒野だった武蔵野の極々一部を買い漁り、買った土地は地震に強い場所だったため関東大震災後に開発が進んで見事我が家は大地主。
しかし、『協力者』が一代限りで終わる筈がない。
我が家は富貴の代わりに、その“飛天”と対抗組織に末代まで関わる事になったのだ。
先ず、一生に渡って表舞台に立つことは許されない。
時には海外に渡っての情報の受け渡しの任務もあるから、あんまり顔が売れすぎたらその後の人生に支障が出る。
そして、交流する人間も限られてくる。特に結婚に至っては、幾つもの難解な制約がある。
だから、サッカーの盛んな街である浦和に生まれ、『天才』の名を欲しい侭にし、更にサッカーリーグのプロ化という『風』をまともに受けてしまった俺がサッカーで食べる道に進むにあたって家族以外にも組織上層部を説き伏せるのにも難儀した。
そして、こういう条件付きでJリーガーになる事を許された。
・卒業するかどうかは問わないから、一度は大学に入ること。
・最初に選んだチームから戦力外通告を受けたら、引退発表なしで即刻サッカー界を去ること。
(移籍しての現役続行、指導者ライセンスの取得、解説者etcは一切許されない)
・引退後は、サッカーメディアをはじめとしたメディアには顔を出さず、サッカー界の人間とはコンタクトをとらない。
――― つまり、在籍できるクラブは一つだけ。
――― 一年でサッカー界の全てからおさらばの可能性すらあったわけだ。
幕末からの因果。
明治初期の日本には、最新の武器を自家生産は無理だと悟った。