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恋する氷華の星間戦争  作者: 遊観吟詠
破章九、栄光の重鼎編
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(閑話) 重鼎突入戦

 重鼎(じゅうてい)は、北と西を山稜さんりょうに囲まれ、南と東は海に面した沿岸の都市。

 この緑と青に囲まれた美しい巨大都市に、いま煙が一筋上がっていた。

 

 そう強襲隊とされた選抜歩兵せんばつほへい300名が、重鼎へ突入していたのだった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 天儀てんぎ率いる300名は、完全に守備隊側の不意を突き、重鼎侵攻を開始したが、市内を進むと九鼎きゅうていへと通じるメインルートが守備隊によって封鎖されていた。

 

 道路には即席とはいえ、車輌しゃりょうを横に並べたバリケードが厚い。そして間から野戦砲やせんほう3門がのぞいている。

 

 隊員たちを、冷えという恐怖が襲った。

 躊躇ちゅうちょし突入の仕方を、検討する強襲隊員たち。侵攻が止まっていた。


 ――侵攻する側も、守る側も必死。


 銃撃戦が開始されたが、バリケードの野戦砲は沈黙している。

 即席とはいえ、小銃の撃ち合い程度では、バリケードは突破できないからだ。


 ――初撃を最も効果的に使いたい。

 これが重鼎守備隊側の考え。


 つまり野戦砲の初弾は、敵の突撃に合わせ、出鼻をくじくために使う。

 

 こうなると、攻撃する側としては、

 ――無為むいに砲を撃たせ、装填中そうてんちゅうにバリケードとの距離を詰めたい。

 というのが戦術だった。


 そう敵の布陣は、攻撃側のから見ても

「どう考えても、こちらの突撃を待っている体だ」

 というのが分かりすぎるほど分かる。そこへ、突入を仕掛けたらどうなるか。惨憺さんたんたる結果が想像できた。


 だが、最も効果的なのは、ここで間髪入れずに突撃を仕掛けることでもある。敵はまだ、態勢を整えきれていない。急場しのぎで、車輌を横に並べ、野戦砲を配置したに過ぎない。

 肉壁を以って、砲を撃たせ、装填中にバリケードへ突入、制圧する。いまならこれが最も効果的。

 

 これも分かりすぎるほど、分かりきった攻防の機微きびだったが、決死の守備隊を実際目の前にして、

 

「奴らも必死だ。やばい――」

 そう攻撃側の強襲隊員たちは躊躇ちゅうちょした。


 銃撃戦が続くなか、隊員たちが目語し、身振り手振りを交え、対策や別の手法を検討しだす。

 

 その中で一人、天儀が小銃の状態を確認していた。


 天儀は落ち着き払い静かに、小銃の機構の動きを確認し、確認し終えるとおもむろに手にしている小銃をかまえた。

 

 それに気づいた隊員の一人が、


「あ――っ!」

 と声あげた。


 声を上げたと同時に、動いていた。


 その一人は、機敏きびんに動き、天儀の前に立ちふさがる。が、次の瞬間、吹き飛び転倒し、ほこりの舞う路面に転がった。

 

 隊員は動いた拍子に、両足のどちらにも体重が乗らない状態で、そこを天儀に蹴り込まれたのだ。

 

 この状態は極めて無防備、かつバランスが悪い。それに隊員は天儀の様子に気を取られていた。彼は不運にも天儀から不意打ちを受ける形となって路面にもんどり打ったのだ。

 

 他の隊員も天儀に気づいた。

 

 隊員たちの目に映る天儀は、

 ――軽装に、手には銃剣付きの小銃。

 

 天儀は自身へと吸い寄せられるように集まった衆目しゅうもくへ、

 

「私が大将軍である前に、いかに秀抜しゅうばつした選抜歩兵であるかを証明してやる」

 そういって小銃を構え、一歩目を踏み出した。

 

 ――不味い本気だ。

 と、周囲の強襲隊員たちが色めき立ち、天儀に隊員たちが文字通り群がった。

 

 手近なものから大将軍へと抱きつき、取りすがり、服を掴み引っ張る。

 

 一方の天儀の形相は、貴様らはクソだ、といわんばかり。

 猛烈な気迫を体貌たいぼうみなぎらせ、群がる隊員たちへ打突だとつを繰り出している。

 

 天儀の四肢が繰り出す攻撃を、隊員たちは軽くかわしつつ、次々と天儀へ飛びついていく。

 

「止めなければ大将軍が、敵陣へ突入する」

 

 これが小銃を手にし、気迫を漲らせる大将軍天儀を目にした隊員たちの衝撃だった。


 ――このまま行かせると死ぬ。

 誰もが、そう思い。天儀へ飛びついていた。


「私は、この作戦を前に諸君たち300名の壮士そうしを選抜したわけだが、選抜歩兵300名には、私も含まれるということだ。死地にあっては、将も士卒しそつもその生は等分である。私が死ねばそのしかばねを踏み越えて突破しろ」


「無茶をいわんで下さい!」


「行きます、行きますから!」


「黙れ、お前らは私を信用しないが故に躊躇した。歩兵のあり方というものを、身をもって証明してやる。人にはそれぞれ、何か一つというものがある。敵陣へ駆け寄り、手榴弾しゅりゅうだんを投げ込むのなら私は諸君らに遅れを取らない。手本となれるだろう」


 天儀が群がる隊員たちを殴りつけながら怒声を放っていた。

 

 天儀の打突は、白兵戦はくへいせんのエリートたちからすれば大したものではない。

 殴ってくるとわかれば、受け方がある。叩かれても痛くはないし、あざにもならない。

 それに、いまは天儀も意味なく四肢をばたつかせているだけだ。


「私が死んでも、そこの装甲車の中で寝ている女さえいれば重鼎確保には困らない」


 天儀が片手でもった小銃で、電子戦指揮官千宮氷華(せんぐうひょうか)の乗る装甲車を指していった。

 

「そんなわけないでしょ!」


「確かに重鼎を落として保持するだけなら問題ないでしょうが!」


「その後どうするんですか!あんたがいなきゃ戦争に勝てない」


 だが、天儀は群がり、なだめる隊員たちへ


「今ここで躊躇すれば、勝てないのは同じだ。今はコンマの時も惜しいのだ。行くぞ。壮士諸君、私に続け!」

 そう気迫を飛ばした。

 

 隊員たちは


「だからっ!」

「いけませんって!」

「止まって下さい」

「我々が行きます。行きますから!」

 

 そう口々にし、群がる。

 

 天儀は、そんな隊員たちへ小銃を振り回しながら、再度怒気を放った。


「士卒に死を強いて、私が後方で眺めているだけのような男と見損なってもらっては困る。将は時として隊伍たいごの先頭を行き、突入の先陣を切る。やり方を見せてやる。後学としろ」


「もう見た。見ました」

 と、一人が叫び声を上げると、必死の声が次々と続く。


「学びました。学んだので、実践させて下さい!」


「そうです。我々は、大将軍に教えられました、教導の結果を御覧ください。お願いですから!」


 一隊を率いる隊長たちだった。天儀をなだめる語彙ごいにも多少の幅が出ている。

 天儀が止まった。


 3分後、強襲部隊の隊員たちの肉片が飛び散るなか、バリケードは突破されたのだった。

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