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恋する氷華の星間戦争  作者: 遊観吟詠
破章九、栄光の重鼎編
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10-(7) 重鼎戦

 千宮氷華せんぐうひょうかが目覚めると重鼎じゅうていのメインシステムのあるメインタワービル九鼎(きゅうてい)の中だった。


 氷華が眠りの中にある間に、重鼎の攻守は入れ替わっていた。つまり300名は強襲を成功させたのだ。

 

 天儀が目を覚ました氷華に気づき、


「こいつ銃撃戦のなかグーグー寝てやがった」

 と隊員達と笑い。

 

 さらに、

「肝が座ってやがる」

 といってまた笑った。


 これに氷華が、口を曲げて鼻を鳴らす。

 

 自分が笑いものにされているのだ。どんな理由であれ不快感は否めない。

 そんな氷華が、車両の窓から外を見る。九鼎の地下の駐車場のようだが、車両から次々と荷物が降ろされている。

 

 目に映る車両は、どれも弾痕だんこんがあるし、装甲板が焦げていたりした。

 それを見て氷華にもどうやらここに到着するまでに、激しい戦闘があったらしいことが実感できた。

 

 ただ氷華は駐車場内を見渡しながら、

 ――私が起きていても何の役にも立たない、というものです。

 と思い、さらに寝ていても問題なかったろうとも思った。

 

 どう考えても自分は、銃弾が飛び交うなかにいても足手まとい。寝ていたほうがマシだ。

 

 装甲車両は重厚で車高も高い。

 氷華が装甲車両から、ちょこんと飛び降りて、自身の乗っていた車を確認するとそこにも銃撃のとあがいつくも確認できた。


 装甲車両から降りた氷華に、天儀がいう。

 

「重鼎には、思ったより守備隊がいた。おそらく敵は必死になって奪還だっかんに来るだろう。俺たちが少数なのもばれている」


「ま、これからが私の仕事ですから」


 氷華が地下駐車場を見渡しながら気負いなくいった。氷華の落ち着いた声に反して駐車場では慌ただしく兵士たちが走り回っている。

 

後詰ごづめ対大気圏師団(アースアタッカー)本隊が到着するまで、押し寄せる敵の電子兵装を無力化して欲しい。車両はもちろん個々の兵の携帯兵装もできればお願いしたい」


「任せて下さい。九鼎にある設備を乗っ取れば十分可能です。電力も市内にあるごみ処理用の火力発電所だけで一応もちます。行けるでしょう」


 自信をもっていう氷華。その発言の中には、暗に発電施設を絶対に保持するようにという進言も含まれている。

 

 天儀が、氷華の言葉にうなづいた。天儀は、すでに発電所を守備及び操業させるための部隊を送り込んでいる。

 

「恐らく敵は、攻略の手付にいきなり精鋭を送り込んでくる。装備もいいぞ」

 

 天儀が、にやりとした。

 なるほど氷華からして、いま自分へ向けられた天儀の表情の意味はわかる。


「それは可哀想に、その良い装備があだとなりますね。携帯火器も高度に電子制御されているなら、暴発させられるかもしれません」


 天儀が笑った。


 突入前の集合で整列した敵部隊。その一人一人の装備が発火、もしくは爆発する様を想像したのだ。そんなに上手いタイミングで、ハッキングを仕掛けられるかという問題はあるが、そうなれば敵は大混乱だろう。


 一方、氷華には疑問がある。


 何故天儀は、いきなり歩兵部隊がぶつけられると想定しているのだろうか。その中でも装備の良い精鋭がくると確証しているのも不思議だった。

 

 敵は自分たちのように重鼎を奇襲するつもりはないだろう。なら市外の適当な位置に部隊を参集させてから攻撃を仕掛けてくるはずだ。

 

 今回のケースで、考えられるベターな侵攻は、先ず航空戦、次に航空機による爆撃からの砲撃で侵攻ルートを火力で制圧し、そしてやっと歩兵の侵攻。

 

 で、普通考えて、航空機は飛んでこない。重鼎とそのメインタワービル九鼎を奪われたのだ。

 

 いまの航空機は高度レベル電子制御されていおり、その航空機に積まれている電子システムでは、九鼎のシステムには為す術がない。近づけばコントロールを乗っ取られるだけだ。

 

 では、重鼎戦において航空戦はない。


 航空戦と爆撃がないなら、次に砲撃だ。大砲群で進行ルートを火力で制圧なり、牽制けんせいなりするだろう。


「でも歩兵部隊の侵攻は、砲兵部隊の攻撃が終わってからではないのですか。先ずは重鼎攻撃準備に入っている砲兵部隊への電子的対処を優先しますが」


 都市へ向けられる砲兵部隊の大口径砲も電子制御されている。

 天儀が、これに


「砲が、ありゃあな」

 と少し笑った。黒いとまでは言わないが、悪いものが含まれる笑みだ。


 こんな面もあるのか、と氷華は思った。

 

 氷華からみて、天儀は大人しい優男には見えないが、粗暴そぼうもしくは凶暴とか、男性的な野蛮さを感じさせるような男でもない。礼儀正しいが、堅苦しさはないといったようなイメージ。

 

 ま、戦争がやりたいといって軍のトップにまでなる人間、こういう面もあるのだろう。氷華は、特に気にも止めなかった。


 氷華が、そんな思いでジト目を向けると、天儀が理由を口にし始めた。


「敵は大和から発信された偽装信号に見事につられ、我々が降下した地点とは、ほぼ反対側へ全力で移動した」


「つまり」

 と、間髪入れずに問う氷華。


 天儀は結論だけ述べ主語や根拠を省く癖があるが、説明が丁寧な時は前置きが長く、不必要な言葉が多いのだ。

 

天明星てんめいせいに限らず惑星守備軍の火力は貧弱、災害暴動に対テロ低度しか想定されていない。都市攻略のための兵器は有していない」


「なるほど、敵はまさか我々が惑星降下作戦を行うなど夢にも思っていませんからね。事前に増強されていることもないでしょう。そもそも惑星守備は、防衛が仕事であって奪還のような攻勢は苦手です。部隊編成が守備に特化していますから」


「そうだ。敵は陣地を破壊できるような強力な火力を有した砲兵部隊の数はもとから少ない上に、偽装信号に釣られそれらを全部運び出している。砲兵部隊の使う大砲の運搬うんぱんは、気づいたから即戻れとはいかないぞ」


 だが、まだ氷華にとって、歩兵の精鋭部隊がいきなり登場するという理由には不足している。

 氷華は説明しろと、ジト目を向け続けた。


「ちんたら砲の到着を待っていれば、我々の後詰めの三個師団が重鼎入を果たす。そうなればもう敵の装備で、重鼎攻略は極めて難しい。超長期攻囲となるだろう。だが攻囲は無駄だ。電子戦は九鼎を有する我々が有利。加えて包囲するには部隊を広く展開せねばならない。随所で反撃され各個撃破されるリスクが大きすぎるな」


「敵には時間がないと、なるほど確かにそうです。三個師団が重鼎へ入れば、惑星守備軍で単独での重鼎奪還は非常に難しい。と言うか無駄ですね。こうなるとい一旦引いて戦力を温存。星系軍と連携して、奪還を目指したほうがいいですね」


「そうだ。そして、あえて無理を押して奪還するには、足の早い歩兵戦力だけで速攻をしかけてくるだろうということだよ」


「そして、早く攻略したいのだから最初から全力。いきなり精鋭がくると」

 

 結論を口にした氷華に、天儀が満足そうにうなづく。


「おお、奪った重鼎を300名で保持できると踏んだのはこれが理由ですか」


 氷華が、合点がいったというようにジト目を少し開いた。


 氷華からして、空き巣のように重鼎を手に入れることはできるだろうというのは、わかったことだったが、奪還におよし寄せる惑星守備隊相手に保持しうるかは疑問だった。

 

 いまの氷華の脳裏には、敵が重鼎奪還に焦り、先着する順に歩兵部隊へ攻撃させる様がまざまざと浮かんでいた。

 戦力の逐次投入ちくじとうにゅうは極めて悪手だ。


 一方の天儀は、そんな氷華を一瞥いちべつしただけだった。


 天儀の胸間を、こんなこともわからないのかという不思議と、氷華がわかっていないということは

 

「他にも多数わかっていないやつがいる」

 ということでもある、という実感が身を抜けていった。

 

 天儀は思うに、やると発令し、作戦を発布したが、自分はどの程度作戦内容を周知させてきたのか。塩梅を間違えてはいないのか。知らせすぎても失敗するし、意図がつたわっていなければ目的達成に困難が生じる。


 そう戦いにおいて、自分の頭のなかに想像したものを、どれだけ軍内へつたえるかは難しい問題だった。

 

 敵へ作戦が漏れるといった機密管理の問題だけでなく、全体に細かく作戦の全容を把握させるというのも得策でない場合も多い。

 

 全軍が一丸となり、一つの目標に向かって突き進み、死もいとわないというなら別だが、戦いの優劣とは、短期的には見えないことが多い。日々の戦闘、いや秒間の弾丸の撃ち合いの積み重ねにより最終的に音を上げたほうが敗北するのだ。


 いまは不利、死にそうでも、10分後には有利で一方的、蝶すら飛ぶのどかさということもあるし、今日負けても明日は勝ち巻き返すということもある。

 末端ほど目の前の状況しか見ないし、見えない。

 

 全体像を把握させず、有利か不利などわからないようにしてしまったほうが戦いは続けやすい。


「ま、三個師団が到着するまで、せいぜい生きていましょう」


 氷華が一人思考を続けていた天儀へ、いつものジト目と無表情で力みなくいった。


 いまから後詰めの三個師団が重鼎へ入りを果たすまで、数は敵のほうが圧倒的に多いのだ。

 焦って逐次投入のような形となるといっても次々と現れる新手へ防衛を続けなければならないということ。

 

 攻撃が開始されれば、後詰めの三個師団が到着するまで、激戦となるのは想像に難くない。


「あと、航空機の存在が厄介だが」


「九鼎を奪われた以上、衛星軌道クラスの超高高度戦略機ならともかく、マルチロール戦術機のような航空機は飛んでこないでしょう。コントロールが乗っ取られ電源を切られてお終いですから」


「わかった。だがそのまさかをするかもしれない。航空機が飛んできら電源を落とせ、躊躇するな」


「まあ、戦争博物館にあるような航空史黎明期(れいめいき)のレシプロ機なら電子制御されていないので別ですが」


 この氷華の言葉に、天儀が笑声を上げた。


「了解した。ゼロ戦、いやスツーカみたいな急降下きゅうこうか爆撃機が飛んできたらこちらで対処する。飛んで来ればだがな」


 そう返してきた天儀に、氷華は思いついたように言葉をつづける。


「そうだ。ためしに九鼎に最初に到着する敵部隊の通信を奪って爆音を流してみましょう。イヤホンをつけているでしょうし、鼓膜が破れるでしょうね」


 この心強い氷華の発言に、天儀の表情が明るくなり


「もう発電所を占拠した部隊に、指定施設以外の送電は切るように指示してある。好きなだけつかってくれ」


 そういと天儀は氷華についてくるように、促してから進みだした。

 

 メインタワービル九鼎のコントロール室へ入って重鼎を完全に乗っ取るためだ。

 

 九鼎内のホールで、重鼎に入った部隊の守備分担が決められていくなか、氷華は重鼎の電子システムに『蟲喰むしくい』の注入を開始したのだった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 重鼎はグランダ軍たった300名に対し無防備だった。

 

 星間連合側の重鼎守備隊は、グランダ軍降下部隊の真の降下地点からグランダ軍三個師団が到着するには3日はかかると考えており、偽装ぎそう情報に釣り出された本隊がそれまでに戻ってくると楽観視していたのだ。

 

 責任者は、なんの警戒もしていなかった。

 

 郊外に展開したずさんな防御線を突破され、あっさり重鼎市内への侵入を許し、守備の要であるメインタワービル九鼎へ共和国軍が乱入するまで気づかなかった。

 

 グランダ軍の先行した部隊が、あまりに少数過ぎたのもあろうが、天明星を守備していた部隊の練度は劣悪だったと言える。


 グランダ国軍奇襲から2時間で、九鼎は陥落。重鼎市はグランダ軍の手に落ちた。


 ただグランダ軍は、対大気圏師団三個が重鼎へ入るまで、300名で重鼎を保持しなければならない。


 天明星守備隊は、当然奪還を狙って襲ってくる。攻守は、逆転していた。

 

 偽装に気づき引き返してきた星間連合守備隊の一部が到着するなりバラバラと重鼎へ攻撃を開始。

 

 敵の足並みは揃っていないが、数はすでに五倍以上に達し、苛烈な攻撃に守備するグランダ軍に暗雲の予感がたちこめる。


 守備隊隊長の一人から


「重鼎出て一度引きましょう。こちらへ向かっている。対大気圏師団と下がって合流するのです」

 という提案が天儀へなされた。


 これを天儀が断固拒否。


「だめだ。分からないのか。ここで1日苦労することが、後の100日の苦労をなくすのだ」

 と、一喝した。


 いまここで合流のため下がれば、星間連合側の備隊の入った重鼎を奪うのに最短でも2週間はかかるだろう。

 状況上、2週間もかければ重鼎価値その物が大きく下がり、重鼎陥落が与える衝撃は弱くなる。

 

 衝撃が弱くなれば、星間連合艦隊がツクヨミシステムから出て戦う動機も弱くなる。

 つまり重鼎を攻略する意味はなかったということになりかねない。


 天儀の重鼎攻撃の理由は、絶対防衛権の目と鼻の先を一瞬で奪われれば星間連合軍は黙ってはいられないという駆け引きで、あくまで星間連合軍への挑発だ。


 天儀が、さらに言葉を継ぐ。


「普通戦争は一度始まれば10年は終わらない。しかし今日、今、ここで耐え抜けばそれが1年になる。そう我々の今日1日には、10年の価値がある」

 

 さらに天義は

「何のために徒歩で山険さんけんを越えたのだ。今日、この日に苦労するためだ。あえて辛酸しんさんめるために、ここにいると思え。後退はない」

 ともいい。士気を鼓舞した。


 この天儀の宣言で、

 ――闘いぬくと決断された。

 後詰の三個師団はそこまできている。


 グランダ軍300名は、重鼎を保持し切ったのだった。

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