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恋する氷華の星間戦争  作者: 遊観吟詠
破章九、栄光の重鼎編
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10-(2) 重鼎作戦の開始

 グランダ艦隊は、天明星てんめいせい宙域に出現。

 突然のグランダ軍の大艦隊の出現に星間連合側は騒然そうぜん。つい先ごろまでグランダ軍は一星系近辺で展開していたのだ。


 グランダ艦隊は厳密には、6個の艦隊で編組される、

 ――連合艦隊。

 主要艦艇だけで800隻規模、その規模は巨大だ。


 この巨大な連合艦隊が第一星系から忽然こつぜんと消え、天明星宙域に唐突に出現したかのように錯覚をうけたのにはわけがある。


 グランダ軍の活動で、星間連合軍は一時的に第一星系外縁の索敵機能を消失、グランダ軍を見失っていたのが理由だった。


 天儀の目くらましは成功していた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 重鼎じゅてい

 は、星間連合の天明星てんめいせいにある最重要都市。北と西を山稜さんりょうに囲まれ、南と東は海に面している。


 ここを手中にすれば、天明星を手に入れたも同然であり、天明星を手に入れれば、天明星のある第三星系ほぼ制したも同然である。

 また天明星は、星間連合の第一星系に最も近く、ここを落とせば星間連合の喉元のどもとに迫ったといえなくもない。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


重鼎じゅうてい攻略作戦』

 の発動が宣言され、アキノック率いるグランダ軍本隊は第四星系へ舵を切った。

 

 しばらく後に天明星の高機動上に残った大和特務戦隊(ヤマトレンジャーズ)からの対大気圏師団(アースアタッカー)による降下作戦が開始された。


 天儀てんぎ率いる降下部隊は、都市重鼎を攻略するわけだが、さらに厳密にいえば重鼎のコントロール施設が集まるメインタワービル九鼎(きゅうてい)を占拠することが目的となる。

 

 つまり天明星に治安維持のために配置されている少数の敵地上軍が、グランダ軍の降下部隊の侵攻に気づく前に、この九鼎を奪取できれば作戦は成功である。


 対大気圏師団(アースアタッカー)の乗り込んだシャトルが大気圏へと突入していく。

 そのシャトルの中には、重鼎強襲部隊員の中に混じって千宮氷華せんぐうひょうかの姿もあった。


 氷華は、天儀の秘書官であり電子戦指揮官を兼任する。

 その氷華が重鼎のメインタワービル九鼎のシステム奪取のプログラム

蟲喰むしくい

 を提出すると天儀からでた


「君の大和に残って、重鼎を奪取したのちに衛星軌道から都市の電子空間の監視を行ってくれ」

 という指示に氷華は、間髪入れずに


蟲喰むしくいプログラムを扱える人間の降下部隊入を強く進言します。つまり電子戦司令部(サイバーフォース)の出身者です」

 と、進言。

 

「誰が適任だ」

 と、鋭く問う天儀。天儀の目には、余計な荷物は増やしたくないという色がありありとでているが、

 

「私です」

 と、氷華は無表情のジト目で断言。


 瞬間、天儀の顔が若干くもった。


 氷華は、天儀のかんばしくない反応に

 ――むむ、不満なんですか。解せません。

 と、不快を持った。


 氷華からして、天儀が虫喰プログラムをスペシャルフォース(強襲部隊)の電子戦隊員に扱わせようと思っていることはわかる。だが、彼らは電子戦司令部(サイバーフォース)の氷華から見れば素人同然。

 

 ――脳筋さんたちでは、高度な電子戦プログラムを扱うのは難しいです。

 というのが氷華の意見だった。


 そう氷華は重鼎の電子システムを乗っ取り、かつ襲い来る敵守備軍への電子戦を行えるのは自分しかいないと確信していた。

 何より重鼎の電子システムへのハッキングプログラム『蟲喰むしくい』の微調整は、作った氷華自身が最も適任といえる。


 氷華は難色を見せる天儀へ持ち前の

 ――ジト目

 で強く食い下がった。


 難しい顔の天儀。

 天儀は食い下がってくる氷華に対してが数10秒思考したのちに


「しかたない。いざとなったら担いで運ぶから覚悟しておけよ」

 と、許可した。

 

 氷華は、フンっと鼻を鳴らした。

 ――しぶらず最初から私をつれていけばいいのです。

 と思う。


 天儀は、そんな氷華へ確認するように問う。


「氷華、君は登山の経験はあるか」


「はあ」

 と、氷華が応じてから疑問のジト目を向けた。

 

 氷華は何故にして唐突に登山の話なのか疑問だったが、とりあえず応じた。


「父の趣味が登山でしたので、幼いころに経験はあります。年に2回程度ですが」


「十分だ」

 そう天儀が笑った。


 天儀からして、登山経験があると応じてきた氷華の雰囲気に、登山が好きというような色は感じられない。

 親の趣味にいやいや付き合わされる氷華が想像できる。


「6年間ぐらい続きましたね。途中のトイレが決まって汚いのが嫌でした」

 

 氷華が、うんざりした色を出して口にしていた。

 

 氷華には6歳ぐらいから12歳ぐらいまで、父の趣味の登山に付き合わされた記憶がある。

 最初は、よくわからないでついていっていた氷華だったが、2回目か3回目から、すでになんで山に登るのか疑問だった。

 

 登山をしていて苦痛を感じたり、行くのが嫌ということではないが、

 ――全く楽しくない。

 これが幼い氷華の登山への感想。

 

 景色がいい、空気が気持ちいい、そして達成感があるというのは、氷華にもわからないでもないが、今にして思ってもあれは何だったのか不思議だった。

 

 そう氷華は、単純に登山に興味がない。

 そんなことを思う氷華に対し、天儀は


「なら大丈夫だな」

 と、笑って登山の話を切り上げてしまっていた。


 このとき氷華には、天儀が登山の経験を聞いてきた意味がわからなかった。

 合わせて氷華は、歩兵の行軍と言うものに全く無知だったといえる。

 特に今回の行軍は、強行軍。通常の3日の工程を1日半で歩破ふはする。極めて過酷といえる。


「歩破」

 というからには、当然重鼎へ侵入ルートは、海側でなく陸側から。そして陸側の最も隠蔽率いんぺいりつの高いルートは、山稜さんりょうからの侵入。

 

 氷華の同行を不承不承ふしょうぶしょうながら許可した天儀が、氷華へ登山の経験を問いかけたのはこういった理由からだった。

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