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恋する氷華の星間戦争  作者: 遊観吟詠
破章九、栄光の重鼎編
78/126

10-(1) 重鼎作戦の前哨戦

 グランダ艦隊は星間連合せいかんれんごうの第一星系まで肉薄にくはく

 グランダ軍は第一星系付近で掃討戦そうとうせんのような作戦を展開し、星間連合側のコロニーや中継ステーションを占領していった。

 

 この作戦で意気揚々と駆け回ったのは、足柄京子あしがらきょうこの戦隊。


 足柄の勇躍に、

 

「調子に乗ってやがる」

 と、上軍司令エルンスト・アキノックは顔を苦くしてはいた。

 

 いまアキノックはブリッジで戦況確認を補佐官ほさかんのエレナ・カーゲンと行っている。

 補佐官エレナは、不思議そうに顔を上げ


「そうでしょうか」

 と、上官のアキノックを見た。


 エレナからみた足柄司令の活躍は、グランダ軍全体を引っ張るような力さえ感じさせるほど目覚ましいもの。


 約40年前の第一星間戦争から数えて、今回4回目の戦争。

 この約40年間の3回の戦争で、艦艇同士の砲戦など一度もない。というのが実情。

 

 戦争は電子戦に終止し、戦術機で牽制し合う。そして、そのうち講和、もくしは停戦。そしていまでも人間は宇宙では生存空間を確保するだけに必死。多惑星間時代ラージリンクプラネットの宇宙倫理観は極めて高い。


 つまり、戦争だ。といわれても

 ――誰もがおよび腰。

 本当に撃っていいのか、と思うものすらいるのが星系軍の実情。


 そんななか喜々として走り回る足柄の戦隊は、グランダ艦隊にとって良いお手本。

 

 エレナからすれば、

 ――軍人の本来あるべき姿を見せてくれている。

 とすら映る。


 が、アキノックは違う意見のようだ。


軽佻けいちょうなんだよ。あいつは」

 

 やはり面白くなさそういうアキノック。

 

 これにエレナは、同族嫌悪といよりこれは

 ――ようは、アキノックは足柄司令が羨ましいのね。

 と、冷静に分析した。

 

 いまのエレナの上官アキノックは、一軍を任され自由には動くことは難しい。

 エレナから見たアキノックの苛立いらだちは、戦えないことへのフラストレーションが溜まっているようにすら見える。

 

 エレナは二足機出身のアキノックから、いまだに抜け切らない子供っぽさに嘆息。その見栄えする大きなバストの下で腕を組み


「足柄司令の活躍は、全軍の良い模範となっていると思いますが」

 と、たしなめるように一言した。


「それだ。天儀は足柄を使って、軍全体に『ああやってやれ』と戦い方を示しているんだろう。天儀の足柄の野郎の起用は意図したものだ。計算ずくのな」

 

 思いがけないアキノックの洞察の言葉。

 エレナの総身に、なるほど大将軍は、そこまで考えて足柄京子を採用されたのですか。という驚きが抜けていった。

 

 エレナからみても、足柄京子は言動に癖のある悍馬かんば。優秀だが極めて御しにくいイメージがある。

 

 天儀に人材起用の妙を見た思いのエレナから思わず、


「ああ、なるほど。すごい」

 という言葉がもれていた。


 だが、それがわかっていて気に食わない、というアキノックの態度。

 

 エレナは、

 ――つまり、アキノックは足柄司令のように活躍したかったわけね。

 と思い再び一言。


「つまりアキノック将軍は、足柄司令が羨ましいと?」


 ガキですか、といわんばかりのエレナからの一刺し。二足機乗り時代に美しいミツバチ(ビューティーハニー)と呼ばれた彼女の言葉には時として刺針のような鋭さが伴う。

 

 アキノックが苦い顔で、ちげえーから、といってから


「今日の会議は、お前が行け。俺はいかん」

 そう乱暴に命令を下した。


 エレナが、けげんな顔になる。

 

 今日の会議は、『重鼎攻略作戦』の第二段階のへ以降で、これでアキノックは、ほぼ全軍を引き連れ第四星系を目指すことになる。天儀と別れる前の重要な会議だ。それに参加しないというは不味い。


「どうせ今日の会議では、まず天儀は足柄を褒めちぎるんだろ。そうに決まってやがる。糞おもしろくもねえ」


 継いででた、ありえない欠席の理由。


「ガキですか」

 と、エレナから思わず心の声がもれ失言していた。


 知らねーから、行かねーから。と、プイッとそっぽを向くアキノック。

 これにエレナは嘆息を一つ。


 天儀が足柄を良く使ったように、扱う人間の乗せ方というものがある。

 

 エレナが想像するに、天儀は出撃前の足柄に、彼女が好むような鼓舞こぶの言葉を与えたのだろう。何故ならいま見ている戦況からは、足柄の嬉々とした働きの様子が明らかに見てとれる。


 エレナは、

 ――私は天儀大将軍のようにはいきませんが。

 と、思いつつも、アキノックの扱いについては得意だとも思い。

 

「エルンスト・アキノックは真打しんうち」

 と、いった。

 

 アキノックが、エレナの言葉にけげんな顔を向けた。それは何がいいたいんだという顔。


「いわば足柄司令は露払つゆばらい。つまり前座ですねこれは」


 ――前座。

 という言葉を聞いてアキノックに表情からけわしさが抜けた。

 

 エレナは単純な男。とは思わず、人とはそういうものだと思い言葉を継ぐ。


「いま行われたのは、作戦の第一段階。次行われる第二段階の大和特務戦隊(ヤマトレンジャーズ)を残しての第四星系への陽動のほうが重要です」

 

 アキノックの顔が露骨に気分良さげになる。


「何故なら足柄司令の活躍は、いわば重鼎攻略作戦ためだけのもの。その効果の範囲は限定的です。対して第四星系への陽動は艦隊決戦を志向するグランダ艦隊にとって、星間連合軍をツクヨミ内から引きずり出すのが目的。いわば戦争全体、グランドキャンペーンの根幹をなします」


「つまり」

 と、アキノックが気分よくいった。


 エレナは嘆息したい思いをこらえつつ

 

「真打ちのアキノックが、前座のかしがましいだけの女にヤキモチですか?ご冗談を。アキノックと足柄京子では格が違います」

 と、いい切った。


 エレナのほほが上気し、若干赤い。


 喋る折に得られる快感は、時として性的快楽を上回るともいう。酒場で酔っ払いが騒がしい理由の一つはこれだ。普段自重し黙っているこらえが、アルコールで解放され饒舌じょうぜつとなる。

 

 そう他人へ、つらつらと持論を展開することは快感を伴う。


 そしていまのエレナの言葉は、尊敬する上官を持ちも持ち上げる言葉。

 エレナは、アキノックの気分を良くさせるために諛言ゆげんのような言葉を呈したことより、尊敬する上官の賛辞を口にした折に感じた快感に気恥ずかしさを覚えていた。

 エレナのほほがほのかに赤いのは、これが理由だった。


「だな!足柄は俺のライバルとは程遠い」

 

 嬉々とするアキノック。

 

「それに何でもアキノック将軍に任せていては、他の方の仕事がありません」


「それだ。天儀は俺を重視している。重要なところで、このアキノックを起用する」


 笑顔のエレナが、ほほを若干引きつらせうなづく。

 さすがにここまでくると、単純で情けない。

 エレナとしては、雄壮絢爛ゆうそうけんらんの格好いいアキノックでいて欲しいが、


「そこまで言われちゃしょうがないな。やるしかない」

 と、アキノックは1人盛り上がっていた。


 アキノックは上機嫌になり、2時間後に会議へと出かけていったのだった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


重鼎じゅうてい攻略作戦・第一段階』

 という足柄京子が活躍した前哨戦ぜんしょうせんで、星間連合軍の選択は、

 ――不動。


 星間連合の9個の艦隊は、ツクヨミシステム内に篭り動きを見せなかった。


 星間連合の連合艦隊司令長官・天童正宗からすれば、コロニーや宇宙施設を落とされたところで痛くも痒くもない。

 

 100年前の偶発的開戦から、両国の間では戦争を憂慮し、あらゆる状況を想定した様々な条約や協定が結ばれている。

 

 つまりグランダ軍は、有人宇宙施設を制圧したからといって人々の財産及び生命に手出しはできない。むしろそれらを保証する義務すら生じるのだ。これが多惑星間時代ラージリンクプラネットの宇宙だった。


 ただ、占領された宇宙施設側からすれば、

 ――生殺与奪権。

 を、敵に握られたという事態は重大。


 占領された側も条約と協定にそって行動するしかない。


 星間連合軍が不動の構えを見せるなか、

重鼎じゅうてい攻略作戦・第二段階』

 は、始動されることとなる。


 予定通り行けばグランダ軍は、大将軍天儀の大和特務戦隊(ヤマトレンジャーズ)と、アキノックの本隊に別れ行動を開始する。

 

 アキノックの本隊は全力で星間連合の第四星系を目指し陽動ようどう。天儀の対大気圏師団(アースアタッカー)を含む特務戦隊だけが、天明星の周辺に隠伏することとなる。

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