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恋する氷華の星間戦争  作者: 遊観吟詠
破章八、開戦編
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(閑話) メンタルチェックと士気とセシリア

 星間連合の宙域内で集結を完了したグランダ艦隊。

 

重鼎じゅうてい攻略作戦』

 の準備が、集結したグランダ艦隊内で進んでいた。


 天儀てんぎ大和やまとには、護衛艦2隻付き、その他に対大気圏(たいたいきけん)師団を乗せた艦艇が従う。

 

 この一時的な編組へんそは、大和特務戦隊(ヤマトレンジャーズ)と暫定的に呼称され、この少数で天明星の重鼎を奇襲し攻略する。

 

 それ以外の艦艇は一時的に一つにまとめられ、上軍司令官エルストン・アキノックに率いられる。


 グランダ艦隊が重鼎攻略作戦へ向けて着々と準備が進んでいた。

 情報部室長セシリア・フィッツジェラルドが大和のブリッジに報告へあらわれたのは、そんなおりだった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 いま艦隊情報部の責任者セシリアは、天儀を前に開戦当初予想されていなかった問題について報告をおこなっていた。


 つまりセシリアがいうには、


「今後の予定された作戦をこなすには、情報部の処理能力の限界を超えることが予想されますわ」

 ということだ。

 

 開戦で当初予定していた以上に処理情報が大和の情報処理班へ回されることとなっていた。


「つまり」

 と、天儀が短く問う。

 

 発生している問題に対して、具体的な解決策を具申しろとセシリアへいったのだ。


「作戦規模の縮小、もしくは情報処理に特化した小規模艦隊を編組へんそして旗艦に随伴させる。これですわ」

 

 どんなに廟算びょうさんされ、練られた作戦も現場で再度落とし込みをする必要がある。予め立てられた予定と、実際の状況には誤差が生じるからだ。

 

 そして大将軍の天儀は状況に合わせた変更を簡単に口にするが、実際にそれを具体化する事務作業は莫大なものになる。

 

 例えば天儀が事あるごとに四方へ斥候を放つのも原因。

 放つのはいいが、収集してきた観測データなどを処理するのは情報部だ。


 だが、天儀はセシリアの言葉にだくとは応じなかった。

 セシリアは、天儀の難色を見て再度継ぐ。

 

「今度行われる『重鼎攻略作戦』は、ほぼ大和単体の作戦行動となります。この期間は艦隊の情報部の処理能力を完全に超過してしまいます。対策が必要です」


「ほぼ大和単艦だからといって、楽になるわけではないのか」

 と、天儀がセシリアに、問い返した。


 この問の意味は、作戦中は大和特務戦隊(ヤマトレンジャーズ)とアキノックが率いる本隊に分かれる。

 このアキノックに率いられ陽動ようどう作戦を行う本隊の情報処理は、アキノックが乗艦する旗艦の情報部が一時的に引き受けることになっている。


 つまり作戦期間中は、艦隊全体の情報処理業務から開放されるので、朝廷で作戦を練った段階では、余裕ができるはずだと思われていたのだ。


「違いますわね。作戦中は降下部隊の支援も必要で、情報部の処理能力を大幅に超過しますわ」

 

 セシリアは首を横に振りながら続ける。

 

「周辺の索敵情報処理、あわせて重鼎じゅうてい周辺のダムや発電所といった重要施設の監視がありますわ。重要拠点衛星画像の診断は、人工知能の診断と合わせて最終的には人の目で行うというのはご承知かと思いますが」


「天候観測もあるな」

 と、憮然ぶぜんとして天儀が応じた。

 艦隊周辺の環境観測に合わせ、惑星の天候の観測と予想も情報部の仕事。

 

「そうですわね。お天気がわからくては、降下した部隊は困りわすわよ」


 軍事作戦の出来高は、天候にも大きく左右される。天候によっては、失敗が成功に、成功が失敗に簡単に転じる。

 天明星の気象観測きしょうかんそくを独自に行い、重鼎の天気予報を導き出すのは重要だった。

 

 天儀は、セシリアの言葉に視線を下げて黙考する。


 つまりセシリアは、情報処理用の艦艇を大和特務戦隊(ヤマトレンジャーズ)に残せと提言してきているのだが、

 ――残る艦艇を増やしたくない。

 

 これ天儀の固執こしつ

 

 天儀からすれば、これ以上残る艦艇を増やせば、降下部隊を惑星の影に隠して完全に隠蔽いんぺいすることが難しくなる。

 

 固執する天儀がチラリと、セシリアを見る。

 

 セシリアの表情は

 ――話になりませんわ。情報処理用の艦艇を追加で残す。これ以外ないのですのよ。

 と、いったふう。

 

 天儀は、セシリアのかんばしくない表情から、セシリアの提言を無視して作戦を強行すれば大きな問題に直面しかねない、という危惧を感じた。

 

 が、次の瞬間、天儀はハッとして視線を上げた。

 

「あれだ。メンタルチェック(精神診断)。あれを一旦止めよう。あれは診察は簡単だが、分析にものすごいリソースをさいてるだろ」

 

 天儀が、セシリアの思いもよらない解決策を提示していた。

 莫大な情報を扱うメンタルチェックは、軍では医療でなく情報部の管轄かんかつだ。


「確かにあれは、微妙な判断が必要とされると出た場合には、人間が直接メンタル分布図をチェックするなど人的なリソースをかなり食っていますが」


 考えこむふうにいうセシリア、その言葉の内容は天儀の提案を半ば肯定していた。

 半ばというのは、メンタルチェック(精神診断)を一時的にしろ止めるということが現実的でないからだ。


 だがセシリアの答を聞いた天儀は、再度断言するように


「あれを止める」

 と、繰り返した。


「止めると言われましても、診断を止めると色々問題が生じると思われますけど。さらに重鼎作戦後の艦隊決戦へ向けての作戦中も情報部の処理能力を超過する恐れがありますし、重鼎のときだけ止めても場当たり的に過ぎると思われますが」


 組織の拘束が強力な軍隊で、メンタルチェック(精神診断)を止めた場合、人間関係の軋轢あつれきが致命的な問題になりかねない。セシリアはあまり乗り気ではないようだ。


「そうだな。取り敢えず3週間だ」

 と、天儀は停止する具体的な期間を口にした。


「あと診断を行わないのではなく、手をかざしたり前に立ったらピッっとは鳴るようにはしとけ。診断が行われていると思わせるだけでいい」

 

 かなり乱暴な提案だが、セシリアはなるほどという顔になる。


「その内ばれるだろうが、1週間ぐらいは大丈夫だろう」

 この一言で、グランダ軍の作戦行動中のメンタルチェック(精神診断)は、情報部が業務多寡の時は停止されることになったのだった。

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