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恋する氷華の星間戦争  作者: 遊観吟詠
破章八、開戦編
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9-(3) 輝星の義士(上)

 天儀てんぎ率いるグランダ中軍ちゅうぐんは、水明星すいめいせいの守備艦隊を一蹴し、宙間要塞ちゅうかんようさいを目の前にしていた。


 旗艦大和(やまと)ブリッジにある大将軍天儀は、電子戦指揮官及び秘書官の千宮氷華せんぐうひょうかから


「攻撃前に降伏勧告をだします」

 という確認を受けた。


 天儀は、氷華の言葉に

「必要ないと思うが」

 そう一言した。


 氷華がけげんそうに、天儀へジト目を向けた。

 

 宙間要塞は防衛の要である改造防衛艦8隻の内7隻を失っている。残った1隻も近衛のレティの二足機隊の追撃で、しばらくまともには動かないはずだ。

 氷華からすれば、どう考えてもこれ以上防衛を続けられるとは思えない。


 天儀は疑問の色をジト目へ浮かべる氷華へ向け


「今の状態で、要塞に篭っているんだ。死ぬ気だろう」

 と、付け加えた。


「仮にそうでも、両国間の条約もあります。そもそも宇宙施設攻撃前の降伏勧告は、国際法上の義務です。それに、この状況で戦いを選択するとは思えませんし」


 旗艦大和から、宙間要塞へ向け降伏勧告がなされたのだった。


 一方の宙間要塞側では、思っても見なかったグランダ軍主力艦隊の登場。


「グランダ軍、総旗艦大和。これは敵主力です!」

 

 この報告で要塞司令部内が騒然とした。

 そんななか黄子推こうしすいが一人が激昂。

 

「つまり宣戦布告前に軍を進めたな。とんだ約定違反だ」


 黄子推の憤怒ふんぬの一喝。

 

 要塞司令部の兵員は、目の前の敵主力より近くに立つ黄子推の方が遥かに恐ろしい。

 黄子推の一喝に兵員たちは肝が冷え上がり、冷えると同時に要塞司令部は平静を取り戻していた。

 

 黄子推は大和と麾下の艦隊が映る大モニターを指し


「見ろ。あれが盟約を破った浅ましい姿だ。おぞましいにも程がある。我々は、ああはなるまい」

 と、敢然とはなったのだった。


 だがグランダ軍からすれば国境線は越えておらず、さらに二個艦隊規模に国境付近に集結されて気づかないほうがどうかしている。

 が、これも当然黄子推側からすれば、そんなことは知ったことではないし、敵側の不誠実でしかない。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 黄子推が守備する宙間要塞が降伏勧告を蹴り、両軍の間で戦闘が開始されていた。

 

 戦いの先鞭をつけるのは、砲戦でも、二足機による強襲でもない。


 ――電子戦だ。


 艦隊側と要塞側の間で、静かな戦闘ともわれる電子戦が開始されていた。

 電子戦と並行しながら砲戦というのもありうるが、艦隊は強力な要塞砲を有する宙間要塞には近づきたくない。

 

「出現する敵の先見隊は、電子戦でことを決してしまいたいはずだ。だが要塞をかなめに張り巡らした電子防御陣は、先遣部隊程度では太刀打ちできない。我々は要塞防衛の初戦をものにする」

 これが黄子推の狙いだった。

 

 が、敵軍主力艦隊の出現。

 電子戦は押されまくり、構築した電子防御陣が次々と突き崩されていく。


「三ヶ月は守り切る自信があったのだがな」

 黄子推は、そううめいた。


 電子戦で敗れた今、宙間要塞に篭って戦うのは絶望的といえた。

 電子戦に敗れたということは、宙間要塞のコントロールが奪われるのも時間の問題だからだ。

 

 コントロールが、奪われれば電子機器で動いている兵器の操作に支障をきたすどころか、外部から生命維持装置の電源が落とされればおしまいである。

 

 要塞砲が使用できなくなるのも、もうすぐだろう。

 グランダ軍は宙間要塞に設置されている強力な要塞砲を無力化してから近づいてくるはず。

 

「一発の要塞砲も撃てんとはな」

 

 黄子推の口惜しさが滲んだ一言に、


「ええ、そうですね」

 という一つの明るさが降った。


 いったのは通信技師つうしんぎしの若者だった。

 この若者の声は何故か明るい。宙間要塞は一敗地に塗れているのにだ。

 

 驚いて若者を見る黄子推。

 若者が黄子推の視線を受け言葉を継ぐ。


「そうです惨敗です。でもです。要塞を制圧するには、歩兵による浸透が不可欠ですよ。我々が降伏すると思っているのなら敵へ痛撃を与えらます」

 

 若者は言い終わると黄子推へ向け笑った。

 さらに黄子推の横からも声が出た。


「我々はもとから決死です。水明星にその人ありといわれた遠天えんてんの黄子推が、いまさら躊躇ちゅうちょしますか。やめてくだい。宇宙まで来てみっともない」


 いったのは黄士譚こうしたんの秘書の一人。黄士譚には同行せず、惑星に残されて黄子推に従っていた。

 なお遠天えんてんとは、遠いい星系を意味する水明星宙域を指す別称だ。


 言葉を向けられた黄士譚が目をぎゅっとつぶり息を吐く。

 息を吐いた黄士譚が、目をカッと開いた。


「もとよりそのつもりだ。プランZを発動する。総員を配置に付ける準備に入る」


 要塞の管制が完全に敵の手に落ちる前に、守備隊を配置を完了する必要がある。要塞内で電子機器の通信もままならないのでは、兵の配置もまともにできない。

 宙間要塞内がせわしく動き始めていた。


 黄士譚と黄子推に加え、黄子桀こうしけつも加えた黄氏三兄弟と呼ばれた3人が用意していた水明星防衛プランはA、B、C、Dの四つに、Zを加えた五つ。

 Zはアルファベットの最後の文字。

 プランZは最終戦を意味する。宙間要塞に篭り白兵戦を展開するプラン。


 ただ、命を消費して、

 ――負けを認めなかった。

 ということを証明するだけのプラン。


 負けを認めなくとも敗北はいずれ訪れる。守備隊が全滅し、敵が制圧を完了すれば敗北だ。

 が、それをあえて行う理由がある。という悲しさがあるというのもまた事実。


 第一次、第二次の二度の星間戦争で、あっさり降伏した水明星は星間連合内で立場をずいぶん悪くしていた。

 

 度重なるグランダの侵攻から、水明星の防衛の難しさに直面した星間連合。

 この事態に、かつて星間連合の盟主でいまだに星間連合内で大きな影響力を持つセレスティアル家と星間連合政府で、水明星の住民を移住させ惑星廃棄も検討される状況となっていた。

 

 惑星破棄の筋はかなり固く、もう一度でも水明星が敵の手に落ちれば、星間連合は水明星を破棄する可能性が極めて高い。


 ――故郷を失うわけにはいかない。

 これが黄子推と一五〇〇名の強い思いだった。

 

 宙間要塞内には


「我々は電子戦で敗れた。だが私は昨日盟を結んで、今日破るようなグランダ皇帝に降ることを良しとしない。これは決死戦である。今から脱出の船を準備する。志願するもの以外は、それに乗って要塞を出ろ」

 という黄子推の言葉が響いた。

 

 脱出船には、黄士譚が率いレティの二足機隊の追撃を満身創痍でかわした改造護衛艦の負傷兵だけが乗せられ水明星へった。

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