表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋する氷華の星間戦争  作者: 遊観吟詠
破章八、開戦編
67/126

9-(1) 宣戦布告

「朕はここに宣戦を布告し、パンテオトゥスを統一する」

 という帝の岐陽台ぎようだいでの宣戦布告とともに第四次星間戦争が開戦され、同時に星間連合へも正式に宣戦が通告された。


「パンテオトゥス」

 とは、グランダ共和国と星間連合という広大な宙域を指した言葉。

 二つの国家を合わせた宙域をパンテオトゥス宇宙などいうが、その宙域線は極めて人為的な区分になる。

 

 なおグランダの支配宙域だけなら

紫垣三界しえんさんかい

 といい、星間連合だけなら

「エンブトイニカ」

 という。


 ついに星間戦争は再開された。

 最初の小競り合いから数えて100年。第一次星間戦争から約40年。第三次星間戦争から数えて1年半。天儀が帝に戦争再開を上奏してから半年だった。


 この突然の発表にグランダ世論は、驚きもしなかった。前回の戦争から帝が常に戦争を望んでいることは周知のことだったからだ。

 

 グランダ軍の六個艦隊は、上、中、下の三軍に編成され、主力の中軍に大将軍に任命された天儀てんぎがいる。


 天儀率いる中軍は、すでに星間連合との国境付近にあり、宣戦布告とともに一跨ぎ。星間連合へ侵攻を開始していた。


 ――国境付近への主力の隠伏いんぷく

 越境侵犯ではないが、明確な背信行為。


 千宮氷華せんぐうひょうかは、この開戦の様子を

「真っ黒な灰色」

 と、いって表現した。


 氷華は電子戦指揮官及び秘書官として天儀の横に立ち開戦を迎えたが

 ――これが白とは解ぬというものですよこれは。

 そう無表情のジト目で思いつつ国境線座標を越えていた。


 天儀の中軍が目指すは、星間連合第五星系、水明星すいめいせい宙間要塞ちゅうかにょうさいの攻略。

 中軍が動き出すとともに、エルンスト・アキノック率いる上軍と、李紫龍りしりゅう率いる下軍も星間連合へ向け発った。


 この上軍、下軍も天儀の中軍同じルートを進行する。

 上下軍が到着する前に、天儀の中軍は水明星の守備隊を排除し、宙間要塞を攻略しておく必要がる。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 先行するのは、大将軍天儀が率いる中軍の標的は、星間連合最外縁にある

水明星すいめいせい(水の明け星)」。

 

 より正確に水明星宙域にある

宙間要塞ちゅうかんようさい」。


 この小惑星を核に作られた宙間要塞が陥落すれば水明星及びその宙域を実質確保したと見ていい。

 

 水明星のある星系を突破すれば、星間連合の首都惑星がある第一星系まで広大な宇宙が広がるだけ、有力な防御施設は存在しない。

 

 ただ第一星系に隣接する形で、第三星系の入植惑星天明星(てんめいせい)|(天の明け星)が存在し、この天明星が第一星系への最終防衛ラインとなっている。


 3個の入植惑星に大量の大規模宇宙施設群という国家中枢の集まる第一星系全体が、ツクヨミシステムという無敵の電子防御陣で守られているため、水明星から第一星系の間に作戦上重心となるような有力な軍事施設は必要ないというのが星間連合の方針。

 

 ツクヨミシステムは防衛費のコストカットにもつながっていた。


 その無敵の電子防御ツクヨミシステムに守られる星間連合へ進撃中のグランダ軍。

 

 大将軍天儀が座乗する旗艦は

 ――超級戦艦大和(やまと)


 大和は51センチ超重力砲を搭載し、さらに戦術機運用能力も高い最新鋭の巨艦。

 その巨艦大和が旗艦の中軍が、水明星宙域にある宙間要塞へ攻略作戦を開始しようとしていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 水明星と宙間要塞を守備するのは、黄氏こうし兄弟と呼ばれる黄士譚こうしたん黄子推こうしすい


 黄氏は水明星の有力一族。

 正確には二人は従兄弟同士。黄士譚が年長で、伯兄はくけいと呼ばれ水明星を代表する議長。黄子推が叔推しょくすいと呼ばれ惑星の防衛隊司令官。


 その叔推しょくすいと呼ばれる黄子推が、水明星議長室の扉を開け室内へ入ると同時に


従兄上あにうえ、開戦です。やはりきました」

 と、室内の黄士譚へ向けていった。


 黄子推は平均的な身長にガッチリとした肉体。立派な眉に大きな瞳。鼻筋が通った涼やかな30代。


「宣戦布告の中継は見た。皇帝は自信満々、開戦に満悦至極。こりん男だ」


 そう吐き捨てるようにいったのは黄士譚。

 黄士譚は40代で、背は子推より高く、濃いあごひげをたくわえている。

 世間からは兄弟と呼ばれ、従兄弟の二人の風貌は、やはりどことなく似ている。


「政府の方針は」

 と、黄子推は無駄だと知りつつも従兄へ一応確認した。


「先程、確認した。ツクヨミシステムで防衛だ。水明星まで艦隊はこない」

 

 従兄の答に黄子推が眉間みけんに皺を寄せ、一瞬天を仰ぐような仕草をした。

 黄士譚は、そんな従弟の様子を見て


「だからあれだけ再三わたって政府には開戦の予兆ありと報告していたのに」

 と、嘆いた。


「従兄上、今更それを言っても仕方ありません。今回も独力で防衛出来ないことはないはずです」


 そう前回の第三次星間戦争で、水明星はグランダ軍の侵攻を防ぎきっていた。

 これは黄子推の働きによるところが大きい。

 

 前回の第三次星間戦争では、グランダ軍が本格的に星間連合へ進行してくるまでに一ヶ月ほどの猶予があった。

 その間に黄子推は、退役軍人と惑星守備隊とで防衛軍を臨時編成、水明星に滞在中で星間航行可能かつ戦闘に耐えうるであろう大型船8隻を徴用し改造防衛艦とした。

 

 かつ民間人から義勇兵を募り

輝星義士隊こうせいぎしたい

 として訓練をほどこし惑星防衛に投入。


 この折に従弟から求められた義勇兵組織と民間商船の武装へ許可をだした黄士譚は


「星間連合の法では、惑星単位の星系軍の所持を絶対に許さない。我々は法に触れたか」

 と、苦くいったが、黄子推は


「いえ、ギリギリといったところでしょう。惑星守備隊と義勇兵を改造商船に乗せただけです。それをたまたま率いるのが惑星議長の黄士譚というだけです。偶然です。乗って進んだ先に敵軍がいるのも偶然です。偶然ですが敵なのですから戦わなければならない」

 そう涼しく返した。

 

 従弟(おとうと)の物言いに黄士譚が大笑した。

 一つ一つは、法に触れないぎりぎりだが、全部を並べれば完全に違法行為。

 黄士譚は、それを偶然とうそぶく、従弟が頼もしい。


 だが、このすれすれのやり方が功を奏した。

 黄士譚と黄子推は、宙間要塞を基点にグランダ軍先鋒を食い止め一歩も侵入を許さず講和に持ち込むことに大きく貢献。

 

 その快挙は、防衛軍に参加した全員をさして

 ――遠天の輝星こうせい義士隊ぎしたい

 と、賞賛された。


 戦後、防衛にあたった改造防衛艦8隻は修理の名目で、軍用艦仕様のまま第五星系に残されるという特例中の特例の措置が取られ、防衛軍は輝星義士隊として活動を黙認される。 グランダの再進行は明らかだったからだ。


 ただ、これは惑星防衛組織としての役割を期待されたわけではない。

 星間連合政府と軍は、ツクヨミシステムから出ないという一貫した方針を持っている。

 座して勝てる第一星系に艦隊を置くが、その絶対の勝利の代償が水明星と第五星系の実質放棄(ほうき)

 

 一連の特例措置は、毎回放棄される水明星住民への一過的なガス抜きだった。

 

 そしてあれから約一年半。

 またグランダから宣戦布告がなされ戦争となった。

 従弟の報告に、黄士譚が立ち上がっていう。


「今回も私が改造防衛艦を率いて防衛に当たる。子推お前は惑星をたのむ」


「従兄上、無理はなさらぬように」


「何をいう。守りきれねば、水明星は議会で惑星放棄の協議にかけられる。新しい試みだ。やってみようということで放棄ありきで進むだろう」


 そう二人の必死さと、第三次星間戦争で義勇兵が集まったのには理由があった。


 水明星は星間連合の最外縁にあり防衛のしにくさから

 ――水明星の放棄

 という可能性が、濃厚だったからだ。


 住民は、過疎問題を抱える第二星系の入植惑星ファリガと入植惑星ミアンノバへ送られる計画で、加えて水明星の人口はさほど多くない。

 第一次と第二次の星間戦争で、水明星はあっけなくグランダ軍の手に落ちている。

 

 これが講和交渉でグランダ国の加点となり、戦わずして勝てる星間連合が交渉を進めにくくなる由だった。


「生存に何も問題のない有人惑星を放棄とは、融合と拡大という多惑星間時代ラージリンクプラネットの流れに逆行します。それに水明星は第五星系唯一の有人惑星。それを放棄すれば、第五星系も実質失われることになり、経済は悪化必至。愚かです」


「それが、御用学者の言い分では、逆に経済は活性化するそうだ。移民活動で商船会社がうるおい、第二星系の余剰地が開拓される」


「妄言に等しい。官僚どもは頭がどうかしている」

 と、真っ赤になる黄子推。


「ということで、そうならんように私は行く。息子と惑星民を頼む」


「従兄上、くれぐれもお気をつけて。黄氏兄弟が、単なる黄い男になってはたまりません」

 

 黄士譚が、さっとうなづいた。

 特に重みもない挙止だったが、黄士譚の顔は思い詰めたように真剣。


 黄兄弟は、実は一年半前まで黄氏三兄弟。2人は第三次星間戦争で黄士譚の弟で、黄子推の年上の従兄弟の黄子桀こうしけつうしなっていた。


 黄子推が従兄へうなづき返すと、黄士譚は踵を返し部屋をでていった。

 

 第三次星間戦争で、黄子推の急造した防衛軍を率いて戦ったのは黄士譚だった。今回もそのように対応する。


 従兄を見送る黄子推は

 ――従兄上ならまたうまくやるだろう

 この時は、そう思っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ