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恋する氷華の星間戦争  作者: 遊観吟詠
破章六、レティ・疾風編
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7-(9) 天儀と疾風

 その日の午後、天儀てんぎは予定通り草刈疾風くさかりはやて指導による2時間の二足機(にそくき)訓練を受けたのだった。

 そして時間は午後5時過ぎ。午後3時頃から開始された飛訓練も終わり、もう日没が近づいていた。


 基地が茜色あかねいろに包まれ、格納庫横のこんもりした土手も夕暮れ時の独特の陽光がふりそそいでいる。

 

 その土手では、天儀と疾風はやてが座り込み何やら談笑しているようだ。

 いま2人は夕日を体全体でうけ、茜色の光りに包まれている。

 

 疾風は、手にしたスポーツドリンクを、手でもてあそびながら


「司令は、腕がいいですよ」

 そう遠慮なく言う疾風に


「そんなに簡単に褒めるな。調子に乗って死ぬ」

 と、天儀が苦笑しながらこたえた。


 疾風としては、最初教習を命じられた時には、操縦席に座ったことすらない状態をまで想定して天儀と練習機に乗り込んだのだった。


 この疾風の想像は、良い意味で裏切られた。


 天儀は基本の操作は問題なく、最新鋭の軍用二足機は無理でも、扱いやすい練習機ならAIの補助無しで一人でもなんとか飛ばせるぐらいの技能は有していた。

 

 これは二足機パイロット出身でエースだった榛名(はるな)艦長エルンスト・アキノックほどではないにしろ、疾風が想像した以上の腕前だった。

 

 簡単に褒めるなと、生真面目なことを笑いながらいう天儀。

 

 疾風は、そんな天儀へ


「でも司令は、昔地上機に乗ってたんですよね」

 と、たずねた。地上機に乗っていたのであれば今の腕前は説得性があるからだ。


「何だ。知ってるのか」


千宮せんぐうさんから聞きました。秋津あきつの内戦で一時期、二足機の開発基地にいらしたんですよね」


「送られてくる機体を、動くかどうかのテストをしていただけだぞ」

 と、天儀がバツが悪そうに答えると、疾風は謙遜けんそんですねというように笑った。


 疾風から見て天儀のフライトは、慎重かつ丁寧。雑な部分がなく真っ直ぐ基本に忠実。だが、固さがない。

 

 疾風が見るに、天儀は基本に忠実なようで、教本に縛られるような不自由さは感じさせない。条理に逆らわないが、条理に縛られない。いうなれば真に自由なフライト。疾風の好む飛び方だった。

 

「基本がいいです。司令は」

 

 そう清々しくいう疾風。

 疾風の若々しい声には厚みがあり、表裏がなく透明感がある。


「古参兵に、乗り方を必死に聞いて覚えたからな。実験開発基地といっても開発機なんて来やしねえ。基地は暇でな。可愛がってもらったよ。特に偶然にも同じ高校で同じ部活の先輩がいてな。俺が入学した時にはすでに卒業さていた方で面識はなかったんだが、その人に可愛がってもらったよ」


「そんな方がいらっしゃったんですか。司令に乗り方を教えた人。是非、会ってみたいです」

 と、疾風が屈託くったくなくいうと天儀が、さっと天を指差した。

 

 疾風は天儀の指の動きにつられて空を見た。

 空は茜色に染まり、雲は黄金に輝いている。


 疾風がハッとして、

 ――なるほど、その方は死んでいる。

 と、理解した。


 疾風は、天儀の所作しょさから、死んで星になった、天に召される、といった手合のことを感じた。

 

 疾風が天儀の顔を覗き見るが、天を指差した天儀には、特に感情の色はなく。沈む日を眺めながら夕暮れの風を気持ちよく受けている。


「じゃあ、もう一緒に飛んでるようなものですね。こうして一緒に飛べるのも、その方のおかげですね。俺は感謝しますよ」


 悪いことを聞いたと謝罪するか代わりに、疾風はそう応じていた。

 

 天儀が、疾風をよくわかったなというような表情で見てから、うなづいた。

 天を指差した天儀からして、それだけで先輩の死を察してもらえるとは思っはいなかったのだ。

 

 当然、理解されずに問い返されるので、


「俺なんかと比べ物にならないほど上手い人だったんだけどな。墜落事故よ」

 と、ぐらいは、付け加えるつもりだった。

 

 天儀は、疾風の一歩踏み込んだ気遣いに悪いものは感じず、心に開放が感が広がった。まるで空を飛んでいるような感覚だ。人の心を解き放つ。草刈疾風には、そういった不思議な魅力がある。


「基地では、みんなシャイで、熱心に聞かなきゃ誰も教えちゃくれなかったがな」

 

 気分の良くなった天儀が、そう軽く付け加えると、疾風も笑った。やはり屈託のない笑顔だ。

 天儀は、気持ちのよい笑顔で応じてきた疾風へ


「その点お前は最高だな」

 と、継いでまた笑った。

 声をかけられた疾風は、天儀の声が聞こえているのかいないのか、ただ夕暮れの空を眺めている。


 天儀は茜色に染まる空を眩しそうに眺める疾風の横顔を一瞬見つめると自身も疾風に倣って空を見上げた。


 しばらく2人は、赤とオレンジの陰影に染まる空を見ていた。

 

 そんな中、天儀が沈黙を破って


「2人の時は、織伏(おりふせ)って呼んでくれ」

 と、夕暮れの風を受けながら静かに口にした。


「織伏。俺の本当の名前だ。苗字の方な」

 

 天儀は、そういうとまた黙って夕日を眺めた。

 

 疾風は特に気にもとめなかった。通名と本名が違うことはよくあることだ。

 次から疾風は、2人のときは天儀を織伏と呼んだ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 第七星系の惑星秋津(あきつ)が内乱状態に陥ると、天儀の住む街もその戦禍から無縁でなかった。


 夏の暑い日の夜、天儀の住んでいた街は、夕方頃から徹底的な夜間空襲に襲われた。朝には焼けた建物と死体だけが目の前に広がり、焼け出された人間がまだ黒煙が昇る中をさまよっていた。

 

 その3週間後に、民進党軍が兵員の募集にやってくる。民進党みんしんとう幹部の周公恩しゅうこうおんの直接の公募。空爆後の3週間、食うや食わずだった若者たちはその募集に群がった。


 天儀も兵員募集の仮設プレハブをおとずれ、民進党員登録と兵員契約の書類にサインした。

 

 書類には当然氏名を記入する。一番最初に書き込む項目だ。

 

 天儀は、その最初の段階で手が止まった。天儀が顔を一旦顔上げた。天球儀と広げられた星系間マップが目に入った。


 内乱は目下地上で展開されている。天球儀と星系間マップは、星系軍を感じさせて地上で這うように戦っている現状と比べて滑稽だった。


 天儀の住む街の市庁舎は空爆の一番の標的にされ跡形もなく消え去っていた。市庁舎に収められていた戸籍謄本は消失。そして内乱の激化とともに、政府も機能を喪失し文章は散逸していく。

 

 その時点でもう何を書いてもそれが真実となった。

 これで六章が終わりました。お読み頂いてありがとうございます。

 六章の完了に伴い「登場人物」を上部へ移動する予定です。移動すればサブタイも短いものに変更し、草刈疾風を加えバージョン2.0となります。

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