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恋する氷華の星間戦争  作者: 遊観吟詠
破章六、レティ・疾風編
57/126

7-(6) 防人隊(さきもりたい)

 グランダの第四星系の入植惑星ポルセ。

 

 この惑星ポルセの宙域の基地で訓練を繰り替えいしていたのが、

二足駆逐機・防人にそくくちくきさきもり (略称:防人)」

 を集中運用する第三戦術機隊である。


 この戦術機隊は、駆逐機防人を集中運用することから単に

防人隊さきもりたい

 と呼ばれることが多い。


 防人隊は、さらなる編組へんそによる移動も視野に、暫定的に天儀の第一艦隊第二戦隊に配属されたのだった。

 

 なお近衛隊のレティが、極度にライバル視しているのがこの防人隊である。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 防人隊は30機の中隊が二つ。

 その内45機を天京の近くの宇宙基地へ残し、15機を地上へ降ろし、防人隊は宇宙組と地上組に別れ訓練を実施することとなった。


 15機運搬は基地から一番近い軌道エレベーターを利用し地上へ降ろし、さらにそこから一番近い二足機が離着陸できる空港から飛んで着任先の基地へ向かう。


 そして今日、機体の天京地上への運搬作業が終了。

 天候は快晴。絶好フライト日和(びより)

 15機の防人は新しい配属先へと飛び立ったのだった。


 防人隊の着任にあたっては、メディアへの宣伝も兼ねたイベントが企画され、

「15機の防人が編隊を組んで飛んでいき、司令に出迎えてもらう」

 というパフォーマンスが行われる。


 ただ、若干の懸念もあった。防人隊は、大気圏内の飛行には慣れていない。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 軍服の上に白衣。

 これが千宮氷華のトレードマークだが、今日の氷華はいつもの白衣ではなく、軍のトレンチコート。

 

 この日の氷華は秘書官として、司令天儀の防人隊出迎えのデモンストレーションに随行していた。

 

 いま、氷華が天儀といる場所は屋外。滑走路脇の格納庫の前だ。

 氷華と天儀の他には、基地の高官や記者たち。総勢、40名程度といったところだ。

 そう場所は野外、季節は春先とはいえまだまだ寒い上に、滑走路は開けていて風が強い。

 トレンチコートのわけは、これだった。

 

 天気は快晴。青く澄んでおり、遠くに真っ白な雲が見える。

 氷華は空をぼんやり眺めつつ、そろそろ編隊が見てもいい頃ですが、などと思いながら先日のセシリアとのやり取りを思い出していた。


 ――戦術機隊の出迎えですか面倒くさいです。

 これが秘書官として天儀の日程調整をおこなう氷華が、情報室長セシリアから資料を転送された際に思ったこと。

 

 そして氷華が次にしたことは、隊長の性別の確認。

 この前の近衛隊のレティようにブロンドの美人だったらたまらない。

 が、氷華がジト目で確認した資料には、黒髪のアジア系の男子。

 

 氷華はほっと胸をなでおろし


草刈疾風くさかりはやてですか」

 とつぶやいて、好青年そうな男の子ですね。などと思い資料を閉じた。

 

 二足機パイロットは若手が多い。

 氷華は年齢までは確認しなかったけれど、目にした草刈疾風の風貌は少なくとも同年代。黒髪の好青年は、童顔というわけではなかったが、年下と思わせるような雰囲気があった。


 さして興味がないといった氷華。

 セシリアは、そんな氷華の様子をみとめて


「防人隊はグランダ最強の下馬評をもつ戦術機隊ですわ。彼らの忠誠は次の戦争に大きく影響すると、天儀司令はお考えなのでしょう」

 と、たしなめるようにいった。


「下馬評ですか?」

 氷華としては最強のあとに付いた「下馬評」という言葉が解せない。

 

 下馬評の意味するところが、実戦経験が少なく正確な実力は未知数、というのは氷華にもわかるが。

 

 ですが、それなら多くの戦術機隊が似たようなものなのです。第三星間戦争は開戦して一年もたたず行き詰まって講和。ろくに戦っていませんから。星系軍全体でみても実戦経験のある軍人の方が少ないのですが。


 グランダ軍の実力など突き詰めると、ほとんどが下馬評にすぎない。


 セシリアは、氷華の問いに少し嘆息し、周囲を確認してから小声で


「軍内で理論機といわれているのが二足機の防人ですわ」

 と、つたえてきた。

 

 ほおっといったようにうなづく氷華に、セシリアの説明が続く。


「防人隊は30機の中隊が2個。機体への適性がないと乗れない上に、調整も難しく稼働数が60%程度」


 セシリアは、ここまでいうと言葉を切り、これでわかりましたでしょというような顔で氷華を見た。

 氷華は、なるほど、と思い。ジト目が少し開いた。


 稼働率が60%では、下馬評という附則がわざわざつくわけです。それも適正がないと乗れない機体とはパイロットの補充も面倒この上ない。強くても扱いにくい兵器は微妙です。


 ――実戦の役にはたちそうにありません。

 とすら氷華は思って納得した。

 

「そうですわ。理論上は最強、ですが評判倒れの可能性も高いのが防人隊。理論機などという、さげすんだ言い方は嫉視もあるでしょうね」


 そしていま、氷華は、そんな隊を何でわざわざ、と思いつつ基地の滑走路脇に天儀と立っている。


 風が強く肌寒い。

 氷華がそんなことを思っていると、どよめきが聞こえた。

 随行していた記者たちだ。記者の何人か空を指差している。

 氷華も指差す方向を見ると、一抱えほどもある黒いかたまりが見えた。


 氷華が眺めるなか、15機の防人隊は基地の上空を2周してから、2機づつ着陸態勢へと入り、次々と着陸していく。

 

 ――ほー、やっぱり上手いですね。さすがプロ。

 氷華がそんなことを思いつつ防人隊の着陸風景を眺めるなか最後の1機が着陸態勢へと入った。

 

 残る1機は隊長機。特別なマークが入っている。

 

 氷華は、

 ――あれに疾風くんが乗っているんですね。

 などと資料で見た隊長草刈疾風の、いかにも好青年といった顔を思い出し、着陸体制に入った1機を眺め続ける。

 

 この後の流れは決まっている。

 あとは、あの隊長機から疾風くんが、降りてきて天儀司令と握手。これでメディア向けのパフォーマンスを兼ねた着任式は終了。お疲れ様ですと。


 すでに氷華の頭のなかでは着任式は終了。氷華は無事終わってよかったなどと思いつつ次の予定を考え始めていた。


 が、次の瞬間に、

「おい、あれ!」

 という叫び声が上がった。

 

 最後の1機が突然の突風に煽られバランスを崩していた。

 もう機体のディティールが肉眼で確認できるほど近い。

 真っ青になって逃げ出す記者や基地の高官たち、氷華も青くなって駆け出していた。

 

 ――あわや着陸失敗で大事故か。

 と、基地管制は消防と救急の指示まで予感したが、最後の1機はバランスを崩しながらも、なんとか着陸に成功。

 

 場にホッとした雰囲気が流れるなか、防人隊の着任式は無事終了した。

 メディア向けのパフォーマンスも概ね盛況だった。

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