(閑話) 高潔と忠誠
――規律、士気、忍耐、団結
グランダ軍が、重視したのはこの四つの精神。
これがグランダ軍が重視する軍隊の意識上の構成要素。
そしてグランダ軍人の理想形は、
『帝への大きな敬意と、軍務に対する謹厳実直さ』。
特に、
――帝への大きな敬意。
は、惑星間共和国の軍人に、気高さと規律を与え
――自分たちは、特別な軍隊。
という意識をもたせるのに大いに役立っていた。
それが時代が下って、
『高潔と忠誠』
という言葉で表されるようになる。
これは、元々歴代大将軍の一人である李紫明自身の座右の銘だったが、李紫明が大将軍へ就任するとともにグランダ軍全体の標語となった。
レティーツィア・ベッカートの帝への敬仰は、これらの軍精神の延長線にあるものにすぎない。
極めて忠実に、
――理想の軍人たる。
というレティの強烈な意識が、帝を常に遵奉する言辞となって外に出ているのであった。
つまるところレティーツィアは、近衛隊という呼称と、ロイヤル・ガードという地位へ憧れているだけ。
この憧れは、レティの基準では
――帝の忠臣
とはちがう。忠臣という響きに、レティは時代錯誤なものを感じ、憧れは感じない。
レティの言を借りるなら、忠臣では、
「クールじゃないわよ。いかしていない。これは違うわ。いや」
クールとは冷静さという意味が転じ、格好いい様をいうが、つまり忠臣では古臭くかっこ悪い。
だが、こんなものは、セシリアからいわせれば
「あの女の基準は、格好いいか、よくないか。とんでもなく軽薄な女ですわ。理念がありません。中身が無いんですわ」
ということで、セシリアのレティへの辛い評価の一因となっていた。
そんなレティーツィアは、政治活動や軍内の派閥争いには、興味がない。
「つまり何を言っているのかしらこの人達は。軍人は戦えばいいだけなんじゃないの。いや、そうであるべきよ。なにか不純だわこの人達」
これが、軍内の尊皇派の会合に出席した折のレティの感想。
会合は、立食会の形で模様されていたので、レティは壇上へと次々と上がり話す軍人たちを眺めながら、ひたすら食が進んだだけだった。
場違いに気づけずに、二足機の話題になると勝手に壇上に上がり、集団戦と呼ばれる二足機の編隊を維持しての戦術の練度向上と、新しい連携強化プログラム開発予算の出すようにと演説。
その折の会場は、
――幻滅と残念な気分。
という引けた空気が支配。
レティの話が終わると会場にはまばらな拍手。レティは司会進行の引きつった笑いに見送られ降壇。
壇上を降りるレティは、拍手がまばらなのは、不満だが思いの丈を演説に載せたという満足感のほうが大きい。
レティは気を良くし、満足して会の終了を迎えたが、それ以降、レティが尊皇派の会合に誘われることは二度となかった。
つまりレティは、政治向きのことには向かない。
有り体にいえば
――興味がない。
もっといえば
――バカでわからない。
単独で作戦を行える兵団を率い軍内で一目置かれるレティは、尊皇派以外からの会合にも当然誘われたが、出席しても二足機運用の論議ばかり、辟易され距離を置かれるというのが彼女だった。
このことをセシリアは、ある折に
「あの方、何かしらの会合に出席したという意識すらないのではなくて。美味しい物が食べれて、自分の話したいことだけを話す。これでご満悦とは、呆れた女ですわ」
と、氷華へ不満げにもらした。
そんなセシリアに、氷華が
「ではセシリーは、レティさんが天儀司令から評価されているのも不満なのですか?」
と、問うと、セシリアは、
「仕方ないですわ。あの女、二足機だけは超一級。素晴らしい戦術機乗りですわ」
そう憤懣やるかたなく、声を荒げながらいったのだった。
結局、帝を遵奉するレティだったが、軍内で尊皇派と呼ばれるような派閥とは一線を画す結果となり、さらに軍内の派閥争いから距離をおき、軍務に没頭することとなる。
そんな彼女の姿は、逆に軍内では常に一目置かれることとなり、
――滅私で見返りを求めない真の忠誠心を持つ女。
というレティ独特の立場を作り上げることとなっていた。




